眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

クリスマスーツ

2013-12-25 07:46:22 | クリスマスの折句
 先日、通い慣れた道を歩いておりますと、慌しい足取りで行き過ぎるヤドカリの一団に出会いました。ヤドカリたちはとても背負い慣れた様子で引越しの手伝いをしているということでした。引越しのシーズンではないけれど、この冬が特別に寒いということも手伝って、事情が事情というところが多く、ところによっては局所的に引越しが多発しているということでした。ヤドカリたちが道を横切る間、忙しいドライバーたちもハンドルを握る手を休め、この時ばかりは口をぽかんと開けて見守るしか仕方がないようでした。私はこうしたのどかな様子を見て、一足早いクリスマスプレゼントをもらったような気分になって、商店街に入って行きました。そこは長く、暗く、果てしなく続く商店街でした。
 歩道にまで突き出したワゴンの中には、靴下が100足セットで売られていて、それは1つのタブレットが買えるような価格だったけれど、断固としてばら売りはできないと書いてあるのです。それは12月ならではの光景で、他の月ではとても考えられませんでした。セットは、順調なペースで売れているようで、一気に減っていく靴下の束を補充するために、店の人も客の間を潜り抜けて忙しく品出しに走るのでした。私は靴下を買う気力もなく、店の前を通り過ぎると果てしない商店街を歩き続けました。雨風から守られた商店街の中にあっても、足元に冷たい冬が入り込んできて、こんな季節はたとえ何枚のセーターを着込んだとしても、寒さを忘れることなど困難であると考えさせられました。どこにも立ち寄ることなく、商店街を抜けた時、より一層寒い風が襟元に吹き付けてきて、私の足をからかうように迷子にさせるのでした。
「私はどこへ行ったらいいのだろう」
「今のままではどこにも行けないよ」
 鬼は言いました。
「ずっとついて来ていたの?」
「そもそも出遅れているのだから」
「君はどこに行くの?」
「もう帰るの」
「帰る場所があるんだね」
 鬼は何をかいわんやという顔で、こちらを見つめ返しました。
「だって僕たちは、出現する生き物だからね」
 鬼と別れると私は、再び商店街の中に戻りました。鬼のように、私も曲者だったらなと思いながらさっき通ったばかりの道を、今度は逆の立場に立って歩き始めました。左右が反転するだけで、見方によってはまるで別世界です。曲者だったら誰かに認めてもらえるかもと思いながら歩いていると次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。

曲者の
両生類に
すごまれて
マダイはモビル
スーツを着込む

 鬼からの贈り物を口ずさみながら、歩いているのは長い靴下の中のように思えてきました。

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