眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

【短歌】どうかやめないで

2021-03-04 02:46:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
紐のない長靴だけど負けはせぬ
通過列車は竜のスワイプ
(折句「ひなまつり」短歌)


解約の道を探って人間の不信へ届くキャリア迷宮

手の中に収まる君が知っている僕の興味と宇宙の起源

恋文はノベルの中に幾度も別れを告げた幻の書

リプライにみつけた君の共感が僕を明日は詩人にかえす

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その壁に注意せよ

2021-03-04 00:05:00 | ナノノベル
 ネットのクチコミに踊らされたりはしない。私は自分の目を信じる。店の暖簾を見ればそれがどんな店かは、だいたいわかる。見過ごすべきか踏み込むべきか、真っ直ぐ暖簾を見ればわかるのだ。

「いらっしゃい」
 感じのいい大将だ。
 壁を見ればその店の歴史がわかる。どんな人が訪れ、どれだけ人々に愛されてきたか、誰に聞かずともすべては壁が語ってくれる。大物俳優のKが何度も足を運んでいるのがわかる。

「マグロお待ち」
 美味い! こんな美味いマグロを食べたのは初めてだ。
 人気があるのも当然だろう。JリーガーのY、お笑い芸人のIのサインもある。噂を聞いて広い世界から人が集まってくる。名店とはこういう店のことを言う。

「大将、甘エビといくらをお願いします」
「お断りだい!」
「えーっ」
 私は耳を疑った。断るにしても言葉がきつすぎる。
「追加の注文はお断りだよ」(テンション下がります)
「どうしてです……」
「壁をよく見な!」
 大将は真っ直ぐ壁を指した。

(注文は一度っ切り!)

 しまった!

 私は古びたサインに気を取られ、重要な貼り紙を見落としていた。この街では誰よりも壁が偉いのだ。壁に書いてあるからには、それは絶対の意味を持つ。

「さあ、食ったらとっとと帰ってくれ!」(次がお待ちです)
 味は最高。だが、何か落ち着かない店だ。

「ごちそうさん!」(二度と来ません) 

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自分探しの朝

2021-03-03 03:55:00 | ナノノベル
 目覚めるといつも自分の価値がなくなっている。自分という存在が見失われている。「昨日はあった?」昨日の記憶と感覚が毎朝のテーマとなる。カーテンはよそよそしく触れると切れてしまいそうだ。太陽の光が明るみにする自分の無が恐ろしい。はじまりが重い。そんな物語に誰が変えてしまったのだろう。窓を開けると君の声が聞こえる。

「まとめるのが面倒なんだ」
「そうじゃないよ」
「見つける方が好きなんでしょ」
「そんなんじゃないって」

「あなたは忘れた振りをしているだけよ」
「突然入って来て君は何なんだよ。人をうそつきにして」

交じる

空間

打ち解ける

私たち

グラデーション

交流

カラフル

食感

手を結ぶ

接近

すれ違い

赤と白

手を結ぶ

深まる

融合

染まる

秋と冬

共感

デュエル

競合

カオス

コラボレーション

一期一会

チャンス

こぼれる

ピュア

オリーブ・オイル

「あなたはプレーン、私はストロベリーなの」

 僕は冷蔵庫の扉を開く。
 ヨーグルトが再構築の手がかりらしい。

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とことん将棋

2021-03-02 10:35:00 | 将棋の時間
 あるところまで行くと敵は突然強くなった。レベルが上がると対戦者は魔神になるのだろうか。すべてを見透かされているように、狙いの裏を取られる。難しい局面が私の手を止めた。私は将棋の時間の中にいた。
(簡単には勝てないんだな)
 自分の読みの甘さを痛感する。しかし、簡単にあきらめるわけにはいかない。第一感の手は成立しない。第二、第三の手もまるで論外だ。普通の手では、窮地を脱することはできそうもない。ふー……。
 ため息の深さが形勢を物語る。このままでは終われない。

「あの銀を……」
 瀕死の銀をどうにかする手はないものか。AIならば潔くあきらめて、他の場所でポイントを得ようとするのかもしれない。しかし、人間は簡単に割り切ることはできない。積み上げてきたものほど守りたい。生きるとは、しがみつくことではないか。「ここまで」とみえるところを、「ここから」と何度思い直すことができるか。逆転の最初の鍵は、私の心が握っている。読んできたすべてを置いてゼロに立ち返ることは簡単じゃない。正しいことだと知った上でも、小学生からやり直すのは嫌なのだ。
 必要なのは、普通ではない「ひねり出した手」。
 ひねり出すためには、苦しい時間を深い霧の中で悩み抜かねばならない。常識が蓋をした無筋を掘り下げて潜り込まなければならない。脇息に額をつけて、闇の奥で棋と話した。迷路の中で足踏みをするな。壁を破って外へ進むのだ。

 無力感を纏いながら私は駆ける。棋理から遠く離れた名もなき街を。持ち駒はいらない。腕にはウォッチが光る。遠くでつながるものもあるから、労を惜しんではならない。汗をかきながら見つけるのだ。子供の頃からそうだった。机の上に広げられた本ではない。偶然どこかに開かれるもの、おかしな姿勢で読む方が入り込めるのだ。街を走る内に一緒に走る仲間が増えた。みんな腕に光るものをつけている。ここはランナーのための街だ。人ばかりではない。犬も猫も兎も、みんな夢中で走って行く。汗とともに、記憶、邪念、本題のようなものが流れ落ちていく。あれは何だった……。私はどこかで約束の人を待っている気がした。それが片づいたら自分のことに専念できる。(そのためにいつも身構えている)約束はいつもすっぽ抜けて行くのに。愚かである。そんなものに心を取っておくなんて。
 ランナーたちが道沿いにある八百屋さんに立ち寄って、りんご、みかん、バナナ、柿……。思い思いに持って行く。戦い抜くための栄養補給。お金も出さずに、頬張り、かじり、走り去っていく。
「サブスクリプションだよ」
 走るほど遠くまで行くことができる。遠くへ行くほど深く読むことができる。真理を探究するだけならずっと走り続けるのだけれど。現実の勝負のために、私は引き返さなければならない。バナナをひとひねりして手にすると、ランナー集団から離れた。

(悪手でもいい)
 異彩を放ってみえさえすればそれでいい。
 惑わされて相手があやまるかもしれない。
 最後にあやまった方が負ける。
 それが私たち人間の戦いだ。
 勝てないかもしれないが……。
 私は飛車にアタックをかけて千日でも絡みつく順を描いていた。

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【短歌】夢幻初手

2021-03-01 09:18:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
初手緑茶カトキチうどんレンチンし醤油をかけていただきます

初手はiPhoneタップからnoteチェック音沙汰なしで平常運転

初手Bluetoothを飛ばしSpotifyプレイリストはお目覚めロック

初手がぶりカプリコ食べて生きている今日もやっぱり詩を書く一手

初手生茶ついでに冷凍庫をあけて現れたのはカトキチうどん

初手誰も教えてくれぬ昨日まで学んだ棋譜は消えてしまった

初手ポカリスエットを飲むカーテンをあける動作に意味はあるのか

初手何もはじめられない体温が35℃に満たない朝だ

初手ははてどうしたものかわからない昨日に続く毎日迷子

初手君の不在を抱え切れなくて寝返る夢の浅瀬ふたたび
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ホーム・マカロン

2021-03-01 03:16:00 | ナノノベル
 駆け出して行く時のときめきは何度経験しても消えることがない。ときめきが強すぎるのか、僕の学習能力が浅いのかわからない。いつだって、もっともっと先へ行きたいと思う。思いが余ってついつい強く引っ張りすぎてしまうことがある。

「マカローン♪」
 りんちゃんの声が遙か後ろから聞こえたのは、その手が放れてしまったからだろう。けれども、僕は止まることができなかった。もっともっともっと……。まだ見ぬ景色が見たい。抑え切れない欲望。

 見知らぬ街に僕は独りだった。抵抗の消えた道をわけもわからず歩く内に、引き留めるもののない寂しさを感じ始めた。ときめきが何だった? 後悔が押し寄せてくる。りんは無事だろうか。本当なら、まだ幼いあの子を命をかけて守らなければならないはずだった。
 スギのドラッグストア。だけど、僕の街のじゃない。無人のポリスボックス。迷子の捜索願い0件。どこかで見かけたようなホームセンター。馴染みのおでんの匂い。どこにでもあるセブン。

「独りで待ってるの? 偉いね」
 見知らぬ紳士の大きな手。褒めないでくれ!(死にたくなるよ)僕は欲望にまみれた負け犬さ。
 コンビニを離れてふるさとをたずねて歩く。カレーの匂いが帰巣本能を狂わせてしまう。正しくペアを組んだ犬の散歩。軽蔑するような眼差しから逃げる。何度もすれ違うスギのドラッグストア。もうずっと回っているのかもしれない。何日分もの散歩をした。もう歩けない。けれども、止まることもできない。(好きにしな)僕はもうたずねることをあきらめた。何も見ない。何も想像しない。

「よう帰ってきたの」
 ばあちゃんとりんは居間でみかんを食べていた。
「マカロンにルーラ教えたのよ」

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