虫が飛んでいる。人を刺すような形ではなかったが、慌しい仕草で飛び回っている。一瞬、林さんの座るテーブルに下りて、すぐに飛び立つ。林さんは虫に好かれる人柄だった。私は持っていた大根おろし器の蓋を取って構えた。
「今度はここに」
林さんは虫を捕まえる名人だった。虫は導かれたように、また林さんのところに戻ってきた。
「今だ!」
次の瞬間、虫は大根おろし器の中にいて、すぐに蓋をした。一分の隙もない連携によって虫は捕獲された。
美しいタイガースの服を着た蝶だった。
「逃がしてあげる?」
タイガースファンの林さんを気遣って言った。そこはおろされた大根がいるべき場所で、美しい蝶にはふさわしくない場所だった。
窓を開ける前に、蝶は硝子をすり抜けて外に飛び出していた。とらえどころのない蝶だったのだ。部屋中から拍手が沸き起こった。私はなぜか、もう必要もないのに、窓を開けてもう一度空っぽの蝶を逃がし、今まさに逃がしたのだという気分を味わった。
パトロールの続きを終えて戻ってくるとテーブルがきれいに移動されていて、おかげで絨毯の上の汚れが目立って見えた。
誰が……。爆音の先を追うと青い作業服を着た男が、水玉模様の蛇の首を捕まえて掃除を強いていた。蛇はうねりを上げながら、種々の埃と残骸を吸い取って働いていた。どこかの業者さんに違いなく、私が声をかけることもないのだった。
また別の部屋に行くと、テーブルの一つが勝手に動かされ、その下に潜り込んで漫画を読む者の姿があった。
亀仙人を思わせるその形の正体は、漫画を好むヤドカリであった。
「今度はここに」
林さんは虫を捕まえる名人だった。虫は導かれたように、また林さんのところに戻ってきた。
「今だ!」
次の瞬間、虫は大根おろし器の中にいて、すぐに蓋をした。一分の隙もない連携によって虫は捕獲された。
美しいタイガースの服を着た蝶だった。
「逃がしてあげる?」
タイガースファンの林さんを気遣って言った。そこはおろされた大根がいるべき場所で、美しい蝶にはふさわしくない場所だった。
窓を開ける前に、蝶は硝子をすり抜けて外に飛び出していた。とらえどころのない蝶だったのだ。部屋中から拍手が沸き起こった。私はなぜか、もう必要もないのに、窓を開けてもう一度空っぽの蝶を逃がし、今まさに逃がしたのだという気分を味わった。
パトロールの続きを終えて戻ってくるとテーブルがきれいに移動されていて、おかげで絨毯の上の汚れが目立って見えた。
誰が……。爆音の先を追うと青い作業服を着た男が、水玉模様の蛇の首を捕まえて掃除を強いていた。蛇はうねりを上げながら、種々の埃と残骸を吸い取って働いていた。どこかの業者さんに違いなく、私が声をかけることもないのだった。
また別の部屋に行くと、テーブルの一つが勝手に動かされ、その下に潜り込んで漫画を読む者の姿があった。
亀仙人を思わせるその形の正体は、漫画を好むヤドカリであった。