ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ホソオチョウと外来種問題

2024-04-27 14:42:01 | チョウ/アゲハチョウ科

 ホソオチョウに関して、本ブログ(PartⅡ)にて単独で紹介したことがなかったことから、これまでに撮影した写真を再現像し掲載するとともに外来種問題について考えたい。

 ホソオチョウ Sericinus montela Gray, 1853 は 、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)ウスバアゲハ亜科(Subfamily Parnassiinae)タイスアゲハ族(Tribe Zerynthiini)ホソオチョウ属(Genus Sericinus)に属する1属1種を構成する小形のアゲハチョウの仲間だが、原産地は東アジア一帯で、ロシア沿海州、中国、朝鮮半島である。元来、日本にはいないチョウであるが、1978年の東京都日野市百草園で最初に確認された。その理由は、"人為的な放蝶" であり、韓国から持ち込まれたと言われている。
 食草は、日本の在来種ジャコウアゲハと同じウマノスズクサで、年に2~4回ほど発生し、春型と夏型がある。春型は、前翅長26~28mmほどでモンシロチョウより少し大きい。夏型は春型よりも大きく、後翅後端の長い尾状突起が特徴である。飛翔はゆるやかで、地表1mほどの高さを数回羽ばたいては、風を捉えて滑空するという飛び方である。晴れた午前中に活動し、曇りの日はほとんど飛ばない。
 ホソオチョウは、飛翔力が弱く、メスは食草ウマノスズクサの群落からあまり離れることがないにも関わらず、各地に分布を拡大したり、突然発生している背景には、ある発生地から別の場所への放蝶行為が意図的に繰り返されていることを指している。同じ人為的放蝶によって広がり、すっかり日本に定着してしまった中国大陸原産のアカボシゴマダラ Hestima assimilis assimilis(Linnaeus, 1758)とともに、本種は「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」に基づき生態系被害防止外来種リストに掲載されるとともに外来生物法で特定外来生物として指定され、その飼養、栽培、保管、運搬、輸入等について規制され、必要に応じて国や自治体が防除を行うことができるようになっている。

 ホソオチョウを撮影したのは、2011年に埼玉県所沢市堀の内にある比良の丘と2012年に岐阜県大野町の揖斐川河川敷である。比良の丘は、自然豊かな狭山丘陵の西端に位置し「ところざわ百選」にも選ばれている標高155mの小高い丘である。隣接した早稲田大学のフェンスには、食草であるウマノスズクサが多く絡まっており、その周辺でのみホソオチョウが見られ、ジャコウアゲハよりも圧倒的に多い。繁殖力はかなり高く、生息域はかなり局所的で、個体群密度は非常に高いという印象であった。
 写真を撮っていると捕虫網をもった男性がいて、話をしてみると、ホソオチョウを探しているという。ホソオチョウは本場韓国では希少価値が高く、標本用に採集したいとのこと。これが絶滅危惧種のギフチョウ等ならば遠慮して頂きたいが、この時ばかりは、片っ端から採ってくださいと採集に協力したことを覚えている。
 それから10年以上経過し、現在の発生状況を確認しようと、先日訪れてみたところ、まったく見当たらなかった。どうやら数年前に姿を消したようだ。発生地が局所的であるため、かつて発生していた多摩川沿いの日野市等のように、集中的な採集によって駆除されたものと考える。しかしながら、情報では昨年(2023年)埼玉県の嵐山付近で目撃されており、揖斐川では今も発生していると聞く。
 繁殖力の高さから食草のウマノスズクサを食べつくしてしまったり、草刈等でウマノスズクサが無くなると、飛翔力が弱さから自力での移動ができず、発生地の多くは数年で自然に消滅するとも言われているが、関東及び岐阜県~福岡県に至る地域で、現在も局地的に発生を続けているようである。このことは、人為的な放蝶行為が継続して行われているということを指している。
 ホソオチョウは、日本国内に生息するチョウにはない形態と色彩があり美しいが、どんなに綺麗でもホソオチョウは特定外来生物であり駆除の対象である。チョウに罪はなく、特定外来生物ごとにあらかじめ定められた「特定飼養等施設」内のみで飼養することはできるが、野外への人為的放蝶は、違法である。

 ホソオチョウは、生態系被害防止外来種リストに掲載されるとともに外来生物法で指定された「特定外来生物」である。特定外来生物とは、外来生物であって、生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、又は及ぼすおそれがあるものの中から指定された種のことである。外来生物は「海外由来の外来種」のことであり、外来種とは、もともとその地域にいなかったのに、人間の活動によって他の地域から入ってきた生物のことを指している。つまり、日本国内のある地域から、もともといなかった地域に持ち込まれた場合も「外来種」になる。このような外来種は「国内由来の外来種」と言われている。
 国内由来の外来種として問題になっている種の1つとして北海道沼田町のゲンジボタルが挙げられる。本来、北海道にはゲンジボタルは生息していないが、観光客誘致を目的に本州から人為的に移入したのである。野生生物が本来の移動能力を超えて、国外または国内の他地域から人為によって意図的・非意図的に導入された外来種についてまとめた北海道の外来種リスト-北海道ブルーリスト 2010-(現在、改訂作業中)に記載されており、生態系への影響が懸念されるC群に分類されている。
 ゲンジボタルは、北海道だけでなく全国各地で移動・移入が頻繁に行われてきた。現在、東日本一のゲンジボタル発生地とまで言われる長野県辰野の松尾峡ゲンジボタルも、他県から購入したゲンジボタルを何年間にも渡り放流し続け「日本最大の外来ホタル養殖地」とまで言われており、昔から生息していた地域固有のゲンジボタルは、絶滅に瀕しているという。地域固有の遺伝学的特徴が失われる「遺伝学的汚染・遺伝子攪乱」が生じ、地域固有の生態的・形態的な特性も失われている地域が多いのが現状である。
 野外の場合、今となっては、これらのホタルを駆除することは難しく、法的規制もない。せめて、近隣に地域固有のホタルがいるならば、それを守り影響を与えないようにすること、そして「ここのホタルは人為的に移入したホタルであり観光・集客目的で増やしている」と、或いはホタルが自生していない川やホテル、料亭の庭園、そしてハウスなどの場合は「どこどこで養殖されたホタルを購入して放している」と、事実ならば明確に公表するべきだろう。そのことで訪れる方が減少したならば仕方のないことであり、見に行かないと決めた方々は、環境や生物多様性保全に関心があり、正しい判断をされたと言えるだろう。

参考:環境省 日本の外来種対策北海道ブルーリスト 2010

以下の掲載写真は、1920×1080ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ホソオチョウ(春型オス)の写真
ホソオチョウ(春型オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 320(撮影地:埼玉県所沢市 2011.04.3 9:54)
ホソオチョウ(春型オス)の写真
ホソオチョウ(春型オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 320(撮影地:埼玉県所沢市 2011.04.3 10:11)
ホソオチョウ(春型オス)の写真
ホソオチョウ(春型オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 200(撮影地:岐阜県大野町 2012.04.28 8:18)
ホソオチョウ(夏型オス)の写真
ホソオチョウ(夏型オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/2500秒 ISO 1600(撮影地:埼玉県所沢市 2011.07.17 7:21)
ホソオチョウ(夏型オス)の写真
ホソオチョウ(夏型オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F14 1/640秒 ISO 1600(撮影地:埼玉県所沢市 2011.07.17 7:21)
ホソオチョウ(夏型オス)の写真
ホソオチョウ(夏型オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/4000秒 ISO 1600(撮影地:埼玉県所沢市 2011.07.17 7:48)
ホソオチョウ(夏型メス)の写真
ホソオチョウ(夏型メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/2000秒 ISO 1600(撮影地:埼玉県所沢市 2011.07.17 7:34)
ホソオチョウ(夏型メス)の写真
ホソオチョウ(夏型メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/2500秒 ISO 1600(撮影地:埼玉県所沢市 2011.07.17 7:36)
ホソオチョウ(夏型メス)の写真
ホソオチョウ(夏型メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/2000秒 ISO 1600(撮影地:埼玉県所沢市 2011.07.17 7:37)
ホソオチョウ(夏型オスの飛翔)の写真
ホソオチョウ(夏型オスの飛翔)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/4000秒 ISO 1600(撮影地:埼玉県所沢市 2011.07.17 7:25)
ホソオチョウ(夏型オスの飛翔)の写真
ホソオチョウ(夏型オスの飛翔)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/3200秒 ISO 1600(撮影地:埼玉県所沢市 2011.07.17 7:26)
ホソオチョウ(幼虫)の写真
ホソオチョウ(幼虫)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/200秒 ISO 200(撮影地:埼玉県所沢市 2010.10.10 12:01)
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アゲハから教わる

2024-04-23 14:13:56 | チョウ/アゲハチョウ科

 アゲハ Papilio xuthus(Linnaeus, 1767)は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)アゲハチョウ亜科(Subfamily Papilioninae)アゲハチョウ族(Tribe Papilionini)アゲハチョウ属(Genus Papilio)アゲハチョウ群(xuthus group)のお馴染みのチョウである。アゲハチョウとも呼ばれるが、この呼び名は他のアゲハチョウ亜科のチョウとの混称や総称として使われることも多く、図鑑等では「アゲハ」あるいは「ナミアゲハ」としていることから、本ブログでは「アゲハ」と表記した。
 アゲハは、北海道から沖縄まで広く平地に生息しており、地域にもよるが3~10月くらいまで飛んでおり、都会の真ん中でも見ることができる最もポピュラーな存在である。幼虫の食草は、ミカン、カラタチ、サンショウなどのミカン科植物の葉で、緑の少ない住宅地でもミカンの鉢植えさえあれば生息できる。
 本ブログ3月28日の記事「ヤマトシジミ」は、「食草のカタバミさえあれば、どこでも繁殖できる普通種で、日本で一番生息数が多いチョウ」と紹介したが、アゲハは、歌手ポルノグラフィティの「アゲハ蝶」にも「ヒラリヒラリと舞い遊ぶように姿見せたアゲハ蝶」と歌われているように、見たことはなくても「アゲハ」という名前を知らない人は、いないのではないだろうか。
 私は、昆虫少年だった頃、部屋の机の上にはビンに刺さったミカンの枝があり、アゲハの幼虫を育てていた。簡単に成虫まで育てられるので、飼育観察の対象としては格好のチョウだ。終齢まで育つと枝では蛹にならずに、部屋のあちこちに移動して蛹になりため、よく母親に驚かれたものである。アゲハから教わったことは多い。現在でも、我が家のベランダにあるミカンの鉢植えではアゲハが育ち、飛び立っていくのが楽しみになっている。

 さて、この4月は、ホタルに関しては多くの新たな知見を得て、その生態の不思議さに探究心を掻き立てられているが、自然風景と昆虫の撮影は予定通りに運んでいない。天候やタイミング、気合不足が原因で、桜は、一カ所だけで終了。天の川もダメ。絶滅危惧種のチョウには出会えず、トンボも撮れず仕舞い。何も撮らずに心折れながら帰ることは良くあることで、諦めるしかない。
 先日は、そのような状況の中、目の前に数頭のキムネクマバチが飛び交っていたので、気分転換と悔し紛れのやけのやん八で連写していると、羽化から間もないであろう春型のアゲハが現れた。私は、無意識にカメラを向けていた。
 昆虫の写真を撮り始めて46年経ったが、実は、アゲハの写真は、過去にたった1枚しか撮っていなかった。飼育観察をしたりしてあまりにも身近な存在だからなのか、子供の頃から憧れの種やシーンではないからなのか、アゲハはいつも被写体からは外れていた。昨今は、出会いすら難しい種や遠くまで遠征しなければ生息していない種を収めること、あるいは産卵などの生態写真の撮影に重点を置いているために、計画通りに進まないことが多いが、今回のアゲハとの出会いは、楽しく昆虫写真を撮っていた昔を、そしてなぜ写真を撮っているのかを思い出したひと時であった。
「初心忘れるべからず」自然と生き物たちへ感謝と敬意をもって接することは勿論、今、ベランダのミカンの鉢植えで育つアゲハを、写真として記録し残してあげることも、私にとって大切なことだと感じている。ちなみに、数十枚写したキムネクマバチの飛翔写真は、すべてピンボケであった。

以下の掲載写真は、1920×1080ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

アゲハの写真
アゲハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/640秒 ISO 100 +2/3EV(撮影地:千葉県いすみ市 2024.04.19 10:30)
アゲハの写真
アゲハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/640秒 ISO 100 +2/3EV(撮影地:千葉県いすみ市 2024.04.19 10:30)
アゲハの写真
アゲハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/640秒 ISO 100 +2/3EV(撮影地:千葉県いすみ市 2024.04.19 10:30)
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赤上がりのギフチョウとヒメギフチョウ

2024-04-08 22:01:33 | チョウ/アゲハチョウ科

 日本各地で、ギフチョウとヒメギフチョウが舞う季節になってきた。今回は、個体変異での1つである赤上がりのギフチョウとヒメギフチョウを紹介したい。

 ギフチョウとヒメギフチョウが属するギフチョウ属は、強い飛翔力がなく他の生息地との行き来がないため、小さな地域個体群ごとに翅形や翅のサイズ、前後翅の黄色条または黒色条の幅、後翅肛角部の赤斑、斑紋の細部形状などに違いがある地理的変異が知られているが、同一地域個体群の中でも常染色体劣性遺伝により引き継がれている形質もある。赤上がりもその1つである。
 「赤上がり」 とは後翅表面の遠位内側にある大きな赤紋以外に小さな赤紋が黒帯の内側に沿って現れる個体変異で、蝶の愛好家の中で言われている愛称である。どこの地域の発生地でも生じる一般的な変異だが、群馬県や長野県などの一部では、色が薄く小さな赤紋がある個体は他地域に比べ圧倒的に多く、赤紋が発達した非常に美しい赤上がりの個体も少なからず見られる。

 ギフチョウ属のこうした地理的変異や個体変異を研究することは有意義であり、分類や系統、遺伝子等を調べるためには、採集して標本にすることも必要になる。条例で採集を禁止している地域においては、地方環境事務所や都道府県等に許可申請を行った上で認められれば採ることができよう。違反をすれば、2年以下の懲役若しくは禁錮、100万円以下の罰金などの刑罰又は5万円以下の過料を科せられる場合もある。ではなぜ、条例で採集を禁止しているのかと言えば、ギフチョウ属は絶滅危惧種だからである。
 ギフチョウは、環境省のレッドリスト2020年版で絶滅危惧Ⅱ類として記載しており、25の都府県版レッドリストでは、絶滅危惧Ⅰ類や絶滅危惧Ⅱ類、準絶滅危惧種として記載している。ヒメギフチョウ(本州亜種)においては、環境省のレッドリスト2020年版で準絶滅危惧種として記載されており、11の県で絶滅危惧Ⅰ類や絶滅危惧Ⅱ類、準絶滅危惧種として記載し、両種ともに日本各地で危機的状況にある。絶滅が危惧される理由としては、シカによる食害と生息環境の悪化が大きな原因となっているが、採集も要因となっている。具体的な対策を行わなければ確実に絶滅する地区が少なくない。となれば、採集を禁止するのは当然である。ただし、レッドリストは法的な拘束力はなく、絶滅危惧種として選定している地域でも自治体の条例がなければ、採集しても罰せられることはない。
 ちなみに、ギフチョウ属と同じように採集が多くされていたゴマシジミ関東・中部亜種は、平成28年3月に「国内希少野生動植物種」に指定され、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)の施行の元、採集の禁止、生息地の保護、保護増殖事業の実施など保全のために必要な措置が講じられている。
 採集は、全てが研究のために行われているわけではない。と言うより、ほとんどは単に個人が楽しむ観賞目的のコレクションのためである。作成した標本は売買もされている。美しく変異も多いギフチョウ属は、日本で1番多く採集されているのではないかと思う。日本で1番多く生息している普通種のヤマトシジミも先の記事に掲載したように美しい。季節変異がみられ、更に個体変異もあるが、興味を持つ採集者は多くない。その理由として、人間の本能をかき立てる心理法則「希少性の原理」が挙げられる。希少性の原理とは、数量や時間など限定的なものに高い価値を感じ、欲しくなってしまうという心理的な現象のことだ。ギフチョウ属の採集に希少性の原理が働く理由には、以下の3つが当てはまる。

  • 美しく変異も多いという外見の魅力が高ければ高いほど「質の希少性」が高まり欲しくなる
  • 絶滅危惧種という数が限定されていると「数の希少性」が高まり欲しくなる
  • 春先にしかいないという時間の制限で「時間の希少性」が高まり欲しくなる

 特に目立つこともなく、春から秋までどこにでも生息しているヤマトシジミに対して「希少性の原理」は作用しないのだ。一方、ギフチョウ属は、特別感が強く、禁止されたり制限されたりしていることで、更に物欲が掻き立てられる。ギフチョウ属に限らず、希少価値の高い絶滅が危惧されるチョウやトンボなどを採集する者は、採れるだけ採る。生息地で網を振る者ほとんどがそうだ。いわゆる乱獲である。乱獲は、過剰に採集することで再生産速度を超えてしまい、個体数を維持することが難しくなり、次世代の個体数が徐々に減っていき、やがては絶滅に追い込んでしまう。
 「採集だけで絶滅はしない」だとか「大量に採集しても、全体の発生数からすれば微々たるもの」などと単に憶測だけで言うのは無責任である。採集するならば、まず、地域全体の生息数を調査し、個体群動態解析及び存続可能性分析を行った上で最小存続可能個体数を把握し、持続的に採集可能な採集数(maximum sustainable yield)を把握する必要がある。環境保全活動をするのも当然の責任であり義務であろう。そして、全国から押し寄せる採集者全員が採集した総数がMSYを超えないように管理する必要がある。果たして、こんなことを考え実行している採集者がいるだろうか?

 私も今から50年前の子供の頃は、昆虫採集に興じたものである。渋谷の志賀昆虫普及社で大きな捕虫網を買い、野山を駆けずり回っていた。キタキチョウの個体変異を桐の標本箱に並べたものは、今でも保管している。中学生の時には「採るから撮る」に変え、オリンパスOM-2にズイコーマクロ50mmを付けて、同じように野山で昆虫を追いかけていた。この4月10日で還暦だが、そのスタイルは変わっていない。写した写真の多くは、自身の単なるコレクションに過ぎないが、ホタルに関しては、「風景写真」であり「図鑑写真」であり「生態写真」である。「標本は唯一の物的証拠。その地でその日にその動物が生存していたという大切な貴重な資料」だと豪語するならば、「写真は、その生物の生き方の瞬間瞬間の貴重な記録であり具体的な証拠物資料」である。そしてその証拠物資料は、保護・保全のために大いに役に立つのである。「写真は単なる自己満」とは言わせない。
 当ブログにおいて採集に批判的なことを書けば、採集者の方から反論のコメントを多く頂く。議論は歓迎するが、昆虫分類学を盾に御託を並べたり、批判に対して過剰反応するならば、責任と義務を果たしてからにしてほしい。

以下の掲載写真は、すべて 300*200 Pixelsで表示されていますが、各々の写真をクリックしますと別窓で 1920*1280 Pixels で拡大表示されます。

1.ギフチョウのノーマルタイプと赤上がり

ギフチョウの写真   ギフチョウ(赤上がり)の写真   ギフチョウ(イエローバンドの赤上がり)の写真

写真1.ギフチョウのノーマルタイプ / Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250(撮影地:長野県 2018.04.29 9:26)
写真2.ギフチョウの赤上がりタイプ / Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250(撮影地:長野県 2018.04.29 11:30)
写真3.ギフチョウのイエローバンドの赤上がりタイプ / Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県 2018.05.05 11:03)

2.ヒメギフチョウのノーマルタイプと赤上がり

ヒメギフチョウの写真   ヒメギフチョウ(赤上がり)の写真   ヒメギフチョウ(赤上がり)の写真

写真4.ヒメギフチョウのノーマルタイプ / Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250 -1/3EV(撮影地:長野県 2014.05.03 12:04)
写真5.ヒメギフチョウの赤上がりタイプ / Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/640秒 ISO 200(撮影地:長野県 2017.05.04 9:16)
写真6.ヒメギフチョウの赤上がりタイプ / Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県 2017.05.14 11:56)

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ギフチョウ(イエローバンド)

2023-05-05 17:13:53 | チョウ/アゲハチョウ科

 ギフチョウのイエローバンドは、過去に何度か撮影して投稿記事「ギフチョウのイエローバンド」等に掲載しているが、今年も撮影に臨んできた。

 ギフチョウ Luehdorfia japonica Leech, 1889 は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)ウスバアゲハ亜科(Subfamily Parnassiinae)ギフチョウ属(Genus Luehdorfia)に分類されるチョウで、日本の固有種である。本州のみに分布し、秋田県南部の鳥海山北麓から山口県中部にいたる24の府県で見られる。本種は、明治16年(1883年)に初代名和昆虫研究所所長の名和靖氏が学会に紹介し、岐阜県の下呂市金山町祖師野で初めて採集されため、ギフチョウと名付けられた。昔は「ダンダラチョウ」とも呼ばれていた。
 ギフチョウは、春には林床に光が射し、幼虫の食草類や成虫の吸蜜植物であるカタクリやスミレが咲く明るい雑木林に生息し、成虫は年に1度だけ、春に発生するスプリング・エフェメラル(Spring ephemeral)で「春の妖精」とも呼ばれる。幼虫の食草は、ウマノスズクサ科カンアオイ属のミヤコアオイやヒメカンアオイや、フタバアオイ属、サイシン属であるが、各地域によって選択性に違いがみられる。幼虫は夏には成熟して地表に降り、落ち葉の裏で蛹となる。蛹の期間が約10ヶ月と非常に長いのが特徴である。
 カンアオイ類は里山に生育し、生育速度も遅く、近年の里山の開発や放置により激減しつつある。そのためギフチョウの絶滅も懸念され環境省版レッドリストでは、絶滅危惧Ⅱ類にランクされており、都道府県版レッドリストでは、現在生息している24の府県で絶滅危惧Ⅰ類から準絶滅危惧種となっている。(尚、東京都と和歌山県は絶滅)そのため、地方自治体によっては、「希少野生動植物保護条例」の「指定希少野生動植物種」に指定し、捕獲,採取,殺傷または損傷および譲渡などの各行為を禁止しており、違法行為が行われた場合には、罰則が科せられる。

 さて、ギフチョウは、強い飛翔力がなく他の生息地との行き来がないため、小さな地域個体群ごとに翅形や翅のサイズ、前後翅の黄色条または黒色条の幅、後翅肛角部の赤斑、斑紋の細部形状などに違いがある地理的変異が知られているが、同一地域個体群の中でも常染色体劣性遺伝により引き継がれている形質もある。その1つがイエローバンドである。(「イエローリング」などの呼称・記述もある。)
 イエローバンドは、前翅と後翅の外縁部及び尾状突起部が全て黄色の毛で縁取られるのが特徴で、通常型の黄色と黒色で交互に縁取られるものと比較すると、美しさが際立っている。この変異は、長野県のごく一部で見ることができ、2014年から生息地に通い続け、2018年にようやく撮ることが叶った。その後も毎年訪れたが、1頭ずつ証拠程度の写真しか撮れていなかった。
 本年の目標は、交尾や産卵などの生態写真は運に任せ、まずは図鑑写真をもう数枚追加すること。私にとって図鑑的写真とは、その種の特徴が良く分かること。そしてその種の一番美しい姿・色彩を一番美しい時期に美しく残すことである。

 今年は、桜の開花もそうだが、昆虫の発生も例年と比べて極めて早い。ギフチョウも早いに違いない。そこで5月3日を遠征日に決めていた。
 今年のゴールデンウイークは、人によっては9連休だが、私は、仕事の関係で3日から久しぶりの3連休。運よく天候は晴れで気温も高い。きっと発生しているに違いない。2日の仕事は18時半に終了。一旦帰宅し、22時に自宅を出発。中央道は小仏トンネルを先頭に8kmの渋滞。その先の渋滞はなかったが、車両が多い。大型トラックは少なく、乗用車ばかりである。このGWも休日割引の適用がないため、深夜割引を利用するためなのだろう。
 現地には3日午前2時過ぎに到着。気温は2℃である。月が沈む3時過ぎから夏の天の川を撮るつもりではいたが、薄雲がかかっていたので仕方なく車内で仮眠。6時に目が覚め、7時過ぎから活動開始である。
 昨年の経験から、待ち伏せよりもある程度の範囲を歩き回った方が出会いの確率が高いと思われたが、今回も、待ち伏せすることにした。ただし、前回とは違う蝶道のヒルトップである。朝の気温は0℃であったが、風がなく太陽が昇るにつれて気温は上昇。8時半に1頭のギフチョウが飛んできた。少し飛んでは下草に止まる。慎重に近づいて撮ってみるとイエローバンドであった。
 その後も、何頭もの個体が飛んできた。そして私が着ている青いシャツにまとわりつく。ギフチョウの習性を学んだことと、天候の良さも相まって、3時間でのべ10頭ほどが飛んできて、6頭を写真に撮ることができた。そのうちイエローバンドは4頭であり、ノーマルタイプも含めて、すべてオスの個体であった。オスは、体背面に長毛が密生している。メスは毛生が少なく、前胸背に赤褐色毛を生じるので、雌雄の区別は容易である。
 以下の写真には、イエローバンドとノーマルタイプの比較写真と2018年に撮影したメスのイエローバンドの写真も掲載したので、参考にして頂きたい。
 雲が広がり始めて陽が陰ってきた11時半に撤収。中央道上りは、ほとんど渋滞がなく、16時に帰宅した。

関連記事(生態写真)

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ギフチョウ(イエローバンド)の写真
ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県 2023.5.03 8:40)
ギフチョウ(イエローバンドとノーマルタイプ)の写真
ギフチョウ(左:イエローバンド 右:ノーマルタイプ)
ギフチョウ(イエローバンド)の写真
ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 640(撮影地:長野県 2023.5.03 9:49)
ギフチョウ(イエローバンド)の写真
ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400(撮影地:長野県 2023.5.03 10:02)
ギフチョウ(イエローバンド)の写真
ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400(撮影地:長野県 2023.5.03 10:06)
ギフチョウ(イエローバンド)の写真
ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400(撮影地:長野県 2023.5.03 10:11)
ギフチョウ(イエローバンド)の写真
スミレで吸蜜するギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400(撮影地:長野県 2023.5.03 11:13)
ギフチョウ(イエローバンド)の写真
ギフチョウ(イエローバンド)のメス
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400(撮影地:長野県 2018.5.5 11:04)
ギフチョウの写真
ギフチョウ(ノーマルタイプ)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400(撮影地:長野県 2023.5.03 10:46)
ギフチョウの写真
ギフチョウ(ノーマルタイプ)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400(撮影地:長野県 2023.5.03 10:46)
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ギフチョウ(イエローテール)

2023-04-17 19:56:43 | チョウ/アゲハチョウ科

 ギフチョウのイエローテールという異常形質に近い個体を掲載したい。この形質は後翅肛角紋の赤色が淡黄色になる個体で、後翅外縁の黄紋列と同一色を呈する形質群で、やはり劣性遺伝をすることが知られている。撮影した個体は、写真最後のノーマルタイプと比較すると後翅肛角紋の赤色がかなり薄く後翅外縁は黄色になっている。形質が受け継がれる途中段階と言えるかもしれない。
 写真の個体は、2013年に新潟県内で撮影したもので、北海道の南部から本州の中部地方の日本海側に分布するオオイワカガミで吸蜜する様子は、カタクリとの組み合わせとは違って地域的な特徴となっており、当ブログで 未掲載でもあったことから紹介することにした。

 ところで、今年は桜の開花が全国的にとても早い。2週間から場所によっては3週間も早い開花である。桜の撮影を色々と計画していたが、天候とのタイミングを見計らっているうちに、 どこの桜も満開を過ぎ、結局まったく撮らずに終わってしまった。
 またこの時期は、ゲンジボタルの幼虫が発光しながら上陸する様子を観察できるのだが、条件が合致した日は夜まで仕事で断念。計画では、西日本まで遠征し、数百という幼虫が一斉に集団で上陸する様子を収めようと 思っていたのであるが、来年に持ち越しとなってしまった。
 とにかく季節の進み具合が早いので、今後予定している計画をすべて見直さなければ、昆虫だけでなく風景もまったく写真に残せないで終わってしまいそうである。ギフチョウのイエローバンドを今年も撮りたいと思っているが、計画を前倒しにしないといけないだろう。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ギフチョウ(イエローテール)の写真
ギフチョウ(イエローテール)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 500(撮影地:新潟県 2013.5.18 9:43)
ギフチョウ(イエローテール)の写真
ギフチョウ(イエローテール)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 640(撮影地:新潟県 2013.5.18 10:45)
ギフチョウ(イエローテール)の写真
ギフチョウ(イエローテール)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 640(撮影地:新潟県 2013.5.18 10:47)
ギフチョウの写真
ギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 250(撮影地:長野県 2018.4.29 11:30)
ギフチョウ(イエローバンド)の写真
ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県 2018.5.05 11:03)
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GW長野遠征

2022-05-06 14:56:29 | チョウ/アゲハチョウ科

 ゴールデンウイークの後半は、毎年恒例となっているギフチョウのイエローバンドと呼ばれている変異型の探索に出掛けた。イエローバンドは、長野県のごく一部で見られる常染色体劣性遺伝により引き継がれている地理的変異で、通常の個体に比べ翅の縁毛が全て黄色になり、翅の外縁部が黄色の毛で縁取られる個体(型)である。
 私は5月4日から6日までが三連休。天気も良く気温も高い。ギフチョウの探索は5日の午前中と決め、その前後は夏の天の川撮影とした。4日19時に自宅を出発。中央道の上りは当然のことながら渋滞していたが、下りはまったく渋滞はなし。まずは乗鞍高原である。現地には22時半頃に到着し、23時過ぎから夏の天の川を撮影。翌5日の午前2時に乗鞍高原を出発し、ギフチョウの生息地へ向かい、午前3時に到着。7時まで仮眠し探索開始。
 林の中を飛ぶギフチョウを追いかける。なかなか止まってくれない。見失う。また追いかける。見失う。その繰り返しで、やっと止まってくれたと思ったら裏側。とりあえず1枚撮影。表側を撮るために回り込もうとしたら飛ばれてしまい見失う。結局、撮影できたのはたったの1カット(掲載1枚目)。ただし、目的のイエローバンドであった。以下には、2018年に撮影したイエローバン2枚も掲載した。
 ギフチョウの生息地を正午に出発。次は、渋峠である。日本国道最高地点から夏の天の川を撮影し、現地を6日午前1時に出発。草津・軽井沢経由で上信越道の碓井軽井沢ICから乗り、自宅には午前4時半に到着した。ゴールデンウイークの長野遠征は、まったくの渋滞知らずで終了。乗鞍高原と渋峠から撮影した天の川は、順を追って掲載したいと思う。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 800 +2/3EV(撮影地:長野県 2022.5.5 10:50)

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県 2018.5.5 11:03)

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:長野県 2018.5.5 11:04)

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ギフチョウの発生日予測

2020-04-12 14:02:44 | チョウ/アゲハチョウ科

 ギフチョウの発生日予測をするために、気象と発生に関する考察を行ってみた。その結果、有効積算温度の法則は成立しないという結果が得られた。

 ギフチョウは、すでに各地で発生が始まっており、関東でも今年2020年は3月18日頃に神奈川県の生息地で発生の報告がある。温暖化と暖冬の影響なのか今年は全国的に2週間前後早いようであるが、私が撮影したいギフチョウは、「イエローバンド」という長野県のごく一部で見られる常染色体劣性遺伝により引き継がれている地理的変異で、通常の個体に比べ翅の縁毛が全て黄色になり、翅の外縁部が黄色の毛で縁取られる個体(型)である。例年の発生は5月上旬頃で、昨年と一昨年に撮影はしているが、今年も撮影の対象としている。そこで、今年の発生日を予測するために、まずは机上論ではあるが気象と発生に関する考察を行ってみた。

 チョウの発生、すなわち蛹からの羽化には有効積算温度が関係しており、例えばモンシロチョウでは成長零点が8.5℃、有効積算温度が150日度以上になると羽化すると 言われている。有効積算温度は前蛹期間を含め蛹の中で成虫形成を行うのに必要な温度であり、温度が高ければ成虫形成の時間が短くなり、羽化も早くなる。
 では、ギフチョウはどうであろうか?まずは、積算温度の起点が分からない。なぜならギフチョウの蛹期は、6月~翌年春までという長期にわたることと、冬の期間における積雪の有無という違いもある。便宜上、ある時期、例えば2月1日を起点として各地の発生地の温度(平均気温)を単純に足していった場合、羽化までの日数と温度は比例してはいるものの、地域によって数値はバラバラで、100日度も開きがある場合もある。分析対象のデータが直線にうまく当てはまらず回帰分析ができないことから、発育段階を完了するまでに要する時間は環境の温度に反比例(発育速度は温度に比例)するという有効積算温度の法則は成立しないと言える。
 ここで重要な研究結果がある。天竜村ギフチョウ研究会の「非破壊計測によるギフチョウ蛹期の野外における成虫形成の解明」によれば、ギフチョウの蛹は、6月の蛹化直後に体が液状化し、急激に成虫形成を開始し、夏の休眠期に入る。秋に再び成虫形成を開始し、冬の休眠前に成虫形成を完成させ、冬の休眠期に入る。というのである。つまり、春になった時には、いつでも羽化できる状態にあるのである。

 ギフチョウの蛹は日陰の地表面にある落葉の裏側にあり、温度変化が少なく安定した環境下にある。特にイエローバンドの生息地域では、冬季にはかなりの積雪があるため、冬の間は一定の低温度であるが、雪解けとともに蛹は外気温の影響を受けることになるから、雪解け後の温度変化が羽化に関係していると考えるのが妥当ではないだろうか。以下に、イエローバンドの生息地域における雪解け後から発生日までの最高気温と最低気温、降水量をグラフにしてみた。また比較のために同じ県内で積雪のあるギフチョウ(ノーマルタイプ)の生息地、そしてまったく積雪のない低山地のギフチョウ(ノーマルタイプ)生息地もグラフで表した。

グラフの画像

グラフ1.イエローバンドの生息地における雪解け後から最高気温と最低気温、降水量(気象データから作成)

グラフの画像

グラフ2.ギフチョウの生息地における雪解け後から最高気温と最低気温、降水量(気象データから作成)

グラフの画像

グラフ3.低山地のギフチョウの生息地における最高気温と最低気温、降水量(気象データから作成)

 イエローバンドの生息地における観察では、2018年は一斉に羽化したようで個体数が非常に多かった。一方2019年は、時期は例年並で羽化が始まったが、その後もダラダラ発生するという状況であった。発生後もギフチョウ日和ではない低温の日は、羽化後時間が経過した個体が活動し、新鮮個体は活動しないことから全体的に個体数が少ない印象であった。
 別の地域で積雪のある生息地や積雪がない低山地の生息地のグラフを見てみても、発生(羽化)には1つの共通する条件を見出すことができる。ギフチョウは、毎年標本のための乱獲が行われていることから、環境保全とギフチョウの保護のために分析結果の詳細の記載は避けるが、これがギフチョウ発生の1つの目安になるのではないかと思う。(言うまでもないが分析地点や年数が少なく、あくまで机上論に過ぎない。)
 生息地での観察結果から、当地におけるギフチョウの活動時間、飛翔範囲、そして蝶道などの特性が判明しているので、分析結果をもとに本年は発生初期段階に訪れ、より美しいイエローバンドの個体を写真に収めたいと思う。参考までに、以下には2018年に撮影したギフチョウのイエローバンドの写真を掲載した。これは、赤あがりの特徴も少し出ている美麗な個体である。

参考文献

  • 朝比奈英三 (1991) 虫たちの越冬戦略. 北海道大学図書刊行会
  • 石井実 (1988) ギフチョウの蛹休眠, 蝶類学の最近の進歩 Spec.Bull.Lep.Soc.Jap. (6) 385-409.
  • 天竜村ギフチョウ研究会/非破壊計測によるギフチョウ蛹期の野外における成虫形成の解明

 新型コロナウイルスに関することであるが、会社から連絡があり、私は5/6までいつでも出勤できる体制で自宅待機となった。一昨年から昨年初めにかけて約2か月間、 癌の手術のために休業したが、元気なのに自宅に引きこもるのは辛い。外出と言えば、朝夕一回ずつ犬の散歩で近所一周とcvsへ昼食を買いに行く時だけである。出勤して渋谷・新宿エリアで業務をこなすのは不安だが、ニュースで映像を見ると普段の2割しかいないように思う。しかし逆に、私の自宅のような都心ではない住宅街では多くの人たちが出歩いている。家族連れで公園、買い物、食事・・・ひどいものだ。危機感のなさに愕然とする。もう「勝手だろう」では済まない状況になっていることを理解しているのだろうか?
 一人で里山にて写真を撮るのはどうか。「誰からもうつされない、誰にもうつさない」だろうが、「自分だけは大丈夫だ」と思う気持ちを払拭しないと、パリやニューヨークよりも危険な状況に陥るかもしれない。政治や法律の問題もあろう。東京都の要請には法的強制力もない。だからこそ、各自の行動が鍵となる。今こそ、我慢!我慢!我慢!である。とにかく、私は外出自粛に協力する。 医療崩壊を防ぐため、家族のため、社会のために協力する。

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ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250

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ウスバシロチョウ(不完全黒化型)

2019-05-26 20:47:08 | チョウ/アゲハチョウ科

 ウスバシロチョウ Parnassius citrinarius Motschulsky, 1866 は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)ウスバアゲハ亜科(Subfamily Parnassiinae)ウスバアゲハ属(Genus Parnassius)に属するチョウで、鱗粉の量や色に地域変異や個体変異が多く「白化型」「赤化型」「黄色型」「黒化型」等が存在している。
 黒化型は、特に日本海側に現れる形質として知られ、過去に富山県と新潟県において黒化傾向の個体を撮影し、「ウスバシロチョウ黒化型」及び「ウスバシロチョウ 半黒化型」として掲載しているが、今回、福島県においてウスバシロチョウの完全黒化型に近い個体(黒化90%以上)を撮影したので紹介したい。

 5月25日。早朝から福島県のA地区において探索を開始。A地区は、かつて別のチョウの撮影で訪れたことがあり、周辺環境から生息しているだろうとの予測のもとでの訪問である。午前6時近くになると、広範囲の草地において10数頭のウスバシロチョウが確認できたが、すべてオスばかりで、関東の個体に比べれば黒い部分が多いものの、黒化とは言えない個体ばかりであった。
 2時間以上を費やしたが、結局、黒化個体は見つからず、那須高原まで一般道で帰ろうとナビゲーションに従って走行。車窓からは、あちこちでウスバシロチョウの飛翔が見られたが、黒くはない。 その後生息環境的に良さそうな場所があり、車を止めて下車して確認すると、狭い範囲に30頭を超えるであろうウスバシロチョウが飛び交っており、その中に、かなり黒く見える個体が混じっていた。
 それら個体は、すべてメスである。そもそもウスバシロチョウの黒化は、羽化した時から黒いわけではなく、交尾を終えたメスが時間の経過と共に黒化するようである。 交尾後のメスは、腹部に、他のオスとの交尾を防ぐため、交尾相手のオスが腹部から出す物質で作った交尾付属物(受胎嚢もしくは交尾嚢)がついているので容易に分かる。交尾後のメスは、飛び回ってヒメジョオンやハルジオンの花で吸蜜するが、吸蜜後は草むらに隠れるように止まって動かない。この地区の黒化個体は、小型のものが多く、前翅長は25mmほどしかない。また、黒化傾向の個体から、完全に黒化した個体も見られた。

 以下には、ウスバシロチョウの不完全黒化型と黒化傾向の個体、また比較のために、ノーマルタイプと言える関東の個体の写真を掲載した。

参考:ウスバシロチョウ

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ウスバシロチョウ黒化型の写真

ウスバシロチョウ(不完全黒化型/黒化90%以上)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:37)

ウスバシロチョウ黒化型の写真

ウスバシロチョウ(不完全黒化型/黒化90%以上)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:37)

ウスバシロチョウ黒化型の写真

ウスバシロチョウ(黒化型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:35)

ウスバシロチョウ黒化型の写真

ウスバシロチョウ(黒化型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:27)

ウスバシロチョウ黒化型の写真

ウスバシロチョウ(黒化型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:08)

ウスバシロチョウ黒化型の写真

ウスバシロチョウ(黒化型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:08)

ウスバシロチョウ黒化型の写真

ウスバシロチョウ(黒化型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:08)

ウスバシロチョウ黒化型の写真

ウスバシロチョウ(黒化型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:07)

ウスバシロチョウの写真

ウスバシロチョウ(福島A地区)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 250(撮影地:福島県 2019.5.25 9:24)

ウスバシロチョウの写真

ウスバシロチョウ(福島A地区)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/200秒 ISO 320(撮影地:福島県 2019.5.25 5:50)

ウスバシロチョウの写真

ウスバシロチョウ(福島A地区)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 400(撮影地:福島県 2019.5.25 5:57)

ウスバシロチョウの写真

ウスバシロチョウ(福島A地区)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 7:42)

ウスバシロチョウの写真

ウスバシロチョウ(福島)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 200(撮影地:福島県 2019.5.25 9:22)

ウスバシロチョウの写真

ウスバシロチョウ(関東)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 320(撮影地:東京都 2011.5.05)

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ギフチョウのイエローバンド

2019-05-12 08:16:01 | チョウ/アゲハチョウ科

 ギフチョウのイエローバンドは、長野県のごく一部で見られる常染色体劣性遺伝により引き継がれている地理的変異で、 通常の個体に比べ翅の縁毛が全て黄色になり、翅の外縁部が黄色の毛で縁取られる型である。昨年に引き続き、今年もイエローバンドを撮影するために信州へ。
 まず、昨年同様の5月5日に訪問。しかしギフチョウがまったくいない。数頭飛んでいたと聞いたが、筆者は1頭も目撃できなかった。次に5月11日。2週連続での探索である。前夜から車中泊し、現地ポイントに早朝から10時まで待機したが、ギフチョウの姿がまったくない。飛んでくるのは、スジグロシロチョウとコツバメだけ。天気は良く、気温は13℃。ポイントが日陰になってきたところで林内に移動。蝶道で待機していると、ようやく1頭が飛来。その後9頭ほどが飛来し、撮影できた2頭の内、1頭がイエローバンドであった。熊笹が茂る急斜面を飛翔しており、葉に止まったところでカメラを向けたが、イエローバンドの特徴が分かる証拠程度の写真1枚しか撮ることができなかった。
 以下に掲載したギフチョウのイエローバンドの写真は、1枚目が今年撮影したもので、2枚目以降は昨年撮影したものである。

 昨年はギフチョウの発生が早かったが、今年も3月下旬には神奈川で発生が始まり、信州もGW期間中にピークを迎えるものと思われた。しかしながら、4月上旬に寒波の来襲があり、信州は雪(東京都内の多摩地域でも雪)が積もるという状況であった。おそらく、羽化準備をしていた蛹の中には死滅したものも多いのであろう。他の地域でも発生が遅く、個体数がかなり少ないと言う。
 ギフチョウは一年一化であるから、発生した個体数が少なければ産卵数も少ない。来年以降の発生数も心配である。にも関わらず、網を振るって採れるだけ採る輩が多い。採集者には、ギフチョウを保全する気持ちはまったくない。自身の標本箱に多くのギフチョウを並べることだけが目的だ。

 ギフチョウ Luehdorfia japonica Leech, 1889 は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)ウスバアゲハ亜科(Subfamily Parnassiinae)ギフチョウ属(Genus Luehdorfia)に分類される里山に生息するチョウで、氷河期の頃から地球環境の変化に耐えて生き残ったと考えられている。 ギフチョウは、吸蜜植物が開花し食草の新葉が出る春に合わせて成虫が羽化・産卵し、葉が硬くなり林冠が閉鎖する真夏が来る前に蛹になる。 そして夏から翌春までの長い期間を蛹で過すという雑木林の季節変化にあわせた生態を持った「春の女神」(スプリング・エフェメラル)である。
 環境省カテゴリでは絶滅危惧Ⅱ類(VU) に、多くの地方自治体のRDBでも絶滅危惧Ⅰ類やⅡ類に選定されている。長野県白馬村では、ギフチョウとヒメギフチョウを昭和49年10月1日に村の天然記念物に指定し、成虫だけなく、卵、幼虫、蛹も含めて捕獲を禁止している。 また平成22年度より天然記念物の捕獲等については、条例で10万円以下の罰金などの罰則が課される。

 今回の遠征で愛車の総走行距離は、140,000kmを超えた。どれだけ走っても昨今は充実感がない。気が付けば、今年になってから自然風景写真は「星空」しか撮っていないし、昆虫写真も満足できる成果がない。里山を散策しながら、出会った風景や昆虫を撮るのも楽しいに違いないが、年初に掲げた目標に拘っているために、未達ならば心折れる充足感のない週末で終わる。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウのイエローバンド(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 500 +2/3EV(撮影地:長野県 2019.5.11 10:34)

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウのイエローバンド(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:長野県 2018.5.05 11:04)

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウのイエローバンド(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250(撮影地:長野県 2018.5.05 11:04)

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウのイエローバンド(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県 2018.5.05 11:03)

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウのイエローバンド(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 200(撮影地:長野県 2018.5.05 10:34)

ギフチョウの生息環境の写真

ギフチョウの生息環境

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カラスアゲハ(春型と夏型)

2018-09-10 21:42:52 | チョウ/アゲハチョウ科

 カラスアゲハ Papilio dehaanii C. Felder et R. Felder, 1864 は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)アゲハチョウ属(Genus Papilio)のチョウで、北海道・本州・四国・九州・沖縄に分布している。食草は、ミカン科のコクサギ、キハダ、サンショウ、カラスザンショウ、カラタチ等であるため、山地の渓谷で主として見られる。
 チョウ類では、1年に一回しか羽化せずに一か月も経たないうちに産卵して死んでしまう種(ギフチョウやミドリシジミ等)や夏に羽化してそのまま冬を越して、翌年の初夏まで生きる長寿の種(ヤマキチョウやキベリタテハ等)がいるが、一年のうちに何回も羽化する種もいる。こうした種は「季節型」と言って、羽化した時期によって「春型」「夏型」「秋型」に分けられ、それぞれ翅の色彩や形状が異なっていることが多い。本種の場合は、年に2回羽化し「春型」「夏型」が存在するので、ここでその違いを紹介したい。
 カラスアゲハは、メスよりもオスの方が色彩が豊かで、特に春型のオスは小型で色彩が美しい。写真の春型のオスは、表後翅に赤斑が発達しているが、これは個体や地域によっても差があるので、一概に春型の特徴とは言えない。
 二週連続で出かけていないので、過去に撮影し、それぞれ記録として掲載していたものをまとめ直した記事ではあるが、こうした作業では新たな発見もあり、更には次の課題抽出にもなる。カラスアゲハの季節型については、今後、より多くの個体や様々な地域においても検証していきたい。また、他の昆虫(自然風景)でもそうであるが、美しい姿を、一番美しい時に、一番美しく見えるように撮影することを心掛けたい。

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以下の掲載写真は、1024*683 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で表示されます。

カラスアゲハの写真
カラスアゲハ(オスの春型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 1000(撮影地:東京都あきる野市 2011.5.8)
カラスアゲハの写真
カラスアゲハ(オスの夏型)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/60秒 ISO 400(撮影地:東京都あきる野市 2017.8.20)
カラスアゲハの写真
カラスアゲハ(メスの春型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 1000(撮影地:東京都あきる野市 2011.5.21)
カラスアゲハの写真
カラスアゲハ(メスの夏型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.0 1/320秒 ISO 640 -1/3V(撮影地:東京都あきる野市 2012.8.11)
カラスアゲハ(オスの夏型)の集団吸水

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ミヤマカラスアゲハ(春型)

2018-05-28 21:24:57 | チョウ/アゲハチョウ科

 ミヤマカラスアゲハPapilio maackii Menetries, 1858)は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)アゲハチョウ属(Genus Papilio)のチョウで、食草がミカン科のキハダ、カラスザンショウ、ハマセンダンなどであるため、深山(ミヤマ)という名前のように、主としてミカン科の野生種の生えている山地に生息している。
 本種は、地域変異や個体変異が多く、翅の色や模様が異なり、日本で最も美しい蝶と称されることもある。特に蛹で越冬して春に羽化する春型は、 小型ではあるが美しい。

 ミヤマカラスアゲハのオスは、微量のナトリウムが含まれている水場に集まるという習性があり、時に大集団になることもある。これまで、一度だけ目撃したが、その後はなかなかチャンスに恵まれず6年が経過してしまった。  今年もポイントを訪れてみたが、何頭かは水場に飛んでは来るものの、落ち着いて吸水はせず、すぐに飛び立ってしまったり、吸水すらせずに私の緑色のカメラバッグの周りを旋回した後、行ってしまうという状況で、半開翅やピンボケの写真しか撮ることができなかった。本種は、太陽光と見る角度によって翅色が違って見えるが、今回は、本種の特徴である前翅の緑色を捉えることができたので、証拠程度の写真ではあるが掲載したいと思う。(1枚目の写真は2012年に、6~7枚目の写真は2013年に同じ場所で撮影したものである。)
 今年の撮影目標は、ミヤマカラスアゲハの春型の集団吸水を撮ることであるから、撮影場所を変えて、再チャレンジしたいと思う。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels および 1024*683 Pixelsで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ミヤマカラスアゲハの写真
ミヤマカラスアゲハ(春型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1600 +1EV(撮影地:山梨県 2012.5.27)
ミヤマカラスアゲハの写真
ミヤマカラスアゲハ(春型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1600 +1EV(撮影地:山梨県 2012.5.27)
ミヤマカラスアゲハの写真
ミヤマカラスアゲハ(春型) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1600 +1EV(撮影地:山梨県 2012.5.27)
ミヤマカラスアゲハの写真
ミヤマカラスアゲハ(春型) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1600 +1EV(撮影地:山梨県 2012.5.27)
ミヤマカラスアゲハの写真
ミヤマカラスアゲハ(春型) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400(撮影地:山梨県 2018.5.27)
ミヤマカラスアゲハの写真
ミヤマカラスアゲハ(春型) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400(撮影地:山梨県 2018.5.27)
ミヤマカラスアゲハの写真
ミヤマカラスアゲハ(春型) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:山梨県 2018.5.27)
ミヤマカラスアゲハの写真
ミヤマカラスアゲハ(春型) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 320(撮影地:山梨県 2018.5.27)
ミヤマカラスアゲハの写真
ミヤマカラスアゲハ Canon EOS 7D7 / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/125秒 ISO 200 +2/3EV(撮影地:山梨県 2013.05.25)
ミヤマカラスアゲハの写真

ミヤマカラスアゲハ Canon EOS 7D7 / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/125秒 ISO 200 +2/3EV(撮影地:山梨県 2013.05.25)

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ギフチョウ/イエローバンド

2018-05-06 21:28:21 | チョウ/アゲハチョウ科

 ギフチョウのイエローバンドを2014年から毎年通い続け、今年ようやく撮影することができたので紹介したい。

 ギフチョウは、強い飛翔力がなく他の生息地との行き来がないため、小さな地域個体群ごとに翅形や翅のサイズ、前後翅の黄色条または黒色条の幅、後翅肛角部の赤斑、斑紋の細部形状などに違いがある地理的変異が知られているが、同一地域個体群の中でも長野県白馬村で見られるイエローバンドなど常染色体劣性遺伝により引き継がれている形質もある。また更には、斑紋には様々な個体変異があり、赤上がり、イエローテールなどが知られ、斑紋異常による異常型も存在している。
 こうした様々なタイプがいることが、撮影者のみならず採集者を引き付けているギフチョウ。本記事では、イエローバンド及び過去に撮影した変異個体の写真も掲載した。

  • 写真1~3:イエローバンド
    (イエローバンドは、前翅・後翅の外縁部および尾状突起部が全て黄色く縁取られるのが特徴。)
  • 写真4:赤上がりの特徴が少しだけ現れたタイプ
    (赤上がりは、後翅表面の遠位内側にある大きな赤紋以外に小さな赤紋が黒帯の内側に沿って現れるのが特徴。)
  • 写真5:イエローテールの特徴が少しだけ現れたタイプ
    (イエローテ―ルは、後翅肛角紋の赤斑が全て後翅外縁部のオレンジ色と同じオレンジ色に置き換わるのが特徴。)
  • 写真6:斑紋異常タイプ

 ギフチョウのイエローバンドは、羽化して間もない翅のとても綺麗なメスの個体であった。こうして前翅・後翅の外縁部および尾状突起部が全て黄色く縁取られていると、ノーマルタイプに比べてより美しく見える。
 今回、イエローバンドの特徴が分かる写真は撮影できたが、図鑑写真的には満足のいく出来ではない。しかしながら、生息地内に2日間で12時間滞在したことで、気温、風、日差しとギフチョウの行動パターンや攻略法を学ぶことができ、帰り際に撮影に適したポイントも見つけることができたので、来年チャンスがあれば、確実にイエローバンドのもっと良い図鑑写真が撮れるだろう。もし、イエローバンドで赤上がり等の個体が自然界に存在するならば、是非、撮りたいものである。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:長野県 2018.5.05)

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県 2018.5.05)

ギフチョウ(イエローバンド)の写真

ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 200(撮影地:長野県 2018.5.05)

ギフチョウの写真

ギフチョウ(ノーマルタイプ)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/125秒 ISO 400(撮影地:神奈川県相模原市 2010.04.10)

ギフチョウの写真

ギフチョウ(赤上がりの特徴が少しだけ現れたタイプ)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 250(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)

ギフチョウの写真

ギフチョウ(イエローテールの特徴が少しだけ現れたタイプ)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 200(撮影地:新潟県十日町市 2013.5.18)

ギフチョウの写真

ギフチョウ(斑紋異常タイプ)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 500(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)

ヒメカンアオイの写真

ヒメカンアオイ(食草)(撮影地:長野県 2018.5.05)

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ギフチョウ(産卵)

2018-05-05 20:34:45 | チョウ/アゲハチョウ科

 ギフチョウ Luehdorfia japonica Leech, 1889 は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)ウスバアゲハ亜科(Subfamily Parnassiinae)ギフチョウ属(Genus Luehdorfia)に分類される里山に生息するチョウで、氷河期の頃から地球環境の変化に耐えて生き残ったと考えられている。ギフチョウは、吸蜜植物が開花し食草の新葉が出る春に合わせて成虫が羽化・産卵し、葉が硬くなり林冠が閉鎖する真夏が来る前に蛹になる。 そして夏から翌春までの長い期間を蛹で過すという雑木林の季節変化にあわせた生態を持った「春の女神」(スプリング・エフェメラル)である。
 ギフチョウは日本の固有種で、本州の秋田県南部から山口県中部まで25県の広範囲に分布し、下草の少ない林に生息する。また、本州の特産種でもあり、世界中で日本の本州だけに分布するチョウは、このギフチョウだけである。かつては東京都下の多摩丘陵・高尾山とその周辺にも生息していたが、里山の放棄・放置によって食草であるカンアオイが 絶滅したことと、採集者によるギフチョウの乱獲により完全に絶滅している。全国的にも減少傾向にあり、環境省RDBでは絶滅危惧Ⅱ類に選定されており、26都府県のRDBで絶滅危惧Ⅱ類や準絶滅危惧種として記載している。関東地方では、神奈川県の石砂山周辺でしか見ることができない。この地区のギフチョウは、神奈川県の天然記念物され地元の保護団体により保全されているが、人為的に他産地の個体の移入が行われた経緯があるようで、遺伝子攪乱が起こっていることがわかっている。
 環境省RDBで絶滅危惧Ⅱ類に選定され、多くの地方自治体のRDBで絶滅危惧Ⅰ類やⅡ類に選定されてはいるが、法的な拘束力はなく、規制のない地域では採集も行われている。ギフチョウは、地域変異・個体変異が多く見られるので、それを目当てに採集ツアーが開催され、参加者は採れるだけ採る。その日にいたギフチョウをすべて採りつくすのだから、環境の悪化や破壊よりもギフチョウを絶滅に追いやる一番の原因になっている。
 ちなみに、長野県白馬村では、ギフチョウとヒメギフチョウを昭和49年10月1日に村の天然記念物に指定し、成虫だけなく、卵、幼虫、蛹も含めて捕獲を禁止している。 また平成22年度より天然記念物の捕獲等について条例で10万円以下の罰金などの罰則が盛り込まれている。

 ギフチョウは、これまで何度も開翅やカタクリ吸蜜などのシーンを撮影しているが、今回は、生態学的にも貴重な「産卵」シーンを撮ることができた。
 林内で待機していると、林床をゆっくりと飛ぶ個体が目に入った。そっと近づくと、その個体は飛んでもよく止まる。翅も綺麗な大変美しい個体で腹部が大きいメスである。飛ぶ後を追いかけ続けていると、ウスノスズクサ科であるフタバアオイに止まり産卵を開始した。別の個体もフタバアオイに産卵を行っていた。
 ギフチョウの食草と言えばウスノスズクサ科のカンアオイであるが、カンアオイはクリやコナラなど落葉樹の林の日陰に生育する植物で繁殖力が弱く、自生地をほとんど広げない植物で、一度自生地が失われると自然状態で復活することが難しいと言われている。環境の悪化や破壊によってカンアオイが絶滅すれば、ギフチョウも絶滅するが、ギフチョウとヒメギフチョウの混生地である当地ではカンアオイは見当たらない。ヒメギフチョウの食草であるウスバサイシンが多い。そしてそれよりも多いのがフタバアオイであり、繁殖力の強さから一面フタバアオイとなっている場所もある。
 フタバアオイは、ギフチョウの飼育において以前から代用食として用いられていたようであるが、幼虫は若齢からでなければ受け付けないと言われている。当地のギフチョウは、フタバアオイで繁殖していると思われる。

 尚、産卵した卵をこの場で撮影する事が出来なかったため、同生息地内で撮影したヒメギフチョウの卵の写真を参考までに掲載しておきたい。

以下の掲載写真は、1024*683 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で表示されます。

ギフチョウの写真
ギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)
ギフチョウの写真
ギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)
フタバアオイに産卵するギフチョウの写真
フタバアオイに産卵するギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 500(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)
フタバアオイに産卵するギフチョウの写真
フタバアオイに産卵するギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 1600(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)
ヒメギフチョウ卵の写真
ヒメギフチョウの卵
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/125秒 ISO 250(撮影地:長野県白馬村 2017.5.04)

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ヒメギフチョウ(交尾)

2018-05-03 20:53:37 | チョウ/アゲハチョウ科

 ヒメギフチョウ Luehdorfia puziloi (Erschoff, 1872) は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)ウスバアゲハ亜科(Subfamily Parnassiinae)ギフチョウ属(Genus Luehdorfia)に分類されるチョウで、ロシア沿海から朝鮮半島、北海道から東日本に分布し、日本国内では北海道亜種と本州亜種に分かれる。ヒメギフチョウ本州亜種 Luehdorfia puziloi inexpecta Sheljuzhko, 1913 は、わずか9つの県にしか生息しておらず、新潟県、群馬県、岐阜県のRDBでは絶滅危惧Ⅰ類、青森県、福島県では絶滅危惧Ⅱ類、岩手県、宮城県、山形県、長野県では準絶滅危惧としており、環境省RDBには準絶滅危惧(NT)として記載されている。また長野県白馬村は天然記念物に指定しているほど、貴重なチョウである。
 同属のギフチョウ Luehdorfia japonica Leech, 1889 とは、前翅のいちばん前方外側の黄白色の斑紋がずれず、他の斑紋と曲線をなしている点や尾状突起が短く先がとがっている点が異なっており、大きさも少し小さい。また、ギフチョウほどではないが、地域変異、個体変異が見られ、「赤上がり」や稀に「イエローテ―ル」「白化型」も出現する。「赤上がり」 とは、後翅表面の遠位内側にある大きな赤紋以外に小さな赤紋が黒帯の内側に沿って現れる個体変異で、群馬県の赤城山麓に生息するヒメギフチョウ(赤城姫)に多く見られるが、白馬村においても 撮影している。(写真:4)また、この小さな赤紋が消失している個体もいる。(写真:5)ちなみに「イエローテ―ル」とは、後翅肛角紋の赤色が淡黄色になる個体変異である。

 今年も長野県白馬村へ。昨年は5月4日に訪問しているが、今年は桜の開花も早く、様々な昆虫の発生も早いので、おそらく白馬村も早いだろうという予測のもとで4月29日に訪問。昨年は満開であった中綱湖のオオヤマザクラはすでに葉桜。予想通り白馬村の季節も進んでいる。
 午前9時半から、昨年見つけた林でチョウが飛んでくるのを待つ。気温は17℃で、風もない。すぐにチョウが現れ、地面に止まったり、スミレやカタクリで吸蜜を行う。とりあえず撮れる個体をすべて撮影するとヒメギフチョウとギフチョウの割合は半数ずつであり、ギフチョウは羽化したばかりのように新鮮な個体が多かった。ちなみにギフチョウとヒメギフチョウの分布は明確に分かれており、この2種の分布境界線はリュードルフィアライン(ギフチョウ線)と呼ばれているが、長野県白馬村は分布境界線上にあり、ギフチョウとヒメギフチョウ本州亜種の混生地となっている。
 白馬村では、ヒメギフチョウが先に羽化し、少し遅れてギフチョウが羽化してくる。羽化の時期は、両種ともに林内の残雪の量とも関係があると言われているが、ここ数年は雪解けが早く、 今年は4月の気温が高かったので、白馬村の発生は例年より一週間以上早いように思う。ヒメギフチョウは、ちょうど桜が咲き始めた頃に発生し、ギフチョウでは、桜が散った頃と重なるようだ。
 今回の訪問では、午前中に吸蜜と探雌活動。吸蜜後はカラマツの梢でしばらく休息。昼近くからは探雌活動で花には一切止まらないという状況であった。しかしながら、静止、吸蜜という定番写真のほか、初めて生態写真である交尾態を撮影することができた。また、静止開翅という図鑑写真おいても、その特徴が分かる綺麗な個体を撮ることができたと思う。

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ヒメギフチョウの写真

ヒメギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)

ヒメギフチョウの写真

ヒメギフチョウ(吸蜜)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)

ヒメギフチョウの写真

ヒメギフチョウ(吸蜜)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 320(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)

ヒメギフチョウ(赤あがタイプ)の写真

ヒメギフチョウ(赤上がりタイプ)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/640秒 ISO 200(撮影地:長野県白馬村 2017.5.04)

ヒメギフチョウの写真

ヒメギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250 -1/3EV (撮影地:長野県白馬村 2014.5.03)

ヒメギフチョウ(交尾)の写真

ヒメギフチョウ(交尾)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 2500(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)

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カラスアゲハ(夏型の集団吸水)

2017-08-20 17:46:31 | チョウ/アゲハチョウ科

 カラスアゲハPapilio dehaanii C. Felder et R. Felder, 1864)<名義タイプ亜種, 日本本土・朝鮮半島亜種>は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)アゲハチョウ属(Genus Papilio)のチョウで、北海道・本州・四国・九州・沖縄に分布している。食草は、ミカン科のコクサギ、キハダ、サンショウ、カラスザンショウ、カラタチ等であるため、山地の渓谷で主として見られる。同属のミヤマカラスアゲハ(Papilio maackii Ménétriès, 1858)に似るが、ミヤマカラスアゲハには前翅の表面と後翅の裏面に白い帯があるので見分けられる。 羽化の時期によって春型と夏型が存在し、春型の方が小さく色彩もより美しい。

 カラスアゲハは、ツツジ、ユリやアザミの花でよく吸蜜する他、雨上がりの気温が高い日には、川岸の湿った砂地などで集団で吸水する性質がある。
 東京は記録的な異常気象で、8月になってから連続19日雨が降っており、日照も極端に少ない。前日(8/19)の夕方に激しい雷雨があったが、本日(8/20)は、曇りで気温は28℃。砂利が敷き詰められた渓谷近くの空き地では、オスのカラスアゲハが6頭、集団で吸水している様子が見られた。

 カラスアゲハは、環境省カテゴリに記載はないが、香川県のRDBには、準絶滅危惧種として選定されている。選定理由として、低中山地の渓流環境の悪化により、生息地、個体数とも減少しているためとしている。都市近郊の低山地の開発、森林の伐採、スギなどの植林による、コクサギの生える生息地の減少や成虫の吸蜜植物の減少を要因として挙げている。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、すべて1024*683 Pixelsで掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

カラスアゲハの集団吸水写真

カラスアゲハ(夏型の集団吸水)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/125秒 ISO 400 +2/3EV(2017.8.20 10:02)

カラスアゲハの集団吸水写真

カラスアゲハ(夏型の集団吸水)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 3200 -1/3EV(2017.8.20 10:16)

カラスアゲハの集団吸水写真

カラスアゲハ(夏型の集団吸水)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 3200(2017.8.20 10:19)

カラスアゲハの集団吸水写真

カラスアゲハ(夏型の集団吸水)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 3200(2017.8.20 10:29)

カラスアゲハの集団吸水写真

カラスアゲハ(夏型の集団吸水)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 2000(2017.8.20 10:30)

カラスアゲハの集団吸水写真

カラスアゲハ(夏型の集団吸水)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 3200 -1/3EV(2017.8.20 10:16)

カラスアゲハの写真

カラスアゲハ(夏型オス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/60秒 ISO 400(2017.8.20 10:25)

カラスアゲハの集団吸水

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