前に伸びた影の大きさに驚いた。それは自身のスケールを遙かに超えたヒョウのものだった。まさか……。偽物の影ではないことは、走り出すとすぐにわかった。我が身を疑うような驚愕のスピードだった。うれしくなって君は駆けた。これほどの走力があれば何駅分の町を越えて行くことができるだろう。コンビニの駐車場で憎き敵を見つけた。敵はすぐに身を隠そうと動いたが、君は逃がさない。追いつめて痛い目にあわせた。いつもされている分の何倍かを返すと気分が落ち着いた。
長い夜の間、君は無敵だった。集団で悪さをする群を正面から粉砕した。幾つかの難しい抗争に割って入り、町の治安維持に貢献した。化け猫クラスの相手でも、君の前ではまるで無力だった。自身の誇り高い影を見つめ歩く内に、どこか遠いところから子守歌が聞こえてきた。考えられる敵はもはや眠りだけだった。夢をはさんだら……。きっと元の自分に戻っているだろう。君は大きな声で鳴いた。それは紛れもないヒョウの声だった。
夢覚めて
キジになったら
ひなをみて
世直しのため
打つ杭を打つ
折句「ユキヒョウ」短歌