昨日見た時は青かったのに、今はそうでもない。何か違う。青かったり白かったり、浮いたり沈んだり、強かったり弱かったり、好きだったり嫌いだったり、熱かったり冷たかったり、きれいだったり淀んでいたり、いつも振り回されてばかりだった。50パーセント? いったいどういうことなのだろう。
いつもよりも歩けすぎている。歩いている途中で異変に気づく。背中が妙に軽すぎる。荷物を忘れてきた! そればかりか耳が寂しい。どうして手にお茶を持っているのに、大事なものばかり忘れているのだろう。行きすぎた道を僕は引き返した。荷物になるので電柱の下に、お茶は置いて行くことにした。
耳にないアジカンのこと気づいたら今更引き返すのか我が道
空も人も移ろいから逃れることはできない。誰だってつなぎ止めておくことは難しいのだ。人は上辺から心から作品も含めて変わって行く。昨日は捨てられたかもしれないが、今日には拾ってくれる人もいるのではないか。
エレベーターは強制的に最上階に引っ張られてしまう。僕は30センチほど背伸びして威嚇していたが、乗ってきた人は僕よりも普通に30センチ高かったので驚いた。
「ここに住んでる人?」
初対面の人は気安く話しかけてきた。勢いに押されるまま僕は正直に名前と部屋番号を教えてしまった。7階の部屋は改装中で窓もドアも開けっ放しのままだ。こんな時に限って個人情報を晒してしまったことを後悔した。せめて通帳だけでも鞄に入れて持って行こうか。1つ思いつくと大事なものは他にもある気がして憂鬱になる。
「崩してくれる?」
会計が済んだあとで客は10円玉を差し出した。崩れるパターンは知れている。先輩は100円玉と50円玉を複数用意してトレイに並べようとしていた。
「いや10円でしょ」
「えっ、本当? どれ?」
預かった元の硬貨は既に行方をくらませていた。
僕は1円玉を並べて客に差し出した。
「こちらで」
「そうなのか?」
客は硬貨の輝きが足りないと駄々をこねた。他にも色々とパターンがあるのに、決めつけられたと不満を露わにした。財布に収めないけれど、突き返しもしない。膨らんだ頬は水掛け論を待ち望んでいるようだ。非生産的な間に耐え切れず、僕は早く休むように持ちかけたかった。明日も早いでしょうに。
「油売ってないでよー!」
夢の中での叫びは声にならない。
口が乾き意思は唇に伝わらない。
それでも僕は叫ぶことをあきらめない。
魂より叫ぶことは体にいいのだ。
「……売ってないでよー!」
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