眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

愛の封じ手

2021-04-12 10:15:00 | 将棋の時間
「矢倉がお好きなんですね」
「ええ、まあ……」

 年中矢倉戦法を採用しておいて、嫌いとは言えない。勝率だって悪くはなかったが、私が本当に好きなのは四間飛車だった。振り飛車のさばきに昔から強い憧れを持っていた。囲いだって美濃囲いが堅いと思うし、銀冠は何よりも優れていると思う。

(あの先生のようにさばけたら……)

 華麗なさばきで飛車や角や左桂を自在に操る。守っても粘り強く戦って美濃囲いを維持する。
 私も憧れから振ってみたことはある。
 しかし、どうにもさばけなかった。何度やっても飛車角は押さえ込まれてしまう。粘り強く指そうとしても、美濃囲いは脆く崩れ去ってしまう。私が指すことによって、どんどん(好きな振り飛車)のイメージから離れて行ってしまう。私はそれには耐えられなかった。
 さばく才能はないけれど、矢倉に構えてじっくりと戦うことはできる。少しずつポイントを上げたり、陣形を組み立てることはできる。
 生きて行くために、私は一番好きなものを封じなければならなかった。

(きっと誰だってそうではないだろうか)

 来月は矢倉党の党首選挙がある。
 どうか誰も私を推さないでもらいたいものだ。
 仕方なく勝っているけれど……、

「本当に好きなものは違うんだよ」


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