眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

夢まち

2010-01-08 15:26:13 | 猫の瞳で雨は踊る
パクちゃんが、昔話を読み聞かせてくるけど僕は眠らない。
似たような筋書きが、何度も何度も繰り返されるけど、僕はまともに聞いていない。
眠ると明日になるから、僕は眠らない。
眠らなければ、きっと明日は訪れない、と強く信じる。
強い心があれば、人は眠らなくても大丈夫なのだ。
パクちゃんは、とうとう同じページを繰り返して読み始めた。

猛スピードで僕は走っている。赤信号が目の前に迫る。
僕はブレーキを踏まなければならないが、足がどうしてか届かないのだ。
身を深くして沈めてみるが、ブレーキは僕の足のずっと先にあるのだ。助手席の母は、眠ったままで、僕は手に持つジュースを受け取って欲しいのに、それもままならない状況だった。ただスピードだけがアクセルを踏んでいるわけでもないのに、増して行く。止まれない。開いた窓から、それを投げ捨てることはできたが、僕にはできなかった。なぜなら、それは僕の手からどうしても離れようとはしなかったし、僕もそれを放したくはなかった。もしもそうするならば、それは母の手に対してのみだ。けれども、その母は、僕の隣でいつまでも死んだように眠っている。僕は、必死に母に呼びかけながら、同時に爪先を前方に伸ばして破滅へと続く狂った疾走を止めようとするが、いつまでも足はふらふらと宙を彷徨うばかりだった。方向が間違っているのだろうか。

難しい宿題を解いていると、答えは夢の時間に持ち越される。
けれども、夢での成果は誰も認めてはくれない。
それがわかっているから、僕はずっと眠らずに考えている。
眠らずに考え続ければ、暗いうちに僕はその答えを見つけるだろう。

分厚い塊をフライパンに載せて揺すった。火の通りの悪い塊、これは何の肉だろうか?
眠らない羊か、謎々を解く牛か、歌うクジラか、あるいは、魚かもしれない。油を足してみるけれど、まるで焼けない。
青いホースに火がついているのが、見える。一瞬うそかと思った。そして、炎は消えていた。けれども、瞬きした後、やはりそれはうそではなくて、火は赤々とついていたのだった。僕は、ふーっと吹いてみた。火は、一瞬消えた。けれども、瞬きした後で、火は赤々と、もっと大きくなった。
火は、もっと大きくなって、成長した。
「兄ちゃん!」
僕は、兄を呼んだ。自分の手に余るほど成長した問題は、兄がすべて解決してくれる。そう易々と。
「兄ちゃん!」
兄が、緩慢な態度をとるので僕はもう一度、更に強く呼んだ。

パクちゃん。
僕の夢を期待しているの?
夢の混ぜご飯で、食欲を満たそうとして。
パクちゃんは、難しい本を開く。

運転手は裏庭に降りて、父に名詞を差し出した。
最新のタクシーですと言った。
運転手は帰っていった。
「誰が利用するか」と父は言った。
けれども、運転手はまだ帰ってはいなかった。
庭で人の家の本棚を眺めていた。
それを僕は見ていた。

高級ホテルのエレベーターは透明で、そのうち横にも動き出した。
トロッコに揺られて、僕は降りたいところでも降りられず、ただチョコレートをもらいに来ただけだったのに、どんどん深いところに入っていき支配人室を通り過ぎて、もっと高級なところへ進んで、そこには感じのよくない芸能人みたいな人がいっぱいいたのだった。そこでトロッコエレベーターは、一時停車する。
「何かお困りですか?」
顔を見るとそれは、父だった。父は、家族に隠れてホテルの黒幕をやっていたのだ。

パクちゃん。
僕は、もうすぐ眠りそうだよ。
わかるんだ。
まだまだ眠れそうじゃないというのと同じ感覚でね。

子供たちが橋を渡りながら歌っていた。山賊の楽しい歌だった。
姉は、僕を抱えながら空を飛んだ。
猿の木が近くに見えた。
「姉ちゃん、危ない!」
「猿も、飛んでくるからね。
 距離を開けて飛ばないとね」
そうして警戒しているとやっぱり、猿は飛んできた。
僕は猿を抱き止めて、3人で空を飛んだ。
猿は、怯えている様子だった。僕の手の中でぶるぶると震えているのがわかった。
「こんなに高く飛んだことはないだろうからね」
姉は、町を越え、垣根を越え、山々を越えて高く飛んだ。
僕も、最初に一人で飛んだ時はそうだった。自分が高く飛べるのだとわかると、どんどんと高く飛ぶようになった。最初は自分の家の屋根やビルや学校の屋上の辺りを飛んでいたけれど、自分の町を一通り巡る頃になると自信も芽生え、飛ぶということの恐怖心はなくなっていた。そうなると自分の町だけでは満足できなくなり、少し羽を伸ばし更なる高みを目指して飛ぶようになった。町が絵に見えるほど高く飛び、隣の町から、隣の町へ、どこまでも気ままに飛んで、いつか僕は震えるほど遠くにきていたのだ。そこはもう九州地方だった。たくさんの煙突が見えて、もくもくと煙が湧き上がっていた。それが雲と区別がつなくなって、僕は自分がどうしようもなく遠くへきてしまったのだと知った。
雪が舞っていた。猿の体温を、手にしながら、僕らは飛んでいた。
「温泉の町へ行こう」
桜の味がする雪を食べた。

夢だったって?
じゃあ、あの猿も?
同じ、夢を見る?
「家族だからね」
燃える鍋の中で、ラーメンが髪のように踊っていた。
僕は、もうひと玉を追加してもらった。
「さっと入ってくるから」
風呂へと急いだ。婆ちゃんが、まだ起きていた。

僕らは儚い夢であるのかもしれない。
けれども、その儚さは他の儚さとつながり合って広がっていく儚さだ。
夢の中で夢は生まれ、消えてまた、生まれてくるのだから。
パクちゃんは、大きなあくびをした。

世界中を飛び回って集めたお菓子の山を、一つ一つ僕は楽しみにしながら崩していくつもり。あれもこれも欲しかった中から、中でも最も欲しかったものだけを、僕は手元に残して自分の城に持ち帰った。だから、これらはみな僕だけのもの。これだけは誰にも譲れないもの。一日でなくなってしまうかもしれないけれど、それはどうしても僕の唇を通らなければならないし、それだけがその儚さを受け入れる唯一の道なのだ。チョコレートの香りが、僕の脳を叩く。
はっとして、見ると僕の枕元には本を手にしたパクちゃんがいた。
けれども、あるはずのお菓子は一つもないのだった。
僕は、向こう側の世界に忘れ物をしてしまったよ、パクちゃん。
「それはなんだい?」
本を開いたまま、パクちゃんは訊いた。
「思い出せない」
色々……。


*


ようやく眠りについた猫から、マキはケータイを奪取して開き見た。
夢のようなとりとめもない、猫の散文にもようやく慣れてきたのだった。

「夢は、私はすぐ忘れてしまうの。
 でも、忘れ物に気づくくらいなら、忘れてしまった方がずっとしあわせね。
 ねえ、ノヴェルもそう思うでしょ?」

猫は、両手を広げてすやすやと地面を受け止めていた。
けれども、それは遥か彼方で風を受け止めている途中かもしれなかった。



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