ホタルの写真と言っても色々あるが、大きく分けると「成虫や産卵から羽化までを撮った写真」と「成虫が発光飛翔した様子を写した写真」この2種類に分類できるだろう。前者は、ホタルの生きざまを記録した「生態写真」で、後者は広い意味で考えれば「風景写真」と言える。ホタルの生態写真は、普通の方々は撮らないと思うが、風景写真は誰でも撮ることができ、インターネットで画像検索すると多くの写真を見ることができる。
私は、ホタルの生態写真を50年近く前から撮影しており、そのほとんどはリバーサルフィルムで大切な学術記録として保管しているが、フィルムカメラしかない時代、成虫が発光飛翔している風景写真の撮影にはとても苦労した。ただ飛んでいる光跡だけが写ればよいのではなく、ホタルがどんな環境に生息し、どこをどんな風に飛翔するのかを光跡として写したい。つまりは、風景写真でありながら生態写真でもありたいし、それぞれの生息地の記録でありたい。
方法は2つ。まだ明るい時間帯にアンダー気味で背景を撮り、フィルムを送らないで同じコマに後からホタルの光を写すいわゆる多重露光で撮る方法と、一発長時間露光の方法である。多重露光では結果がどことなく不自然であるから長時間露光で撮ってみるが、もともとフィルムは長時間露光には適していない。長時間露光すると感度も悪くなり、相反則不軌の影響で色再現性も悪くなる。増感現像すればコントラストが強くなり、更には粒子が粗くなるというマイナス要因も覚悟しなければならない。撮影しても、現像に一週間ほどかかるため、結果を見てから再び現場に行くと時期が終わっており、また1年待っての撮影。その繰り返しで何年も経ってしまうという時代であった。
最終的は、ゲンジボタルは Kodak Ektachrome 320T Professional というタングステンタイプのフィルム、ヒメボタルは 富士フイルム FUJICOLOR NATURA 1600 というネガフィルム、どちらも OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8の組み合わせで何とか見られる写真を写すことができるようになった。深い森の真っ暗な場所で光るヒメボタルは、背景を写すために1時間も露光する場合もあり、生息地によっては、ヒメボタルの光が溢れる写真になった。まずは撮れたことを喜び、光景を残せたことに達成感を感じた。
私も今ではデジタルカメラで撮っており、フィルムもホタルを写せるものが売っていない時代に、フィルム撮影の苦労話は、かつて高知県で偶然会った写真家 故・小原玲 氏と盛り上がったくらいで、今のアマチュアの写真家さんは関係ないと思うかもしれないが、デジタルでいとも簡単に撮れてしまう昨今でも、私の「成虫が発光飛翔した様子を写した写真」への考え方は、フィルム時代となんら変わっていない。
ホタルの写真を撮ろうとする生息地には、必ず18時前には到着している。明るい時間帯に背景を撮っておく必要があるからだが、それ以上に生息環境を調べると同時に、その美しい自然に感動し自分も溶け込みたいと思うからだ。深夜型のヒメボタルを撮る場合は、光始めるまで5時間もあるが、気象状況によっては、20時前から光始めることもあるから、暇な時間はない。シャッターを切るだけではなく、観察も重要な仕事なのである。
ホタルが光りながら飛び始めたら目は離せない。自分の目で見て感覚を研ぎ澄まし、五感で感じて、その光景を記憶と心に焼き付ける。感動は、その瞬間でしか味わえないのだ。デジタルカメラでのRAW撮影は、後にPCで現像する必要があるが、それは心に焼き付けた光景を再現する作業なのである。感動の記憶は、時には光溢れる1枚になることもある。
”写真は空間芸術であり、時間芸術である”とするならば、時間の連続性がなければならない。1枚の写真の中に、多重露光であっても時間が連続していないと、ホタルの光跡も途切れてしまい、バラバラで生態学的意味がなくなってしまうから、コマ撮りの比較明合成は、その点を重視しながら行うが、写真であるから、見た目とは違う。それが長時間露光や多重露光なら尚更である。しかしながら、写真は実写であり、創作ではない。現場でどうしようと、どのような写真を撮ろうと撮影者の勝手であるが、「ホタルがなぜ光るのか」の理解もなく、現場で観察もせず、感動もなく、PCで何枚も光を重ねただけのホタルの写真は、AIに作らせた画像と何ら変わりない。
以下に6枚の写真を掲載したが、最初の2枚はAIに作らせた画像である。3と4はフィルムでの撮影をスキャンしてデジタル化したもの、5と6はデジタルカメラでの撮影である。
以下の掲載写真は、写真をクリックしますと別窓にオリジナルサイズで表示されます。



OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / バルブ撮影 F1.8 60秒 Ektachrome 320T Professional

OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / バルブ撮影 F1.8 60分 FUJICOLOR NATURA 1600

Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.8 46秒 ISO 400

Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 ISO 1600 4分相当の多重
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