眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ワンサイド・ジャーニー

2021-03-22 14:20:00 | ナノノベル
 そばを食べようとして口笛が鳴ってしまったので、犬が駆けてきた。何かがそこにあるのだと思って……。
「違うんだ」
 犬に誤解だと説明するが上手く伝わらない。
「呼んだんだろう」
 ずっと私の顔をにらみつけているのだ。店の人が怪訝な顔でこちらを見ている。いや違うんですよ。ただそばを食べる時の口の形がたまたまそうなっちゃって……。というのもやっぱり伝わらない。座敷の下に犬を置いたまま仕方なくそばを食べた。上品な香りを放つ極上のそばだ。非日常的な状況は、むしろ味覚を高めているようだった。
 食べ終えた時、犬は待ちの姿勢を崩さずにそこにいた。

「よし行くか」
 空腹を満たすと腹は決まった。どうせ先の予定は何もない。そばを食えばもうすることもないではないか。
「一緒に行くか」
 見知らぬ犬は伝票をくわえてレジまで行くとひと鳴きして会計を済ませてくれた。(これも何かの縁なのだろう)
「さあ、どこにでもつれて行け!」
 力強くそば屋の外へ飛び出した。


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