信州のヒメボタルの観察と撮影に行ってきた。長野県におけるヒメボタルの観察と撮影は今回が2か所目。前回は、2021年7月24日に標高1,450m付近に生えるカラマツとブナ、ミズナラの混合林に生息するヒメボタルで、「ヒメボタル(長野2021)」として掲載している。今回は、初めて訪問する場所で、長野県北部の標高約1,100m~1,200mの生息地である。
目的地は、南北に走る県道の峠付近であるが、南側は道路工事のため日中は通行止めとなっており、仕方なく遠回りの北側から進むことに。国道から車1台がやっと通れる県道へ。秘境のような場所だが、かなり登ったところにも小さな集落があった。20分ほど走り、17時半に目的地に到着。しかし、あいにくの雷雨。危険であるから車内で雨が止むまで待機したのだが、車の周りに大量のアブがたかっている。黒色が好きなのだろう。雨が止んで外に出たが、何匹ものアブが車内に入ってきてしまう始末。どうしようもないので、後で対処するとして、早速、ロケハンである。
これまで日本各地で観察を行ってきたので、ヒメボタルがどんな所を飛翔するのかは、初めての場所でもだいたい予想ができる。この日に選んだ所は、道路を挟んで東側(山側)がカラマツやミズナラなどの雑木林、西側(谷側)がスギ林になっている標高およそ1,150mの場所。スギ林は私有地で管理がされているようで、雑木はほとんどなく、下草は背丈の低いシダが地面を覆っていた。スギ林に生息するヒメボタルは、東京都内の標高1,100mで観察し撮影もしているが、長野県ではどうなのか比較もできるので面白い。
カメラをセットし終わると、地元の方がやってきた。実は、前日に電話で発生状況を尋ねた方であり、色々とお話を伺うことができた。当地での今年の発生は早く7月9日頃で、16日頃にはピークに達していたようで、数日前ではピーク時の1/3まで減ったとのことであった。また、例年に比べて今年は発生期間が長いということである。当地のヒメボタルは深夜型に近く、発光を始める時間は20時頃からで、午前0時を過ぎても発光している。終息時刻については不明とのこと。この日は月明りがなく、気温20度で無風。まさにホタル日和の気象条件である。飛翔する数が少なくても観察できれば良く、発光するまで待機した。
19時半に1頭が発光を始めたが、1,2回光って終わり。その後も発光はなし。20時頃になると周囲の暗さが一層増し、山側の雑木林内で発光する個体が増え始めた。ただし、道路まで降りてきても道路を横断することなく、山際で発光飛翔するのみであった。30分ほどすると、ようやくスギ林内でも発光する個体が出始めた。
見渡せる範囲で、およそ40頭くらいが発光飛翔。時折、道路からスギ林の斜面を降りていく個体もいるのだが、下から上がってくる個体はいない。東京都内二か所のスギ林では、かなり急な斜面でも、下から発光しながら上がってくる個体がほとんどであるのに対して、こちらはスギ林内での移動は、横方向がほとんどであった。ヒメボタルは、メスがいない所へも広範囲に飛翔するが、縦移動しないのは、地形や温度、湿度や照度などが関係しているのかもしれない。
これまで日本各地の様々な環境に生息しているヒメボタルを観察してきたが、いつも不思議に思うのは、発光活動の時間帯である。大きく分けて薄暮型と深夜型の2タイプが存在するが、この2タイプの分布は地域ごとに決まっているわけではない。例えば、長野県ではある生息地は薄暮型であるのに対し、今回訪問した生息地では深夜型である。東京都内の生息地では、すべてが薄暮型で、岩手県の折爪岳も薄暮型である。標高とも関係がない。標高60mほどの千葉県と標高1,300m強の静岡県は、どちらも深夜型である。また、薄暮型はおおむね19時40分頃から発光を始め、21時には光らなくなるが、深夜型では、発光を開始する時間やピーク時間にばらつきがある。同じ場所においても、日によって変化する。
ヒメボタルは大型(7.5mm以上)と小型(7.5mm以下)の2形がそれぞれ分布しているが、分布境界線や遺伝的相違は明確ではなく、薄暮型と深夜型との関連性も不明である。まだまだ分からないことが多いヒメボタルの生態。発光飛翔する姿を見るたびに、その魅力にはまっていく。
観察を続けていると、少し変わった発光をする個体が道路上を飛翔していた。捕獲してみるとヘイケボタルのオスであった。当地では、極稀にゲンジボタルも飛翔するという。近くに沢がないことから、麓から上昇気流に乗って上がってくるものと思われるが、ヘイケボタルは付近の小さな池(湿地)に生息しているようだ。
発光飛翔が終息するまで確かめようとも思ったが、次の予定のために移動しなければならず、22時で撤収。現地は曇っていたが、次の現場付近では快晴となっており、見上げれば満天の星。時間的には天の川の濃い部分は沈んでしまっていたが、久しぶりの美しい星空であった。
今回は、カメラ1台のみで撮影。生息環境を広く写すために広角レンズで焦点距離35mmで撮影した。いつも、どこでもそうだが、私は、ホタルがどのような環境に生息し、どこをどんな風に発光飛翔するのかを記録として写したい。だから、大きな玉ボケ写真が目的の70mmや100mmの中望遠レンズは使わない。以下には、4分と30分に相当するカットを比較明合成した2枚と天の川の写真2枚を掲載した。
以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 2000 4分相当の多重(撮影地:長野県 2025.7.22)

Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 30秒 ISO 2000 30分相当の多重(撮影地:長野県 2025.7.22)

Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 10秒 ISO 1600(撮影地:長野県 2025.7.23 0:39)

Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 20秒 ISO 4000(撮影地:長野県 2025.7.23 0:46)
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