眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ハンマー

2013-04-12 19:09:36 | 夢追い
 ぽつんと1人、横しか動けない。喧騒も攻撃の気配もない。1日が終わっても星1つない夜みたい。あんまりすることがないから、仕方なく横に動いてみる。横に動いて端まで行ったら、もう1度ただ戻ってくるだけ。あんまり放っておかれるのもつらいものだな。何の役にも立たないウォーミングアップを続けていると、何だか眠くなってくるけれど、眠るにしては静か過ぎて眠れない。横に動いて戻る途中、微かに何かが動いた気がして、最初は小さな点のように見えたけれど、それは願いを乗せた通りすがりの流星なんかではなかった。敵だ。たった1つだけど、ついに敵が来たようだった。自分以外に動く物の気配に懐かしさを覚えてしまう弱い心を、強く腕をつねって戒める。横だけの動きで何ができるというのだろう。あんな小さな1点にも見える敵に、やられてしまうのかもしれない。けれども、数の上では互角だった。簡単に捕まってなるものか。気を引き締めて構えていると、敵はブランコのように揺れながらゆっくりと落ちてくる。さあ、くる。と、敵はこちらに触れることもなくそのまま下に流れ落ちていった。

(なんだ通りすがりか)

 次の時間になると上空に放り出されて、突然現れた大群が押し寄せてくる。必死で後退するもののすぐに大群に取り囲まれてしまう。逃げては逃げては取り囲まれる。徐々に囲まれ方が絶望的になってゆく。常に1つだけ逃げ道が用意されているのはプログラムの決まりごとのようだったが、細い道ではいずれにしてもコントロールを続けることは不可能だ。捕獲の度に死と再生が繰り返される。

「今がチャンスだよ」
 目覚めて間もない曖昧で優しい時間帯は、誰も傷つけ合うことができない。見知らぬ援助者が支援を申し出てくれる。そして、ついに敵を壊すハンマーを手に入れる。もう、逃げるだけの戦いからは卒業だ。逃げ道を塞がれた時でも、密集した敵の塊にハンマーを振り下ろせば、自力で道を切り開くことができるようになった。今までと違い、生存時間は延び、敵の動きも少し遅くなったようにさえ感じられた。希望が見える。もう、横にしか動けなかった自分とは違う。敵ばかりが光り輝く夜だけれど、逃げ惑い、取り囲まれて、埋もれてしまうばかりではなくなった。行く手を遮るものは、この手で壊してしまえ。さあ、来るなら、来い!

「その方向には味方が潜んでいます」

 そんなことを気にしている場合か。自分が助からなければ、その先はない。ハンマーを構わず振り下ろす。
 けれども、警告の力が働いているため、壊せない。
「まずはローソク2本を箱に入れ、できれば敵情を探る情報を収集してください」
 何が情報だ。どこにそんな手がかりがあるというのうか……。ローソクがいったい何になるというのだ。
 ローソク2本を箱に入れて、大群から逃げる。逃げているだけだと囲まれてしまう。打開のためにハンマーを振り下ろす。手から力が抜けてしまう。ハンマーは大群の密集地帯を越えて、敵が潜む闇の中に吸い込まれ消えてしまう。
 もう、手刀しかなくなった。



 空っぽだった何かの休日、テーブルを片付けているとCDが止まった。
「リピートは?」
「怖い話に変えて!」
 女がリクエストするが怖い話のCDは見つからなかった。その辺にあると言うが、何千枚もの音楽CDと一緒になっているので、そうなるとそう簡単な話ではなかった。全く。
「なんで一緒にするんだ?」
「怒らなくていいでしょ」
「怒ってないだろ。一緒にするなって……」
「なんでそんなこと言うの!」
「はい怒った。今初めて怒るという現象が出ました」
 そうだ。これこそが怒るというものだろう。
「あんたの怒る基準なんて、私は知らない!」
 怒られながら探す内に、ようやくタモリの怖い話が見つかった。
「あの流れで落とすか……」
 会長選挙に落選したたけしは愚痴を零しながら冷蔵庫を開け、皿に盛られたキャベツを素手で掴んだ。
「新議員が作った奴か」
 つぶやきながらゴミ箱に投げ捨てる。



 案外飛べる気がした。坂道を滑走路のように見て、腕を伸ばし進み出れば、水に浮かぶ壮大な島。遠くからカメラを向けてみる。いい絵になる。はがきにして友達に送ろう。はがきに添えるメッセージを考えていると気持ちが更に高まった。こんな近くにこんなにも美しい場所が……。フレームの中に民家が入ってしまうことに気がつく。それはまずい。場所が特定されてはならない。その時、警報が鳴り響く。

「戦闘態勢に入ります。家の中に避難してください」

 島全体に黒いものが蠢いている。
 大丈夫。すぐには大丈夫なはず。警告を無視して、寝そべっていた。すぐにどうこうなるということはないのだ。
 事態は思わぬ早さで動き出していた。何キロも先にあるはずのものたちが、信じられない速度で動き直線的にこちらへと向かっているのだ。その一切無駄のない動きは美しくさえあり、見つめている内に逃げる機会が失われつつあった。まだ間に合う。今なら、まだ間に合うという瞬間は幾らもあったはずなのに、その一瞬を見つめることに費やしてしまい、もう駄目だという瞬間までじっとして、ついに少しも動き始めることができなかった。そして、もう駄目だった。水を越え、岩壁を越え、敵は直前まで迫っている。目を閉じて、眠る振りをした。
(ずっと眠っていたんだ)
 腰の下にカメラを隠した。
「********を****してやろうか!」
 眠る人間に対して、恐ろしいことを言う兵士。
「どこにあるんだ?」
 兵士は探している。
 その時、僕はさっき隠したのがカメラだったかハンマーだったかに自信が持てなくなっており、もし後者ならやられる前にこちらから動いて勝負に出るべきではないかという気持ちになっていた。しかし、もしそうではなかった時のことを考えるとやはり体は動かない。
「***********を*******してやろうか!」
 兵士は更に恐ろしいことを言った。
 僕は意を決して、腰の下にあるものを手に取って立ち上がった。


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