眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ジョナチャンのお使い

2009-12-18 17:18:29 | 猫の瞳で雨は踊る
ペンギンは、野菜を求めてスーパーに足を運んだ。
特売日らしくスーパーは大勢の人でごった返していて、ジョナチャンは目をぱちくりとした。
そうして、何も買わずにスーパーを後にして、ジョナチャンはペタペタと歩いていた。
あーあーあー。家の人に怒られちゃうな。
煙草屋の前には、猫が心配そうな目をして佇んでいた。
道に迷ったの?
野菜を買うんだよ。ジョナチャンは財布を見せて猫に行った。
だったら、あっちに行くといい。猫は、指示棒を伸ばして指し示した。

空には、鳥が飛びながら絵を描いている。
あれは、ライオン。あれは龍。あれは松の木。
ジョナチャンは、空絵を見上げながら歩いた。
ライオンが松の木を食べた。龍がライオンを吹き飛ばした。それから自分も吹き飛ばした。
野菜は全然描かれなかった。

八百屋の前を、ジョナチャンはペタペタと歩き回った。
バナナがかごに盛られていた。みかんがかごに盛られていた。
店の人らしき人とすれ違ったが、らしきは無言のままだった。
地べた付近に置かれたニラは、かごからはみ出して、もう地べたにくっついていた。
ジョナチャンは、踏まないように注意した。
行ったりきたりしてみたが、らしきはやはり無言のままだった。
ここは八百屋じゃないかもしれないな。

空では、鳥が飛びながら絵を描いている。
あれは、力士。あれは、オルガン。あれは空手家。
ジョナチャンは、空絵を見上げながら歩いた。
力士がオルガンを弾いた。空手家も並んで弾いた。
オルガンが弾けて飛んで、みんないなくなってしまった。
野菜は全然描かれなかった。

「いらっしゃい!」
ジョナチャンは、八百屋の威勢に酔い痴れた。
「トマトが安いですよ!」
ジョナチャンは、いらないと言った。
「他に果物はよろしいですか?」
ジョナチャンは、いらないと言った。
「はい。550万円!」
「あー、10円玉、助かります!」
「またお願いします!」
酔い痴れながら、ジョナチャンは八百屋とさよならした。

「おかえりなさい」
どっさりと野菜を抱えたジョナチャンに、猫が呼びかけた。
空には、今はぶどうや、梨や、キュウイが描かれていた。
「あなた空は飛べるの?」
ジョナチャンは、リンゴが染まっていくように顔を振った。
「そう。私も、飛べないの」
ペンギンは、一瞬ぎょっとしたように猫の方を見た。


*


「ジョナチャンは、何を買ったの?
 ねえ、ノヴェル」
ケータイの文字列を歩きながら、マキは猫に問いかけた。
文字の連なりも、眠り猫も何も答えなかった。

「鳥は、落書きが好きなの?」
マキは、ノヴェルから目を離して空を見上げた。
漆黒の夜の中で、白い生き物めいた何かが、ざわざわと這い出していく気配がした。


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