眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

オフサイドトラップ

2020-06-15 15:23:37 | オフサイドトラップ
「とりあえず、お金の方はなんとか用意できました。どうしましょう?」
「ありがとうございます。と言いたいところなんですが……」
「どうかされましたか?」
「実はその……」

「何か、問題でも?」
「少し弊社の方で、先走ったところがあったようでして、審判の旗が上がってしまいましてですね……」
「どこを走ったんですか?」
「ええ、何事も先走りすぎるのはよくないものですね」
「審判と言うと、いったい何の審判です?」
「それがその、詳しいことは申し上げられないんですが、何か大きな国家的な力が働いていまして」

「それは穏やかではありませんね」
「そうなんですよ。穏やかでないばかりか、ただ事でもない状況でして、お客様の方にも多大な迷惑をおかけしております」
「お客様?」
「ええ、ですから。今回は、お客様との契約も結ぶことができなくなってしまった次第です」

「私はお客様でしたっけ? 何か自分でもよくわからない立場で話をしていました。そうでしたか」
「誠にご迷惑をおかけして申し訳ございません。また次の機会がありましたら、ということで……」
「そうですか。あるんですかね?」
「何とも申し上げられません。その時まで夢を大切にしまっておいていただけるといいかと思います」
「そうですね。でも、もう醒めかけている気もします。何かもう、やっぱり駄目なんだという気がします」
「まあ、そう落ち込まないでください」

「いつもそうなんですよ。私はいつも、大事な日の前夜に決まって風邪を引いてしまうんです。決して体が弱いというわけでもないのに。タイミングの合わせ方が、悪い意味で絶妙なんですよね」
「誰だってそういうことがありますよ。そう深刻に受け止めないでください」
「そうですね。元々なかった話と思えば、何でもない」
「その通りです。気をしっかりとお持ちになってください。この世界は夢のおまけのようなものですよ」

「ははは、それはいい。背中に翼でも生えたみたいだ」
「では、これで失礼させていただきます。お忙しいところ誠に失礼いたしました」
「その通りだ。もう2度と電話してこないでください」
「失礼いたしました」
「ちっ」


(完)




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