眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

さよなら劇場

2022-12-25 01:57:00 | ナノノベル
「鉛筆ならいいのか?」

「駄目だ」

「マドラーなら?」

「観念しろ」

「火ついてるか?」

「現行犯だ。わかってるな」

 くわえ煙草の詩人が容赦なく拘束される。くわえた先の煙からどのような詩情があふれたのか。それが街の空気をどのようなものに変えるのか。何もわかっちゃいない。手錠をかけられ引きずられていく日常の光景。助けたい。だけど、仲間でもないので助ける理由がない。ちょっとした仕草で簡単に自由がなくなる。この街はどうかしている。
 少しだけずれているマッチング・アプリ。いつも半分は壊れていて、アップデートの度にエラーが出る。ミネストローネはいいものだ。しゃきしゃき玉葱と豚バラ肉のコンソメスープも素晴らしいだろう。だけど、求めるものとは少し違う。体内に留まる時間が、ほんの少し短いのだ。ポタージュスープだけが、冷え切った体を温めることができる。

「への字じゃないか!」

 コの字型を求めてようやく心地よい場所を見つけたと思ったのは、完全な思い違いだった。私はカウンターを叩きつけて店を飛び出した。心を洗いたい。取り戻したい。

「館内での撮影は一切お断りさせていただきます。なお、万一撮影行為が認められた場合、見つけ次第強制撤去とさせていただきます。以下、予めお断りしておきます。この映画には、暴力、肌の露出、喫煙、飲酒、殺人、ドラッグ、二重人格、遠距離恋愛、逮捕、脱獄、回想、記憶喪失、離婚、愛人の裏切り、左利き、生き別れ、囲碁将棋、替え玉対局、双子のトリック、タイムスリップ、夢オチ等の表現が含まれます。これらは……」

「楽しみを奪うのか!」

「後で厄介なことにならないように予め……」

「わかったことを言うな! 皆さんもそう思うでしょう?」

 私は壇上に上がって訴えた。

「嫌なら帰れ!」

「帰れ、帰れ!」

「どうして誰もわからないんだ!」

 私はビール瓶で劇場支配人を殴りつけた。彼は頭から血を流しながら、その場に崩れ落ちた。

「兄さん?」

「お前。本当に馬鹿だな……」

「兄さんかい?」

「動くな!」

 いつの間にか舞台には警官隊が上がり、私を取り囲んでいた。私は両手を大きく広げて無実を訴えた。違う。人違いなんだ。その瞬間、肩に銃弾を受けた。痛みはまだ襲ってこない。

「違う! 何も撮ってない!」


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