滝に舞うホタル(ゲンジボタル)の様子を紹介したいと思う。
深い谷の最奥にある滝は、鬱蒼とした木々に覆われた崖に囲まれ、その姿はなかなかの迫力である。この滝から下流600mほどの間、山深い真っ暗な深い谷にゲンジボタルが舞い、幽玄の雰囲気を漂わせる。
このゲンジボタル生息地は、2019年の台風19号の影響によって大きな被害を受け、翌年の発生は激減してしまい、滝周辺では2頭のオスが見られただけであった。しかしながら、毎年少しづつ増え始め、3年後の2022年では10頭以上に、そして5年経過した昨年は40頭を超えるゲンジボタルが舞うまでに回復した。今年も、発生状況を確認するために訪れてみた。
例年の発生ピークは7月上旬だが、今年は6月に梅雨入りしてからほとんど雨が降っておらず、気温も記録的な暑さである。6月21日に訪れた岐阜県の和良町での今年の発生は、急激に発生数が増え、またピーク時はここ8年で最も多かったという。羽化と気象条件や発生時の月齢など、様々な要因が関係しているが、この生息地はどうだろうか。知人T氏から6月22日に発生を確認したと連絡があり、1週間後が発生のピークであろうとの予測と私の都合から28日と30日に行くことにした。
現地には17時半過ぎから待機。この日の最高気温は33.8℃であったが、ここは山奥の源流。標高はおよそ300mだが、滝つぼ周辺は24℃。マイナスイオンたっぷりで快適ではあるが、常に吹き付ける滝風は肌寒いくらいである。
滝風を 浴びて思いを 巡らせて 山奥深く 一人佇む
日の入りは19時2分。ゲンジボタルが光始めるまでは2時間ほどある。長い。周囲の環境調査などは以前の訪問時に済ませているので、カメラをセットしたら、ただひたすら待つだけである。ただし、ボーっと待つ時間ではない。ゲンジボタルはどこで光始めるのか、どこをどんな風に舞うのかを予想しイメージしたりすることも楽しい。素晴らしい光景は、まずは自分の目で見て感覚を研ぎ澄まし、五感で感じて記憶と心に焼き付ける作業が必要だ。感動は、その瞬間でしか味わえないのである。
日の入りを過ぎ、周囲に暗さを感じてきた19時20分。滝より下流の茂みの中で1頭のゲンジボタルが発光を始めた。1番ボタルである。その周囲でも光始める。オーケストラのチューニングのようだ。10分後には飛翔が始まり、いよいよシンフォニーの壮大な響きの幕開けである。滝の周りを飛ぶ個体も出始め、様々なメロディーを奏でていく。和良のゲンジボタルは、マーラーやブルックナーの交響曲を感じさせるが、ここのホタルはモーツァルトの優しい響きである。
観察をしていると多くの事に気が付く。この生息地のゲンジボタルは西日本型で、集団同期明滅はおよそ2秒間隔であるが、同期明滅していない時の個体の発光している時間が長い。発光飛翔中もそうだが、地面で発光しているメスと思われる(オスの場合もある)個体に近づく時や近づいた個体の周囲ではずっと光り続けている。また、飛翔中のオス同士が近づいた時は、2頭が光り続けながら1頭がもう1頭を追いかけるような場面もあった。写真上の写りは、きれいな線状の光跡となるが、光り続けた場面の写りは光跡が長くなっている。この様子は、他の生息地ではあまり見られない。この生息地の特徴の1つである。
この生息地は深い谷であるため、渓流のすぐ上を飛翔する個体は少なく、多くが流れの上空5mから30mのところをゆっくりと飛び交う。流れ出る部分以外は岩で囲まれている滝では、その空間全体を飛び交うが、滝に近づきすぎると滝風に巻き込まれて滝つぼまで一気に落下する個体も多い。滝つぼでしばらく流されると、またそこから元気に飛び立つが、特に強い光を発していた。滝に舞うホタルならではの光景である。
生息域全体では100頭ほどの発生で、滝周辺では20~30頭が発光飛翔していた。訪れた時が発生のピークであると思われる。和良蛍のような圧巻な光景ではないが、踊るような展開部から静かなコーダとともに滝に舞うホタルは光り終えた。
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