遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅳ』  松岡圭祐  角川文庫

2014-10-18 21:38:54 | レビュー
 この作品は凜田莉子がその推理力を働かせる事件の場所を大きく変化させながらストーリーが意外な方向に展開していくというおもしろさがある。本作品で取り上げられた事件の内容と発生・対応場所についてストーリーの時系列で要約してみよう。そして読後印象を付記する。番号は識別のために仮に設定しただけである。

1.マリリン・モンローのブリキ看板盗難事件
 内容: 映画『七年目の浮気』の白いドレス姿のイラストが印刷された看板が、古民家を改装した居酒屋サムザの前から盗まれた。
 場所: 山梨県北杜市明野町上手
 「週刊角川」の記者・小笠原悠斗を訪ねて東京まで押しかけてきたあの津島瑠美の結婚式披露宴に出席するために悠斗が帰郷する。県立高校の元同級生たちとの再会。その後の二次会の開催された居酒屋での事件からストーリーが始まる。小笠原悠斗の過去の情報がいろいろ分かってきておもしろい。この事件の面白いのは、小笠原が莉子から学んだ鑑定の秘訣を応用して元同級生の前で事件を解決することである。

2.モンローのブリキ看板鑑定
 内容: 東京・代官山にあるJOAの駒澤直哉と凜田莉子が鑑定依頼を受諾する。
 場所: 山梨県・北斗署
 たかが看板、されど看板・・・鑑定結果はとてつもないものだった。悠斗の取材記事になる代物だった。なぜ盗難に遭ったかがよくわかる結末。

3.宅配品クレーム事件
 内容: 宅配便を受け取った客が、受け取った生け花が壊れていたとクレームを付けてくる。生け花と壺を営業所で箱詰めにしてワレモノ扱いで運搬依頼した品だった。
 場所: 八重山運送の東京支社
 莉子の父・凜田盛昌が突然上京してくる。莉子を八重山運送東京支社に出向かせるため。出向いた時に莉子はこのクレームを目撃し、忽ち推理で解決する。だが問題は、莉子がおばあに金銭面で迷惑をかけているので、店を閉じて、その鑑定能力を活かし、八重山運送の検品部の部長になれという話なのだ。

4.万能鑑定士Qの店の損壊事件
 内容: シャッターを閉めずに出かけていたので、戻ってみると、なんとガラス製の自動ドアの下部が割られていて、ロックは解錠され、壁にはあの力士シールが貼られて埋め尽くされていた。
 場所: 飯田橋の莉子の店
 牛込署から協力を依頼された早稲田大学の氷室准教授は、力士シールを鑑識課専用のワゴンに積載の特殊な電子顕微鏡で分析する。それはあの謝花兄弟の作品に酷似していると結論づける。だが、そこには別にメッセージが記入されていたのだ。これは莉子を心理的に窮地に投げ込む契機だった。まずは謝花兄弟を見つけることから始まるのだが・・・・。意外な展開へと導いていく。

5.新会社KADOKAWAのトレードマーク盗作事件
 内容: 『週刊角川』の熊井が推薦した菊池先生の描いたマークが謝花兄弟の作品の盗作だと主張するもの。
 場所: 『週刊角川』編集部のフロア
 莉子が協力して盗作事件を解決するのだが、なんとそこには謝花兄弟の名前が再び出てくるのだ。

6.謝花兄弟の居所探し
 内容: いずこかに雲隠れした兄弟に会う必然性が出てきたために、小笠原と居所の追跡を開始する。チープグッズに謝花兄弟が残していったノートが手掛かりだった。そこには富士山の山頂の社殿清掃のアルバイトをしていたという記録があった。
 場所:追跡していく行き先
 ちょっとトリッキーなおもしろさが潜んでいる。全く知らなかったことなので興味深い。地元の人が読めば、ピンときただろうか・・・・・。

7.ツアー観光客失踪事件
 内容: 国道1号線、箱根新道山崎インターチェンジからほど近い和食レストランに、派遣添乗員・朝倉絢奈が引率するツアーが到着すると、別のツアー団体の添乗員がツアー客とトラブル状態。その事情を聞き、絢奈は問題点を即座に解明。絢奈のツァー客として来ていた婚約者の壱条那沖がそのピンチに協力する。
 場所: 和食レストランの前
 この話、事件という程でも無かったが、壱条の登場が目新しい。観光庁の役人でテレビにも出演する人物。彼の登場は、この後の展開で莉子の事件に関わっていく伏線でもある。ラテラル・シンキングの絢奈と「ピアニストのような芸術家肌、繊細な横顔。目は涼しく、鼻はつんと高く、高貴さと生真面目さを兼ね備えた知性溢れる面立ちを構成している。透き通るほど艶やかな色白の顔には、サラブレッド特有の育ちの良さが感じられ」(p173)る壱条という組み合わせが、新たな興味となってきた。
 これは次の事件とともに、莉子にとっての大事件に繋がる伏線なのだ。

8.夜の上野動物園、もぐりのツアコン調査が・・・・
 内容: 壱条がツアー客から得たもぐりのツアコン調査を夜の上野動物園で急遽行うことになる。上記のツアー観光終了日の夜の話。壱条の電話で絢奈が合流することになる。もぐりのツアコン調査のつもりがライオン一頭の盗難の現場に出くわす羽目に。
 場所: 上野動物園
 犯人たちの一人の落とし物、黒革製のウエストポーチに入っていた地図と現金の金額から、添乗員・絢奈は強盗たちの行き先に気づくのだ。

9.波照間島での大事件
 内容: 小さな一連の事件は、莉子を苦境に陥れずたずたにするための布石だったのだ。莉子に挑戦してきたのは、闇の社会ではよく知られた超一流の贋作者で詐欺師の通称コピア。コピア(弧比類巻)は莉子に言う。「莫大な損失が重なって、きみに対して腹を立てていないと思うか? 覚悟を決めておくんだね」(p243-244)と。贋作者雨森華蓮ですら関わりを持ちたくないと思っている謎の多い人物なのだ。波照間島の住民が莉子の活躍のせいで苦難に陥ることは莉子にとっては心外である。コピアが何をねらっているかに対峙するために、莉子は波照間島に帰郷する。小笠原悠斗がそれに同行する。また、コピアを知る華蓮も経緯上、莉子の協力者として波照間島に同行するのだ。そこに、絢奈と壱条が加わることになる。
 そして、波照間島ではとんでもない事件が発生していく。
 場所: 勿論、波照間島全域
 波照間島の人々は、莉子の父盛昌を始め、いたってのんびりしたもの。その人々が突然に恐怖の渦中に投げ込まれる。島の人々を苦しめるのが莉子を苦しめる最大ポイントだと狙ったコピアの作戦なのだ。莉子と華蓮、小笠原はそれに立ち向かって行く。絢奈と壱条も協力することに。
 莉子の精神的危機の到来。この大事件がやはり読みどころだろう。意外な展開となっていく。

 大事件は解決するが、遂に凜田莉子は飯田橋の万能鑑定士Qの店を閉じ、波照間島に戻ることになる。店じまいを保護観察下にある華蓮が引き受けることにしたのだ。波照間島に戻って莉子はどうするのか? 小笠原悠斗はこの事態にどう対処していくのか・・・・。
 それは本書を開いてのお楽しみというところに残しておこう。


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本書関連での関心事項をネット検索してみた。結果を一覧にしておきたい。

動物用吸入麻酔剤 動物用イソフルラン - Isoflurane for Animal
   :「MSD Animal Health」
吸入麻酔薬の種類と特性  :「動物実験手技」
ファンデルワールス力  :ウィキペディア
ファンデルワールス力とは
   :”目で見て操作する「分子の世界」-そのミクロ構造と物性-”
富士山頂神社 → 富士山本宮浅間大社 ホームページ
富士山(秋田県) :ウィキペディア
日本で一番低い富士山登頂記  :「travel.jp」
オディーン  :ウィキペディア
セント・ニコラスからサンタへの変身  :「Mini Post from England」


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万能鑑定士Qに関心を向け、読み進めてきたシリーズは次のものです。
こちらもお読みいただけると、うれしいです。

『万能鑑定士Qの攻略本』 角川文庫編集部/編 松岡圭祐事務所/監修

『万能鑑定士Qの短編集 Ⅰ』

☆推理劇シリーズ

『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅰ』
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅱ』
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅲ』

☆事件簿シリーズは全作品分の印象記を掲載しています。

『万能鑑定士Q』(単行本) ← 文庫本ではⅠとⅡに分冊された。
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅲ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅳ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅴ』 
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅵ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅶ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅷ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅸ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅹ』
『万能鑑定士Qの事件簿 ⅩⅠ』
『万能鑑定士Qの事件簿 ⅩⅡ』