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ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

滝に舞うホタル

2025-07-01 16:14:16 | ゲンジボタル

 滝に舞うホタル(ゲンジボタル)の様子を紹介したいと思う。

 深い谷の最奥にある滝は、鬱蒼とした木々に覆われた崖に囲まれ、その姿はなかなかの迫力である。この滝から下流600mほどの間、山深い真っ暗な深い谷にゲンジボタルが舞い、幽玄の雰囲気を漂わせる。
 このゲンジボタル生息地は、2019年の台風19号の影響によって大きな被害を受け、翌年の発生は激減してしまい、滝周辺では2頭のオスが見られただけであった。しかしながら、毎年少しづつ増え始め、3年後の2022年では10頭以上に、そして5年経過した昨年は40頭を超えるゲンジボタルが舞うまでに回復した。今年も、発生状況を確認するために訪れてみた。
 例年の発生ピークは7月上旬だが、今年は6月に梅雨入りしてからほとんど雨が降っておらず、気温も記録的な暑さである。6月21日に訪れた岐阜県の和良町での今年の発生は、急激に発生数が増え、またピーク時はここ8年で最も多かったという。羽化と気象条件や発生時の月齢など、様々な要因が関係しているが、この生息地はどうだろうか。知人T氏から6月22日に発生を確認したと連絡があり、1週間後が発生のピークであろうとの予測と私の都合から28日と30日に行くことにした。
  現地には17時半過ぎから待機。この日の最高気温は33.8℃であったが、ここは山奥の源流。標高はおよそ300mだが、滝つぼ周辺は24℃。マイナスイオンたっぷりで快適ではあるが、常に吹き付ける滝風は肌寒いくらいである。

滝風を 浴びて思いを 巡らせて 山奥深く 一人佇む

 日の入りは19時2分。ゲンジボタルが光始めるまでは2時間ほどある。長い。周囲の環境調査などは以前の訪問時に済ませているので、カメラをセットしたら、ただひたすら待つだけである。ただし、ボーっと待つ時間ではない。ゲンジボタルはどこで光始めるのか、どこをどんな風に舞うのかを予想しイメージしたりすることも楽しい。素晴らしい光景は、まずは自分の目で見て感覚を研ぎ澄まし、五感で感じて記憶と心に焼き付ける作業が必要だ。感動は、その瞬間でしか味わえないのである。
  日の入りを過ぎ、周囲に暗さを感じてきた19時20分。滝より下流の茂みの中で1頭のゲンジボタルが発光を始めた。1番ボタルである。その周囲でも光始める。オーケストラのチューニングのようだ。10分後には飛翔が始まり、いよいよシンフォニーの壮大な響きの幕開けである。滝の周りを飛ぶ個体も出始め、様々なメロディーを奏でていく。和良のゲンジボタルは、マーラーやブルックナーの交響曲を感じさせるが、ここのホタルはモーツァルトの優しい響きである。

 観察をしていると多くの事に気が付く。この生息地のゲンジボタルは西日本型で、集団同期明滅はおよそ2秒間隔であるが、同期明滅していない時の個体の発光している時間が長い。発光飛翔中もそうだが、地面で発光しているメスと思われる(オスの場合もある)個体に近づく時や近づいた個体の周囲ではずっと光り続けている。また、飛翔中のオス同士が近づいた時は、2頭が光り続けながら1頭がもう1頭を追いかけるような場面もあった。写真上の写りは、きれいな線状の光跡となるが、光り続けた場面の写りは光跡が長くなっている。この様子は、他の生息地ではあまり見られない。この生息地の特徴の1つである。
  この生息地は深い谷であるため、渓流のすぐ上を飛翔する個体は少なく、多くが流れの上空5mから30mのところをゆっくりと飛び交う。流れ出る部分以外は岩で囲まれている滝では、その空間全体を飛び交うが、滝に近づきすぎると滝風に巻き込まれて滝つぼまで一気に落下する個体も多い。滝つぼでしばらく流されると、またそこから元気に飛び立つが、特に強い光を発していた。滝に舞うホタルならではの光景である。
 生息域全体では100頭ほどの発生で、滝周辺では20~30頭が発光飛翔していた。訪れた時が発生のピークであると思われる。和良蛍のような圧巻な光景ではないが、踊るような展開部から静かなコーダとともに滝に舞うホタルは光り終えた。

関連観察記事:滝とホタル

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画は 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

滝に舞うホタルの写真
滝に舞うホタル
Canon 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F2.8 20秒 ISO 640 3分相当の多重(撮影日:2025.6.30)
滝に舞うホタルの写真
滝に舞うホタル
Canon 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F1.4 15秒 ISO 400 3分相当の多重(撮影日:2025.6.30)
滝に舞うホタルの写真
滝に舞うホタル
Canon 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F2.8 20秒 ISO 640 3分相当の多重(撮影日:2025.6.30)
滝に舞うホタル
(動画の再生ボタンをクリックした後、設定設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンに しますと高画質でご覧いただけます)
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鬼谷川のホタル

2025-06-24 11:32:11 | ゲンジボタル

鬼谷川のホタル ~岐阜県郡上市和良町~

 ここ数年、毎年訪れている岐阜県郡上市和良町へ、今年もゲンジボタルの観察と撮影に行ってきた。ただし今回は、いつもの場所ではなく、これまで訪れたことがない鬼谷川(おんだにがわ)の上流域に行くことにした。

 6月20日は仕事で、勤務は翌朝4時まで。朝5時に帰宅し出発前まで仮眠しようとしたが、結局寝られず、10時半に郡上市和良町を目指して出発。中央自動車道の国立府中ICから入って中津川ICで降り、和良町の道の駅には15時半に到着。「和良蛍を守る会」のM氏に案内していただき現場へ移動。ゲンジボタルの生息の状況や飛翔の様子、周辺環境などを聞いた。M氏のご自宅にてご馳走を頂き、しばし休憩。18時半よりセッティングを開始し日没を待った。
 鬼谷川には、下流域から上流域まで数キロにわたってゲンジボタルが生息しているが、山間部を蛇行しながら流れているので、ホタルの観察場所は限られる。今回の場所は、鬼谷川を橋の上から見下ろすロケーションで、時折、特別天然記念物であるオオサンショウウオも見られるという。東側(写真右側)はスギの大木で覆われた山林が迫っており、深い谷になっている。川幅は岸も含めて30mほどあり、東日本のゲンジボタルの生息環境とは違ってスケールの大きさを感じる。
 日の入りは19時12分。天候は薄曇りで無風。月齢25の三日月は深夜まで昇ってこない。気温23度で、まさにホタル日和。素晴らしいことに「和良蛍を守る会」の会員の方が、ホタルの発生期間中の発光活動(求愛活動)の間だけ、道路に設置している街灯を消してくれることである。そのお陰で、沢には光害は一切なく、1頭目が発光を始めたのは杉林の中で19時45分であった。すぐにあちこちで発光する個体が増え始め、20時頃から発光飛翔が始まった。
 20時半頃になるとカメラを向けた方向の見える範囲でおよそ30~40頭が発光飛翔し、見事な2秒間隔の集団同期明滅が見られた。ロケーション的にホタルの飛翔範囲が三次元的で、目の前の空間の上下左右、手前から奥までゲンジボタルの光が見えるのだが、いつも訪れる場所もそうで、山林側のゲンジボタルのオスは飛翔の移動距離が短い。発光間隔と発光時間そのものが短いので、一見動いていないようにも見える。これは和良蛍の大きな特徴の1つであり、その様子は、動画を見るとよく分かる。
 今回訪れた場所では、自然環境全体の様子が分かり、そのスケールの大きさを表現するために焦点距離29mmの広角で写真を撮影し、動画は80mmで一部を切り取る感じで撮影した。どちらも、あくまで「記録」であり、生態系豊かな素晴らしいロケーションで見たあの感動は、実際に目で見る以外には味わえない。
  昨今、ホタルの写真を撮る方が多いが「撮ることが優先。見ることは後回し」となりがちである。 感動は、その瞬間でしか味わえないが、撮ることに一生懸命で、自分の目で見ない方々が多い。カメラマンの中には、撮影はカメラに任せて自動でシャッターを切るようにし、その間はホタルを見ないのである。撮影後は、自宅に戻ってから撮った数百枚のカットをパソコンで処理して1枚の写真を作り上げればよいから、離れた場所で仲間同士で会話を楽しんでいたりする者もいる。素晴らしい光景は、まずは自分の目で見て感覚を研ぎ澄まし、五感で感じて記憶と心に焼き付けなければ、感動は生まれないし、カメラだけが写した写真に、感動はない。

 21時を過ぎると、発光するゲンジボタルの数が減ってきたため、21時半頃にいつもの場所へ移動した。相変わらず遅い時間というのに発光飛翔するゲンジボタルが多く、川面に映る光で2倍の光が見え圧巻である。見える範囲だけでも数百頭はいるだろう。観察地全体では数千頭が発光し乱舞している。毎回疑問に思うのは、これだけの数のゲンジボタルが毎年発生するにも関わらず、カワニナが大変少ないことである。幼虫はミミズや水生昆虫の幼虫なども食べることが分かっているが、和良においては、実際に河川において何を食べているのかは観察されていない。数万頭の幼虫の成長を支える餌は何なのか?今後の保全のためにも解明が必要である。
 今回はゲンジボタルと天の川を一緒に撮ることも目的であったが、残念ながら雲で天の川が見えず叶わなかった。22時を過ぎると、メスのゲンジボタルが産卵場所を探しながら直線的に、しかも早いスピードで発光飛翔する様子が多く見られるようになったので、その様子を撮影。(写真3)天の川とゲンジボタルの光景は今後の課題として、現地を23時に引き上げることにした。
  中央自動車道中津川ICまでは平気であったが、やはり中央道に入ってからは睡魔との闘い。40時間ほど寝ていないので当然と言えば当然。途中のSAで二回ほど仮眠して6時に帰宅した。

関連記事:岐阜県郡上市の和良蛍

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鬼谷川のホタルの写真
鬼谷川のホタル
Canon 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F2.8 30秒 ISO 1600 5分相当の多重(撮影地:岐阜県郡上市和良町 2025.6.21)
鬼谷川のホタルの写真
鬼谷川のホタル
Canon 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F2.8 30秒 ISO 1600 10分相当の多重(撮影地:岐阜県郡上市和良町 2025.6.21)
ゲンジボタルの写真
鬼谷川のゲンジボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 ISO 1600 10分相当の多重(撮影地:岐阜県郡上市和良町 2025.6.21)
和良蛍の写真
和良蛍
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 60秒 ISO 3200(撮影地:岐阜県郡上市和良町 2025.6.21)
和良蛍(メスの発光飛翔)の写真
和良蛍(メスの発光飛翔)
Canon 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F2.8 30秒 ISO 2500(撮影地:岐阜県郡上市和良町 2025.6.21 22:21)
和良蛍の写真
和良蛍
Canon 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F2.8 30秒 ISO 2000(撮影地:岐阜県郡上市和良町 2025.6.21 21:45)
鬼谷川のホタル ~岐阜県郡上市和良町~
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ゲンジボタル 西日本型と東日本型の違い

2025-05-17 14:18:23 | ゲンジボタル

ゲンジボタルの西日本型と東日本型の違いを写真と映像で比較

 すでに九州南部や四国の高知県ではゲンジボタルが発生し、今年2025年もホタルの季節が始まった。知人によれば、高知県では発生が遅れているようであり、冬季の渇水や3~4月の低温の影響などが原因として考えられ、今後の発生状況が心配ではあるが、全国的には、これから徐々に発生が北上し、今月上旬に幼虫の上陸を観察した東京の生息地では、順調ならば6月20日前後には多くのゲンジボタルが舞うだろう。
 さて、ゲンジボタルは、遺伝子の違いにより中部山岳地帯(フォッサマグナ)を境に西日本型と東日本型に分けることができる。この2つの型は発光間隔が異なっており、特にメスを探している時のオスの発光パターンは明瞭で、気温20℃の時の同期明滅の間隔は西日本は2秒、東日本では4秒と異なっている。また、発光間隔だけでなく、飛翔の仕方、幼虫上陸や産卵の集団性、更には生息環境にも大きな違いが見られる。西日本型のゲンジボタルは、小中河川から幅100mもある大きな河川にも生息し発生数が桁違いに多いが、東日本型は小中河川にも生息するが、大半は里山の谷戸の小さな流れに生息していることが多く、環境の規模に応じた発生数である。
 昨今では、東日本において、かつてホタル復活のための方策として人為的に大量に移入した西日本型のゲンジボタルが、その生態的特徴を持ったまま定着している場所が多い。本来、東日本型ゲンジボタルが生息しない渓流などで乱舞しているが、別種とも言えるほど発光や生息環境が異なった東日本型のゲンジボタルは、里山の放棄や放置等の環境悪化、農薬散布により激減している生息地が多い。
  どんな生物でも「分布域」というものがあり、これは自然の摂理によって定められている。そして分布域には、生物地理学上生じた「地域固有性」がある。以下には、ゲンジボタルの西日本型と東日本型の違いを写真と映像で比較してみた。写真では、生息環境と発光飛翔の様子が、映像では発光間隔の違いが分かる。その差は歴然である。私たちは、それぞれの特徴を理解した上で、地域固有種が生息しているならば、それを守ることに努力しなければならない。
  このブログをご覧の皆さんも、地元のゲンジボタルが何型なのか観察し、保全していただきたいと思う。

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東日本型ゲンジボタルの写真
東日本型ゲンジボタルの生息環境と発光飛翔の様子(千葉県)
東日本型ゲンジボタルの写真
東日本型ゲンジボタルの生息環境と発光飛翔の様子(千葉県)
東日本型ゲンジボタルの写真
東日本型ゲンジボタルの生息環境と発光飛翔の様子(千葉県)
西日本型ゲンジボタルの写真
西日本型ゲンジボタルの生息環境と発光飛翔の様子(高知県)
西日本型ゲンジボタルの写真
西日本型ゲンジボタルの生息環境と発光飛翔の様子(岐阜県)
西日本型ゲンジボタルの写真
西日本型ゲンジボタルの生息環境と発光飛翔の様子(高知県)
西日本型ゲンジボタルの写真
西日本型ゲンジボタルの生息環境と発光飛翔の様子(東京都)
西は2秒で東4秒 ホタルの光り方の違い
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ゲンジボタルの幼虫上陸(東京2025)

2025-05-08 11:17:08 | ゲンジボタル

 ゲンジボタルの幼虫上陸の様子を観察し記録撮影を行ってきた。

 ゲンジボタルは、九州の鹿児島などではすでに成虫が飛んでいるが、東京都の山間部ではゴールデンウイーク頃が、毎年、幼虫上陸の時期になっている。千葉県の房総では4月上旬が上陸時期なので、同じ関東でも房総に比べて気温が低い東京の山間部は一か月ほど遅い上陸である。今年の上陸初見日は、知人T氏によれば4月24日に1頭、28日には15頭前後の上陸が20時頃に確認されている。そこで幼虫が上陸する条件と私の休日が合致した5月2日および6日に観察と撮影を行った。ちなみに、この生息地のゲンジボタルは西日本型であり、幼虫の上陸行動にも集団性が見られる。
 5月2日は、昼頃から雨が降りだし、夕方には1時間に10mmを超える豪雨が3時間ほど続いた。気温は15℃。18時から観察を開始したが、時間とともに河川の水位が上がり始め増水状態。上陸する幼虫は川岸近くに集まっているので、流された個体は少ないと思われるが、短時間に増水したため幼虫の待機場所が深いところとなってしまったのだろう、上陸を開始する個体は少なく、見渡せる範囲で10頭ほどであった。カメラを向けた方向では5頭を確認した。(写真1)
  雨は21時頃には止み、星も見え始めた。22時近くになり、幼虫の上陸数が増えないことから、この日は撤収することにした。

 続いて5月6日。朝から小雨が降り続き、昼からは本降りに。現地に到着した17時に雨は止んでしまったが、2日のような豪雨ではなかったため、増水はなく流れも澄んでおり、川岸や岩などは十分に濡れた状態を保っていた。気温は14℃。湿度は100%。上陸初日ではないから、雨が止んでもこの様子ならば上陸をしてくれるだろうとの予測の元、カメラをセットした。
 この生息地は、かなりの広範囲において様々な場所でゲンジボタルの幼虫が上陸をする。観察と撮影で一番大切なことは、上陸して蛹になる場所を踏み荒らさないこと、水際にいる幼虫を踏まないことである。観察も撮影も、それらを考慮しなければならない。
 19時4分。河川の中州で発光する1頭の幼虫を確認。次第に発光しながら上陸する幼虫が増え始めた。この日は、主に二か所でまとまった数の上陸が見られた。見渡せる範囲で30頭以上を確認したが、昨年撮影した崖の部分では1頭も見られなかった。おそらく2日の増水で水際にて待機していた幼虫が流されてしまったのだろう。
 カメラを向けていた場所では、時間の経過とともに次々に上陸を開始する幼虫が見られたが、22時頃になると雲が薄くなり、月齢8.3の明るい半月が真上に輝くようになってしまった。川岸は一気に明るくなり、私自身の影ができるほどである。幼虫たちは発光を止め、上陸も停滞。成虫だけでなく、幼虫も明かりが苦手なのである。基本的には、天気が悪い時間帯に上陸するから月明りの影響はないが、もし家の明かりや街灯の明かりがあれば、照らされる部分では上陸は行われない。
  22時を過ぎた時点で月がでなければ、幼虫の上陸は継続して行われたであろうし、雨も止むことがなければ、もっと多くの幼虫が上陸したに違いない。そのような状況ならば朝まで観察と撮影を続けたかったが、残念ながらこの日は22時半で撤収することにした。

 2枚目の写真は6日に撮影したもので、およそ3時間の多重である。これは、3時間の間に光りながら動き回ったゲンジボタルの幼虫の光跡が写っている。どの幼虫も同じようなルートを辿って陸地に向かっていることが分かる。写真では分からないが、前を進む幼虫の光を追いかけるように上陸する幼虫が多い。また、多くの光跡(幼虫)が右側の陸地へ向かっているように見えるが、実際は、Uターンして水中へ戻る幼虫もいた。雨が降っていなかったことから上陸をあきらめたものと思われる。これらが分かるように、タイムラプス動画も作成した。動画は、180倍速になっている。勿論、実際の動きはこんなに早くはない。

 6日は徹夜勤務明けで、朝に帰宅してから仮眠せずに生息地へ行ったため、少々ふらふら状態。川原で2回転倒して2回とも両ひざを岩に強打し真っ赤にはれ上がってしまった。痛みをこらえて車を運転して帰宅。二日経って何とか歩けるようになったが、屈伸は苦痛である。

参考:ゲンジボタルの幼虫上陸(東京2024)

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ゲンジボタルの幼虫上陸の写真
ゲンジボタルの幼虫上陸
Canon 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F4.0 30秒 ISO 4000 約1.5時間の多重(撮影地:東京都 2025.5.2 20:33~21:59)
ゲンジボタルの幼虫上陸の写真
ゲンジボタルの幼虫上陸
Canon 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F4.0 30秒 ISO 4000 約3時間の多重(撮影地:東京都 2025.5.6 19:24~22:25)
ゲンジボタルの幼虫上陸(東京2025)
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ホタルの谷(東京)

2024-07-09 11:00:43 | ゲンジボタル

 ホタルの谷は、東京都内にもある。そういった名前の場所があるわけではなく、私が勝手にそう呼んでいるだけだが、多摩西部の標高約300mの山間部にある。吸い込まれそうな細い深谷の底を流れる渓流にゲンジボタルが生息しているのである。
 多摩地域は、2019年10月12日に通過した台風19号が1日で550mmを超える大雨を降らし、川は濁流と化した。10月一か月の平年降水量が200mm前後であるから、たった1日でそれを大きく上回る雨が降ったのである。これにより、各地で大きな被害が出たが、多摩西部の渓流に生息するゲンジボタルの幼虫やカワニナの多くが流され、翌2020年の発生は激減し、わずか数頭しか飛ばなかった。2022年7月4日に訪れた際は、5~6頭が飛翔しており復活の兆しが見え始めていた。そこで今年、7月2日と4日に様子を見に行ったところ、両日ともに40頭を超えるゲンジボタルが飛翔しており、ようやく回復したと言えるだろう。
 大雨や台風などによる増水は、長い歴史の中で何度も起こっている。そのたびに多くの幼虫たちが流されるが、決して絶滅はしない。それは、ゲンジボタルは1年で成虫になる個体の他、2年から4年かかって成虫になる個体もいるからである。小さな幼虫ほどわずかな隙間に隠れて、かなりの水量でも流されることはない。もし、すべての幼虫が揃って成長したならば、一気に流されてしまう可能性が高いが、成長をずらすことで生き残る確率が高くなる。環境変化の大きい河川において生き残りの戦略の1つであると言える。

 ホタルの谷には、中腹に幅2mほどの林道があり、奥まで進むと川原まで降りることができる。岸の両側は、急斜面の杉林が迫っており、見上げて見える空は狭い。その川原に17時半から待機した。
 都心は猛暑日となったが、さすがにこの谷は涼しい。18時半頃では25度を下回り、まくっていた長袖シャツの袖を下した。次第に暗くなると、こんな谷底の渓流に一人では心細く、しきりに周囲を見渡しながらひたすら待つ。すると19時半。1頭が光り始め、2分後には急にその数が増え、20時を過ぎた頃には40頭を超えるゲンジボタルが発光飛翔を繰り返した。奥の小さな滝の上は木々が川まで迫っているので、周囲より一段と暗くなっているため、その場所で飛び交う個体が多いが、しばしば、上流から下流へ、下流から上流へと行き来もする。時折、川面から2mほどの高さを飛ぶ個体もいるが、ほとんどが10m以上の高い所を飛び交っている。
 観賞するには、谷底から星を見るように見上げるのが一番である。このようなホタルの谷は、東京都内では数少ない。

 ホタルの谷においては、写真と動画を撮影し、2024年現在におけるゲンジボタルの発生状況と周辺環境の記録を残すことができた。写真は縦構図と横構図のもの、そして谷底から見上げて星と一緒に撮ったものを掲載した。撮影は19時半から21時まで行っているが、90分間に撮ったカットをすべて比較明合成することはしていない。動画においては、オスたちの集団同期明滅の様子を捉えているので、ご覧頂くと西日本型ゲンジボタルであることが分かる。
 当地は、保護も保全もされていない全くの自然発生地であるが、50年ほど前に西日本型ゲンジボタルは放された経緯があり、そのホタルが定着している。このような個所は近隣にいくつかある。ゲンジボタルの遺伝子は、西日本と東日本で明確に異なっているが、それが分かったのは今から25年程前である。当時はどのゲンジボタルも一緒と思われていたので仕方がない。今となっては、東京都内に生息している東日本型のゲンジボタルが絶滅しないように守るしかなく、そのために環境保全や交雑を防ぐ手立てが必要だが、今日でも、兵庫県等の養殖業者から購入して放ち、ホタル祭りを行っている自治会などがあるというから悲しくなる。
 そもそも東日本型ゲンジボタルは、ホタルの谷のような山間部の深谷には生息していない。里山の河川中流域や谷戸の細い流れなどに生息している。しかしながら、そうした場所は開発や耕作放棄で荒れ果て、あるいは農薬の散布で一気に死滅し、一部を除いてかつての光景はほとんど見られない状況である。東日本型ゲンジボタルが生息する里山環境を保全するよりも、人が手を入れなくて済む手間のかからない場所に飛んでくれれば、そんな楽なことはない。西日本型ゲンジボタルの生息環境ならば、産卵数が多いからカワニナなどがいれば適応が早く、定着するのも自然災害からの復活も早い。今、ゲンジボタルが見られるホタルの谷をはじめ、玉川上水や野川なども、皆、西日本型ゲンジボタルである。
 勿論、放たれた西日本型ゲンジボタルに罪はなく、乱舞する様子は素晴らしく美しい。定着しているならば、現状を保全する価値はある。しかしながら、東京都内において本来あるべき光景も忘れてはならない。観賞だけのために養殖され放された料亭やホタルの庭園のホタルを見て楽しんでいる間にも、八王子市川町の谷戸に舞うゲンジボタルとヘイケボタルは、今尚、開発の危機にさらされている。あきる野市の里山「横沢入り」も、保全が不十分なために20年前の1/10以下にまで発生数が減少したままである。江戸時代に庶民の間で夏の風物詩として行われていた「蛍狩り」の光景は面影すらなく、戻ることはないが、自然を壊す一方で違う環境を作ってもいる。我々のDNAに刻み込まれた文化さえもすり替えようとしているように感じてしまう。
 里山の環境保全や再生、文化の問題だけではなく、昨今のゲリラ雷雨や猛暑酷暑の連続という異常気象。地球規模で起きている異変は深刻である。我々は、今まさに何が何でも越えなければならない「深谷」に直面しているが、一人谷底で嘆いても天には届かない。

以下の掲載写真は、縦構図は683×1024ピクセルで、横構図は1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画は 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ホタルの谷の写真
ホタルの谷
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 20秒 ISO 1600 1分相当の多重 焦点距離30mm(撮影地:東京都 2024.07.04 20:07~20:08)
ホタルの谷の写真
ホタルの谷
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 20秒 ISO 1600 4分相当の多重 焦点距離30mm(撮影地:東京都 2024.07.04 20:07~20:11)
ホタルの谷の写真
ホタルの谷
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 20秒 ISO 1250 8分相当の多重 焦点距離約27mm(35mm換算)(撮影地:東京都 2024.07.02 19:56~20:04)
ホタルの谷の写真
ホタルの谷(谷底から見上げて)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 2000 4分相当の多重 焦点距離30mm(撮影地:東京都 2024.07.04 20:51~20:55)
ホタルの谷(東京)
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岐阜県郡上市の和良蛍

2024-06-20 12:13:44 | ゲンジボタル

 岐阜県郡上市の和良蛍を、今年も観察し、写真と動画を撮影してきた。和良町は、和良川や鬼谷川などに国の特別天然記念物に指定されているオオサンショウウオが生息していることで有名だが、ゲンジボタルも見ることができる。地元では和良蛍と呼んでおり、おそらく本州一の発生数であろう。
 鬼谷川の東野地区では、およそ1kmにわたって1,000頭以上のゲンジボタルが乱舞し、2つの違った景観を見ることができる。1つは、ファブリダムによって流れが穏やかになる場所では、平面的ではあるが対岸で乱舞するゲンジボタルの光が水面に映り、光の数が2倍になって見える。一方、川の蛇行を正面から見る下流の場所では、ゲンジボタルの舞いが立体的に見えるのである。どちらも西日本型ゲンジボタル特有の2秒間隔の発光で、一斉に集団同期明滅する様は圧巻である。

 和良町には一昨年と昨年の6月に成虫の飛翔写真と動画を撮影(参照:郡上和良のホタル)、昨年の12月はホタル勉強会の講師として招かれ、今年の4月には幼虫の上陸観察で訪れている。私がこの場所に惹かれた理由は、まったくの自然発生地で乱舞を見ることができるということもそうだが、毎年多くのゲンジボタルが発生する理由が知りたいのである。興味深いことに、幼虫のエサとなるカワニナが非常に少ない。おそらく数十億匹いるだろう幼虫の成長を支えるだけのカワニナがいないのである。富山県ではミミズを食べている様子が観察されているので、カワニナ以外のものを食べている可能性は高いが、それが何かは分かっていない。また、発光飛翔の時間が長いことも挙げられる。午前0時近くまでオスが飛びまわっているのである。こうした素晴らしい場所を、今後も保全したく地元の「守る会」の皆さんに微力ながら協力もしたいとの思いもあり通っている。
 先に記したが、4月には幼虫の上陸観察で訪れている。上陸場所を保全するためには、どこに上陸し潜土するのか確かめなければならない。西日本型であるから、数百という幼虫が集団で上陸することを期待し、上陸条件が合致する日に行ってみたが、何と観察できたのはわずか2頭。もしかしたら今年の発生は極端に少ないのではないかという懸念があったが、成虫の発生は、現地の「守る会」の観察結果を頻繁にお知らせ頂いており、昨年に比べて発生初日が数日早く5月30日に7頭が飛び始め、6月5日では100頭を超え、順調に数が増えているとのこと。実際に6月10日と17日、いずれも月曜日に訪れてみると、いったい、いつどこにこれだけの幼虫が上陸したのだろう!?と不思議に思える程の成虫が発生していた。
 まず6月10日はファブリダム付近で観察を行った。気温21度でくもり。17時半頃から待機したが、残念なことに護岸より上の乱舞する場所の草が綺麗に刈られてしまっていた。自治会が行ったそうだが、これではメスの居場所がない。19時40分から発光が始まり、20時を超えた頃には約200頭が発光飛翔したが、昨年よりも数が少なく、21時を待たずに終息傾向になってしまった。その後下流に移動すると、そちらは両岸と中洲に草が茂っていて、多くの数が発光飛翔しており、21時半になっても減ることはなかった。
 翌週の17日は、15時から産卵しそうな場所など周囲の環境を見て回り、17時から下流の場所で待機した。天気予報では21時から雨であったが、18時ころからぽつぽつと降り始め、19時には本降りの雨となってしまったが、ゲンジボタルは、19時半から発光を始めた。気温は18度で肌寒いが、発光数は少しずつ増え、20時頃には見渡せる範囲だけで500頭を超えるゲンジボタルの乱舞が見られた。晴れていれば、月齢10.6の半月よりも大きな月明かりが、南の空40度の高さに輝くので、ここまで乱舞することはなかったであろう。飛翔中に雨粒に打たれて落下する個体もいたが、本降りの雨でも何ら変わらず飛び回るオスたちの行動には、子孫を残したいと言う本能が強く感じられた。

 以下には、写真5枚と動画を掲載した。動画は、3年間で撮影した記録を編集した。岐阜県郡上市の和良蛍の魅力が伝わるものになっていると思う。
 写真1~3枚目は、17日に下流付近撮影したもので、時系列的に発光飛翔が増えている様子を表している。4枚目は10日にファブリダム付近で撮ったもの、そして5枚目は、国道256号線および県道329号線を通る車のライトが生息域をなめるように照らしている様子を写したものである。
 車は、地元の方々の生活の為であるから仕方のないことだが、平日で20時から21時で20台ほどが通過する。川面よりかなり高い位置を照らすことと、四六時中ではないことが救いであるが、週末ではホタル観賞に来られた車が加わるから大変な光害となることが想像できる。写真から、平日であってもどれだけ酷い光害であるかは分かっていただけるだろう。光が当たるたびに発光をやめてしまう。
 ゲンジボタルの発光飛翔の時間帯は、概ね21時を過ぎると一旦終息するが、この和良蛍は、23時を過ぎてもオスが活発に飛翔している。深夜になるほど車の通行量が減ることとも関係しているのかもしれない。例を挙げれば、都内のあるホテルの庭園にいるヘイケボタルは、客室の灯りが消える23時頃から発光を始める。和良町において、4月に2頭しか確認できなかった幼虫の上陸も、深夜に行われているのかもしれない。

 これまでの観察結果を踏まえて、岐阜県郡上市の和良蛍を守る上での重要な課題をいくつか挙げてみた。

  • 産卵場所の調査
  • 幼虫の食べ物調査(カワニナが他地域に比べて極端に少ない)
  • 幼虫の上陸場所の調査(どこに潜土するのか、上陸時間と光害の関係)
  • 草刈の時期の検討
  • 光害対策(車のライト及び観賞者の懐中電灯)

 近年では、日本各地において台風及び線状降水帯による大雨と洪水によって、ゲンジボタルの生息地も大きな被害を受けている中、岐阜県郡上市の和良蛍は、ここ数年、毎年コンスタントに数千頭が乱舞している。環境や生態系が豊かなだけではなく、地形や川の形状等の物理的特性やゲンジボタルの生態の地域特性もあろう。登録云々に関わらず、ここは「自然遺産」であり「天然記念物」であると思う。上記の事柄を調査し対策を立て、この貴重な場所を今後とも存続させなけれならない。私も、協力は惜しまない。

以下の掲載写真は、横位置は1920×1280ピクセルで、縦位置は683×1024ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画は 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂き、暗い部屋でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

岐阜県郡上市和良町のゲンジボタルの写真
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 10秒 ISO 400 2分相当の多重(撮影地:岐阜県郡上市 2024.06.17)
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタルの写真
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 1000 1分相当の多重(撮影地:岐阜県郡上市 2024.06.17)
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタルの写真
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 1600 7分相当の多重(撮影地:岐阜県郡上市 2024.06.17)
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタルの写真
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 20秒 ISO 400 6分相当の多重(撮影地:岐阜県郡上市 2024.06.10)
ゲンジボタル生息地における光害写真
ゲンジボタル生息地における光害
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 1600(撮影地:岐阜県郡上市 2024.06.17 20:09)
岐阜県郡上市和良町のゲンジボタル
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野川に生きるホタル

2024-06-01 21:02:04 | ゲンジボタル

 野川に生きるホタルを今年も観察し、写真と動画を撮ってきた。水面に光が映る様子を残すという目的は達成できた。

 野川は、東京都調布市、小金井市、三鷹市にまたがる都立野川公園の北地区を流れており、ゲンジボタルが生息している。元々は、隣接する野川公園自然観察園内で発生していたが、今ではホタル自ら生息範囲を広げて野川の本流でも発生するようになった。野川は、冬季に渇水することがあるが、年々、ゲンジボタルの生息に不可欠な物理的環境が整い、ゲンジボタルの飛翔数も増加している。西日本型のゲンジボタルではあるが、優雅な光景に心から癒される。
 私の自宅から車で20分ほどで行ける場所で、昨年は5月28日に訪れた。今年は29日に訪れたが、すでに発生のピークに達していた。野川のゲンジボタルは、発生が都内で一番早い自然発生地の1つであり、例年5月下旬に見頃を迎える。4月16日のブログ記事「ほたる出現予想(2024)」で、当地の発生予想として、出現開始日を5月29日、ピーク日を6月7日としたが、これが大ハズレ。野川自然観察園ボランティア有志の皆さんによる調査では、5月10日に1頭の飛翔を確認されており、5月24日には、ピークに達したようである。
 調査によれば、年々、発生が早くなっている。これは上陸後の気温が毎年高くなっていることで、羽化までの期間が短くなっているのであるが、それだけではない。「ほたる出現予想(2024)」の記事で、まだ上陸が行われていないと書いたが、実は上陸条件が合致した3月28日29日、4月9日に上陸が行われていたようなのである。それならば、5月中頃に多くが発生するのも、うなずける。東京の多摩西部では、ブログ5月15日の記事「ゲンジボタルの幼虫上陸(東京)」に記述したように4月下旬頃からGW期間あたりが上陸時期であるが、都心に近い野川は、それよりも一か月早いのである。千葉県では、やはり3月下旬から4月上旬に上陸するから不思議ではない。

 さて、今年も野川のゲンジボタルについて、観察は勿論の事、写真と動画も撮影してきた。気温21度、晴れで微風。月明かりはなし。野川公園の駐車場に車を止めて、徒歩5~6分の野川に18時から待機。川岸に生える桑の木を下から覗くと、あちこちの葉裏にオスのゲンジボタルの成虫が止まっている。また足元の草むらもよく探せば止まっている個体を見つけることができる。
 その後、19時近くなると葉の上にいた個体が静かに発光を始めた。明滅ではなく弱い光を放ち続けるという発光である。19時半になると発光飛翔が始まり、20時を過ぎると発光飛翔の個体数もかなり増えた。今回は前回と違う、流れがとても穏やかな場所にカメラを設置した。水面に光が映る様子を残すことが目的である。写真では分かりにくいが、動画では光が移動するので水鏡になっていることが分かると思う。

 今年も昨年同様に平日に訪れたので、鑑賞者は思ったほど多くはなかった。ここは広い遊歩道もあり夜でも真っ暗ではない。それでも懐中電灯をホタルに向けたり、スマホの明かりを向ける方がいるのは残念だ。その他、年配のグループが多かったのが印象的で、ご婦人方が歓声を上げると男性は幾つになっても格好つけだがるものである。内容までは書かないが、知ったかぶりとマナー違反は恥ずかしい。また、家族連れも何組かおられたが、1組のお子さんが、片っ端からホタルを捕まえては虫かごに入れており、30頭以上が虫かごの中で光っていた。その子の気持ちはよく分かる。50年前の私もそうだったからである。もしかしたら、将来、ホタルの研究者になるかもしれないが、ここは優しく「帰る時に放してあげてね。」と言うしかなかった。ちなみに、少し離れた所で観賞していたご婦人からも同じ言葉をかけられていた。30歳代くらいの父親は、息子に対して「10日くらいしか生きられないのだから放してあげよう」と言ってくれていたのは嬉しい。ただし、今日初めて地上に出てきて飛び出した個体なら、運が良ければあと10日くらいは生きられるだろうが、すでに何日も飛び回っていた個体ばかりなら、家に持ち帰っても1日~2日の命だろう。それに、この短い命の中での一番の目的は、子孫を残すことである。雌雄がお互いの光によって出会いを果たし、無事に交尾を終えて産卵しなければ絶滅してしまうのである。このお子さんが30頭のオスを持って帰っただけでは絶滅することないが、100人のお子さんがそれぞれ持ち帰ったらどうだろう。翌年は、まだ同じように発生するが、毎年繰り返されれば5年で絶滅してしまうだろう。
 この野川は、まったくの自然発生である。養殖した幼虫を毎年放流するようなことはしていない。このように多くのゲンジボタルが舞うのは、豊かな自然環境が維持されているからに他ならない。カワニナと幼虫の放流に頼って、毎年それを繰り返しているだけの所は、放流を止めた途端にホタルは飛ばなくなってしまう。飛ばないことが怖くて放流を止められないのだ。幼虫を放流するならば、卵からふ化したばかりの1齢幼虫がよい。3月に上陸間際の大きな終齢幼虫を「元気に大きく育ってね」と放流する園児や小学生の姿が新聞やテレビで報道されるが、不思議でたまらない。

 野川に生きるホタルは、都心に近い所にも関わらず、ホタル自らが懸命に生きている姿を誰でも安心して観察したり観賞できる貴重な場所である。ホタルが舞う光景がいつまでも続くように、どの生息地でも訪れる方々におかれては、ホタルがなぜ光っているのかを理解して欲しい。曖昧な知識は間違いの選択肢を選ぶ一番の要因となってしまう。細かな生態は知らなくても、100の曖昧な知識より10の確実な知識を持って訪れて頂きたい。

昨年のブログ記事/野川のホタル

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画も 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ゲンジボタルの写真
ゲンジボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/30秒 ISO 5000(撮影地:東京都小金井市/野川 2024.05.29 18:54)
ゲンジボタルの飛翔風景の写真
ゲンジボタルの飛翔風景
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 5秒 ISO 400×1分相当の多重(撮影地:東京都小金井市/野川 2024.05.29 20:44~)
ゲンジボタルの飛翔風景の写真
ゲンジボタルの飛翔風景
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 10秒 ISO 400×約3分相当の多重(撮影地:東京都小金井市/野川 2024.05.29 20:12~)
野川に生きるホタル
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ゲンジボタルの幼虫上陸(東京2024)

2024-05-15 21:34:13 | ゲンジボタル

 ゲンジボタルの幼虫上陸の様子は、これまで各地で観察し撮影してきたが、今回、初めて東京都内のゲンジボタル生息地で観察し、写真に記録として残すことができたので掲載したいと思う。

 ゲンジボタルの幼虫は、およそ8か月から個体によっては3年8か月の水中生活を終え終齢に達すると、陸地で蛹になるために上陸をする。その時期は、全国各地の生息地ごとにおおよそ決まっており、その時期に達して以下に示した細かな基本的条件が合致した夜に上陸が行われる。(飼育して放流した幼虫は体内時計が狂っており、以下の条件とは関係なく上陸する場合がある。)

ゲンジボタルの幼虫上陸の基本的諸条件 
  • 日長時間が、12~13時間であること。
  • 上陸時の気温が、水温より高い、もしくは約10℃以上であること。
  • 降雨であること。(または降雨後で陸地が十分に濡れていること。)

 ゲンジボタルの幼虫上陸の観察は、基本的諸条件の合致もさることながら、これまでは私の休日とも重ならなければ行うことができず、なかなか十分な観察ができていなかった。そこで、秋までは時間を自由に使うことができる今年は、いつでも上陸の観察に行けるよう毎日天気予報をチェックしながらチャンスを待ち、上陸すると思われる日に出掛けた。
  4月と5月の訪問記録を列挙すると以下になるが、特に岐阜県では、6月中旬頃に数百という西日本型ゲンジボタルが乱舞するにも関わらず、観察できた上陸数が少なかった。現地の守る会による連日の観察でも、極少数の上陸個体しか見られていない。上陸場所が見えない場所なのか、観察していない深夜に多数が上陸しているのか、上陸条件の定説を覆すような特別な地域特性があるのか、あるいは、今年は上陸数が極端に少ないのか・・・はっきりしたことは分からないままである。

2024年のゲンジボタルの幼虫上陸の訪問記録 
  • 4/04 山梨県の生息地/気温15℃ 雨が降らず上陸なし
  • 4/21 岐阜県の生息地/気温13℃ 17時から小雨 上陸は3頭のみ(4/16に守る会が初上陸を確認)
  • 4/24 山梨県の生息地/気温15℃ 雨 上陸は1頭のみ
  • 5/01 東京都の生息地/気温11℃ 雨 見える範囲で100頭以上が上陸
  • 5/02 東京都の生息地/気温15℃ 朝から晴天で、新たな上陸個体はなし。昨夜の居残り個体が陸地の途中で発光
  • 5/07 東京都の生息地/気温14℃ 雨は朝だけで、新たな上陸個体は数頭のみ
  • 5/08 東京都の生息地/気温11℃ 雨 見える範囲で40頭以上が上陸
  • 5/13 東京都の生息地/気温17℃ 雨 見える範囲で20頭ほどが上陸

 今回、観察を行った東京都内の生息地は、山間部の渓流で生息域はおよそ5kmに及ぶ。上流域の発生地は点在で発生数も多くはないが、下流域はまとまって発生しており、毎年6月下旬頃になると多くのゲンジボタル(残念ながら西日本型)が舞い、その様子は、何度も通って写真と動画にも収めている。2019年の台風による記録的豪雨で2020年から発生が激減してしまったが、昨年からようやく復活の兆しが見え始めたので、今回は下流域の約300mにおいて集中的に観察を行い、撮影も行った。
 現地には、上記のように計5回訪れた。17時から待機し、上陸の時を待っていると、幼虫は、石組みの垂直護岸、砂利のなだらかな岸、淵からいきなり岩壁、早瀬の岩をいくつも乗り越えながら岸にたどり着くと言った様々な岸辺の物理的環境において上陸を行っていた。全体的に河川の南側の岸に上陸する幼虫が多いが、対岸の北側に上陸する幼虫も少なからず見られた。幼虫の生活場所から近い岸辺に上陸すると考えると、幼虫は、河川のある一部に集まっているのではなく、下流域の約300mの平瀬、早瀬、淵に分散して生息していると言える。
 降雨時における上陸の開始時間は、岸辺の樹木が河川まで覆いかぶさっている暗い場所では18時45分。そうでない場所では、その日の空の暗さで異なるが、概ね19時半頃からで、水中から出ると発光を始める。最初に1頭が発光を始めて上陸しだすと、次々に他の幼虫も上陸を始める。22時頃から上陸を始める幼虫もいるが、極少数であった。上陸の最中では、複数の幼虫の発光が同期することもあり、先を行く幼虫の後を追うように、離れた場所からルートを変更して同じ方向へと上って行く幼虫も見られた。
 水際から潜土できそうな場所までは最低でも5mあり、場所によっては10m以上もある。地域によっても違いはあるだろうが、幼虫は、上陸開始から3時間程度が這い上がる限度のようであり、それを過ぎると発光を止めて、その場に留まってしまう個体が多かった。したがって、一晩で潜土場所までたどり着けない幼虫も多く、その場合は翌晩に再開し、雨が降っていなくても暗くなると発光を始めて這い上がっていた。
 朝から全く雨が降っておらず、陸地が乾いていると水中からの上陸は一切ない。実験的に、ジョウロで一時間ほどかけて川の水を撒いて濡らしてみたが、上陸はしなかった。また、雨が降っても上陸開始時刻の19時の時点で止んでいた場合も、水中から新たに上陸を開始する幼虫は極めて少なく、上陸をしようとしても水際で止めてしまう個体が多い。居残り幼虫に関しては、深夜にしか雨が降っていない次の夜に観察しているから、雨の降りだしが深夜になった場合は、その時間から上陸していることが分かる。これは、以前に山梨県での観察がそうであり、この時は22時から小雨で23時過ぎから本降りとなり、0時からようやく幼虫が上陸を始めている。
 屋外の自然河川の生息地では、とにかく「雨」が上陸のキーワードになっている。ちなみに、人工飼育の場合は、雨が降らない水槽で毎晩のように上陸することが不思議である。
  今回の観察地(山間部)は、知人の観察によれば4月24日から上陸が始まっており、私も観察した5月1日が上陸数のピークで5月13日で終了したようである。これも地域によっても違いはあるだろうが、当地でのゲンジボタルの幼虫上陸 の期間は、おおよそ3週間で、その間の降雨日に上陸が行われたという結果である。成虫の発生は今後の気温次第ではあるが、例年通りの6月中旬頃からで6月25日頃がピークとなると思われる。尚、丘陵地では、4月22日に上陸が確認されているので、6月10日頃には発生ピークになるであろう。

 ゲンジボタルの幼虫上陸の観察は、河川における幼虫の生活圏と蛹になるための潜土場所を把握でき、また、上陸の条件を知ることもホタルの生息環境保全に大いに役立つ。これまで、休日や天候とのタイミングから東京都内のゲンジボタル生息地において幼虫の上陸を観察することができなかったが、今年は観察により知見を深め、証拠となる記録写真も撮影することができた。暗い河川の水際から上がった途端に発光する幼虫たち。その光景は、まさに「地上の星」であった。
  以下には、同じ河川における上陸光景2カ所の写真3枚と過去に別の場所で撮影した上陸幼虫の写真1枚を掲載した。上陸光景の写真には、それぞれ発光しながら岩の上や地上を這う幼虫の様子が光跡となって写っている。1枚目は、上陸後、かなり時間が経過してから撮影を開始したので、光跡が途切れ途切れになってしまっているが、早瀬の中の岩を乗り越える様子が写っていたので掲載することにした。3枚目の写真で、岩壁の途中から光跡が写っているのは、水際から上陸した幼虫ではなく、前日に上陸したものの潜土場所までたどり着けなかった居残り幼虫の光跡である。

 「これまでできなかった事をやり抜く」と、自分に誓って早3か月。このゲンジボタルの幼虫上陸の観察もその1つである。まだ、次回降雨日には、東京都内の渓流源流部において上陸の観察を行いたいと思うが、今回、5回にわたり同行下さった竹本氏に心から御礼申し上げたい。

関連ブログ記事:ホタルの蛹と羽化

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ゲンジボタルの幼虫上陸の写真
ゲンジボタルの幼虫上陸(光跡)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.8 30秒 ISO 640 ×約2時間相当の多重(撮影地:東京都 2024.05.1 20:18~22:05)
ゲンジボタルの幼虫上陸の写真
ゲンジボタルの幼虫上陸(光跡)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F4.0 30秒 ISO 2500 ×約3時間相当の多重(撮影地:東京都 2024.05.13 19:31~22:18)
ゲンジボタルの幼虫上陸の写真
ゲンジボタルの幼虫上陸(光跡)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 1600 ×約3時間相当の多重(撮影地:東京都 2024.05.8 18:54~22:21)
ゲンジボタルの幼虫上陸の写真
発光しながら上陸するゲンジボタルの幼虫(腹部第8節の左右両側に発光器がある)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 16秒 ISO 400(撮影地:千葉県 2011.4.09 20:24)
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和良蛍を守る ホタル勉強会

2023-12-11 17:31:15 | ゲンジボタル

 和良蛍を守るためのホタル勉強会の講師として、和良蛍を守る会の招きで12月3日から一泊二日で岐阜県郡上市和良町を訪れた。
 自宅を朝の5時に出発し、中央道国立府中ICから土岐JCTで東海環状道を走り、美濃関JCTで東海北陸道の郡上八幡ICで降り、そこからは一般道で和良町へ。片道およそ390kmの道のりである。現地には正午前に到着し、勉強会は13時から市民センターの会議室で行った。休憩を挟みながら90分ほどホタルの基礎的な話から、ゲンジボタルの生態と生息環境の詳細について話し、和良のゲンジボタルの特徴と保全方法についても述べさせて頂いた。
 和良蛍は、まったくの自然発生で、幼虫やカワニナの放流は勿論、特に環境を保全する作業等も行ってはいない。それでも、数千を超えるゲンジボタルが乱舞する素晴らしい場所であるが、問題は、全国から訪れる鑑賞者への対応である。守る会のスタッフは、ボランティアでその対応を行っており、鑑賞者のマナーの問題もあるが、最大の課題は、車のライトによる光害への対策である。昨年と今年の6月に実際に訪問した時にも、光害が気になった。道を走る車のライトがゲンジボタルが乱舞するところを照らすのである。この問題をクリアすることが大変重要であろう。和良町は観光地ではなく、国の特別天然記念物であるオオサンショウウオも生息している農村地帯である。訪れる方々も、そのことを知って来る必要がある。
 和良蛍は、他の地域にはない特徴も多い。数千頭が乱舞するにも関わらずカワニナがとても少ない。また気象条件が良ければ、深夜23時近くまで多くのオスが飛び回るといった活動時間の長さも挙げられる。今後は、こうした地域特性も調べることも必要だ。来年の4月には、集団で上陸する光景が見られるだろうから、その時に再度訪れることとしたい。

 当ブログの更新はかなり久しぶりになるが、10月23日以来、写真撮影に出掛けておらず、掲載できる写真がないというのが理由である。出掛けていないのは、気象条件の悪さもあったが、撮って残しておきたいと強く思う風景が思い浮かばないというのも正直なところ。被写体はいくらでもあり、昆虫ならば「観察」の意味で出掛けることもあるが、過去に撮っていれば同じようなカットを繰り返すだけになるのも悔しい。
 今週15日の午前0時頃からは、ふたご座流星群が極大なのだが、どうも天気が怪しい。そうなると、今年はもう何も撮らずに終了し、一年を振り返った風景と昆虫の「自己ベスト10」を掲載して締めることになりそうである。

今年の6月に撮影した和良蛍写真を一部再現像しサムネイルで表示しました。元画像は1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

和良蛍の写真 和良蛍の写真 和良蛍の写真 和良蛍の写真
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ゲンジボタルのメスの飛翔

2023-06-25 14:20:43 | ゲンジボタル

 ゲンジボタルのメスの飛翔の様子を記録として写真に撮影した。

 ゲンジボタルは、生息地によっても多少の違いはあるが、概ね19時半頃になると発光しながら飛翔するが、そのすべてはオスである。メスは、川辺の草の葉の上に止まって発光している。メスを見つけたオスはメスの所に降りて行き、発光によるコミュニケーションが成立すれば交尾に至る。交尾は夜が明けても続けられ、日の当たらない葉陰などに移動し15時間前後続く。
 葉先で目立つように光るメスは未交尾のメスで、既交尾のメスはオスが飛び回る時間帯は、茂みの中で静かに光ったり、歩き回ったりしており、オスの発光飛翔時間のピークが過ぎた22時半頃になると、産卵場所を求めて川面を飛び交うが、オスのようにふわふわ飛ぶのではなく、水面すれすれの高さを一直線に光りながら飛ぶのである。
 メスは、基本的に小川の上流に向かって飛翔する。これは遡上飛翔と呼ばれている。増水などにより幼虫が下流へ流されるために、その分成虫が上流に向かうと考えられている。この行動は、ゲンジボタルだけでなくカゲロウやトビケラなどの水生昆虫に広くみられるが、下流方向に飛んでいく場合もある。そして、産卵に適した場所を見つけると、そこに止まって産卵を始めるのである。
 この行動は、2011年に千葉県において東日本型ゲンジボタルで観察しているが、今回は岐阜県郡上市の西日本型ゲンジボタルで観察し、記録として写真に収めた。

 前記事に記載したが、22時半から川沿いを歩きながら観察を開始した。まだフワフワと発光飛翔するオスもいるが、多くは草や木の葉に止まって発光している。そんな中、下流から早いスピードで上流に向かって直線的に発光飛翔する個体が出現し始めた。これがメスである。写真では、右側が上流であり、左から右の方へと飛んでいる。明らかに、それまでのオスの飛翔とは、異なっていることが写真でも分かる。
 何頭ものメスの行方を目で追うと、それぞれが何カ所かに止まり、数頭がまとまって一カ所に集まる場所もあった。おそらく産卵場所と思われるが、数十メートル先の対岸であり、産卵の詳細を観察することはできなかった。しかし、これまでゲンジボタルのメスの飛翔の様子を写真に写していなかったので、今回、証拠として残すことができたことは、大きな成果であった。
 23時半を過ぎると、飛翔する個体はほとんどいなくなり、メスが止まった場所では、明滅ではなく静かな発光が続けられていた。

 そろそろ時期的にゲンジボタルの発生は、志賀高原などを除いて終わりである。成虫の集団産卵とマクロ映像を取り損ねたことが心残りであるが、それは来年の課題とし、7月5日から三泊四日で行く沖縄(山原)遠征に備えたいと思う。その後は、東京都内と長野県においてヒメボタルの観察と撮影を予定している。東京都内のヒメボタルは、まだ最盛期における発生状況を未確認であり、長野県においては、2021年に撮影した場所とは違う初訪問の場所を選んだので、楽しみである。

 ちなみに6月26日(月)は、高知県仁淀川波川地区のヒメボタル保全に関して、国土交通省 高知河川国道事務所等とのWeb会議である。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ゲンジボタルのメスの飛翔の写真
ゲンジボタルのメスの飛翔
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 25秒 ISO 1600(撮影地:岐阜県郡上市 2023.6.18 23:20)
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和良蛍

2023-06-19 18:26:43 | ゲンジボタル

 和良蛍は、岐阜県郡上市和良町に生息するゲンジボタルのこと。昨年の6月12日に初めて訪れたが、あいにくの月明かりと発生初期であったため、発光飛翔の数が少なかった。そこで、今年も訪れ、これぞ「和良蛍」という写真と映像を撮影することができ、また深夜まで滞在してメスの産卵行動などを観察してきた。

 和良蛍を守る会の水野英俊会長より、先週に本年の発生状況をご連絡をいただき、19日前後が発生のピークであろうとの予測。迷わず私の休日である18日(日)に遠征することに決定。17日(土)は、仕事が終了次第、北陸に向かって再度ヒサマツミドリシジミを狙うつもりであったが、仕事が忙しく疲労困憊。そもそも、11日(日)にヒメボタルを撮ってからというもの、先週はPCを前にして椅子で2日寝てしまい朝を迎えている。にも関わらず北陸から岐阜への遠征では車中二泊が強いられるため、体力的なことを考えてヒサマツミドリシジミは来年に延期することにし、土曜の夜は自宅のベッドで寝ることにした。
 翌18日。天候は晴れ。予想最高気温は30℃である。自宅を9時に出発。ナビゲーションは、中央道を土岐ジャンクションまで行くのではなく、八王子ジャンクションから圏央道で東名高速、新東名高速経由を指示。走行距離が50km以上も多いのになぜか?取り敢えず指示に従い、途中の浜松SAで昼食。家康フェアーをやっており、旨辛味噌カツ丼を頂く。道は空いていたが、結局、郡上八幡ICで降りて和良町に着いたのが15時。6時間もかかってしまった。
 今回の目的は、和良蛍らしい写真と映像の撮影の他、西日本型ゲンジボタルの集団性、特にメスの集団産卵を観察することである。早速、生息地を散策し、環境を見て回る。一体、メスはどこに産卵するのか、見当が付くところをいくつかピックアップした。川には降りることができないが、のぞく限りでは、あまりカワニナがいないことに驚いた。

 この日は、晴れで無風。気温は日中は30℃だったが、夕方で25℃。月もない。まさにホタル日和である。17時から三脚とカメラをセットし待機。昨年は19時45分に一番ボタルが発光を始めたが、今年は19時40分。5分後には別の場所で二番ボタル。10分後には飛翔。20時を過ぎたころから多くのゲンジボタルが発光を始めた。
 昨年の経験から、一番多く発光が見られた場所に2台のカメラを左右に向けてセットしたが、どちらでも、これまで見たことがない光景が広がった。川岸から背後の林の上まで無数のゲンジボタルが発光する。しかも堰があるため川の流れが穏やかで、ホタルの光が川面に映るから、光の数が2倍になるのである。川面に映る様子は、かつで高知県宿毛市で撮っているが、郡上の和良蛍の光景は、それを上回る。オスたちの同期明滅する光で山が動いているようにもみえる。このロケーションは、ここならではである。
 発生しているゲンジボタルの数は、とても数えることはできないが、目の前だけで数百頭はいるだろう。500mほどの散策路全体では数千頭はいるのではないだろうか。このロケーションは、ゲンジボタルが毎年一定数を保って発生するのに大切な役割を果たしている。堰は、大雨が降った時には濁流になるのを防ぎ、また渇水にもならない。また護岸の石組みは、幼虫の格好の隠れ場所になっているのである。
 昨日の土曜日は、鑑賞者がとても多く、散策路が渋滞したそうだが、さすが日曜日とあって、鑑賞者は20人ほど。カメラマンも数人しかいない。残念なことに、数人がスマホの明かりを向けたりしていたが、それよりも街道を車が通るたびにライトが当たるのである。しかも、地元の車ではなく鑑賞者の車なのである。ライトが当たるたびに発光を止めてしまう。やはり、ヘッドライトを付けなくてもよい、明るい時間に来てほしい。この問題の対策には、大きな看板を設置するなどして遮光するなどの工夫が今後必要であろう。

 21時になり、発光活動も終わりかと思いきや、一向に収まる気配がない。そこで、場所をそれまでとは違った風景である川下へ移動してみた。そこでは、フィルムカメラと同じ撮影方法である長時間露光で何カットも撮影し、22時半からは、和良蛍を守る会の水野英俊会長とともに、メスの飛翔や産卵場所を観察することにした。
 その時間になっても、発光するオスは相変わらず多い。20時台の1/3程度ではあるが、こんな光景を見るのも初めてである。その中を、水面上を一直線に発光飛翔する個体が何頭もいる。メスである。そのほとんどが上流に向かって飛んでいく。そして対岸の水際に止まって発光すると、何頭かが、そこに引き寄せられるように飛んでいく。残念ながら対岸までは行くことができないため、その様子は遠くから見ただけであるが、おそらく産卵場所なのであろう。23時半頃になると、発光数もかなり少なくなり、飛翔するメスも見られなくなった。

 駐車場に戻り、帰り支度をしていると、生息域から遠くであるにも関わらず、2頭のゲンジボタルが私の所に飛んできた。きっと見送りの挨拶に来てくれたのだろう。また、スーと生息域の方へ戻っていった。現地を翌19日(月)午前0時に出発し、帰路は中央道を選んだ。途中、駒ケ岳SAで2時間の仮眠を取り、6時に帰宅した。和良蛍を守る会の水野英俊会長より、今年の11月にホタルの勉強会の講師を依頼されたので、秋に再訪の予定である。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

和良蛍の写真
和良蛍
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 15秒×30カット ISO 4000(撮影地:岐阜県郡上市 2023.6.18 21:00)
和良蛍の写真
和良蛍
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 13秒×35カット ISO 1600(撮影地:岐阜県郡上市 2023.6.18 21:00)
和良蛍の写真
和良蛍
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 63秒 ISO 1000(撮影地:岐阜県郡上市 2023.6.18 21:38)
和良蛍の写真
和良蛍
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 16秒 ISO 1000(撮影地:岐阜県郡上市 2023.6.18 21:48)
和良蛍の写真
和良蛍
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 25秒 ISO 1600(撮影地:岐阜県郡上市 2023.6.18 22:00)
和良蛍の写真
和良蛍
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 25秒×7カット ISO 1600(撮影地:岐阜県郡上市 2023.6.18 22:10)
和良蛍(再生時は、設定からHDお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます)
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三鷹市大沢のホタル

2023-06-05 14:41:50 | ゲンジボタル

国分寺崖線(ハケ)の湧水に生きるホタル

 三鷹市大沢のホタルについて、講演会と観察会および写真撮影を行ってきた。

 東京都三鷹市市スポーツと文化部生涯学習課(共催:ほたるの里・三鷹村)の依頼により、6月4日三鷹市教育センターにて「ほたるの一生-大沢ほたるの生態を知る-」と題して 講演会を行い、終了後に大沢の里(ほたるの里)に移動してホタルの現状を観察し撮影を行ってきた。講演会は、定員70名で満員御礼。市内はもちらん、市外からも大勢おこし下さり、2時間の講演は無事に終了。 大多数は年配の方々であったが、お子さんも4名ほどおり、最後まで私の話を聞いてくれたのが、何より嬉しい。

 さて、先週は自然発生している「野川のホタル」を観察し撮影したが、今回、講演会の終了後に訪れた三鷹市大沢のホタルは、前回の撮影場所(小金井市)からおよそ800mほど野川を下った場所で、住所は三鷹市大沢の大沢の里(ほたるの里)である。国分寺崖線と野川、水田、湧水が保全され、三鷹のかつての農村風景が見られる公園として整備されている。
 公園化される以前は、昭和40年頃までホタルが沢山飛翔していたそうだが、野川の水路を固定し、水田や水路が埋め立てられ市街地化が進む同時に、湧水が減り、ホタルの数も少なくなったそうである。 そこで、昭和60年頃に、現在の公園部分の市街地化を止め、公園として残すための機運が高まり、同時にホタルを保全する取り組みが始まったとのことである。水田の管理やホタル生育のための環境整備は、地元のボランティア団体「ほたるの里・三鷹村」が昭和63年(1988年)から行っている。
 大沢の里の大きな特徴は「ハケ」と呼ばれる環境になっていることである。JR中央線の南側を流れる野川の北側には、高低差が15~20mの崖ないしは急な斜面が東西に走っている。この崖は、多摩川が10万年以上の歳月をかけて武蔵野台地を削り取ってできた河岸段丘で、斜面地が東京都の立川市から世田谷区までおよそ30kmも続いており、国分寺崖線と呼ばれている。この国分寺崖線を武蔵野地方の方言で「ハケ」と言う。
 ハケの周辺には、里山の雑木林として利用されてきたコナラ、クヌギ、イヌシデ等の落葉広葉樹が中心の雑木林があり、武蔵野の面影を残している。また斜面から染み出す湧き水による小さな水路や湧水池などがあり、豊かな自然環境が残されており、ホタルも生息しているのである。「ハケ」という環境に生息するホタル(ゲンジボタル)は、とても貴重である。
 三鷹市大沢のホタルでは、ホタルの他に貴重なものがある。江戸時代後期から三鷹市大沢地区で栽培され、現在、江戸東京野菜にも登録されている「三鷹大沢わさび」である。 「三鷹大沢わさび」は約200年前の文政2(1819)年、大沢地区の国分寺崖線の豊かな湧水に着目した伊勢出身の箕輪(小林)政右衛門が、故郷の五十鈴川流域から持ち込んで栽培を始めたと伝えられている。
 「三鷹大沢わさび」は、国内にほとんど残っていない在来種(幻のワサビ)であることがワサビ研究の第一人者で岐阜大学の山根京子准教授の分析で判明している。DNA鑑定の結果、岐阜県山県市の山間部で自生している野生種と一致しており「岐阜県西南部がルーツで、伊勢神宮周辺に持ち込まれ、さらにそれが三鷹に持ち込まれた」と推測している。その原種が、大沢の里(ほたるの里)のワサビ田に生き残っており、その上をホタルが舞うのである。

 講演会が終了したのち、早速、大沢の里周辺を散策。古民家(かつての箕輪家)の隣に「三鷹大沢わさび」のワサビ田がある。ワサビ田の手前は湿地になっており、ブライダルブーケに使われるサトイモ科のカラーの白い花(正確には、ミズバショウと同じ葉が変形した仏炎苞)が目立つ。同じく白い看板や百葉箱、木の構造物などがあり、更には柵越しに遠くから眺めるため、ホタルが飛んでも写真的には絵にならない。しかし、貴重な光景は、是非とも残しておきたい。そこで、現場では映像のみを撮影することにした。(ゲンジボタルのマクロ写真は、別の東京都内で撮影したものである。)
 気温24℃、晴れで無風。満月であるが、昇ってくるのは20時近くで、ワサビ田の背後は国分寺崖線と林があるため、月明かりの心配はいらない。18時半過ぎからカメラをセットし待機。19時頃になると、地元の家族ずれが増えてきた。ワサビ田を覗ける範囲が10mほどしかないため、人々が列をなす。お子さんたちが多く、活発に動き回る。19時半を過ぎてホタルが発光飛翔を始めると、皆、歓声を上げていた。
 小さなお子さんも、安心してホタルの観賞ができる場所であり、三鷹市でホタルが飛ぶという素晴らしい環境であるが、この時は、広げた三脚にドンドンとぶつかってくるので、撮影は行ったものの良い映像にはならなかった。また、生息しているホタル(ゲンジボタル)は、東日本型であることを期待したが、発光を見る限り、残念だが西日本型であった。野川のホタルが、中部地方から移入したとのことであるから、こちらも西日本から移入したと思われる。

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三鷹まるごと博物館講座パンフレット
三鷹まるごと博物館講座パンフレット(ほたるの一生)
ゲンジボタルの写真
ゲンジボタル
ゲンジボタルの写真
ゲンジボタル
ゲンジボタルの写真
ゲンジボタル
三鷹市大沢のホタル -国分寺崖線(ハケ)の湧水に生きるホタル-(再生時は、設定からHDお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます)
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野川のホタル

2023-05-29 20:38:19 | ゲンジボタル

 野川のホタルを初めて観察し、撮影してきた。

 野川は、東京都を流れる多摩川水系多摩川支流の一級河川である。国分寺市東部の日立製作所中央研究所敷地内を水源とし、世田谷区南部の二子玉川で多摩川と合流する。全長は20.5km。野川の北側は、武蔵野段丘面を多摩川が削りこんで作った国分寺崖線で「ハケ」と呼ばれる崖の斜面からは多くの清水が湧き、都内でも珍しい自然が残っている。
 野川は、途中に調布市と小金井市、三鷹市にまたがる都立野川公園内を流れるが、小金井市側には自然観察園がある。自然観察園では、昭和60年から園内のホタルの里で育成に努力し続けてきたが、令和元年から野川本流でゲンジホタルが自然発生し始めたのである。台風による影響で、自然観察園のホタルが野川に流出したとみられるが、けして清流とは言えない野川に、ゲンジボタルが定着することが素晴らしい。生息環境が整っていれば、ゲンジボタルは自らの力で生息地範囲を広げ生き抜くことができるという証である。

 野川公園は、自宅から車で20分もかからない。子供が小さい頃は、よく遊びに訪れ、広い芝生の上でお弁当を食べたものだ。公園を突き抜けるように走る東八道路は、毎日車通勤で通ってはいるが、公園は20年以上訪れていなかった。園内の自然観察園内でホタルの保全活動を行っていることも以前から知ってはいたが、それも未訪問。実は、野川において6月3日に「日本ホタルの会」の観察会が行われることになっており、今回、その下見も兼ねて野川の本流で飛び始めた様子を、見ておきたいと思い訪問してみた。
 自宅を17時に出発。日曜の夕方であるから公園駐車場は出口に車が並んでいる。こんな時間に入庫するのは、いないようだ。入庫は20時までだが、出庫は24時間であるから心配はない。とにかく広い公園で、一番南側にある駐車場から北側の野川まで10分ほど歩く。
 まずは、土手沿いを歩きロケハン。ホタルの発生状況やどの辺りで飛ぶかは、事前に地図上で知っていたが、写真に撮るなら構図的に良い場所を探すことが大切である。飛ぶホタルの数よりも、土手を歩く人やライトを付けた自転車が入らない所で、川の流れも分かる場所を選んだ。日中は風が強かったが、これまでの経験通りに日没にはピタッと止んだ。気温は25℃で曇。まさにホタル日和である。

 待つこと1時間40分。19時10分に目の前の木陰で1頭が発光。5分後にまた発光。19時半になると、あちこちで発光飛翔が始まった。晴れていれば、上弦の月が真上にこうこうと輝くが、この日は曇りで月は見えない。ところが、空一面を覆う雲が都会の明かりを反射して真っ白。ボルトルダークスカイスケール(class7)である。ちなみにあきる野市のゲンジボタル生息地では(class5)で、比べものにならない程、明るいのである。すぐ隣には東八道路があり、車の往来が激しいが、音はうるさく聞こえても、土手の上の桜並木によって車のライトはもちろん、街灯の明かりも遮断されているのは良いが、明るい曇り空は予想できなかった。
 ホタルは、それでも多くが飛翔してくれたが、写真撮影が難しい。ISO感度を200にしても3秒以上露光すれば昼間のように写ってしまう。コマ切れで生態写真とは程遠い結果になってしまったが、野川のホタルの記録は残せたと思う。映像の方も、いつものように撮影し残すことができた。流域全体では、200~300個体はいるだろう。メスも多く発生しているようで、全体的に発生ピークであるように思う。

 日曜の夜ではあったが、鑑賞者もそれなりに訪れていた。お子さんやお年寄りまで家族ずれが多く、カメラマンも数人があちこちで撮影していた。この明るさだからであろう、懐中電灯を照らす方は誰もいなかった。というより、ほとんどの方は、持参すらしていなかった。ご家族連れには、安心して自然発生のホタルを観賞できる素晴らしい場所と言えるだろう。本年最初のホタル観察と撮影でもあったが、マナーの良さにとても気持ちの良いスタートとなった。
 本ブログ記事では、ホタルをはじめ昆虫類の撮影場所は、原則として知らせておらず、問い合わせにもお答えしないが、今回の野川のホタルは、都立野川公園自然観察園のホームページでも公表しており、環境保全の取り組みや大切さを広く知っていただくために撮影場所を公表した。

関連ブログ記事:野川に生きるホタル(2024年6月1日投稿)

参考:Light pollution map
ボルトルダークスカイスケールとは、夜空の光害の量を説明するために、「50年近くの観測経験に基づいて」ジョンボルトルによって開発されたもの。

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野川の写真
野川
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F13 4秒 -1EV ISO 100(撮影地:東京都小金井市 2023.5.28 18:41)
野川のホタルの写真
野川のホタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.8 ISO 200 2分相当の多重(撮影地:東京都小金井市 2023.5.28)
野川のホタルの写真
野川のホタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.8 ISO 200 7分相当の多重(撮影地:東京都小金井市 2023.5.28)
ゲンジボタルの写真
ゲンジボタル
東八道路の写真
東八道路
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F13 20秒 -1/3EV ISO 100(撮影地:東京都調布市 2023.5.28 20:23)
野川のホタル(再生時は、設定からHDお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます)
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滝とホタル

2022-07-04 17:26:20 | ゲンジボタル

 滝を背景に舞うゲンジボタルを観察し、写真には初めて収めた。

 当初の予定では、昨年の秋にヒメボタルの生息環境調査と保全指導で招かれた宮城県仙台市へ、ヒメボタルの発生状況を実際に確認するつもりであったが、沖縄遠征から帰ってきて直ぐに東京も梅雨明けとなり、連日の猛暑で睡眠不足。疲れも抜けないことから、仙台遠征は見送ることにした。
 その代わりに滝を背景に舞うゲンジボタルを観察し、写真に収めてきた。このゲンジボタル生息地は、2019年の台風19号の影響によって大きな被害を受けた。二日間の総雨量610mm、渓流は濁流となって直径1mもある岩をも流した。これによりゲンジボタルの幼虫やカワニナの多くも流されてしまい、2020年の発生は激減してしまったのである。観察時では2頭のオスのみであった。
 しかしながら、ゲンジボタルは一年ですべての幼虫が成虫になるわけではなく、最長4年かかる個体も存在する。小さな幼虫ほど流されないため、何にもなければ3~5年かかって再び増えていく。今年が3年目であり、どの程度回復したのか確認しておきたかった。
 またこの生息地には大きな滝があり、滝の周辺もゲンジボタルが舞うのであるが、雨量が多い時期では滝風が強くなり、その数は減ってしまう。今年は6月24日以降まったく雨が降っておらず、しかも連日の猛暑。滝の水量も少なくなりゲンジボタルが舞うに違いない。天候は曇りで月はない。そして無風。滝を背景に舞うゲンジボタルの写真は、これまで撮影したことがなかったので、またとないチャンスであった。

 現地には17時半に到着。気温は25℃。思った通り水量は多くなく滝風も弱い。構図を決め待機する。1頭目のゲンジボタルが発光を始めたのが、19時40分。下流の茂みの中であった。しばらくすると発光する数も増え始め、飛翔も開始。滝方向では、高さ20m以上もある木の梢で光っている。すべての個体が高い場所におり、川岸の茂みにはまったくいない。その高い梢から滝の周囲を舞い始めた。滝風に巻き込まれるのか、光りながら早いスピードで滝つぼの方へ降りていく個体もいる。それが、長い光の線で写っている。(写真3)
 2020年に観察し撮影した、滝から50mほど下流の場所にも行って見た。5~6頭ほどが飛翔しているが、ほとんどが頭上の遥か上である。他の場所でもそうであるが、渓谷で細く深い谷では、オスは高い所を飛翔する傾向にある。水面近くを飛翔しても、休む時は地上10mほどの杉の梢に上がっていき、川岸の茂みではない。こちらでは、映像を記録した。
 まだ乱舞という数ではないが、災害からの復活の兆しが見え始めたという印象である。同じような被害が無ければ、来年、再来年は更に多くのゲンジボタルが舞うに違いない。

 本年のゲンジボタルの観察と撮影は、これで終了である。他には、千葉県と岐阜県の生息地しか訪れなかったが、新たに多くを学ぶことができた。今週末以降は、ヒメボタルの観察と撮影である。
 東京都内に生息するヒメボタルの写真と映像を記録として残すこと、そして都内の新たな生息地の探索、また富士山麓にて日本ホタルの会主催の「ヒメボタル観察会」もある。今年は「天の川とヒメボタル」を撮ってみようと思う。

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滝とホタルの写真

滝とホタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F1.4 ISO 640 約6分相当の多重(撮影日:2022.7.03)

滝とホタルの写真

滝とホタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F1.4 ISO 640 約1分相当の多重(撮影日:2022.7.03)

滝とホタルの写真

滝とホタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F1.4 ISO 640 約1分相当の多重(撮影日:2022.7.03)

渓流源流部に棲むゲンジボタル

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郡上和良のホタル

2022-06-13 20:46:01 | ゲンジボタル

 郡上和良のホタル通称「和良蛍」の里に行ってきた。
 結果から言うと、発生の初期でまだ少なく、夜の気温17℃という低温、更には月齢12.6(満月の3日前)の明るい月が川面を照らしており、ほとんどが草むらでの発光。しかしながら、高知県宿毛のゲンジボタルに匹敵する数の発光数であり、西日本型ゲンジボタル特有の2秒間隔の集団明滅発光も見られた。

 岐阜県郡上市の東に位置する和良町は、日本一の鮎・和良鮎が育ち、特別天然記念物であるオオサンショウウオが生息している。さらには、川面を埋め尽くすようにゲンジボタルが飛び交い、幻想的な風景を目にすることができる。7月上旬~中旬には森の中でヒメボタルも観察することができるのである。2017年に有志が集い「和良蛍を守る会」が発足。和良蛍を守っていくための活動を行っている。
 和良蛍は、今回が初めての訪問である。守る会がインターネットで発信している発生情報でも出始めという文字。おそらく18日くらいがピークと思われたが、あいにく次の週末は高知県にヒメボタルの保全対策指導の予定があり、その後は沖縄遠征。11日土曜日は夜まで仕事のため、12日の夜しかチャンスがない。場合によっては、土曜の夜から大阪へ向かい、翌朝一番で三草山でウラジロミドリシジミ、或いは北陸へ向かって午前中はヒサマツミドリシジミを撮ってから郡上へ移動とも考えたが、一週間の疲れでそれは断念。
 12日日曜は良い天気である。郡上へ向かう途中にグンバイトンボとハッチョウトンボの生息地がある。そこに寄るためには、朝3時半に出発しなければならず、10年前に撮影していることから、これも断念。結局、自宅を12日午前9時に出発し、中央道の諏訪経由、土岐ジャンクションから東海環状自動車道の郡上八幡ICで降り、あとは一般道で和良町まで片道およそ430kmの遠征である。途中、駒ケ岳SAで昼食。一番のおすすめというソースカツ丼を頂く。
 現地近くの道の駅に14時半到着。快晴で気温は27℃。かなり蒸し暑い。早速、ロケハンである。公開されているホタルマップを見ながら歩くが、一番のポイントになる場所まで2.5kmもあった。ロケハンで5kmも歩き疲労困憊。道の駅から車をポイント近くの駐車場に移動させ、夕方まで休憩。
 到着時はかなり風が強かったが、夕方には無風状態。これはこれまでの経験通りである。18時から出動開始。実際にどこでどのように飛翔するのかが分からない。子供ずれで散歩をしていた奥様方に尋ねると、昨日はこの辺で沢山飛んでいたと教えていただき、これまでの知識と経験、そして写真映えする場所にカメラをセットした。
 待つこと1時間半。19時40分に1頭が林の中で発光。45分には、いきなり発光数が増えたが、なかなか飛び出さない。気温17℃で肌寒い。おまけに明るい月が山から顔を出し、こちら側の川岸を照らしている。私自身の影がはっきとみえるほどである。
 散策路は川沿いに500mほどで、観賞者も10数人に増えたが、私の後ろで歓声が上がっている。振り向けば、カメラを向けていない私の斜め後ろ側の対岸で、100頭ほどのゲンジボタルが集団明滅していたのである。川幅は30mほどで、中州や草の茂みは一切なく、堰の上部であるため流れが非常に緩やかである。その対岸の林が迫る岸辺である。集団明滅の光が川面にも映って素晴らしい。まさか、そこで多数のゲンジボタルが発光するとは思わなかった。ただし、カメラを向けた方向と同じで川面には一切飛び出して来なかった。

 和良蛍の里を21時に引き上げ、帰路も同じルートを進んだ。中央道の双葉SAに23時半に到着し、日本そばを食べて車中泊。午前4時半に出発し、国立インター近くのスタンドで洗車し6時に帰宅した。
 今年は、千葉県のゲンジボタル、埼玉県のヒメボタル、今回の郡上和良のゲンジボタルと観察と撮影をしてきたが、観察では十分な事を学んでいるものの、写真では今回も残念ながら良い結果が出せていない。和良蛍の発生ピーク時は、山が動くほどの乱舞だと言うので、来年は時期を合わせて再び訪れてみたい。(2023年に訪れた時は、まさに乱舞であった。→「和良蛍」)
 今後の予定は、沖縄のホタル、東京都内のゲンジボタルとヒメボタル、仙台と静岡のヒメボタルを観察し撮影する計画となっている。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。

和良蛍の写真

ゲンジボタルの飛翔風景(和良蛍)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 ISO 400 2分相当の多重

和良蛍の写真

ゲンジボタルの飛翔風景(和良蛍)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 51秒 ISO 400

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