美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

日本小説文庫の発刊について述べる無題の辞(春陽堂)

2022年06月30日 | 瓶詰の古本

 曩きに小堂が刊行せる一円本の文学全集によつて、読書階級層は加速度的に拡大増加せられた。今や更に徹底せる出版の大衆化として、この「日本小説文庫」の華々しい出現を見るに至つたことは、誠に百パーセントの読者奉仕と云ふべきものである。
 全篇悉く現代小説の大作家の最高傑作を網羅し、大衆小説、現代小説のあらゆる生粋を全収し、本文庫によつて日本小説の完璧なる真髄はこゝに始めて諸賢の前に、最も至廉な価格と、最も携帯の便利な、しかも色取々の選択の実に自由な形式の中に、画期的な大衆普及版として提供せられた。
 その興味の深大なる、理想の高遠なる、行文の平易流麗なる、事件・構想の多岐奔放なる、恋愛猟奇、流血、探偵、哀愁等々、千万大衆はたゞ、その圧倒的面白さに息もつけぬ感興を、心底から揺り動かされる事であらう。
 この祖先来の血肉よりなる日本小説の精華は、その多趣多彩の内容の魅力によつて、書斎の絶好書、街頭の最上の同伴者、家庭の喜びの泉、工場にあつては工場文庫、学校の理想的副読本、田園の最高の実り、いかなる旅にも欠くを得ざる心友、実に到るところ形に影の伴ふ如く、必携せられよ! この最も大衆的にして最も芸術的なる、極めて良心的な編輯の下に、数多続々連刊せられる、わが日本小説文庫を、あらゆる雄篇巨作の精粋を、心ゆくばかり愛読味到せられよ!

(日本小説文庫第二篇「孤島の鬼」 奥付裏頁にて)

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