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2018 一橋大学第2問 19世紀前半のドイツ

2019年02月12日 | 論述問題
第2問 近代ドイツの史学史に関する次の文章を読み、問に答えなさい。

 総じていえば、一概に古代経済史研究と称しても、歴史学派(経済学)におけるものと、近代歴史学の古典古代学におけるものとは、研究における志向の契機においても、事象の対象化の方法においても、ひとしからざるものが存するのである。歴史学派経経済学はその根本の性格においては依然として経済学なのである。―即ち歴史学ではないのであって―古代にも生活の一特殊価値
たる経済を発見せんとすることが最も主要な研究契機を形作っているのに、古典古代学にあっては、経済をもそのうちに含むところの古代世界への親灸が研究契機になっている。歴史学派においては全ヨーロッパ的経済発展上の然るべき位置に古代経済を排列することが問題になっているのに、古典古代学においては、古代と現代とを本来等質の両世界として、又等質たるべき両世界として表象することが主要問題になっている。古典古代学にも発展の理念は存するけれども、それは等質の両世界における、同一律動のそして自界完了的なる発展の理念であって、全ヨーロッパ的、又は全人類的発展の観念ではない。古代の事象は、それが経済世界を構成する方向において対象化せられるのが歴史学派経済学における方法であるのに、古典古代学においては、古代の事象はそれが歴史的現実的なる古代を形成する方向において対象化せられる。もしかくの如き観察が―多数の異例は別として―一般的に下されうるものとすれば、古代経済に関する論争が単に史料の技術的操作の辺のみ存するものではない所以と、論争のよって来るところの精神史的・文化史的深所とをも、同時に理解しうるわけであろう。(ドイツ近代歴史学研究より)


問い 文章の下線部について、歴史学派経済学と近代歴史学の相違とはいかなるものであり、また、それはどのようにして生じたのか、両者の成立した歴史的コンテクストを対比させつつ考察しなさい。400字以内 

2018一橋大学第2問解説(1)  19世紀前半のドイツ

2019年02月12日 | 論述問題
2018一橋第2問
文章中の下線部について、歴史学派経済学と近代歴史学の相違とはいかなるものであり、また、それはどのようにして生じたのか、両者の成立した歴史的コンテクストを対比させつつ考察しなさい。(400字以内)

まず何を求められているか?を考えます。
19世紀ドイツの経済学と歴史学との相違
それが生じた理由
両者が成立した背景
これらを対比させながら書くことになります。
この問題は読み取りな問題かのように感じます。そこを踏みとどまって、世界史の問題なのだと思って取り組めたか?が分かれ目だったのでは。
つまり、19世紀ドイツの経済学と歴史学との比較。リストとランケを考えていけばいいのです。

ただ、一橋大学の場合東大とは違って問題文が丁寧ではありません。例えば、それはどのように生じたのか?とありますが、それは何を指すのか?です。経済学と歴史学との相違がどのように生じたのか?となると世界史の問題ではなくなります。しかし、次に両者が生じた背景とあるので、相違が生じた理由ではなく経済学、歴史学それぞれが生じたと考えて良さそうです。
リストの保護主義
ランケのドイツ歴史学
両者の相違と
相違が生じた理由を書くことになります。

相違について
結論としてはリストは相対的、ランケは絶対的とでも表現できます。


また経済学の内容を求めていませんし、歴史学の内容も同様です。あくまでドイツを取り巻く状況を2点書けばいいのです
ここまでくればあとは世界史の知識が必要になります。

そうはいっても、入試の現場でリストはまだしもランケを思いつくことができない受験生は多かったと思います。そのため、時数配分はリスト300字、ランケ100字とするのが無難でしょう。
一橋大学の問題はあくまで国立大学が出す「世界史B」の問題だ、ということを念頭に置くべきです。
つまり、19世紀中頃までのドイツは「どんな感じ」だったか?しか問われないということです。


リストの経済学が生じた背景は産業革命によって普遍化した資本主義経済の広がり、ランケの歴史学はフランス革命の啓蒙主義思想の失敗となります。

ドイツが資本主義経済に組み込まれていく状況の中でリストは政府が経済に積極的に介入する政策を提示したわけです。自由競争を是とするイギリスの経済学では困るわけです。またリストはイギリスとの対抗上、保護貿易主義を主張しました。その意味で相対的です。

一方、ランケはフランス革命の啓蒙主義思想がもたらした理性万能主義に対抗しました。理性万能主義は理性が普遍的原理だとしましたが、これに対しランケはドイツ独自の歴史が存在することを強調しました。ロマン主義です。フランス革命からナポレオンに至るまで普遍的な理性が行き過ぎてヨーロッパに災難をもたらしたと考える思想です。普遍的原理など存在せず各民族には個別の原理があると考えたわけです。ランケが扱った歴史学でも同様です。民族の枠を超えた歴史など存在しない。

以下の用語を使ってリストについて200字で解答します。
産業革命
資本主義経済が波及
イギリスは世界の工場
自由競争または自由主義経済
プロイセン改革で工業化の素地ができていたプロイセンを中心に
ドイツ関税同盟
リスト
保護貿易主義

同様にランケを200字で解答します
フランス革命
啓蒙主義思想
普遍性を持つ理性万能主義の失敗
ドイツ独自の歴史
国民主義









2018 一橋大学第2問 解説(2) 19世紀前半のドイツ

2019年02月12日 | 論述問題
2018 一橋大学第2問 19世紀前半のドイツ

リード文から読み取れることは、
経済学のリストのキーワード:全ヨーロッパ的経済発展上の然るべき位置
歴史学のランケのキーワード:等質の世界
の2点になる。
このことは後で重要になる。

 リストの経済学の方が世界史知識として楽なので、まずリストの保護主義が成立した歴史的文脈を考える。

 リストの保護主義はスミスやリカードの自由主義との関係から生まれた。リストは経済的発展段階でイギリスより遅れているドイツはイギリスとの対抗上、保護貿易主義を採用すべきであると主張する。ここではイギリスが1810年代に工業化を完成させ19世紀中頃には「世界の工場」として君臨していることを記述する。その一方、ドイツはエルベ川の東西で経済状況が異なり、工業化を進める西部とユンカーが支配する農業社会が続く東部(オスト=エルベ)が共存し、ユンカー層による封建的束縛(政治・経済における発言力の強さ)が工業化の妨げになっていることを指摘する。このような状況がリストの保護主義を成立させた。
ここで重要なことは、先進的なイギリスと後発のドイツという見方をしている点である。すなわち、経済学リストのキーワードにあるように、ヨーロッパを見渡すと経済発展には段階・相違がある、とリストは考えていることになる。

 以上のことと対比させながら、近代歴史学ランケを考えていく。近代歴史学が成立した文脈は、フランス革命の啓蒙思想すなわち理性万能主義に対する幻滅から、反啓蒙主義・反理性主義のロマン主義が成立した。啓蒙主義は普遍的な理性を重視し、個別の民族性・民族特有の歴史を軽視した。すなわちロマン主義は「民族」という「個」を重視する。近代歴史学もロマン主義の潮流のなかで同様に「ドイツ」という「個」の独自性・オリジナリティを強調する。
 ここまで考えて、歴史学ランケのキーワード「等質」を想起する。つまり、ドイツに独自性・オリジナリティを認めることは、同様にイギリスなど他民族の歴史にも同様に認めることである。

 この点をリストの経済学と対比させると、19世紀前半、経済発展の中でイギリスとドイツは発展段階が異なるとするリストと、イギリスとドイツとはそれぞれに独自性を有しており、19世紀前半の状況も「個性」に過ぎないと考えるランケとは現状認識の前提に相違があることが確認できる。リストによれば「発展段階に違いがあり先発・後発といった優劣が存在する。しかし、ランケにとっては状況の違いは「個性」であるからそこに優劣は存在しない。