眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ドラゴンの呼び方

2022-11-03 01:50:00 | 新・小説指導
 窓の向こうに少年はいた。
 大地につながれた自転車にまたがって、ひたすら体を動かしていた。音もなく車輪は空回りしている。誰かを待っているように少年は動かない。だんだんだんだん速くなる。やがて、目を閉じると少年は見知らぬ町にいる。鎖から解き放たれたように、少年の体は軽くなっている。興味深い噂を拾い集めて洞穴に向かう。松明一つの光を頼りに地下深いところまで下りていくとドラゴンが待っている。

「今度は誰だ?
 またこれがお望みか?」
ドラゴンは大事に宝箱を守っている
「誰の差し金だ?
 名もなき勇者?
 知らないね
 ということは私の敵ではない!」
少年はドラゴンの炎の中で世界の大きさを知る
「またおいでよ
 強くなってからくるといい
 助っ人も一緒につれておいで
 そのくらいがちょうどいいんだ
 私はここで待っているから」
(年も取らずにね)

 目を開けるとドラゴンはいなくなっている
 少年は自転車を降りた。
 剣と松明を置いてミルクを飲んだ。
 ドラゴンの炎をあびて大量の汗が流れ出た。
「くそーっ!
 子供扱いしやがって!」
 少年は復讐を誓う。
 車輪はまだ空回りを続けている。少年が降りたことをまだ知らないようだ。


仲間を見つけるにはもっと遠くへ行かなければ
魔法を身につけるにはもっと世界を知らなければ

ドラゴンはどこにいたの?
遙か遠くの異世界にいた
いいえドラゴンはここにいた

空回りする時の向こうに
思いを馳せたまぶたの先に
次元を開く扉はあった

ドラゴンはいつでもそこで待っている

物語を引き寄せることは
立ち止まったまま自転車を漕ぐこと
一心不乱になってどこまでも
どこまでも
どこにも行かずにどこまでも行くこと
(年も取らずに)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 終わらない詰将棋 | トップ | 眠れない夜/伝わらない君 »

コメントを投稿