ホソミイトトンボ Aciagrion migratum (Selys, 1876) は、日本国内に生息する約200種のトンボ類の内、成虫で越冬する3種類の一種(他にオツネントンボとホソミオツネントンボ)であるが、これまで越冬の場所や様子はあまり知られていなかった。しかしながら、筆者の知人T氏とS氏の懸命な探索により、あるホソミイトトンボの多産地において、その越冬の様子が判明した。筆者も観察に同行したので紹介したい。
ホソミイトトンボは、国内では唯一、夏型と越冬型の季節型があるトンボでもある。夏型は、体長28~34mmでやや緑がかった淡青色の体色で、6月頃から見られ、9月頃には姿を消す。夏型が産卵にしたものが越冬型として盛夏頃から羽化し、そのまま成虫で冬を越し、翌年の5月頃に産卵するまで生き延びるのである。越冬型は、体長が33~37mmと夏型よりも大きく、羽化後は淡青色の体色だが、11月を過ぎ、植物が枯れ始めると茶色に変化する。越冬後は、徐々に体色が青色になっていき、繁殖時期である5月になると、濃い青色へと変化するという特徴がある。
ホソミイトトンボは、繁殖期は池およびその周囲で生活するが、繁殖期の前後は池から少し離れた草地で生活している。越冬型は、11月を過ぎると体色が茶色に変化し、草地から離れて隣接する雑木林に移動し始め冬を越すのであるが、観察した場所では、越冬態は草地から一山超えた雑木林の南向きの林縁、あるいは林内ギャップの南向きの林縁で見つかった。この生息地では、繁殖池および草地の東側は南北に大きく開けており、西側は山になっているため、草地および草地側の林縁は、正午になると日が陰り、また風もよく通るために体感的にも寒い。一方、越冬場所は日当たりが良く強い風も吹きこまない環境であった。草地からは標高差が20mほどあり、また200~300m位離れているが、これは、この生息地の物理的環境ゆえの特性かもしれない。また、これらの場所で見つかったホソミイトトンボは、すべてオスであり、メスは繁殖池近くの林縁で多く見つかっている。オスとメスの越冬場所が違う可能性もある。他の生息地でも検証する必要があるだろう。
ホソミイトトンボの越冬態は、いずれも地上から1m~2m付近において、垂れ下がるとても細いササやツル系植物等の枝や茎にぴったりと張り付くように摑まっていた。腹部をまっすぐにしているが、尾部を少し曲げていることもある。その様子は枯れたツル植物に似せる擬態であるのかもしれない。撮影のためにカメラを近づけると、枝の裏側にちょこちょこっと移動する。すると、細い枝よりも更に細いホソミイトトンボは、まったく見えない。
1日のほとんどを枝に摑まって過ごすが、冬期でも気温が活動できるまで高くなると周囲を飛び回って摂食行動し、摂食後は、また同じ枝に止まるようである。しかしながら、危険を感じると同じ場所には戻らず移動するようである。
ホソミイトトンボ/越冬態(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F3.2 1/250秒 ISO 200 -1/3EV(2017.1.22)
ホソミイトトンボ/越冬態(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/125秒 ISO 200 -1 1/3EV(2017.1.22)
ホソミイトトンボの越冬環境(白丸内に越冬態)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 400 -1 1/3EV(2017.1.22)
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
以下には、ホソミイトトンボの夏型および越冬型の越冬前、越冬態、繁殖期の写真も掲載した。特に越冬型の体色変化に注目したい。
ホソミイトトンボ/夏型
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F9.0 1/320秒 ISO 640 +2/3EV(2016.7.24)
ホソミイトトンボ/越冬型(越冬前)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 2000(2013.09.22)
ホソミイトトンボ/越冬型(越冬態)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/1260秒 ISO 400 -1EV(2017.1.22)
ホソミイトトンボ/越冬型(繁殖期)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 500 +1EV(2013.5.6)
参照
フィールドワーク撮影記/ホソミイトトンボ
オヤヂのご近所仲間日記/越冬昆虫探し ホソミイトトンボ ついに決着
東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------