もうすぐ12月の雲が集まって、12月の街に12月の雨を降らせるだろう。まちびとは突然12月の雨が降ってきたと驚いて傘を開くだろう。12月の折り畳み傘。まちびとの予想を遥かに超えた12月の風にあおられて、傘は骨を折って萎んでしまう。まちびとの無力な手の中で、何とかして立ち直ろうと12月の折り畳み傘は何度も何度も、12月の風に逆らおうとするけれど、折り畳み傘という物は何月であろうと元々壊れた物であって、12月はその宿命をより一層明白にするだけだった。
「生きるというのは壊れ行くことだな」
まちびとは壊れた12月の折り畳み傘をあきらめて、商店街に逃げ込む。同じようにして逃げ込んできた人々が、12月の商店街の中にはあふれていて、まちびとはその甘ったるい足並とクリスマスソングに嫌気がして、何かその穴埋めをするものを口の中に求め、12月のカレー屋さんに入って12月のカレーを注文する。12月の冷たい水を飲みながら、12月の窓を眺めていると、さっきまで同じ場所を歩いていた12月の人々が、今ではもう遠い8月や5月の人に見えてしまう。まちびとはすぐその考えを修正する。彼らはそのままだ。自分の方が7月の中にいるのではないか……。海賊船に乗って、12月のカレーが運ばれてくる。早いもので、もう12月がやってきたのだった。船長の投げた剣を受け取って、まちびとは12月の船長と1対1の勝負をする。
「壊れたものたちの仇!」
まちびとの怒りの剣が一振りで12月の船長の首を飛ばす。
12月の船長は負けを認めると自らの首を胸に抱えながら、ごゆっくりどうぞと挨拶する。まちびとはゆっくりと12月のカレーを味わう。この辛味、この刺激、このスパイシー、この痛みこそが、求めていたものだった。甘ったるく疲れ切った12月の体内に、求めていたもののすべてが流れ込んで、まちびとは12月の上もない満足感を覚える。
「ごちそうさま」
「お口直しにカブトムシをどうぞ」
えっ、何だって、
まちびとは今までの12月の自分を踏みにじられたような気分になる。同時にそれは12月のマニュアルに従った贈り物なのだから、断ることもできないと思う。何かを直すというなら、12月のカレーによって12月の甘さに手を加えたのは自分の方だった。それがあべこべになったまま、贈り物を受け取ることが、12月の大人だというのか。まちびとの抱えた問題は12月よりも大きく、厄介だった。
「ありがとう」
まちびとは12月の間中、12月のカレー屋さんに通い、12月のカレーを食べ続けた。12月の窓から見る人々との間に少しだけ月日の隔たりを感じる。彼らは忘れられた6月に留まっているのではないか。あるいは自分が見捨てられた10月にいるのかもしれない。海賊船に乗って12月のカレーが運ばれてくると正気に返る。早いもので、また12月がやってきたのだ。船長の投げた12月の剣を受け取る。
「壊れたものたちの仇!」
「ごゆっくりどうぞ」
まちびとは12月のカブトムシを持ち帰る。持ち帰っては愛情を注ぎ、持ち帰っては競い合わせ、いつしかまちびとの12月はカブトムシの王国へと変貌を遂げていくのだった。
「いらっしゃいませ。いつもありがとうございます。」
まちびとは12月の愛好者として、すっかり店の人にも一目置かれる存在となった。
「誰もが歌いたくなる12月に、寒さがいよいよ押し寄せてくる12月に、お客様はいつも文句も言わずにカレーを食べに来てくれます。カレーだけを食べるために足を運んでくれます。いつもいつもありがとうございます。本当は言いたいことの1つもあるでしょうに……」
まちびとの言いたいことはカレーの中にはなかった。海賊船についてもなかったし、船長の剣の腕前についてもなかったのだ。あるとすればそれはカブトムシについてあるのだろう。まちびとはもう十分にカブトムシを頂いたし、望みもしないのに何度も何度も繰り返し頂いたし、その好意の数だけそれを受け入れ、12月の王国を作り上げたのだけれど、その主であることに12月の疲れを覚えていたのだった。それをカブトムシに言っても始まらなかったし、船長に言ったところでなお仕方がなかった。悪気のない人たちに、何を言うことがあるだろうか、とまちびとは考えた。12月の窓から見る人々との間に少しだけ月日の隔たりを感じる。彼らは旅立ちの4月の中を歩いているのではないか。あるいは、自分が夜のこない7月の中に浮かんでいるのだろうか。海賊船に乗って12月のカレーが運ばれてくると正気に返る。早いもので、また12月がやってきたのだ。船長の投げた12月の剣を受け取る。
「おのれ! 破れたものたちの仇!」
「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
まちびとは12月のカブトムシを持ち帰る。
「生きるというのは壊れ行くことだな」
まちびとは壊れた12月の折り畳み傘をあきらめて、商店街に逃げ込む。同じようにして逃げ込んできた人々が、12月の商店街の中にはあふれていて、まちびとはその甘ったるい足並とクリスマスソングに嫌気がして、何かその穴埋めをするものを口の中に求め、12月のカレー屋さんに入って12月のカレーを注文する。12月の冷たい水を飲みながら、12月の窓を眺めていると、さっきまで同じ場所を歩いていた12月の人々が、今ではもう遠い8月や5月の人に見えてしまう。まちびとはすぐその考えを修正する。彼らはそのままだ。自分の方が7月の中にいるのではないか……。海賊船に乗って、12月のカレーが運ばれてくる。早いもので、もう12月がやってきたのだった。船長の投げた剣を受け取って、まちびとは12月の船長と1対1の勝負をする。
「壊れたものたちの仇!」
まちびとの怒りの剣が一振りで12月の船長の首を飛ばす。
12月の船長は負けを認めると自らの首を胸に抱えながら、ごゆっくりどうぞと挨拶する。まちびとはゆっくりと12月のカレーを味わう。この辛味、この刺激、このスパイシー、この痛みこそが、求めていたものだった。甘ったるく疲れ切った12月の体内に、求めていたもののすべてが流れ込んで、まちびとは12月の上もない満足感を覚える。
「ごちそうさま」
「お口直しにカブトムシをどうぞ」
えっ、何だって、
まちびとは今までの12月の自分を踏みにじられたような気分になる。同時にそれは12月のマニュアルに従った贈り物なのだから、断ることもできないと思う。何かを直すというなら、12月のカレーによって12月の甘さに手を加えたのは自分の方だった。それがあべこべになったまま、贈り物を受け取ることが、12月の大人だというのか。まちびとの抱えた問題は12月よりも大きく、厄介だった。
「ありがとう」
まちびとは12月の間中、12月のカレー屋さんに通い、12月のカレーを食べ続けた。12月の窓から見る人々との間に少しだけ月日の隔たりを感じる。彼らは忘れられた6月に留まっているのではないか。あるいは自分が見捨てられた10月にいるのかもしれない。海賊船に乗って12月のカレーが運ばれてくると正気に返る。早いもので、また12月がやってきたのだ。船長の投げた12月の剣を受け取る。
「壊れたものたちの仇!」
「ごゆっくりどうぞ」
まちびとは12月のカブトムシを持ち帰る。持ち帰っては愛情を注ぎ、持ち帰っては競い合わせ、いつしかまちびとの12月はカブトムシの王国へと変貌を遂げていくのだった。
「いらっしゃいませ。いつもありがとうございます。」
まちびとは12月の愛好者として、すっかり店の人にも一目置かれる存在となった。
「誰もが歌いたくなる12月に、寒さがいよいよ押し寄せてくる12月に、お客様はいつも文句も言わずにカレーを食べに来てくれます。カレーだけを食べるために足を運んでくれます。いつもいつもありがとうございます。本当は言いたいことの1つもあるでしょうに……」
まちびとの言いたいことはカレーの中にはなかった。海賊船についてもなかったし、船長の剣の腕前についてもなかったのだ。あるとすればそれはカブトムシについてあるのだろう。まちびとはもう十分にカブトムシを頂いたし、望みもしないのに何度も何度も繰り返し頂いたし、その好意の数だけそれを受け入れ、12月の王国を作り上げたのだけれど、その主であることに12月の疲れを覚えていたのだった。それをカブトムシに言っても始まらなかったし、船長に言ったところでなお仕方がなかった。悪気のない人たちに、何を言うことがあるだろうか、とまちびとは考えた。12月の窓から見る人々との間に少しだけ月日の隔たりを感じる。彼らは旅立ちの4月の中を歩いているのではないか。あるいは、自分が夜のこない7月の中に浮かんでいるのだろうか。海賊船に乗って12月のカレーが運ばれてくると正気に返る。早いもので、また12月がやってきたのだ。船長の投げた12月の剣を受け取る。
「おのれ! 破れたものたちの仇!」
「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
まちびとは12月のカブトムシを持ち帰る。
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