眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

魂の叫び

2021-04-09 01:19:00 | 夢追い
 昨日見た時は青かったのに、今はそうでもない。何か違う。青かったり白かったり、浮いたり沈んだり、強かったり弱かったり、好きだったり嫌いだったり、熱かったり冷たかったり、きれいだったり淀んでいたり、いつも振り回されてばかりだった。50パーセント? いったいどういうことなのだろう。
 いつもよりも歩けすぎている。歩いている途中で異変に気づく。背中が妙に軽すぎる。荷物を忘れてきた! そればかりか耳が寂しい。どうして手にお茶を持っているのに、大事なものばかり忘れているのだろう。行きすぎた道を僕は引き返した。荷物になるので電柱の下に、お茶は置いて行くことにした。

耳にないアジカンのこと気づいたら今更引き返すのか我が道

 空も人も移ろいから逃れることはできない。誰だってつなぎ止めておくことは難しいのだ。人は上辺から心から作品も含めて変わって行く。昨日は捨てられたかもしれないが、今日には拾ってくれる人もいるのではないか。
 エレベーターは強制的に最上階に引っ張られてしまう。僕は30センチほど背伸びして威嚇していたが、乗ってきた人は僕よりも普通に30センチ高かったので驚いた。

「ここに住んでる人?」

 初対面の人は気安く話しかけてきた。勢いに押されるまま僕は正直に名前と部屋番号を教えてしまった。7階の部屋は改装中で窓もドアも開けっ放しのままだ。こんな時に限って個人情報を晒してしまったことを後悔した。せめて通帳だけでも鞄に入れて持って行こうか。1つ思いつくと大事なものは他にもある気がして憂鬱になる。

「崩してくれる?」
 会計が済んだあとで客は10円玉を差し出した。崩れるパターンは知れている。先輩は100円玉と50円玉を複数用意してトレイに並べようとしていた。
「いや10円でしょ」
「えっ、本当? どれ?」
 預かった元の硬貨は既に行方をくらませていた。
 僕は1円玉を並べて客に差し出した。

「こちらで」
「そうなのか?」

 客は硬貨の輝きが足りないと駄々をこねた。他にも色々とパターンがあるのに、決めつけられたと不満を露わにした。財布に収めないけれど、突き返しもしない。膨らんだ頬は水掛け論を待ち望んでいるようだ。非生産的な間に耐え切れず、僕は早く休むように持ちかけたかった。明日も早いでしょうに。

「油売ってないでよー!」

 夢の中での叫びは声にならない。
 口が乾き意思は唇に伝わらない。
 それでも僕は叫ぶことをあきらめない。
 魂より叫ぶことは体にいいのだ。

「……売ってないでよー!」

コメント
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