眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

先生の指

2021-03-17 13:26:00 | 将棋の時間
 僕は駒台の上にいる。
 こんなことでは宝の持ち腐れだ。
「我が先生は寄せを知っているのか」
 僕の隣の金将は黙っていた。
「もう向こうに行きたいよ」
「お前なんてどこに行っても同じだぞ」
 隣の桂が食ってかかってきた。
「それはどういう意味だ?」
 みんな狭い駒台の上でストレスを溜め込んでいた。
 
 僕はこんな狭い場所で終わるのだろうか。
 この広い盤上に僕の活躍する場所はないのだろうか。
「我が先生は寄せを知らないの」
 一番隅っこにいる歩が小声でつぶやいた。
 やっぱりそうかも知れないね。
 戦力を増やすことは有効な手段であって、最終目的ではない。もしも、それを正しく理解していなければ、永遠に覇者にはなれない。
「駒を取ることしか知らないんだから」
 
 あふれるほどの駒台に置かれたまま、僕はすっかり忘れられていた。僕らはここに運ばれてくる一方で、ここから飛び立つものは誰もいない。表舞台から離れたここはまるで倉庫みたいだ。
「きっとこのまま終わるんだ」
 隣の金将は黙ったままだった。
 僕らがずっとこのまま動かずに終わること。それは敗北を意味する。残念なことに……。
「我が先生は勝ち方を知らない」
「いいえ。私たちは大事にされているのよ」
 香車が地の底から突き上げるように言った。
 
 僕が駒台にきたのは午前のことだ。定跡から少し離れたところ、棋譜の上には同銀と記録されている。僕はベクトルを変えて、我が先生の元へやってきた。激しい展開が予想された。活躍の機会はいくらでも訪れるだろう。(最終的に僕がどちらを向いていてもいい)棋譜は進み時間は消費された。しかし、僕の期待は裏切られることになった。取ることはあっても、使うことを知らない。そんな我が先生の駒台の上にいると、僕はもう自分本来の利きさえも忘れてしまいそうだ。
「僕って斜めに下がれたっけ?」
 あふれんばかりになった僕らが一斉に投じられる瞬間、我が先生は頭を下げることになるのだろうか。
(大事にされているだけ)
 もしも、あの香車の言葉が本当だったら……。
 出番は最後の最後にやってくるのかもしれない。それは本当に大事な時だ。いや、きっとそれは幻想だ。
 
 我が先生の細い指が近づく。僕の隣の金将に触れた。つかんだのではない。そっと触れてずらしたのだ。微かなスペースが僕の隣にできた。
「誰かくる」
 また新しい戦力がこの駒台にやってくる。
「もう乗り切れないぞ!」
 角さんの叫びは盤上までは響かない。
 我が先生の指だけが僕らの未来を決めるのだ。
 

 

フィッシャールール将棋(AbemaTVトーナメント)の魅力|ロボモフ|note

 将棋は筋書きのないドラマである。つまり、将棋はスポーツである。長時間の対局では、脳に多くの汗をかき、その分だけ大量の水分補給が必要になる...

note(ノート)

 

 

 
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犬を届けよう

2021-03-16 10:46:00 | 新・小説指導
あんた言いたいことあんのやったら
もっとはっきり言わなあかん
ちゃんと説明しないと
何も伝わらへんよ

「あんた主語がないねん」

いつどこで誰が何をどうしたんや
なぜいかにしたんかや
それを言わないと
自分の中で止めとったらあかん

あんたの小説はシマウマか?
野菜か? ライオンか?
何でもええわ
みんな川の手前で止まったままや

読者はどこにおるの?
最初からあんたの側にはおらんで
読者はどこにおるの?
そうや
川の向こうにおんねん

だったらちゃんと渡してみせないと
それには何がいる?
そうや
船がいります
船とは何?
言葉やな
だったらちゃんと船を作らないと

泥船やったらあかんねん
風船やったらどっか飛んでいきますよ
どこ行くねん!
ちゃんと向こう側に伝えないと

「小説はラブレターですよ」

ちゃんと伝えたら届くところに届く
その時好きか嫌いかは
読者が決めてくれる
それだけの話ですわ
伝えた上でね後は読者がね
でも

「届いてなかったら意味ないねん」
好きも嫌いもあらへん
ナッシングや
伝わるように書いたらええねん

スペースあんねんからな
んなもん
主人公一人の世界ちゃうんやから
ドラゴンもおる
猿もおる
ライオンもおる
釣り人もおる
魔女も魔法使いもおる
そやろ

いっぱい出てんねんから
主語くらいつけなさい
簡単でしょ
スペースあんねんから

「スペースあるよね」

あんたの書き方やったら
誰が誰やらわからへん

「ここ夢の中を歩いとんのかな?」
読者がそう思う
先生だったもんが
突然お母さんに化けますよ
困るね
そこをきっちりしとかないと
とても面倒なことになるよ
変な誤解にもつながるよ

「人か思ってたら猫やったんかい」
そんなことになるよ

伝えようと思うんやったら
伝わるように努めないと
船は勝手に渡ってくれへんよ
伝えたいやろ?
ちゃんとわかってほしいやろ?
だったらもっと正確に刻まないと
葱を切るのとわけが違うよ

「あんたの小説は時計屋さんの時計や」

あっち向いたりこっち向いたり
誰がどこを指しとんのや
あっちやこっちや
何やあんたは止まっとんのか
はよ電池を入れなさい
3時いうても昼なのか夜なのか
あっちゃこっちゃ
出かける時なんか眠る時なんか
起きる時なんか帰る時なんか
わけわからへん
みんな迷子になるわ

どこ向いとるんですか?
西ですか?
犬やから西ですか?
犬が西なら尾は東?
そりゃわからへん
迷子の迷子案内や

ついてきてますか?

もう時計屋さん出ましたよ
いいですか
読者にちゃんと伝えるためには

「もっと細かいタッチで書きましょう」

犬がでわかる?
十分ですか?
野良犬なん?
林さんとこの犬ですか?
だったらちゃんと書きましょう
ここからが本題ですよ

面倒くさいようでも書きましょう

スペースあんねんからな

犬はスペース好いてますよ
スペース見つけたら
わんわん言うて喜びますよ
そうしたら尾も振れる
結果も変わってくるよ

「先入観捨てて書くことが大事ですよ」

夕暮れ時に林さんとこの犬が
道で運動のために林さんと散歩して
林さんの犬の顔は西を向いたが
林さんの犬の尾は時を同じくして
東を向いとったけども、
スペース見つけて喜んだことによって
西を向きました

どない?
ようわかるやろ
ちゃんとした分だけようわかんねん

ちゃんとここまで書きましょう

「ちゃんと川の向こうに犬を届けよう」

時間かかってもええやないの

スペースあんねんからな

犬掻きでも何でもええやん
スマートでなくてもええ
伝える熱意あったら伝わるもんです

あんたどう思う?
正解はあるんですか?

先生も時々迷子になるんです
迷子になるくらいスペースあるからな

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コールドゲーム(手番の生かし方)

2021-03-15 09:53:00 | 将棋の時間
 駒の損得はほぼ互角だ。駒の働きは敵の角が隠居しているのに対して、私の角は攻防に利いている。玉の堅さは相手の方が上回っているが、私の方が左右に逃げ道がある。手番は私だ。(これが何よりも大きい)
 背筋の伸びは相手が猫のように丸まっているのに対して、私は少しは伸びているのではないか。顔の長さにおいては私の方が香車一枚ほど長い。眼光の鋭さ、それは計測不能ではないか。私は敵を真似て目を閉じた。その方がより一層盤面が鮮明に見える。邪念が生じないからだ。持ちおやつの数はどうか。相手はフリスクのようなものしか持っていない。それに比べ私は、グミ、サンミー、カントリーマアム、クランキー、それにカロリーメイトまであるではないか。総合的に判断して私は優勢と局面をみていた。

 次の一手はもう心に決めてある。読むほどにどうやらそれは悪手であることがはっきりしてきた。次の一手を境に挽回不能に陥ることが予想される。だが、私はどうしてもこの桂を跳ねねばならない。(跳ねるのが好きなんだもん)
 私がはっきりと優勢なのは「今」が最後かもしれない。
 私は手番を生かして窓の外を眺めた。雨足が一段と激しさを増している。敵が小さくため息をついた。

(コールドゲームにしませんか)

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母の探究(ビッグ・マザー)

2021-03-14 10:40:00 | ナノノベル
「ただいま」
 家を出て家に帰ってくるとそこに母をみつけることができた。色々と問題はあったが、母は笑っているようだった。
 隣町に出て我が町に帰ってくると、そこに新しい母をみつけることができた。境界を越え、サークルを越え、雲を越える。最初の母を出てから、外へ出て行くことは止められなかった。行って帰る度に、新しい母が更新され、その時だけは何かを振り返らずにはいられなかった。心は空間と深く結びついていることがわかり、心を広く保つためには旅を続けなければならなかった。
 競い合うように羽ばたいていた翼もやがて勢いを失った。
 手に負えない問題があふれてきたのは、人類が無力だったせいだろうか。ちょうどその頃、旅は飽和に達したところだった。

「さあ、みんなで行きましょう」
 宇宙に出て行く他に、地球上の問題を解決する手段はなかった。ずっと遠くへ行くのだ。(いつか帰ってくるために)
 私たちはまだ誰も母を知らなかった。

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ツッコミ耐久テスト

2021-03-13 10:41:00 | ナノノベル
「最後の試験です。今から流れる映像に合わせて止まることなくツッコミを入れてください」
 バーチャル空間に現れるアクシデントに、俺は休みなくツッコミ続けなければならない。一瞬でも止まったら、俺はツッコミ失格だ。

 ・ Ready Go !  ・ ・ ・

「天井高いな!」
「ポメラをまな板にすな!」
「お茶熱すぎや!」
「セールばっかりやな!」
「鞍馬天狗か!」
「どこが先手やねん!」
「どんな囲いやねん!」
「かけすぎやろ!」

 シンプルに、適切に、迅速に、感じるままに……

「どんな設定やねん!」
「客ちゃうかったんかい!」
「雨ばっかりやな!」
「雪だるまがうろちょろすな!」
「キーパー出すぎや!」
「はよ戻ってこい!」
「どこまで行っとんねん!」
「丸投げすな!」

 躊躇わずに、素直に、簡単に、ありのままに……

「ポメラをまな板にすな!」
「どこの子や!」
「王様で攻めてくんな!」
「アンハングエラか!」
「いやなんでやねん!」
「どういうことやねん!」
「どっちやねん!」
「投げへんのかい!」

 大丈夫。何も考えるな。すべて口先に従うのだ……

「寝ながら小説書くな!」
「お前誰やねん!」
「忍者屋敷か!」
「雨ばっかりやないか!」
「人多いな!」
「お洒落地蔵か!」
「詰んだら投げなさい!」
「コラムにくっつけんな!」

 迷わず、顧みず、恐れず、俺のままに……

「ポメラをまな板にすな!」
「差し控えばっかりやな!」
「癒着やないか!」
「結果がすべてや!」
「言うこと一緒やないか!」
「キーパー出ろや!」
「棒読みやないか!」
「手使うな!」
「言うこと変わっとるやないか!」
「キーパーは使ってええねん!」
「いやアドリブ下手やな!」
「まな板にすな!」
「定義を持ち出すな!」

 終わった。
 正解かどうかはわからなかったけど、俺はどうにか休まずに言えたよ。

☆☆☆ 合格!! ☆☆☆

「あなたを今より危機管理大臣に任命する」

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【短歌】フリースタイル(面白折句)

2021-03-12 01:11:00 | 短歌/折句/あいうえお作文

羊来ぬ真夜中ならば連ねたいフリースタイル詩歌の叫び

(折句「暇つぶし」短歌)


愛情をヘイトに交ぜて飲み干したハムとチーズとシャンパンの夜
(折句「あべのばし」短歌)


半袖は長芋よりも短いと過ぎた教えをきいたアパレル
(折句「ハナミズキ」短歌)


エレクトーンお前は閉じた窓の中一日の暗黒惑星だ
(折句「エオマイア」短歌)


あまたなる温泉宿に輝ける消しゴムは純粋モノトーン
(折句「アオカケス」短歌)


憶測のものかき淡く適当になしやありしや小説ライク
(折句「おもてなし」短歌)


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優雅なぶら下がり

2021-03-11 22:20:00 | ナノノベル
「卵ご飯でしょうか、卵かけご飯でしょうか?」

「それはまあ人によりけりなんじゃないんでしょうか。必ずしもこうでなければならないと一律に決まっているということはないと思います。あなたはどうです。ああそうですか。私がこうだと言うのはここでは差し控えたい。友達と語る場合と正確に伝える必要があるという場合では、また状況が異なるということもあるかもしれません。そこは総合的に判断してそれぞれの場面に応じて適切にお呼びいただくというのでいいんじゃないでしょうか」

「鶏が先でしょうか、卵が先でしょうか?」

「それは今問題なんでしょうか。そもそもそれは同じものなんじゃないでしょうか。呼び名を変えただけでどちらがどちらより先というのはおかしな話だと個人的には思ってます。親が先か子が先かと言えば当然親の方が先ということです。しかしながら、親は元は子であるし子は親となる可能性を持っています。親が子であったことは確実だが、子が将来においてどうなるかと言えば、それはもう仮定の話になりますから、それについては答えないことになっています。種というものは、世代をつなぎながらぐるぐると回っているわけですから、先も後もない話なんじゃないでしょうか。今問うべきことがあるとするなら、はじまりは何かという話になるんじゃないでしょうか。このように思います」

「目玉焼きにかけるとしたら何を?」

「私人としてですか。あなたは? そうですか。私もそうしたものをかけないわけではない。その日の天気や気温、気分によってもまた変わってくるでしょう。一概にこれでなければならないという決まりを設ける必要は、これは全くそれには当たらないんじゃないでしょうか。仮にどこかでそのような強制的な力が働くことがあるとするなら、何らかのハラスメントに該当することも十分に考慮していく必要がある。いずれにせよ、目玉焼きという料理は、凡人、公人、年齢や、また様々な職種を問わず、時代を超越して、人類を代表する料理として広く行き渡っているわけですから、今後もその味覚や栄養が損なわれることなく、政府としてできる限りのサポートを行っていけるよう、全力を上げて準備に当たっているところです」

「鶏が先に卵を産むわけですよね?」

「鶏という定義はないんじゃないでしょうか」

「幸せのありかはどの辺りにあると思われますか」

「それはまあ一概にここにあると言うことは時代的にもできないんじゃないでしょうか。ささやな日常に幸せを見出せる人もいるでしょう。絵を描いたり俳句を詠んだり様々なクリエイティブな活動を通して幸せを追求していくということもあるでしょう。また私たちのような存在にとっては、世のため人のために日々あらゆる手段を講じていかに国民の一人一人が健やかな暮らしを安心して送ることができるか、そうした取り組みに日々汗を流し、またそうした努力を一貫して続ける中に自身のそれを、適切にまた誰もが納得のいく形で実現していくことに相違ない。まさにそれに尽きるんじゃあないでしょうか」

「若鶏の唐揚げについてお聞きします。若鶏というのはだいたい何歳から何歳くらいのことを言うんでしょうか」

「それはまあ気持ちの問題じゃないでしょうか」

「最後の晩餐に何を望まれますか」

「それはその時の状況によるんじゃないでしょうか。あなたは? そうでしょう。季節や体調、同席しているのは誰なのか、どこの会長か、時間はどれくらい余裕があるのか、そうした様々な条件を考慮して総合的に判断した結果、その答えが導き出されるという話ではないでしょうか。仮に望むものが手に入らないということであれば、その場に応じた柔軟な発想を持つ必要も出てくるでしょう。いずれにしても私たちはそうしたことにならぬよう、誰もが安心して前を向き、自由なメニューを手に取って、笑顔のあふれる食卓を囲めるような社会の実現を目指し、日々全力で努力しておるところです」

「もしも今食べるとしたら?」

「カルボナーラ」

「すみません、もう一度お願いします」

「カルボナーラ」

「幸せは鳥が運んでくるとお考えですか」

「さっきもそれと全く同じ質問があったと思いますよ。答えはもう出てるんじゃないでしょうか」

「今日は何時くらいまで大丈夫ですか」

「それは皆さんの質問が出尽くすまでです。それが私たちの時間だ」

「今夜の予定は入っていないということでしょうか」

「そういう認識は一切ありません」
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【短歌】スマッシュ・ヒット

2021-03-11 05:40:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
結び目の詩歌となってナナフシと
そよぐ枯れ木のハスキーボイス
(折句「むじなそば」短歌)


数撃てば外れが増える伝説のガンマンに格言は当たらず

停滞に滲む焦燥モチーフは夜明けを前に書き出しをみず

ごまだれにつけるべきもの小説か非小説かに割れるテーブル

リクエスト曲に打たれて引き返す天国行きの螺旋階段

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みっちゃん(スター・ディスタンス)

2021-03-10 04:57:00 | ナノノベル
 夕暮れに一番星をみつけた。それから10分もしない内に、みっちゃんはそのすぐ隣に新しい星をみつけた。今日みっちゃんは冴えていた。
「スペースあるやろ」
 一番星のいっちゃんの声が聞こえた。何か怒っている。
「宇宙のキャンバス広いやん。もっと向こうで瞬けよ」
「近いようで近くない」
 二番さんは冷静な口調で言い返した。
「私たちの距離は推定7000億キロメートル。
それに今に満天が埋め尽くされる。ほら、もう……。
本当は今は今ではないのだけれどね」

「三番のお客さま!」
 ハッとして目を開ける。
 誰かがみっちゃんを呼んでいる。

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モンスター・ロード

2021-03-09 10:41:00 | リトル・メルヘン
戦士を倒しても魔法使いを倒しても
一向にレベルが上がる気配はない
俺を仲間に誘う声も聞こえない

それでも旅を続けているし
(旅が好きなのかもしれない)
期待することはやめられない
未来、未知、冒険の 
なんて甘い響き!

中立的な村人は俺に教えてくれる
「西の町に新しい勇者が現れたとか」

よーし! 弱い内に倒しに行くか

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【短歌】小説の旅

2021-03-08 04:37:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
超越と虚空に浮かぶ半月に
翼を広げ飛び立った朝
(折句「チョコバット」短歌)


書きあぐね眠ってしまうモチーフを叩き起こして書き出す勇気

手の中に小説がある喜びをもって抗う現代社会

米粒の暗号文を書き込んで小説までの夢を見ている

理詰めではたどり着けない生と死と愛に迫った小説の旅

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グッバイ・ノート/ハロー・ノート

2021-03-07 11:09:00 | 自分探しの迷子
 何も書くことができないという時に僕がすることは、ノートを閉じること。ノートを閉じてベッドに横たわれば、暗闇の向こうに夢の扉が見える。
「おいでよ。もういいから。何もしなくていいからね」そうだ。何もすることはないんだ。何かを創り出そうだなんて、最初から無謀な試みだったのだ。するべきことは眠ること。あとはあちらに任せるだけ。飛ぶこともある。追われることもある。けれども、最終的な着地点は、約束されている。戻れる場所があることは、なんて幸福なのだろう。

 何も書くことがないのなら、私はただペンを置くまでのこと。昨日開いたノートの中に並んでいた、恨み、後悔、執着、憂鬱、停滞、退屈。それは私を何も解放することなく、ただ埃だけが降り積もる部屋の隅に私を縛り付けただけでした。私はノートを閉じて街へ出ることにしました。停滞からの脱出です。

 私が足を動かすだけで街の景色が流れていきます。いつか見たゲームの中の世界に似て、むしろそれ以上にリアルな広がりを持ちながら。人が行く、人が出てくる、人が待つ、人が届ける、人が水を撒く。人だけじゃない。犬もいます。人と犬が一緒になって街を歩いています。街には匂いがあり、ガソリンだったり、魚だったり、夏だったりします。ノートの中にある停滞がうそのように、歩けば歩くだけ前へ進むことができました。前進できぬ道はないようです。

 俺は一切の躊躇いを置いて、ノートを閉じた。躊躇う者は滅びる。俺は生き残りをかけて、グラスを傾ける。ノートは白く無慈悲だったが、グラスは純粋に澄んでいるからだ。テーマを失ったノートは、海をなくした惑星だ。モチーフを使い果たした俺に未練はない。元々それは俺の世界ではなかった。言葉は常に棘を持っているから、美しさを求めれば傷つくばかりだ。自分の言葉に酔うくらいなら、ワインに酔っている方がましだ。

 さあ、お前もどうだい。まるで馬の瞳のように澄んでいるだろう。世界が元に戻らないと言うのなら、今夜グラスを傾けよう。乾杯! 俺は夢の中に落ちていく。酷くぼやけているが俺は翼もなく飛行を身につけている。夢の中だというのに体が重い。スキルは主に逃亡のために使われるが、夢のように無敵ではない。どこまで行っても追われている。現実世界の拡張にすぎなかったのか。誰かが書いた物語の一部かもしれないと俺は思う。

 ノートはぽつんとそこにあって閉じられるのを待っていた。
「もうそれはいつか誰かが書いたことさ」
 そうだ。それは使い古された懐中時計だった。冬の牢獄で開いたアルバムだった。そうだ。4年前に僕が書いたこと。少し時が流れれば、僕は自分のことも忘れてしまう。僕、僕、僕、僕、僕、僕……。
 あいつはみんな僕であって、僕はみんな他人の分身だ。
 1行を置いて何が変わる?
 1行をつなぎどこへ行ける?
 僕はノートを閉じて、布団を被った。
 僕が選ぶのは夢のある方だから。

 無筋に満ちたノートを閉じて駒袋を開く。
 わしはビシッと王将を打ちつける。それから大好きな飛車を、側近の金を、くせ者の桂馬を、はじまりの歩を、大橋流でも何流でもない順序で初形を作る。ついでに向こう側の玉も置いて、適当にすべての駒を並び終える。余り歩の2枚を駒袋にしまって、駒箱の中に戻す。目の前にははっきりとした目標が見える。

 棒銀一直線。相掛かりでも、振り飛車でも、わしの戦術にぶれはない。乱戦となり、最初に出た銀が立ち往生することがあっても、何度でもわしは読み直そう。棋譜が踊っても、停滞しても、テーマが変わることはない。
 挑戦者はまだ現れない。
 わしが恐れることはただ1つ。戦いが始まらないことだ。

 1行だって書けはしない。
 私はノートを閉じて幾度も街に出ました。
 メトロノームが振れている硝子の街を雨となって歩きます。

 夢は広く暖かく深い。裏切りさえも包み込んで、僕を緩やかに許し始める。現実の隅に置いたはずのペンが、クロワッサンにもたれかかって滲んでいた。
「泣いているの?」
 選ばれなかっただけで、それは捨てられたこととは違う、とペンは言った。どこからか吹きつける風にひっくり返って、かぼちゃのお化けを真似たのはビニール傘だった。ベルが鳴る。新しい創作パンがやってくる。だから、もうここに居場所はない。
「一緒に行こう」
「僕には飛行があるから」
「強がらないで。人の目線で行かないと共感なんて得られないよ」
 勝手な言い草だ。
 僕はペンのあとをついて街を歩いた。
 道が無意味に汚れていくが、誰も迷惑だなんて思わない。
 書くということは、ただ道を進むことだ。
 歓迎する村人はいない。詩情のラスボスはいない。
 不在、停滞、虚無。
 行く手を阻もうとする敵は手強い。
(恐れを恐れるな)
 夢の教えはいつだって不条理だ。

 僕は眠りから覚めた。
 ノートも一緒に目覚めたようだった。
「まっしろになったよ」
 窓からさし込む光を受けて、ノートはただ白く輝いていた。

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【短歌】都合によりけり

2021-03-06 10:38:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
早馬はルビーをつけてやってくる
素顔の君を見下ろすように
(折句「春休み」短歌)


神さまをたずねた夢の中にいるチケット売場僕は独りだ

天国に届ける花束を抱え21時のドラッグストア

公約は仮定の話振り返る時がきたなら昔の話

良薬を棚に上げたら小気味よいジャンクフードが夜の支配者

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【短歌】ハニーハニー、面白折句

2021-03-05 03:03:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
笑むまでは土下座をしよう終電に
靴音立てて去ると言うから
(折句「江戸仕草」短歌)


かくも曖昧に描ける一日の
ために恋しい地球文明
(折句「かまいたち」短歌)


宇宙史が棚上げされた一日に
人に目覚める鳥の純情
(折句「うたいびと」短歌)


ありふれたおかずを蹴って書き殴る
計算式が澄ませたディナー
(折句「アオカケス」短歌)


おののいたもぬけの殻のテキストに
「なぜ」を呼び込む少女探偵
(折句「おもてなし」短歌)


灰色の涙をためた湖に
澄んで広がる君の歌声
(折句「ハナミズキ」短歌)

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【短歌】スプリング&折句

2021-03-04 22:26:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
日のかけた長屋の袖に瞬けば
土をつけない竜の振り飛車
(折句「ひなまつり」短歌)


書くまでもないお話と決めつけて本日ここでさよならnote

手持ち無沙汰を恐れては抱え込むモチーフ猫に小判だろうか

これまでのあらすじ全部破り捨て風にまかせた3月の節

リズム&ブルース夜にとけ出して浮き上がる落ち武者の亡霊

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