火照った頭に代わる代わる袋を載せて冷やした。袋は熱を吸って次々と駄目になったが、袋は手を伸ばせば至る所に置いてあった。頭に載せると最初の内はとても冷たかった。けれども、その冷たさはとても短い間で、すぐに熱の力が上回った。熱のせいで思考力が弱まって、いつから熱が出ていたのかわからなかった。頭の上で冷気を失った袋を、窓から投げ捨てると、行き過ぎる馬に当たって馬が嘶いた。
「どれも一升に分けてある」
小袋はどれも一升に小分けされてあると料理長は言った。釜の中に米粒を流し込むと、僕は十歳の仇を思って、研いだ。この野郎、この野郎、おまえは何の恨みがあって、まとわりついてくるのか。前世からの因縁を引き継いでのことで、単にこちらがそれに気がついてないだけだというのか。この野郎、この野郎、他にやるべきことはないのか、世のために自分のために没頭する趣味の一つも見つけられないのか。米は透き通るほど透明になり、大切な旨みさえも剥げ落ち流されていった。
「この家は坂の上に立っている」
料理長はまな板の上に釜を置いた。
「今、この線にピッタリだけど」
一方の線を指して言った。
「こっちに回ってごらん」
料理長はそう言って坂の上から手招きした。
坂を上がっていくと、ワゴンの中にはパンが山積みになっていた。食パン、菓子パン、クロワッサンパン……。期限切れのパンが目立つ。13日のパンを見つけて、僕はそれを壁に向かって投げつけた。他にもまだ13日のパンがあったので排除した。12日のパンを見つけた時には、ゾッとした。
「ほとんどの物は見過ごされて消化されていくものだよ」
見学の男がフォローするように言った。いったい責任者は誰なのか。期限切れのクロワッサンを投げつけた壁には、赤い紙で管理人の名前が記されていた。それは、母だった。いつからパン屋を始めたのだろうか。家の中に入り、事情を訊くと腐らせたのは全部警察の人だと言った。
「腐った警察官からは、予め銃と手錠を奪っておいた」
町長は言った。そうして1人ずつ連れてきては捕まえたといい、まだ一度も警官に撃たれたことはないという。
「けれども、その時はギャラリーが多くてね」
少女はその時、扉の前に立って町長に騙されて連れてこられた警官の方をじっと見ていたのだった。手には鋏が握られており、その先端は涙のように輝いて空を突き刺していた。警官は、少女の存在に気がついて、近づいていった。
「それをどうするつもりだ?」
問い質しながら、少女の前に立った。
「鋏ってのはなあ、伸びた羊の毛を切る時に、新しく完成したテーマパークの前に何者かが張ったロープを切る時に、どこからでも切れますというのにどこからも切れなくて自分の力ではどうすることもできないとあきらめた時に、不自然に伸びた糸をシャツに見つけて何だか気になっているけれど指先ではどうすることもできなくていよいよ気になってどうしようもないという時に、一枚の何でもない紙をくるくる器用に動かしてありとあらゆる生き物をその手先によって作り出そうとする時に、時間をもてあました兔が半月を作ったり三日月を作ったりする時に、口車に乗せられた哀れな少女をおばあさんのお腹から救い出す時に使うものだ!」
「何か、まだ忘れてない?」
そう言って少女は微笑んだ。
坂の上に回り込んで料理長の横に並んで立った。
釜の中を見渡すと、向こうから見た時は一番上の線にピッタリだったのに、今度は向こう側の線の遥か上に水が達しているのが認められた。料理長が見せたかったのは、これだったのだ。ほら、向こうを見ると違うだろ。
「向こうの線は気にしなくていいからね」
「どれも一升に分けてある」
小袋はどれも一升に小分けされてあると料理長は言った。釜の中に米粒を流し込むと、僕は十歳の仇を思って、研いだ。この野郎、この野郎、おまえは何の恨みがあって、まとわりついてくるのか。前世からの因縁を引き継いでのことで、単にこちらがそれに気がついてないだけだというのか。この野郎、この野郎、他にやるべきことはないのか、世のために自分のために没頭する趣味の一つも見つけられないのか。米は透き通るほど透明になり、大切な旨みさえも剥げ落ち流されていった。
「この家は坂の上に立っている」
料理長はまな板の上に釜を置いた。
「今、この線にピッタリだけど」
一方の線を指して言った。
「こっちに回ってごらん」
料理長はそう言って坂の上から手招きした。
坂を上がっていくと、ワゴンの中にはパンが山積みになっていた。食パン、菓子パン、クロワッサンパン……。期限切れのパンが目立つ。13日のパンを見つけて、僕はそれを壁に向かって投げつけた。他にもまだ13日のパンがあったので排除した。12日のパンを見つけた時には、ゾッとした。
「ほとんどの物は見過ごされて消化されていくものだよ」
見学の男がフォローするように言った。いったい責任者は誰なのか。期限切れのクロワッサンを投げつけた壁には、赤い紙で管理人の名前が記されていた。それは、母だった。いつからパン屋を始めたのだろうか。家の中に入り、事情を訊くと腐らせたのは全部警察の人だと言った。
「腐った警察官からは、予め銃と手錠を奪っておいた」
町長は言った。そうして1人ずつ連れてきては捕まえたといい、まだ一度も警官に撃たれたことはないという。
「けれども、その時はギャラリーが多くてね」
少女はその時、扉の前に立って町長に騙されて連れてこられた警官の方をじっと見ていたのだった。手には鋏が握られており、その先端は涙のように輝いて空を突き刺していた。警官は、少女の存在に気がついて、近づいていった。
「それをどうするつもりだ?」
問い質しながら、少女の前に立った。
「鋏ってのはなあ、伸びた羊の毛を切る時に、新しく完成したテーマパークの前に何者かが張ったロープを切る時に、どこからでも切れますというのにどこからも切れなくて自分の力ではどうすることもできないとあきらめた時に、不自然に伸びた糸をシャツに見つけて何だか気になっているけれど指先ではどうすることもできなくていよいよ気になってどうしようもないという時に、一枚の何でもない紙をくるくる器用に動かしてありとあらゆる生き物をその手先によって作り出そうとする時に、時間をもてあました兔が半月を作ったり三日月を作ったりする時に、口車に乗せられた哀れな少女をおばあさんのお腹から救い出す時に使うものだ!」
「何か、まだ忘れてない?」
そう言って少女は微笑んだ。
坂の上に回り込んで料理長の横に並んで立った。
釜の中を見渡すと、向こうから見た時は一番上の線にピッタリだったのに、今度は向こう側の線の遥か上に水が達しているのが認められた。料理長が見せたかったのは、これだったのだ。ほら、向こうを見ると違うだろ。
「向こうの線は気にしなくていいからね」