眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

『水戸黄門』はわるくない

2020-03-20 00:15:00 | 【創作note】
 子供の頃は『水戸黄門』がとても嫌いだった。父があまりに夢中になって見るために余計に嫌いになるという面もあった。
「いつも同じじゃないか」
 だいたい僕の言い分は決まっていた。何もかもがいいつも同じだと腹を立てていたのだ。日々も日常も大人たちのすることときたら何もかもが……。『水戸黄門』はそのいつも「同じ」であるという構造を代表して背負っていたに過ぎなかった。

「いつも同じじゃないか」
(それがどうしてか不誠実で不愉快なものとして許せない存在なのだ)
 そのせいで父とぶつかってしまった。
 対する父の答えはこうだった。
「日は昇り日は沈む」
 ずっと昔からそうなのだと父は言った。日々を繰り返して生きることこそが人間の道なのだ。
 話しながら父はずっと難しい顔をしていた。
 どれほど確信を持った内容だったのだろうか。あるいは、苦し紛れにひねり出した回答だったろうか。
(どこか遠い国ででも会うことがあれば訊ねてみたいのだが)

 幼い日の疑問は本質的に解決されるわけではない。
 疑問そのものが時間の中に薄まっていく。だいたいそのような感じである。『水戸黄門』はわるくない。そして、同様に『ごくせん』も『スターウォーズ』もわるくないだろう。

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ふらふらダイビング

2020-03-19 23:36:00 | 夢追い
「落ちてくる!」
 彼女の視線の先を見上げると飛翔体があった。彼女の言う通りどんどんこちらに近づいてくる。危ないと思いながら、僕はその場にかたまっていた。恐怖のせいか一歩も動けなくなったのだ。それは既に制御を失っているようだった。唸るような音とともに接近してくる。「ああ」叫びにもならない声が漏れた。飛翔体は数歩先に墜落した。爆発はしなかった。ごく僅かにプロペラの破片が飛び散っただけだった。もしも、大きな物体だったら、間違いなく僕は助からなかった。

 どこで手を洗うべきかもわからない。見取り図がわかりづらい。『ふらふらダイビング』にやってきたものの、システムもよくわからないままに僕は帰り支度に入っていた。下へ行くエスカレーターが見つからない。

「彼、このまま帰すの?」
 誰かが僕のことを何か言っている。
「藤原さん、いいの? 二度と来ないと思うよ」
 藤原さんと思われる人が素敵な笑顔を見せながら近づいてきた。
「ああ、どうも」
 ふらふらダイビングに深く携わっている人のようだ。
「ちょっと寄ってみたんです」(何もわからず)
「ああ、そう」
 藤原さんはふらふらダイビングの魅力について話し始めた。その内にまた別の人がやってきた。肩幅が広くがっしりとした男だ。

「彼は日本代表の横山です。半年前の世界大会見ました?」
「いいえ、ちょっと」
 藤原さん、横山さんと話す内にどんどん人が集まってきた。ちょうど飛行から帰ってきたところのようだ。みんな新しくやってきた人に興味があるようだった。

「続けていくと面白くなるかもしれませんよ」
「近いんですか?」
「へー。割と遠いですね」
「俺の方が遠いわ」
「才能あるかも」
「何か飛べそうな感じがする」
「ああ。そうっすかね」
「僕も全くの素人でした」
「そうですか」
「また来てくださいよ」
「水曜日とか空いてます?」
「水曜はちょっと……」

「まあ、近い内に」
「はい」

「ふらふらダイビング。これから来ますよ」

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カレーができる

2020-03-19 10:36:00 | 【創作note】
カレーを作ろうとするなら

冷凍庫には人参がある
冷蔵庫を開ければ
バラ肉やエリンギ
ミニトマト
スライスされた玉葱がある

ジャワカレーがある
魔法の鍋がある
水がある
電子レンジがある
スパイスがある

寒い夜だから
カプサイシンが欲しい

カレーを作るのは簡単だ

その気になれば
すぐにでも

できる

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詩は熱いうちに

2020-03-18 03:43:00 | 自分探しの迷子
 目の前に置かれたコーヒーがすっかり冷たくなっている。ぼんやりと見えてはいるけれど、意識の中心からはすっかり離れている。本当の目的は最初から別にあった。だけど、最初にコーヒーは必要だった。コーヒーはお母さんだ。周りにいるものは人かロボットか鬼か河童か。それが何者であっても、いま掘り下げるべきは何よりも自分自身なのだ。「お母さん。僕は詩を書いて生きて行くよ」人間は命の入った器にすぎない。器の中に守られて私は生きている。

 コーヒーはもうすっかり冷たくなってしまいました。時々触れる唇の冷たさが、私がノートに書き込んだ詩の時間です。スケルトン人間の根性が曲がっている。痛みも弱さも見えている分だけ、打つ手もわかりやすい。だけど、私たちはすべてを見せたくはないのです。「お母さん。いつも気にかけています」どこまで遠くやってきても、あきれるほどの歳月が過ぎ去っても。もう、コーヒーは冷めた。俺の注文。俺の放置。ここに来た時から、俺は矛盾の中にいた。

まきそこねのペペロンチーノ! 

 一撃の詩を探して、俺は喧噪に飛び込んだ。「母よ。一口の温もりを俺は忘れない」発狂した責任者が椅子にしがみついても、純粋な個人が責任を負わされても。詩は終わらない。いつかのコーヒーがわしの目の前にある。誰がこんなに冷たくした? それはわしよ。わしはずっとここにおる。詩はわしをただぼんやりとさせるんじゃ。

 わしは宇宙人だ。我々も宇宙人だ。我々も我々も我々も……。私たちは詩を書くためにここに来た。「詩は熱い内に書かねばならないから」だから、他に置いていくものができてしまう。後から来た人たちが次々と目的を果たして、笑いながら去って行っても。僕たちはここにしがみついている。「お母さん。そのうちに帰ります」ずっと遠くから、僕たちの詩を見守っていてください。どうか元気で。お茶でも飲みながら。

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冬のおかわり

2020-03-17 21:20:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
おんぼろなニットの端に佇めば
胃腸はビーフシチューを望む

(折句「鬼退治」短歌)
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pomera24

2020-03-17 07:46:00 | 【創作note】
「えーっ、こだまで帰るの」

姉が驚いたように言った。

とても考えられない。と続けて言った。

速い奴ならその半分以下の時間、2時間くらいなのだけど。

その時、僕は別に苦ではなかった。驚く意味もわからなかった。

僕の鞄の中にはpomeraがあった。

pomeraの中にはたくさんの未完成があった。

きっと一生かけても書き尽くすことはできないだろう。

僕はもう十分に乗り遅れていたのだ。

だから、時間なんて関係なかった。

どこまで行っても一緒なのだから。

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破れかぶれからの招待

2020-03-16 07:59:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
夢破れ着物も破れ飛来した
ようこそ君は宇宙フレンズ

(折句「ユキヒョウ」短歌)

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就職逃亡者

2020-03-16 04:43:00 | ナノノベル
「ずっと研究室にいたからね。もういいかなって」
「やり尽くしたって感じっすか」
「後はもう後輩たちに任せて。何か違うことがしたくてさ。この会社もそれで始めちゃったわけさ。ずっと学問ばかりだったからね、人間相手に動いてみるのも悪くないと思ったんだ。不思議だよ。人間臭いこと大嫌いだったんだけどね。人間急にひっくり返ることがあるみたいだ。遊びほうけてた人間が、急に真面目になったりさ。その時は本当に馬鹿みたいに大真面目になったりすからね」

「わかります。俺もたくさん罪を犯して長い間入ってましたから。先ほど出てきたばかりで」
「そうか。じゃあ今度はよい方に働く番じゃないか。明日から働いてくれたまえ」
「……。きかないんですか。社長、自分のことを」
「いいんだよ。色々あってここにきたってことで」

「ありがとうございます」
 俺は脱獄犯だ。
 ちょうど出てきたところで幸運が転がり込んだ。
 人のいい社長が俺をかくまってくれる。
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誰か教えて(もやもや迷宮)

2020-03-15 10:39:00 | 【創作note】
Tシャツが1枚なくなった

洗濯籠の中にそれはない
洗濯槽の中にそれはない
ハンガーをいくらかき分けても
やっぱりそれはない

もしかして今着ているのか
そんな馬鹿なことがあるか

椅子の上にそれはない
布団の下にそれはない
クローゼットの中に
しまった記憶なんてない

どこかで間違えて
ゴミ箱に捨ててしまったのか
とんでもないところに
紛れ込んでしまったのか

完全にないとも言えず
どこかに必ずあるとも言えず


もやもやを引きずったまま

「いつまで自宅待機すればいいのでしょう」

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pomeraの待機

2020-03-14 10:35:00 | 【創作note】
マイバッグから
マイpomeraを引っ張り出す
さあ今日は何を書いてやろうか

夢にみたこと
心にひっかかったこと
あったことなかったこと

指が欲しがっている
言葉の旅路を待ち望んでいる

pomeraは不安定な膝の上
やじろべえのように浮いている

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言葉はすごいのか(無関心テキスト)

2020-03-13 06:12:00 | 【創作note】
「ボール一つでどこでもつながれる」と旅人は言った


 言葉は偉い。どんな学問も遊びも元に言葉がなくては。ドラマも、映画も、音楽も、漫画も、演劇も、ゲームも、ラジオも、オペラも、スポーツも、料理も、会議も、法律も、戦術も、落語も、漫才も、プログラムも、雑談も、恋愛も、みんなみんな。言葉がなければ何も始まらない。言葉は偉い。ずっとそう思っていた。

 pomeraに向けて言葉を打ち込んでいた。
 通行人の目にそれはどう映っていたのだろう。
 pomeraの後ろを素通りしていく人。ほんの一瞬、立ち止まったとして、感想は決まって「何じゃこりゃ」。
 遙か昔、1分ほど足を止めて言葉を読み込んだ人がいた。
「眠たくなるわ」一言ジャッジして彼女は去っていった。言葉が悪いのではない。ただ、僕が並べた言葉が睡魔とつながっていたというだけだった。


 タブレットに向いて絵を描いていた。
「鬼の角はね……」
 足を止めた人が文句を言ってくる。
「猫の顔はね……」
 誰かが猫の輪郭について教えてくれる。
「窓とは……」
 成り立ちについてアドバイスをくれる人がいる。
 花でも木でも空でも雲でも海でも夜でも馬でもライオンでも恐竜でも星でも宇宙でも闇でも悪魔でもエイリアンでも……。
「なになに?」
 素朴な好奇心を持って光る目が近づいてくる。
(あれ? 何かpomeraの時とまるで違う)

絵ってすごいんだな
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人間レンズ(君を通していつかのおばあさんを見ていた)

2020-03-12 23:57:00 | 忘れものがかり
「ブラックでよろしかったですか」
彼女は一瞬不安げな目をして僕を見た
「入れておいてください」(1つずつ)


その時、僕は
昔、住んでいた町のマクドナルドに
いつもいた店員のおばあさんのことを
思い出していた

「えーと、ブラックでよかった?」
そう言っていつも僕を誰かと間違えて
いつも謝っていた 「似てるんだよねー」
どこにでも似た人はいる


彼女は僕を通して
別の誰かのことを見ていた

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鬼と麒麟

2020-03-11 05:09:00 | 短い話、短い歌
 鬼が大笑いしてから未来の話は下火になっていった。
「絵空事だ!」
 それも今だから言えること。みんなは本当はわかっていた。奇抜なアイデアを出したつもりでも、現実はずっと想像を超えていってしまうと。その時になればわかるよと誰かが何百年も生きるように言った。それよりも本当の話をしよう。それは歴史の話。みんなの大好きな英雄の話。男だった。女だった。英雄だ。裏切り者だ。あとから盛ったのよ。「麒麟はくるの?」偉人でしょ。「麒麟はもうきたじゃない」
「絵空事だ!」あの人それしか言わない。歴史も今となってはみんな幻のようにとらえることもできる。酔いがまわって私たちは今に焦点を当て始めた。寒くない? えっ、寒くないよ。暖かいよ。えっ、ここ? まだ2月だよ。もう2月か。
「あっ、猫!」
 どこ? えっ、何? もう行った。あー。腹減ったね。何か頼む?


騒々しき小鬼たちに囲まれた
執筆はアルコールの仕立て

(折句「そこかしこ」短歌)

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野鳥バス

2020-03-10 14:48:00 | 夢追い
「次は井上小町。地下鉄その他の路線へお乗り換えの方は……」前の駅を出てまだ20秒しか経っていなかった。井上小町は初めて聞いた。降りるのはまだだ。多分次でよいだろう。バスは井上小町を通過して進んでいく。徐々にビルや信号の数が減っていく。町から離れていくようだった。「あの……。次は……」不安になって隣に座っていた乗客に訊いた。次は2時間は先になるだろうと老人は答えた。ぼーっとしている内に長距離バスに変わってしまったのだ。「すみませーん! 降ります!」ボタンは反応せず、僕は声を上げた。バスは止まらない。どんどん細い道に入っていく。急には止まれない道なのだ。僕は席を立って運転手のところまで歩いた。「210円ですか」いつでも降りられるように先にお金だけ払っておくことにした。「はい」小銭を出す途中でバスが揺れて10円玉を落としてしまった。運転手がサイドブレーキに手をかけながら身をよじり拾ってくれた。見通しのよい直線だが、その時バスは少し揺れた。だけど優しい運転手みたいだ。「ありがとう」礼を言って席に戻った。バスは急に止まることはできない。

 見渡す限り山と緑に囲われていた。深呼吸すると驚くほど空気がうまかった。ほとんど車も通らない。聞こえてくるのは野鳥の歌声ばかりだった。実にのどかだ。

「ここは何県なの?」
「僕らの生まれ育った町だよ」
 幼馴染みのまーくんだ。まーくんも一緒に乗っていたのか。生まれたとこと育った町とは本当は違うんだ。そんなことをまーくんは知らない。それとも特に気にかけてはいないのかな。
「そっか」
 言われるまで忘れていた。でもこんなに自然が豊かだったかな……。僕も町もすっかり変わってしまったのかもしれない。バスは適当な空き地を見つけ休憩タイムに入っていた。空っぽのバスを置いて、みんな自然との触れ合いに出かけていた。

「よかったら一緒に」
 話す内に打ち解けた運転手が釣りに行こうと誘った。それは次の3連休の話だった。
「せっかくですが……」
 あまりに急でスケジュールが調整できなかった。まーくんがアイスクリームを買ってきてくれた。バニラアイスだ。
「店あったの?」
 まーくんは笑いながらただ指をさした。それは川の方だった。
 僕はここから一人で歩いて帰らなければならない。明るい内に帰るなら、出発を急いだ方がよさそうだ。だけど、ゆっくりアイスを食べた。底が見えるとなぜか切ない気持ちになった。徐々に乗客が集まってきた。みかんや柿を持って、みんなゆっくりしている。野鳥の声を聞きながら笑っていた。いつになっても出発する気配がない。
 早く僕を置いて行けばいいのに。

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涙笑い

2020-03-10 09:44:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
干からびた涙を笑うまんまるい
月の真下にリサイズの海

(折句「ひなまつり」短歌)
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