ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ヤブヤンマの青眼メス

2019-07-28 20:45:21 | トンボ/ヤンマ科

 ヤブヤンマの青眼メスを撮ることは、今年の年初に掲げた目標の一つであった。
 ヤブヤンマ Polycanthagyna melanictera (Selys, 1883)は、ヤンマ科(Family Aeshnidae)ヤブヤンマ属(Genus Polycanthagyna)で、オスの複眼はマリンブルーに輝き、たいへん美しい。一方、メスの複眼は緑色のものが多いが、個体によっては青色を呈するものがいる。その青眼メスを探して、昨年は多産地に何度も足を運んだ。青眼は個体変異であり、決して珍しいものではない。出会いは確率的なものであろうが、残念ながら、これまですべて緑眼タイプとの出会いで終了していた。
 さて、本年はなかなか梅雨が明けず、また週末はホタルの観察と撮影に時間を費やしたので、あっという間に7月も終わりに近づいてしまった。しかも、この週末は台風6号の接近が予想されていた。がしかし、予報が良い方に外れて土日ともに晴れ間が広がる天気。ヤブヤンマの季節はそろそろ終盤を迎えるが、何とか目標を達成したいと思い、まず土曜日は多摩西部の山間部の池に訪問。しかしながら、15時過ぎまで待ってもヤブヤンマはオスもメスも現れなかった。ちなみに池は、アカハライモリの楽園になっており、周辺の草むらには、まだオバボタルが見られた。
 続いて日曜。自宅から車で20分の距離にある公園に行って見ることにした。そこは初めてであるが、20年ほど前、その近くにヘイケボタルとスジグロボタルが生息する湿地の調査で訪れており、 周辺環境からヤブヤンマも生息しているだろうという予測での訪問である。12時過ぎに到着。森のはずれの小さな人工的な池。池は浅く深い場所でも20cmくらいで、落ち葉が堆積しており、周囲の石は苔むしている。早速、1頭のヤブヤンマのメスが池の上を飛んでいるのを発見。しばらくすると、あちこち移動しながら産卵を開始した。
 滞在した15時までに産卵に来たメスは全部で4頭。新鮮な個体から老個体までいた。その内1頭が、青い複眼のヤブヤンマの青眼メスであった。何枚も撮影したが、この日に持参したのは三脚ではなく一脚。愛用のレンズは手振れ補正などないため、悔しいことに多くがピンボケになってしまった。結果は、証拠程度の数枚ではあるがヤブヤンマの青眼メスを撮る目標は達成できた。また、自宅近くにヤブヤンマの生息場所があることが分かったのも嬉しい。スケジュール調整できれば、8月中に再訪して奇麗な写真に残したいと思う。
 滞在中は、時折オスも探雌のために池の上を飛翔。池畔の木の枝に止まったので撮影した。他に緑眼タイプのメスも撮影したので、以下に一緒に掲載した。次の週末は、奥日光で流星と天の川。 そして、金緑色に輝くゼフィルス。帰りがけにヤンマの予定。

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ヤブヤンマ(青眼メス)の産卵
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/60秒 ISO 3200 -1/3EV(撮影地:東京都 2019.7.28 12:35)

ヤブヤンマ(青眼メス)の産卵
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/60秒 ISO 3200 -1/3EV(撮影地:東京都 2019.7.28 12:35)

ヤブヤンマ(青眼メス)の産卵
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/25秒 ISO 3200 -1/3EV(撮影地:東京都 2019.7.28 12:31)

ヤブヤンマの産卵
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/80秒 ISO 3200(撮影地:東京都 2019.7.28 14:05)

ヤブヤンマの産卵
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/80秒 ISO 3200 +1/3EV(撮影地:東京都 2019.7.28 14:27)

ヤブヤンマの産卵
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400 -2/3EV ストロボ使用(撮影地:東京都 2019.7.28 12:04)

ヤブヤンマ(オスの静止)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/30秒 ISO 400 ストロボ使用(撮影地:東京都 2019.7.28 12:59)

ヤブヤンマ(オスの静止)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/40秒 ISO 400 ストロボ使用(撮影地:東京都 2019.7.28 13:01)

ヤブヤンマ(オスの静止)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/40秒 ISO 400 ストロボ使用(撮影地:東京都 2019.7.28 13:03)

ヤブヤンマ(オスの静止)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/5秒 ISO 400 +2/3EV ストロボ使用(撮影地:東京都 2015.7.21 13:03)

ヤブヤンマ(オスの静止)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/8秒 ISO 400 +2/3EV ストロボ使用(撮影地:東京都 2015.7.21 13:06)

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ヒメボタル(東海)

2019-07-22 22:57:13 | ヒメボタル

 ヒメボタルの観察と撮影で東海地方へ。ホタルの話題ばかりが続くが、これが、今期最後のホタル紀行になろう。
 ヒメボタルの生息地は、ミズナラやカラマツ原生林であり、2010年から訪れている。ここでの写真撮影は今回で4回目であるが、これまで一回も美しく撮れていなかった。 いずれもデジタルカメラでの撮影であったが、1回目は、飛翔が始まってからの長時間露光撮影のため写真的・生態学的には価値はあっても見栄えは寂しい写真。2回目は、山梨県の生息地で撮影した後に立ち寄ったため、背景となる自然環境が撮れていない。そして3回目は、200枚ほど撮影していながら、レンズキャップを外し忘れて撮ってしまったため、すべて真っ黒で何も撮れていなかった。今回は、そのリベンジである。
 自宅を14時半に出発し、現地には17時に到着。まずは念入りにロケハン。年によって飛翔の中心となる場所が異なるが、飛翔密度よりも「飛翔する自然環境を明確に残す」事に重点を置いてカメラをセットする。写真は「自然風景写真」でもあるから、結果を想像しながら構図にも気を配る。フレーム内をヒメボタルが飛んでくれなければ、全く絵にならないが、そこは知識と経験と勘が勝負。カメラは2台体制である。それぞれ正反対の向きに向け、趣の異なった環境下での飛翔風景を狙うことにした。後は、発光飛翔するまで待機である。

 ここのヒメボタルは、深夜型で23時頃から活発に発光飛翔するタイプであるが、今回、観察している中で当地特有の3つの発見があった。

  1. 深夜型であっても、20時頃から発光を始める個体が何頭か存在する。(ただし、飛翔はない。)
  2. 高さ5m以上の梢で発光を始めた個体がいる(下草に丈がないためか、日中は、下草ではなく高い梢で休んでいる。)
  3. 真っ暗な森の中の方よりも、林縁付近の明るい場所での発光飛翔が多い。

 たいへん興味深い事実であるが、やはり23時を過ぎた頃から発光飛翔が多くなった。

 今回、撮影に使用したカメラは、私のホタル撮影では定番のフルサイズ機にF値1.4のカールツァイス50mmの単焦点レンズと、APS-Cサイズ機にEF17-35mmの広角ズームレンズである。後者の組み合わせは、昨年、「ヒメボタル(岩手県折爪岳)」で使用したが、あまり広角過ぎるとヒメボタルの光が小さくなるため、寂しい感じになってしまう。そこで、今回はひと工夫した。画角は構図優先。結果は、自己満足の範疇ではあるが、2点とも当地らしい「ヒメボタルの生息自然環境と発光飛翔」の絵になったと思う。尚、写真は、どのような環境下をヒメボタルがどのように発光飛翔しているのかを分かりやすくするために、背景を明るく撮っている。実際は、ヒメボタルが発光飛翔する時間帯の森の中は真っ暗で、背景は全く見えない。暗闇にヒメボタルの光だけが見えるだけである。(今回も、写真撮影に集中したため動画は撮らなかった。)
 掲載した2点の写真は、ヒメボタルの発光色が異なっている。撮影機材の違いからだと思うが、どちらの発光色も間違いではない。見た目でも、ヒメボタルの発光色は、黄色や白色に見えたり、黄金色にも見える。
 天気は曇りで無風。気温22℃(18時)19℃(1時)は、最良の条件でもあり、発生のピークと重なってくれれば、多くの発光飛翔が期待できるが、メスは未発生のようで、また、ピーク時に見られる森の外へ出て発光飛翔する様子もなかったので、おそらく数日後がピークであると思われる。

 さて、ここのヒメボタル生息地は、2011年当時は、誰一人と来ることがなかった。しかし、テレビでも紹介され、またネットでも情報が発信されたこともあってか、昨今では撮影者と観賞者が多くなってきた。人が多くなれば、目立つのはマナーの悪さである。
 深夜型のヒメボタルは、23時頃からが活動のピークを迎えるが、18時前から5時間も待つ人々は少ない。多くは、暗くなってからやってくる。そもそも、森のすぐ脇が広い駐車場になっていることが問題なのだが、暗くなってから来たのでは、駐車する向きは森に頭を向けるから、ヘッドライトが森の中を照らすことになる。車が来る度に、ヒメボタルは発光を止めてしまうのだ。灯りは、繁殖を阻害するのである。今回、気なったのは次の3つ。

  • いつまで経ってもライトを消さず、消して頂くようお願いすると「ここは、駐車場だ!」と逆切れするカメラマン
  • 発光飛翔がピークにも関わらず、森の中でライトを照らしてカメラの設定を変えるカメラマン
  • 懐中電灯を照らしながら「歩行者優先だからな」と言って森の中を歩く若いカップル

 誰も分かっていない。ここは、カメラマン優先でも、歩行者優先でもない。ホタルが最優先である!灯りを嫌うのは、誰でもない。ホタルだ。
 私は、明るい時間に現地入りするが、真っ暗な林道でも、5分も居れば目が慣れてくる。懐中電灯は要らない。帰る時は、活動時間が終わってから、森を照らさない方向に車を向けてからライトを点灯させる。どこへ行っても同じ。場所によっては数キロ歩いて生息場所に向かう。これは、ホタルの観察、観賞、撮影のマナー、と言うよりもルールだと思っている。

 ヒメボタルは、日本全国すべての生息地が自然発生である。岩手県の折爪岳のように自治体が通行規制を行って車での侵入をできないようにしているのは稀な例であり、多くは国有地や私有地でその場に管理者等はいない。観賞や撮影時のマナーやルールについては、インターネットは勿論、新聞やテレビでその都度訴えているが、なかなかな浸透していないのが現状だ。ここのヒメボタルも、今のままの状態で、これ以上人々が訪れれば、急激に減少してしまうかも知れない。
 「ホタルを撮る見る。」は良いことだと思う。特に、若いカップルが自然に触れようと思い、訪れることは素晴らしいと思う。ただし、もう一歩思いを巡らせ、ホタルと自然環境を保全するための知識を持ち、エコツーリズムの精神で接することが何より大切だ。

参照:ヒメボタル(静岡2021)

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ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 22分相当多重 ISO 1600(撮影地:東海地方 2019.7.20-21)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 35分相当多重 ISO 1600 (40mm相当) / PRO1D プロソフトン[A](W)使用(撮影地:東海地方 2019.7.20-21)

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ヒメボタル(山梨)

2019-07-21 13:07:05 | ヒメボタル

 ヒメボタルの観察と撮影で山梨県へ。先週は、東京都の貴重なヒメボタルを観察してきたが、今回は、2008年から頻繁に訪れている山梨県内の生息地へ行ってきた。
 車を止め、急な登山道を15分ほど登る。見上げても空が見えない森の中に一人であるが、先週のような恐怖感はない。かなり離れてはいるが、麓の人々の声や車の音が聞こえるからだろう。撮影者も 観賞者も誰も来ない標高約1,000mのポイントには18時半から待機。毎回、撮影位置や方向を変えて撮影しているが、今回は、2009年当時と同じ尾根から南斜面にカメラを向けた。気温22℃。ときどき小雨。風が幾分強い。
 19時20分に1頭が発光を開始。20時には発光数が増えるが、ほとんどがカメラを向けていない北斜面での飛翔。南斜面は、相変わらず麓から風が吹き上げており、また残照で少し明るい。一方、北斜面は暗く風が吹きこまないからであろう。15分ほどすると風も収まり、南斜面も暗くなると、ヒメボタルたちが斜面を往復するようになった。カメラを向けた斜面は、通り道なのである。残念ながら、再び風が強くなってきたため、20時半にはまったく発光飛翔する個体がいなくなってしまったので、こちらも撤収。
 例年、この時期の発生だが、今回の発光飛翔数は、多かった年の3分の一程度。今年は、4月の寒の戻り、長梅雨に梅雨寒といった状況であるから、この日が発生のどの段階なのかは分からないが、 メスが見られないことから、発生の初期であるように思われる。そうならば25日前後がピークであろう。

 先週の東京のヒメボタル同様に、今回も撮影時間が短く、更には乱舞状態ではなかったことで写真撮影に徹したため、動画は撮影しなかった。写真の丸い光跡は、ゆっくりと発光飛翔した個体で、細長い光跡は早いスピードで発光飛翔した個体である。また、参考として2009年にフィルムで撮影した写真も掲載した。

参照:ヒメボタル(山梨2021)

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ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 8分相当多重 ISO 1600(撮影地:山梨県 2019.7.19)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 3 / EF 50mm F1.4 USM / FUJICOLOR NATURA 1600 / バルブ撮影 F1.4 30分連続露光(撮影地:山梨県 2009.7.18)

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東京のヒメボタル

2019-07-15 17:08:27 | ヒメボタル

 東京のヒメボタルを観察し撮影するために、10年ぶりに生息地へ行ってきた。東京には、自身のこれまでの調査・観察で、かなり広範囲にヒメボタルが分布していることが分かっているが、今回訪れた所は、標高およそ730mの杉林で数少ない群生地である。今まで、岩手、埼玉、千葉、山梨、静岡の各県でヒメボタルを観察し 撮影してきたが、この東京のヒメボタルは、他の県にはない独特な雰囲気がある。それは、行って見たものしか味わうことができない。
 当地には、2004年から通っているが、なかなか良い写真を撮ることができなかった。2006年は、数え切れないほどのヒメボタルが乱舞していたが、撮影技術が確立しておらず、まったく写らなかった。2007年に訪れた時は、発生がゼロの状態。この場所でのヒメボタルの発生期間は、およそ10日ほど。私は週末の土曜日しか訪れることができない。つまり、ヒメボタルの発生ピークと私の都合が、まず合致しなければならない。そして次に天候状況がよくなければならない。その後も観察は出来ても写真は失敗の連続。結局、6年の月日が過ぎ、ようやく2009年7月に何とか満足できる東京のヒメボタルの飛翔風景を撮影することができた。
 今回は、観察の他、デジタルカメラで飛翔風景を奇麗に残すことが目的であるが、2010年からデジタルカメラを使い始めても、今回まで一度も行かなかったのには理由がある。当時(2009年)一人で撮影中にツキノワグマに遭遇し、恐怖と戦いながら撮影を続けたことがトラウマになっていたからである。今回、意を決して臨んだわけだが、不安材料が山積で、当日の朝から緊張状態が続いた。

  1. 土砂崩れ等なく、生息地まで行けるか?
  2. 車でどこまで行けるか?
  3. 生息環境は変わっていないか?
  4. 肝心のヒメボタルはいるか?
  5. クマに合わず、無事に帰れるか?

 東京のヒメボタル生息地へは、すれ違いのできない細い林道を7kmほど登る。途中からは、かなりダートなスーパー林道だ。 かつて乗用車で行った時は、床を擦り、尖った石でパンクもした。親友と二人で徒歩にて登ったこともあるが、さすがに一人での往復は怖い。軽トラなら、何とか上まで行けるだろうとレンタカーを事前に予約。しかし、軽トラのはずが5ナンバーのボンゴ。「軽トラが用意できなかったので、すみません。料金は軽トラと同じで良いです。」荷物を運ぶなら嬉しいだろうが、使う目的が違うのだ。
 天気は小雨。16時から林道に入る。不安が的中。林道途中でスリップして立往生。ハンドル操作を誤れば谷へ落ちる林道をバックし、何とかUターンして若干広い所へ寄せた。「このまま帰るか・・・いや、ここまで来て帰るわけにはいかない。」トンボやチョウの撮影なら諦めて帰るところだろうが、ホタルを研究する者としての意地がある。葛藤の末、残り1Kmを徒歩で向かうことにした。(仮に車で登ったとしても、最終的な群生場所までは、徒歩になる。)

 17時半。群生地に到着。生息環境はまったく変わっておらず一安心。ヒメボタルが光ることを期待しながら、10年前とは違った構図で撮るためにカメラをセット。ここのヒメボタルは薄暮型で、ゲンジやヘイケと同じ19時半頃から光り始める。23時頃から光り始める深夜型であれば、絶対来ないだろう。それにしても、ちょっと早く来すぎた。暗くなるまで2時間以上ある。カメラの傍で傘を差しながら待つ。辛い。山奥の山林に一人。漆黒の闇。梢から滴る雨音にも敏感に反応する。怒涛のように押し寄せる恐怖と緊張の連続。
 19時半。かなり暗くなってきた。前回は、この時間に光り始めたが、今回は光らない。絶滅してしまったのか?あるいは発生時期がずれたのか?20時まで待って光らなかったら帰ろうと決め、暗闇を見渡す。すると、19時40分。1頭のヒメボタルが発光を始めた。「いてくれた!」
 次第に発光数が増え、見渡す中では10頭ほどで、カメラのフレーム内には数頭が飛翔してくれたが、飛翔開始から30分もすると霧が濃くなり、ヒメボタルは発光も飛翔も止めてしまったので、こちらも撤収。インスタ映えする写真ではないが、とりあえず目的は達成できた。滑落しないように山側の林道を慎重に降り、クマに遭遇することもなく、無事に車まで到達。帰路に就いた。実は、麓近くの渓流にはゲンジボタルが生息しており、2013年を最後に訪れていなかったが、帰る途中に橋の上から渓流を見ると、3頭のゲンジボタルがゆっくりと光りながら飛んでいた。しかしながら、一番美しく見えた場所は開発が進み、かつての素晴らしい景観はなかった。

 東京のヒメボタル。かつて乱舞を目撃した年に比べれば、物足りなさはあるが、まずは、10年前と何ら変わることなく生き続けていてくれた事が何より嬉しい。昨今、他の地域では発生が年々早まっており、また今年は4月に寒の戻り、そしてこの梅雨寒といった気象であるから、当地でも発生時期が以前とは異なってきている可能性がある。また2004年、2006年・・・と2年毎に発生数が多いサイクル(ヒメボタルは成虫になるのに2年かかる)なので、今年は少ない年だったかも知れない。不安材料はクマだけになったので来年以降、毎年通いながら、観察と調査をしていきたいと思う。
 昔は、ヒメボタルを撮ることは難しかったが、今のデジタルカメラでは、誰でも簡単に写すことが出来る。しかもヒメボタルはインスタ映えするという理由から撮影者が急増。5~6年前は 誰一人いなかった埼玉と静岡の生息地は、今ではカメラマンで溢れている。中には、ヒメボタルの生態を知らない撮影者もいるからマナーの悪さも目立つ。単にヒメボタル観賞に来る人々は、もっとマナーが悪い。幸いこの東京のヒメボタルには、カメラマンも鑑賞者も来ない。ただし、杉の大規模な伐採があれば、林床が乾燥して絶滅してしまう恐れはある。今後、しっかりと見守っていきたい。

 今回は、飛翔時間が短かったため映像はなく写真のみの撮影。参考までに、2009年にフィルムで撮影した東京のヒメボタルの写真2点と2006年に麓の渓流で撮影したゲンジボタルの写真1点も掲載した。先にも述べたが、この光景は、もう見ることが出来ない。写真の左側の山林が削られて建物が立ち並び、渓流は灯りで照らされていた。

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ヒメボタルの生息環境の写真

ヒメボタルの生息環境
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F13 35秒 ISO 50 -1 1/3EV(撮影地:東京都 2019.7.13)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 ISO 1600 8分相当の多重露光(撮影地:東京都 2019.7.13)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / FUJICOLOR NATURA 1600 / バルブ撮影 F1.8 60分の長時間露光(撮影地:東京都 2009.7.11)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
CANON EOS-3 / EF 50mm F1.4 USM / FUJICOLOR NATURA 1600 / バルブ撮影 F1.4 60分の長時間露光(撮影地:東京都 2009.7.11)

ゲンジボタルの写真

ゲンジボタル
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / Ektachrome 320T Professional / バルブ撮影 F1.8 3分の長時間露光(撮影地:東京都 2006.7.02)

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ヘイケボタルの飛翔映像

2019-07-14 13:14:28 | ヘイケボタル

 ヘイケボタルの飛翔映像を撮影してきた。

 ホタルの写真は、フィルム、デジタル、時間の連続性の有無はあっても、どちらも数分という時間を一枚の静止画にしたものであり、ある意味創作風景作品に近い。写真を見る方々の中には「そんなにホタルがとんでいるんですか!?」と勘違いする方もいらっしゃる。特にデジタルでは、品のない過度な表現が溢れ、これらは見栄えだけを狙ったいわゆるインスタ映え写真で、私のデジタル写真もその傾向はある。その良し悪しは別として、多くは生態学的には意味のない写真である。とは言え、正統派のフィルム写真も、実際とは違う。
 「ホタルの舞う姿、光景をできるだけ見た目に近い記録として残し、またご覧いただきたい。」そんな気持ちから、昨今では「ホタルの飛翔映像」の撮影に力を入れている。4Kあるいは8K映像ならば、高精細なのは勿論の事、明暗の幅が格段に広がることで、暗いシーンもより鮮明に描写できるし、動きの速い映像であっても「ぼやけず」「なめらかに」表示することができる。夜間のホタルの飛翔映像には、その威力を発揮するであろうが、今の所、手持ちの機材で撮影するしかない。Canon EOS 5D Mark Ⅱでのフルハイビジョン動画である。

 ヘイケボタルの飛翔映像の撮影場所は、昨年「ヘイケボタルの乱舞」として、今年は「ホタルの乱舞~里山で舞う東日本型ゲンジボタル~」として紹介している里山である。前記事では、ゲンジボタルとヘイケボタルが同時に舞う、たいへん貴重な東京都内の谷戸(東京都八王子市川町/大沢川源流部の谷戸)を紹介したが、今回の撮影場所でも両種が生息している。ただし、ヘイケボタルは、ゲンジボタルの発生が終盤になってくると発生が始まり、ヘイケボタルの最盛期にはゲンジボタルは姿を消してしまうため、ヘイケボタルのみの映像である。
 当日は、気温22℃。霧雨という天気。19時27分から光り始め、20時半には、木の葉裏に止まって飛翔発光を終了。昨年よりも5日ほど遅い訪問であり、また今年は、梅雨寒が続いているためか、飛翔数は昨年の半分以下であった。それでも、ゲンジボタルとはまったく違う飛翔写真、そして映像を撮ることはできた。
 写真と映像で分かるように、ヘイケボタルは、水田に棲むホタルであるが、水田全体を生息域としているのではない。畔近くを生息域にしているのである。幼虫は、畔近くの水田内で生活し、上陸して畔で蛹になる。成虫は、畔の草やコケに産卵する。飛翔範囲も畔を中心としている。ヘイケボタルの保全には、無農薬は勿論大切だが、物理的環境の保全として「畔」付近の環境保持が重要になる。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。ウェブブラウザの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorer等ウェブブラウザの画面サイズを大きくしてご覧ください。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ヘイケボタルの写真

ヘイケボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 ISO 320 4分相当の多重露光(撮影地:千葉県 2019.7.12)

ヘイケボタルの飛翔映像
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE(撮影地:千葉県 2019.7.12)

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東京のホタル(源平合戦の危機)

2019-07-06 21:40:50 | ホタルに関する話題

ゲンジとヘイケが舞う谷戸が埋め立ての危機~東京都八王子市川町/大沢川源流部の谷戸~

 東京のホタルも、そろそろ終わりであるが、今回は、たいへん貴重な観察と撮影ができた。何とゲンジボタルとヘイケボタルが 同時に飛び交う「源平合戦」が小さな谷戸で見られたのである。場所は、東京都八王子市川町にある大沢川源流部の谷戸である。
 東京都内では、ヘイケボタルの自然発生地は極めて少ない。農薬を使わない水田がなくなり、里山の谷戸にある湿地で細々と生きているが、その湿地も里山の放棄・放置で植物が生い茂り植生遷移が進み、また土砂が少しずつ流れ込み、乾燥化・陸地化が進んでいることにより、絶滅が危惧されている。
 東京以外では、ゲンジボタルとヘイケボタルが生息している里山は多いが、ゲンジボタルの方が発生時期が早く、両種が同時に舞うことは多くはない。今回訪れた谷戸の下流域は、2週間ほど前からゲンジボタルの発生が始まっているが、上流域は遅れて発生することにより叶ったと言える。写真では、湿地の上をヘイケボタルが低く飛び、その上をゲンジボタルが飛び交っているのが分かる。
 19時15分。谷戸の最奥の杉の梢で1頭のヘイケボタルが光り始めた。次第に雑木林から湿地に続く斜面でも草むらの中で光り始め、19時半に飛び始めた。すると、向かいの雑木林の中で強い発光が。ゲンジボタルである。幼虫は、湿地と雑木林の間を流れる細流に生息している。この日の天候は曇り。気温23度で無風。ただし空一面を覆う雲に都会の灯りが反射して明るいため、条件は最良ではない。ゲンジボタル20頭、ヘイケボタルは30頭ほどであったが、20時を過ぎる頃からは、見事な「源平合戦」が見られた。

 この源平合戦が見られる貴重な谷戸は、無くなる危機にある。実は、民間の事業者が大量の建設残土で埋め立てを行い、スポーツ施設を作ろうとしているのである。谷戸は、すでに事業者が買い取り、大部分が立ち入り禁止になっている。ただし、事業者にはスポーツ施設を作り、運営するだけの資金がなく、おそらく各地の建設現場で発生する捨て場に困っている建設残土を谷戸に埋める事業だけで終わるだろうと言われている。「八王子市川町の環境を守る会」が結成され、7年前にはTBSテレビ(噂の!東京マガジン)でも紹介されたが、何の進展もなく、八王子市の開発許可のGoサインがでれば大量の建設残土が持込まれる状況にある。
 これまで、この谷戸における源平合戦の証拠となる写真がなかったこともあり、「八王子市川町の環境を守る会」に協力する形で訪れて撮影した。今後は、東京都に対しても保全に向けた運動を展開するにあたって、ホタルと環境保全の勉強会等も開催し、協力していきたい思う。また地名は「八王子市川町の環境を守る会」の要望で、あえて記載することにした。

 写真2と映像は、前記事で紹介した東京都内多摩西部の山間部の渓流に再度訪れて撮影したものである。今回は、上流方向にカメラを向けて撮影した。 発生のピークは過ぎ、前回よりも飛翔するオスの数は少なかったが、写真も映像も自己満足できる出来であった。
 ただし、今回も気になったことがある。前回はカメラマンのマナーだったが、この日は車のライトであった。渓流は深い谷の底であるから、道路の街灯や走る車のライトの影響は全くない。では、なぜ「車のライト」が気になったかと言うと、実は渓流のすぐ傍にお寺があり、そこには車が数台止められる駐車スペースがあるのである。私は、わざわざ約1km手前の大きな駐車場から歩くが、お寺の駐車場を知っている方は、そこに車を止める。川までほんの数メートル。数段の階段を降りればホタルを見ることができる。平日でも満車になる。
 問題なのは、車のヘッドライトがホタルが飛び交う川を照らすということである。暗くなってから来る。まだホタルが飛んでいる時間に帰る。狭い駐車場で何度も切り返せば、ヘッドライトが川の広い範囲を照らす。ホタルは発光を止め、暗くなってもしばらくは発光しない。観賞に来られる方の中には、脚の不自由なご老人もいらっしゃるので、その駐車場は便利ではあるが、何か対策を講じないと、いつか影響がでるだろう。

 東京のホタル。残すはヒメボタル。2009年7月11日にツキノワグマに遭遇しながら、命がけでフィルムで撮影した都内の山間部のヒメボタルを今度はデジタルで奇麗に撮影したいが、この週末は雨で気温が低く断念。降雨は問題ないが、気温が15℃では活動が鈍い。次の週末に決死の覚悟で、再挑戦したい。
 またヒメボタルは、昨年、レンズキャップを外し忘れて一枚も撮れていなかった場所においてのリベンジも予定している。この写真と映像を撮り終えたら、今年に撮影した映像を編集してまとめたい。

参照ホームページ:八王子市川町の環境を守る会

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ゲンジボタルとヘイケボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 ISO 320 18分相当多重露光(撮影地:東京都八王子市川町/大沢川源流部の谷戸 2019.7.05)

ゲンジボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 ISO 320 4分相当多重露光(撮影地:東京都 2019.7.02)

ゲンジボタルの飛翔映像
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE (撮影地:東京都 2019.7.02)

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