ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ホソミオツネントンボ

2024-04-29 14:09:13 | トンボ/アオイトトンボ科

 ホソミオツネントンボは、当ブログの記事「成虫で越冬するトンボ」で紹介しているが、単独での掲載はなく、またこれまで産卵の様子を撮影していなかったため、今回、産卵の撮影を行い、以下に過去の写真とともにまとめた。

 ホソミオツネントンボ Indolestes peregrinus (Ris, 1916)は、アオイトトンボ科(Family Lestidae)ホソミオツネントンボ属(Genus Indolestes)で、当ブログの記事「オツネントンボ」と同様に成虫で越冬するトンボである。ちなみに、成虫で越冬するトンボは3種のみで、他はホソミイトトンボである。(参照:成虫で越冬するトンボ)
 本種は、北海道、本州、四国、九州に分布するが、オツネントンボよりも寒さに弱く、北海道では極めて局所的で、東北地方でも数は多くない。平地~山地の抽水植物の繁茂する池沼、湿地、水田、緩やかな河川などに生息し、年1化、羽化は6~8月である。羽化後、しばらくすると林に移動して過ごす。水辺からかなり離れた所まで移動するが、11月頃になると水辺に比較的近い越冬場所に集まってきて、成虫のまま越年する。越冬中は、雌雄ともに褐色で、生息池付近の風当たりが少なく日当たりの良い低木の細い枝先などに脚を前に伸ばして頭部を枝に付けるようにして止まるため、将に枯れ枝のように見える。
 4月になると、オツネントンボよりほんの少し遅れて現れ、湿地や水の入った水田の縁などに集まり、4月の下旬から5月の上旬にかけて繁殖活動の最盛期を迎える。産卵後は一生を終えるが、夏頃まで生き残る個体もおり、7月頃では、羽化した新成虫(褐色)と生き残りの成虫(青色)が混在することもある。
 繁殖期になるとオスは全身が鮮やかな青色に、メスはくすんだ青緑色に変化する(褐色のままのメスもいる)が、一日の外気温の変化に応じて可逆的に体色を変化させるという特徴を持っている。実験では、雌雄ともに20℃以上に温度を上げると青色化がみられ、10℃まで温度を下げると褐色化したという。また、青色化は8~-20分で完了するのに対し、褐色化には6~12時間を要したという。
 ホソミオツネントンボは、環境省版レッドリストに記載はないが、都道府県版レッドリストでは、北海道および東京都で絶滅危惧ⅠB類に、静岡県で準絶滅危惧種として記載している。原因としては、主に土地開発と管理放棄が挙げられるが、池沼や湿地、水田の消失、植生遷移による乾燥化や乾田化も原因である。

 ホソミオツネントンボの産卵撮影のため、8年ぶりに多産地を訪れた。朝から晴天で最高気温は30℃の予想。風も弱く、産卵日和である。多産地は、雑木林、ため池、棚田、畑、湿地があり、典型的な里山風景を呈している。水田は、完全無農薬で多様性の宝庫とも言える状態が長年維持されており、トンボにとっては、将に楽園である。  現地に午前7時過ぎに到着すると、すでに池や田んぼの縁でオスたちが飛び回っていた。次の記事で改めて投稿するが、同じ越冬トンボのホソミイトトンボは、1つの水田に30頭以上が飛び交い、そこにホソミオツネントンボが混じって探雌飛翔をしていた。8時を過ぎると交尾態が見られるようになり、ペアは、水田わきの草が生い茂った斜面で30分ほど動かずに交尾を行っていた。その後、10時近くなるとペアで産卵する様子が観察できた。
 7時過ぎでは、どの水田にもオスが飛んでいたが、産卵の時刻になると、代掻き前の水田内に雑草がまばらに生えた一部の水田だけに集まるようになり、水田内や畔に生えた小さな雑草につかまって産卵を行っていた。11時近くになると、産卵ペアがいなくなり、こちらも撤収することにした。ゴールデンウイーク後半の連休には、連日、田植えを行うとのことであるから、撮影は良いタイミングであった。

参考文献 / 長谷部有紀 2020. ホソミオツネントンボの可逆的体色変化 ‐青色と褐色の異なる役割‐. つくば生物ジャーナル 卒業研究発表会要旨集 19:56.

以下の掲載写真は、1920×1080ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画も 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ホソミオツネントンボの写真
ホソミオツネントンボ(越冬中のオス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 200(撮影地:千葉県 2012.04.07 8:19)
ホソミオツネントンボの写真
ホソミオツネントンボ(越冬中のメス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 200(撮影地:千葉県 2012.04.07 8:36)
ホソミオツネントンボの写真
ホソミオツネントンボ(成熟したオス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 800(撮影地:千葉県 2011.06.02 14:02)
ホソミオツネントンボの写真
ホソミオツネントンボ(成熟しても体色の変化がないメス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F5.6 1/800秒 ISO 3200(撮影地:千葉県 2011.06.11 16:28)
ホソミオツネントンボの写真
ホソミオツネントンボ(交尾態)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 200(撮影地:千葉県 2012.05.05 7:38)
ホソミオツネントンボの写真
ホソミオツネントンボ(交尾態)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 200(撮影地:千葉県 2012.05.05 7:45)
ホソミオツネントンボの写真
ホソミオツネントンボ(交尾態)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F9.0 1/250秒 ISO 400 +2/3EV(撮影地:千葉県 2012.05.05 7:49)
ホソミオツネントンボの写真
ホソミオツネントンボ(産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.0 1/2500秒 ISO 800(撮影地:埼玉県 2024.04.28 10:02)
ホソミオツネントンボの写真
ホソミオツネントンボ(産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.0 1/2500秒 ISO 800(撮影地:埼玉県 2024.04.28 10:02)
ホソミオツネントンボの写真
ホソミオツネントンボ(産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.0 1/2500秒 ISO 800(撮影地:埼玉県 2024.04.28 10:04)
ホソミオツネントンボの写真
ホソミオツネントンボ(産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/640秒 ISO 800 +1/3EV(撮影地:埼玉県 2024.04.28 10:06)
ホソミオツネントンボの写真
ホソミオツネントンボ(産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 800 +1/3EV(撮影地:埼玉県 2024.04.28 10:15)
ホソミオツネントンボの写真
ホソミオツネントンボ(産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F11 1/160秒 ISO 200 -2/3EV(撮影地:埼玉県 2016.05.05 11:09)
生息環境の写真
生息環境(谷戸)
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F9.0 1/250秒 ISO 400 +2/3EV(撮影地:埼玉県 2024.04.28 7:49)
(動画の再生ボタンをクリックした後、設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます)
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ホソオチョウと外来種問題

2024-04-27 14:42:01 | チョウ/アゲハチョウ科

 ホソオチョウに関して、本ブログ(PartⅡ)にて単独で紹介したことがなかったことから、これまでに撮影した写真を再現像し掲載するとともに外来種問題について考えたい。

 ホソオチョウ Sericinus montela Gray, 1853 は 、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)ウスバアゲハ亜科(Subfamily Parnassiinae)タイスアゲハ族(Tribe Zerynthiini)ホソオチョウ属(Genus Sericinus)に属する1属1種を構成する小形のアゲハチョウの仲間だが、原産地は東アジア一帯で、ロシア沿海州、中国、朝鮮半島である。元来、日本にはいないチョウであるが、1978年の東京都日野市百草園で最初に確認された。その理由は、"人為的な放蝶" であり、韓国から持ち込まれたと言われている。
 食草は、日本の在来種ジャコウアゲハと同じウマノスズクサで、年に2~4回ほど発生し、春型と夏型がある。春型は、前翅長26~28mmほどでモンシロチョウより少し大きい。夏型は春型よりも大きく、後翅後端の長い尾状突起が特徴である。飛翔はゆるやかで、地表1mほどの高さを数回羽ばたいては、風を捉えて滑空するという飛び方である。晴れた午前中に活動し、曇りの日はほとんど飛ばない。
 ホソオチョウは、飛翔力が弱く、メスは食草ウマノスズクサの群落からあまり離れることがないにも関わらず、各地に分布を拡大したり、突然発生している背景には、ある発生地から別の場所への放蝶行為が意図的に繰り返されていることを指している。同じ人為的放蝶によって広がり、すっかり日本に定着してしまった中国大陸原産のアカボシゴマダラ Hestima assimilis assimilis(Linnaeus, 1758)とともに、本種は「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」に基づき生態系被害防止外来種リストに掲載されるとともに外来生物法で特定外来生物として指定され、その飼養、栽培、保管、運搬、輸入等について規制され、必要に応じて国や自治体が防除を行うことができるようになっている。

 ホソオチョウを撮影したのは、2011年に埼玉県所沢市堀の内にある比良の丘と2012年に岐阜県大野町の揖斐川河川敷である。比良の丘は、自然豊かな狭山丘陵の西端に位置し「ところざわ百選」にも選ばれている標高155mの小高い丘である。隣接した早稲田大学のフェンスには、食草であるウマノスズクサが多く絡まっており、その周辺でのみホソオチョウが見られ、ジャコウアゲハよりも圧倒的に多い。繁殖力はかなり高く、生息域はかなり局所的で、個体群密度は非常に高いという印象であった。
 写真を撮っていると捕虫網をもった男性がいて、話をしてみると、ホソオチョウを探しているという。ホソオチョウは本場韓国では希少価値が高く、標本用に採集したいとのこと。これが絶滅危惧種のギフチョウ等ならば遠慮して頂きたいが、この時ばかりは、片っ端から採ってくださいと採集に協力したことを覚えている。
 それから10年以上経過し、現在の発生状況を確認しようと、先日訪れてみたところ、まったく見当たらなかった。どうやら数年前に姿を消したようだ。発生地が局所的であるため、かつて発生していた多摩川沿いの日野市等のように、集中的な採集によって駆除されたものと考える。しかしながら、情報では昨年(2023年)埼玉県の嵐山付近で目撃されており、揖斐川では今も発生していると聞く。
 繁殖力の高さから食草のウマノスズクサを食べつくしてしまったり、草刈等でウマノスズクサが無くなると、飛翔力が弱さから自力での移動ができず、発生地の多くは数年で自然に消滅するとも言われているが、関東及び岐阜県~福岡県に至る地域で、現在も局地的に発生を続けているようである。このことは、人為的な放蝶行為が継続して行われているということを指している。
 ホソオチョウは、日本国内に生息するチョウにはない形態と色彩があり美しいが、どんなに綺麗でもホソオチョウは特定外来生物であり駆除の対象である。チョウに罪はなく、特定外来生物ごとにあらかじめ定められた「特定飼養等施設」内のみで飼養することはできるが、野外への人為的放蝶は、違法である。

 ホソオチョウは、生態系被害防止外来種リストに掲載されるとともに外来生物法で指定された「特定外来生物」である。特定外来生物とは、外来生物であって、生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、又は及ぼすおそれがあるものの中から指定された種のことである。外来生物は「海外由来の外来種」のことであり、外来種とは、もともとその地域にいなかったのに、人間の活動によって他の地域から入ってきた生物のことを指している。つまり、日本国内のある地域から、もともといなかった地域に持ち込まれた場合も「外来種」になる。このような外来種は「国内由来の外来種」と言われている。
 国内由来の外来種として問題になっている種の1つとして北海道沼田町のゲンジボタルが挙げられる。本来、北海道にはゲンジボタルは生息していないが、観光客誘致を目的に本州から人為的に移入したのである。野生生物が本来の移動能力を超えて、国外または国内の他地域から人為によって意図的・非意図的に導入された外来種についてまとめた北海道の外来種リスト-北海道ブルーリスト 2010-(現在、改訂作業中)に記載されており、生態系への影響が懸念されるC群に分類されている。
 ゲンジボタルは、北海道だけでなく全国各地で移動・移入が頻繁に行われてきた。現在、東日本一のゲンジボタル発生地とまで言われる長野県辰野の松尾峡ゲンジボタルも、他県から購入したゲンジボタルを何年間にも渡り放流し続け「日本最大の外来ホタル養殖地」とまで言われており、昔から生息していた地域固有のゲンジボタルは、絶滅に瀕しているという。地域固有の遺伝学的特徴が失われる「遺伝学的汚染・遺伝子攪乱」が生じ、地域固有の生態的・形態的な特性も失われている地域が多いのが現状である。
 野外の場合、今となっては、これらのホタルを駆除することは難しく、法的規制もない。せめて、近隣に地域固有のホタルがいるならば、それを守り影響を与えないようにすること、そして「ここのホタルは人為的に移入したホタルであり観光・集客目的で増やしている」と、或いはホタルが自生していない川やホテル、料亭の庭園、そしてハウスなどの場合は「どこどこで養殖されたホタルを購入して放している」と、事実ならば明確に公表するべきだろう。そのことで訪れる方が減少したならば仕方のないことであり、見に行かないと決めた方々は、環境や生物多様性保全に関心があり、正しい判断をされたと言えるだろう。

参考:環境省 日本の外来種対策北海道ブルーリスト 2010

以下の掲載写真は、1920×1080ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ホソオチョウ(春型オス)の写真
ホソオチョウ(春型オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 320(撮影地:埼玉県所沢市 2011.04.3 9:54)
ホソオチョウ(春型オス)の写真
ホソオチョウ(春型オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 320(撮影地:埼玉県所沢市 2011.04.3 10:11)
ホソオチョウ(春型オス)の写真
ホソオチョウ(春型オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 200(撮影地:岐阜県大野町 2012.04.28 8:18)
ホソオチョウ(夏型オス)の写真
ホソオチョウ(夏型オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/2500秒 ISO 1600(撮影地:埼玉県所沢市 2011.07.17 7:21)
ホソオチョウ(夏型オス)の写真
ホソオチョウ(夏型オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F14 1/640秒 ISO 1600(撮影地:埼玉県所沢市 2011.07.17 7:21)
ホソオチョウ(夏型オス)の写真
ホソオチョウ(夏型オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/4000秒 ISO 1600(撮影地:埼玉県所沢市 2011.07.17 7:48)
ホソオチョウ(夏型メス)の写真
ホソオチョウ(夏型メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/2000秒 ISO 1600(撮影地:埼玉県所沢市 2011.07.17 7:34)
ホソオチョウ(夏型メス)の写真
ホソオチョウ(夏型メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/2500秒 ISO 1600(撮影地:埼玉県所沢市 2011.07.17 7:36)
ホソオチョウ(夏型メス)の写真
ホソオチョウ(夏型メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/2000秒 ISO 1600(撮影地:埼玉県所沢市 2011.07.17 7:37)
ホソオチョウ(夏型オスの飛翔)の写真
ホソオチョウ(夏型オスの飛翔)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/4000秒 ISO 1600(撮影地:埼玉県所沢市 2011.07.17 7:25)
ホソオチョウ(夏型オスの飛翔)の写真
ホソオチョウ(夏型オスの飛翔)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/3200秒 ISO 1600(撮影地:埼玉県所沢市 2011.07.17 7:26)
ホソオチョウ(幼虫)の写真
ホソオチョウ(幼虫)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/200秒 ISO 200(撮影地:埼玉県所沢市 2010.10.10 12:01)
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アゲハから教わる

2024-04-23 14:13:56 | チョウ/アゲハチョウ科

 アゲハ Papilio xuthus(Linnaeus, 1767)は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)アゲハチョウ亜科(Subfamily Papilioninae)アゲハチョウ族(Tribe Papilionini)アゲハチョウ属(Genus Papilio)アゲハチョウ群(xuthus group)のお馴染みのチョウである。アゲハチョウとも呼ばれるが、この呼び名は他のアゲハチョウ亜科のチョウとの混称や総称として使われることも多く、図鑑等では「アゲハ」あるいは「ナミアゲハ」としていることから、本ブログでは「アゲハ」と表記した。
 アゲハは、北海道から沖縄まで広く平地に生息しており、地域にもよるが3~10月くらいまで飛んでおり、都会の真ん中でも見ることができる最もポピュラーな存在である。幼虫の食草は、ミカン、カラタチ、サンショウなどのミカン科植物の葉で、緑の少ない住宅地でもミカンの鉢植えさえあれば生息できる。
 本ブログ3月28日の記事「ヤマトシジミ」は、「食草のカタバミさえあれば、どこでも繁殖できる普通種で、日本で一番生息数が多いチョウ」と紹介したが、アゲハは、歌手ポルノグラフィティの「アゲハ蝶」にも「ヒラリヒラリと舞い遊ぶように姿見せたアゲハ蝶」と歌われているように、見たことはなくても「アゲハ」という名前を知らない人は、いないのではないだろうか。
 私は、昆虫少年だった頃、部屋の机の上にはビンに刺さったミカンの枝があり、アゲハの幼虫を育てていた。簡単に成虫まで育てられるので、飼育観察の対象としては格好のチョウだ。終齢まで育つと枝では蛹にならずに、部屋のあちこちに移動して蛹になりため、よく母親に驚かれたものである。アゲハから教わったことは多い。現在でも、我が家のベランダにあるミカンの鉢植えではアゲハが育ち、飛び立っていくのが楽しみになっている。

 さて、この4月は、ホタルに関しては多くの新たな知見を得て、その生態の不思議さに探究心を掻き立てられているが、自然風景と昆虫の撮影は予定通りに運んでいない。天候やタイミング、気合不足が原因で、桜は、一カ所だけで終了。天の川もダメ。絶滅危惧種のチョウには出会えず、トンボも撮れず仕舞い。何も撮らずに心折れながら帰ることは良くあることで、諦めるしかない。
 先日は、そのような状況の中、目の前に数頭のキムネクマバチが飛び交っていたので、気分転換と悔し紛れのやけのやん八で連写していると、羽化から間もないであろう春型のアゲハが現れた。私は、無意識にカメラを向けていた。
 昆虫の写真を撮り始めて46年経ったが、実は、アゲハの写真は、過去にたった1枚しか撮っていなかった。飼育観察をしたりしてあまりにも身近な存在だからなのか、子供の頃から憧れの種やシーンではないからなのか、アゲハはいつも被写体からは外れていた。昨今は、出会いすら難しい種や遠くまで遠征しなければ生息していない種を収めること、あるいは産卵などの生態写真の撮影に重点を置いているために、計画通りに進まないことが多いが、今回のアゲハとの出会いは、楽しく昆虫写真を撮っていた昔を、そしてなぜ写真を撮っているのかを思い出したひと時であった。
「初心忘れるべからず」自然と生き物たちへ感謝と敬意をもって接することは勿論、今、ベランダのミカンの鉢植えで育つアゲハを、写真として記録し残してあげることも、私にとって大切なことだと感じている。ちなみに、数十枚写したキムネクマバチの飛翔写真は、すべてピンボケであった。

以下の掲載写真は、1920×1080ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

アゲハの写真
アゲハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/640秒 ISO 100 +2/3EV(撮影地:千葉県いすみ市 2024.04.19 10:30)
アゲハの写真
アゲハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/640秒 ISO 100 +2/3EV(撮影地:千葉県いすみ市 2024.04.19 10:30)
アゲハの写真
アゲハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/640秒 ISO 100 +2/3EV(撮影地:千葉県いすみ市 2024.04.19 10:30)
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若葉

2024-04-20 16:29:27 | 風景写真/春

 若葉は、春に芽吹いてまだ間もないころの柔らかい葉を指す。新緑も好きだが、このまだ若い木々の色が好きで、いつもカメラを向けてしまう。百花繚乱の賑わいがひと段落した雑木林は、若葉色で蔽われる。と言っても、一色ではない。そこには木々1本1本の限りない濃淡の差や明暗のニュアンスがある。そして、それらが調和し瑞々しい風景を作り出しているが、この若葉の時は、短い。生命力あふれる木々の葉は、成長して青々と茂る青葉になり、雑木林はより一層生気に満ちた色彩へと変わっていく。その瞬間瞬間の素晴らしさに惹かれているのだろう。
 若葉という言葉は、木々の葉だけでなく、若者や子供、新しさなど、様々なものを表現する際にも使われる。私がすぐに思いつくのは、車の免許を取得したばかりの方が付ける初心者マーク(若葉マーク)。他にも保育園や幼稚園の名が「わかば」であったり、若者の支援窓口が「わかば」、町の名前であったりもする。若葉は、今後も成長をする可能性を秘めているという意味があるからだろう。それぞれの個性を出しながらも調和し、子供は木々のようにすくすくと、そして若者、特に新入生や新社会人は一日も早く成長してほしいと思う。
 新社会人というと、最近報道番組で取り上げていたことがある。それは入社後すぐにやめてしまう者が多いという現象である。その理由は、「社長や上司との人間関係」や「希望の配属先ではない部署に配属された」あるいは「上司の仕事ぶりに会社の将来性を感じない」等々。38年前の私の時とは、時代がかなり違うようだ。自分にどんな能力があるのかも分からず、即戦力にならないならば、まずは社会人のルールを学び、どんな仕事も1つ1つ覚えるのが私の時代であった。車の若葉マークは一年間付けなければならないのは、法律で決められているから仕方ないが、個人的には、初心者を卒業できるには1年以上の経験が必要だとも感じている。会社を辞めるのは、人それぞれの自由だが、いつまでも「青いな」と言われるようならば、成長していない証拠だ。

あらたふと 青葉若葉の 日の光 芭蕉 

 これは、日光の山の木々の美しさとともに徳川の威光を言祝いだとして、しばしば非難された句だが、自然の命の輝きを「何と尊いものであろうか、新緑の光を通して見る陽の光は」と素直に、あるがままの情景として捉えてもいる。生命力に満ちた自然の景色は希望を与えてくれ、一筋の光は、様々な思惑を良い方向へと変えてくれるかもしれない。ゴールデンウイークも間近である。五月病になる前に、若葉を見に行ってはいかがだろうか。

以下の掲載写真は、1920×1080ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

若葉の写真
若葉
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/640秒 ISO 100 +2/3EV(撮影地:長野県開田高原 2021.04.24 10:30)
若葉の写真
若葉
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F11 1/320秒 ISO 400(撮影地:東京都あきる野市 2011.04.24 10:50)
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ほたる出現予想(2024)

2024-04-16 21:57:05 | ホタルに関する話題

 ほたる出現予想2024を、民間の気象情報会社㈱ウェザーニュースが4月11日に公式Webサイトにて発表した。(ウェザーニュース ほたる出現予想2024
 それによると、2024年の傾向として「高温傾向で例年並み~やや早く出現 西日本や東日本では5月中旬から出現ピーク」だと言う。その理由として「冬の終わり頃から春にかけての気温が高いほど、飛び始める時期も早くなる」とし、都道府県別のほたる出現傾向のページでは、「2024年のほたるの見頃予想日を都道府県別にズバリお伝えする」と言い切っている。
 東日本では、「東日本のほぼ全域で5月下旬までに飛び始め、5月中旬~6月上旬に出現ピークを迎える予想。東京など関東南部でも5月下旬には出現ピークとなる。」らしい。東京に関しては、5月13日を出現開始とし、5月27日をピーク開始として公表している。尚、出現開始とピーク開始は、各都道府県の中で最も早いタイミングを記載としている。

 ほたる出現予想のほたるとは、ゲンジボタルのことで良いと思う。(北海道はヘイケボタルでなければおかしい)ウェザーニュースは、出現開始とピーク開始ともに、各都道府県の中で最も早いタイミングを記載という逃げ道を作って記載しているのは、同じ都道府県の中でも標高差があり発生時期が異なるから無理はないだろう。そのことも考慮して判断すると、私の予想では、西日本は例年通りで、中部地方を含む東日本では、例年通り~やや遅いと思っている。年々、発生が少しずつ早くなっている傾向があるから「例年」の時期も分かりにくくなっているが、昨年に比べれば一週間ほど遅い場所もあると思っている。その理由は、これから解説したいと思う。

  まず、皆さんには正しい知識を持って頂く必要がある。ウェザーニュースの言う「冬の終わり頃から春にかけての気温が高いほど、飛び始める時期も早くなる」は、必ずしも正解ではない。それに「冬の終わり頃から春にかけて」という言葉も曖昧で分からない。飛び始める時期を決定するのは、蛹になるために上陸した日とその後の気温(正確には地温)である。
 幼虫の上陸時期は、西日本は3月下旬頃から4月中旬頃で、東日本は4月上旬頃から下旬にかけてだが、各地域によってだいたい決まっている。そして上陸を開始するには条件がある。日長時間と気温と降雨である。幼虫は体内時計によって日長時間から季節を判別している。概ね12時間から13時間にならないと上陸しない。月日で言えば春分の日以降になる。(ただし、室内で人工飼育した幼虫を放流すると、体内時計が狂っているために早く上陸したり、上陸しなかったりもする。)次に、18時頃の気温が10℃以上でなければ上陸はしない。更に、雨が降らなければ上陸はしない。しかも、昼前からしっかりと降る雨でなければならない。つまり、冬の終わり頃から春にかけての気温が高くても、条件が合わずに上陸が遅い時期になれば、成虫になる時期も少し遅れるのである。上陸後から羽化までは積算温度が関係しているから、上陸後に日々の温度を計測すれば出現日を予測できる。(参照:ホタルの発生に及ぼす温暖化の影響について

 では、東京に限るが、私も今年2024年のほたる出現予想をしてみたいと思う。ウェザーニュースでは、最も早い場所で、5月13日に出現を開始し、5月27日からピークが始まるとしている。私が言う「出現」とは、完全な自然発生地でのことである。先に記したように、室内飼育した幼虫を放流している場所は、体内時計が狂っていて早く上陸することもあるので該当しない。また、養殖した成虫を放っている場所は、論外である。

 東京都には自然発生地がいくつもあるが、例として出現の早い順でA地区(三鷹市 標高47m)、B地区(標高180m付近)、C地区(標高220m付近)、D地区(標高400m付近)の4地区について予想してみたい。三鷹市は昨年に公表のもとで観察会を行い、当ブログにおいても掲載しているので地名を記したが、他の地区の具体的な場所については、非公開とさせて頂きたい。
 まず、出現日の決め手となる幼虫の上陸についてであるが、実は、まだ上陸が行われていない。3月と4月16日現在まで、条件がまったく合致せず、4地区とも上陸していないのである。したがって、各地区で、それぞれこの日に上陸するであろうと思われる日を設定し、気温については、気象庁の長期予報から4月~6月は平年より高いとの予測であるから、昨年の気温を当てはめて有効積算温度を計算し、ほたる出現予想をしてみた。結果は以下である。尚、ピーク日はメスも発生して個体数が一番多い日を指している。ただし、発光飛翔数は、天候や月明かりによって影響を受けるので、光っている数と全体の生息個体数は、必ずしも一致しない。

東京都内のほたる出現予想(出現開始日、ピーク日)
  • A地区 / 5月29日、6月7日
  • B地区 / 6月5日、6月15日
  • C地区 / 6月12日、6月22日
  • D地区 / 6月24日、7月1日

 私の東京都内におけるほたる出現予想2024では、比較的早くホタル(ゲンジボタル)が出現する場所でも5月29日で、ピークは6月7日、最も遅く出現する場所では、6月24日に出現、ピークは7月1日となった。勿論、この月日は上陸した後の5月と6月の気温で大きく変わる。
 他の県では、高知県土佐市在住の知人から4月4日から上陸が始まったと連絡を頂いたので計算すると、5月16日から出現し、ピークは5月25日となった。四万十市など南部は、これよりも数日早いだろう。ちなみにウェザーニュースでは、5月8日から出現し、ピークの開始は5月17日としているから、南部の方は当たっているかもしれない。
 私的には、どちらの予想が当たるのかは、どうでも良い。ただウェザーニュースの「冬の終わり頃から春にかけての気温が高いほど、飛び始める時期も早くなる」という曖昧な記述によって、一般の方々に誤解を生んで欲しくないのである。「ホタルは、きれいな水でないと棲めない」と未だに思っている方々が多いのと一緒で、曖昧な知識は間違いの選択肢を選ぶ一番の要因となってしまう。細かな生態は知らなくても、100の曖昧な知識より10の確実な知識を持って頂きたい。
 ホタルの発生時期が近づくと、様々なWebサイトで桜の開花情報と同じように「ホタルの見頃」などが掲載される。観賞目的の方々にとってはスケジュールが組みやすいだろう。どうか10の確実な知識の精度を上げて頂き、ホタルに懐中電灯やスマホの明かりを向けることなく、今年も、多くのホタルが飛び交う様に感動し、その背後の自然環境の大切さに思いを馳せて欲しいと思う。
 今年も、各地のゲンジボタルやヒメボタルの観察と撮影を予定しており、その都度、当ブログで報告したいと思うが、まずは岐阜県郡上市のゲンジボタル幼虫の上陸観察である。現地の守る会の観察では、本日ようやく上陸開始となったようである。次の降雨の日に訪れたいと思う。

以下の掲載写真は、東京都内の自然発生地において、ストロボを使用せず自然光だけで撮影したゲンジボタルです。1920×1080ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

発光するゲンジボタルの写真
発光するゲンジボタル
Canon 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 10秒 ISO 1600(撮影地:東京都B地区 2012.06.16 19:30)
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春の里山散策

2024-04-15 14:42:14 | 風景写真/春

ムカシトンボ探索

 東京都内にもムカシトンボが生息しており、羽化の季節となった。ところが、地域によっては激減している。その大きな理由が大雨である。2019年10月12日。過去最強クラスの台風19号が大型で強い勢力を保ったまま伊豆半島に上陸し、中でも静岡県や関東甲信越、東北地方ではこれまでに経験したことのないような記録的な大雨が降り、大規模な河川氾濫や土砂災害に見舞われた。東京の西多摩地域では、他の月の、月間降水量より多い384.5mmが、たった1日で降ったのである。
 この雨により、山地の渓流は人よりも大きな岩が流れ、崩落も起きた。当然、水生昆虫の多くが流されてしまい、ゲンジボタルでは、翌2020年の発生はほとんどなかった。それでも一昨年からゲンジボタルは徐々に復活してきたので、2017年以降にまったく観察していなかったムカシトンボの状況を確認するため、大雨から5年経過した今年、久しぶりに生息地を3カ所訪れてみた。結果は以下に示した通りである。

  • 生息地A:2014年と2017年に産卵を撮影した場所・・・崩落の為、徒歩でも通行できず断念(未確認)
  • 生息地B:2017年に羽化の様子を撮影した場所・・・・1頭の羽化殻を確認
  • 生息地C:2011年に水中のヤゴを撮影した場所・・・・1頭の飛翔を確認

 今回、生息地BとCでは、1個体ずつではあるが、生息を確認できた。まだ羽化時期の初期であるから、今後も個体数が増える可能性は高いが、生息地Cでは羽化殻が確認できなかったため、下流に流されたヤゴが下流域で生き延びて羽化し飛翔してきたとも考えられる。どちらも、観察当時とは川の様子が激変していたが、現時点での生息環境は良い状況であった。
 ムカシトンボは、成虫になるまで7年かかると言われており、今年羽化する個体は、2019年当時は若齢幼虫である。長く水中で生活することは、大雨などの危険に遭遇する確率が高まるが、ゲンジボタルと同じで水中に様々な齢の幼虫が生息していることは、個体群の絶滅を回避する意味もある。生きている化石とも言われるムカシトンボが、今も生き続けている保存戦略の1つなのであろう。しかしながら、我々が経験したことのないような記録的な大雨は、環境を一変させ、回復には何年もかかる。未調査なので何とも言えないが、仮に2020年以降の羽化数が極端に少なく、今年も少ない場合は、個体群の存続は厳しいかもしれない。本年の羽化数が多いことと、下流域等からの飛翔個体の多さに期待したい。
 残念ながら生息地Aは、5月中旬過ぎまで行くことができないため確認できないが、生息地BとCにおいては、今年はどの程度の個体が発生したのか、目視ではあるが継続して確認していきたい。

参照ブログ記事:ムカシトンボ

花と蝶の西多摩編

 今月最初の投稿記事にて「早春の里山散策」と題して狭山丘陵で撮影した里山の映像を掲載したが、今回は半月ほど経過した里山の様子を、場所を西多摩地域に変えて映像を撮ってきた。スミレやニリンソウ、二ホンタンポポなどの花々とスギタニルリシジミやムラサキシジミなどのチョウ、そしてトウキョウサンショウウオの卵嚢を収めてきた。映像と編集は、相も変わらず素人の出来であるが、生きているそのものの姿を見たことがない方々には、少しは参考になるのではないかと思う。

以下の掲載写真は、1920×1080ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画も 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ムカシトンボの羽化殻の写真
ムカシトンボの羽化殻
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F10 1/20秒 ISO 2500 -1/3EV(撮影地:東京都 2024.04.13 9:03)
ムカシトンボの羽化殻の写真
ムカシトンボの羽化殻
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/30秒 ISO 3200(撮影地:東京都 2024.04.13 9:47)
春の里山散策~花と蝶の西多摩編~
(動画の再生ボタンをクリックした後、設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます)
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桜、散る

2024-04-12 19:49:08 | 風景写真/春

 桜、散る・・・"桜は散り際が最も美しい"と言われているが、果たして、そうだろうか?

 東京の桜は、平年より5日遅い3月29日に咲き始め、4月4日に満開となり、都心では既に「桜、散る」ところがほとんどである。
 "桜散る"この文言を聞くと思い出すのは、高校と大学受験である。受験で不合格になったことを表しているのだ。幸い第一志望校には合格(桜咲く)であったが、何校かは不合格で、試験会場に合格発表を見に行き、自分の受験番号がないのを目の当たりにした時の気持ちは言い表せない。努力の結果が実を結ばず、自分の人生が左右されるのだから、宝くじの当選番号を違って"桜散る"の一言では済まされないこともあろう。
 ちなみに、この言葉が使われ始めたのは1950年代で、早稲田大学の学生が始めた合否電報が最初だったらしい。かつての電報は、カタカナと一部の記号しか送信できず、そのため「サクラサク」あるいは「サクラチル」と送っていた。今は、ネット社会であるから、電報で知らせを聞くこともないかもしれないが、この言葉だけは残っている。
 なぜ、合否の結果に「桜」を使うようになったのだろうか。そもそも桜と日本人の関りは古くからある。日本人が桜を愛でていた記録は多く残っており、今から千年以上前に書かれた日本最古の歴史書である「古事記」や「日本書紀」にも登場し、万葉集では「春を象徴する花」として数多く描かれている。また一説によれば、「サクラ」という名前の「サ」は「サ神」を表しており、これは「田んぼの神様」を意味し、「クラ」 は神様が鎮座する「台座」のことで、『田んぼの神が宿る木』が由来のようである。
 古来より桜の美しさ、可憐さに心惹かれ、また春の訪れを告げる神や精霊が宿る存在と考えられていたり、はかなく散ってゆく命の短さから死生観を考えたりする対象となってきたのである。現在でも、春のお花見シーズンが近づいてくると「桜の開花予想」が毎日報じられ、いつが見ごろとなるかも注目の的となる。お花見はインバウンド(訪日外国人旅行)にも拡大し、インタビューの様子を報道で見ることが多いが、可憐で美しい薄いピンク色の花が一斉に咲くと春の訪れを感じることは同じでも、咲き始めるとあっという間に散ってしまうことに儚さを覚えるのは、日本の文化からくる日本人ならではの感性で、DNAに深く刻み込まれているのだと思う。

 "桜は散り際が最も美しい"と言われているが、果たして、そうだろうか?

 桜は、散る間際になると満開の時よりも花弁の色、特に中心部が濃いピンク色になる。植物学的に、そういう仕組みになっているが、我々の色彩感覚からすれば、散り際の方が美しく見えるだろう。しかし、"桜は散り際が最も美しい"と言われる所以は、色彩だけではなく、無常に消えていく運命の美としての象徴として捉えているいることにある。桜は、イデオロギー政策を展開する明治時代では「国(天皇)のために桜のように散れ」という大和魂の象徴となる。さらに、昭和になって太平洋戦争が始まると国民を挙げて『同期の桜』に代表されるような数限りないほどの「散る桜」が歌われた。桜の花のように散りゆくことは、大和男子の美徳と教えられ、大戦においては特攻の悲劇を生んだのである。
 江戸時代後期の曹洞宗の僧侶、良寛の辞世の句に「散る桜 残る桜も 散る桜」がある。桜は咲いた瞬間から、やがて散りゆく運命を背負う。散っていく桜があれば、未だ美しく咲き放っている桜もある。しかし、結局どちらも最終的に散るのだ。「命が燃え尽きようとしている時、たとえ命が長らえたところで、それもまた散りゆく命に変わりはない」と良寛は言い切る。この句は、戦時中の特攻隊でも、隊員たちが自身を重ね用いたとも伝えられている。国のため桜の咲く時期に出撃した特攻隊員たちは、軍服に桜の枝をさし、桜の枝をふりながら、飛行場を飛び立っていったという。当時の新聞記事には「いまぞ散る“誇の桜”汚すまい特攻魂」との見出しがあり、散る桜にたとえられていたのである。

 世界では、終わりの見えない戦争が続いているが、日本は戦後75年経ち、時代は昭和から平成、令和へと変わり、当時の戦争は「記憶」から「記録」へと変わりつつある。戦争を知らない世代の私でも過去の歴史に思いを馳せると靖国神社で散る桜を見ることは忍びないが、公園の桜、散る下で、ビールを飲みながら楽しそうに宴会をしている若いサラリーマンを見ると、古来から引き継ぐDNAにも変化が見られるようだ。生物学では長らく、DNAの中にある膨大な遺伝子は、生涯を通じて変わることがないと考えられていたが、近年の研究では、環境的な変化が遺伝子のスイッチを切り替えることが分かっている。きっと彼らは受験戦争を勝ち抜き、サクラチル経験のない企業戦士なのかもしれない。
 どうであれ、花は咲いてこそ花であり、美しい。散り際が美しいとすれば、生き抜いてこそである。ならば、咲いている今を、思いっきり輝こうではないか。

 さて、私事ではありますが、4月10日で還暦となりました。気持ちは20代ですが、あっという間に60年が過ぎました。また、前日の9日をもって28年間務めてきた会社を定年退職しました。自宅に5時間しかいられない毎日が何年も続いたり、癌になったり・・・色々ありましたが、何とか勤め上げました。お世話になった方々に対して、この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。
 この日は、桜、散る日ではありません。人生100年時代、まだまだ咲いていたい。満開はこれからだと思っています。また、別の仕事も始めますが、ライフワークであるホタルの研究と保全に全力を尽くしたいと思っています。どうぞ、これからも今までと変わらぬお付き合いをお願いしたいと思います。

以下の掲載写真は、1920×1080ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

山桜・花吹雪の写真
山桜・花吹雪
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/1250秒 ISO 200 +1/3EV(撮影地:東京都 2016.4.16 11:05)
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赤上がりのギフチョウとヒメギフチョウ

2024-04-08 22:01:33 | チョウ/アゲハチョウ科

 日本各地で、ギフチョウとヒメギフチョウが舞う季節になってきた。今回は、個体変異での1つである赤上がりのギフチョウとヒメギフチョウを紹介したい。

 ギフチョウとヒメギフチョウが属するギフチョウ属は、強い飛翔力がなく他の生息地との行き来がないため、小さな地域個体群ごとに翅形や翅のサイズ、前後翅の黄色条または黒色条の幅、後翅肛角部の赤斑、斑紋の細部形状などに違いがある地理的変異が知られているが、同一地域個体群の中でも常染色体劣性遺伝により引き継がれている形質もある。赤上がりもその1つである。
 「赤上がり」 とは後翅表面の遠位内側にある大きな赤紋以外に小さな赤紋が黒帯の内側に沿って現れる個体変異で、蝶の愛好家の中で言われている愛称である。どこの地域の発生地でも生じる一般的な変異だが、群馬県や長野県などの一部では、色が薄く小さな赤紋がある個体は他地域に比べ圧倒的に多く、赤紋が発達した非常に美しい赤上がりの個体も少なからず見られる。

 ギフチョウ属のこうした地理的変異や個体変異を研究することは有意義であり、分類や系統、遺伝子等を調べるためには、採集して標本にすることも必要になる。条例で採集を禁止している地域においては、地方環境事務所や都道府県等に許可申請を行った上で認められれば採ることができよう。違反をすれば、2年以下の懲役若しくは禁錮、100万円以下の罰金などの刑罰又は5万円以下の過料を科せられる場合もある。ではなぜ、条例で採集を禁止しているのかと言えば、ギフチョウ属は絶滅危惧種だからである。
 ギフチョウは、環境省のレッドリスト2020年版で絶滅危惧Ⅱ類として記載しており、25の都府県版レッドリストでは、絶滅危惧Ⅰ類や絶滅危惧Ⅱ類、準絶滅危惧種として記載している。ヒメギフチョウ(本州亜種)においては、環境省のレッドリスト2020年版で準絶滅危惧種として記載されており、11の県で絶滅危惧Ⅰ類や絶滅危惧Ⅱ類、準絶滅危惧種として記載し、両種ともに日本各地で危機的状況にある。絶滅が危惧される理由としては、シカによる食害と生息環境の悪化が大きな原因となっているが、採集も要因となっている。具体的な対策を行わなければ確実に絶滅する地区が少なくない。となれば、採集を禁止するのは当然である。ただし、レッドリストは法的な拘束力はなく、絶滅危惧種として選定している地域でも自治体の条例がなければ、採集しても罰せられることはない。
 ちなみに、ギフチョウ属と同じように採集が多くされていたゴマシジミ関東・中部亜種は、平成28年3月に「国内希少野生動植物種」に指定され、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)の施行の元、採集の禁止、生息地の保護、保護増殖事業の実施など保全のために必要な措置が講じられている。
 採集は、全てが研究のために行われているわけではない。と言うより、ほとんどは単に個人が楽しむ観賞目的のコレクションのためである。作成した標本は売買もされている。美しく変異も多いギフチョウ属は、日本で1番多く採集されているのではないかと思う。日本で1番多く生息している普通種のヤマトシジミも先の記事に掲載したように美しい。季節変異がみられ、更に個体変異もあるが、興味を持つ採集者は多くない。その理由として、人間の本能をかき立てる心理法則「希少性の原理」が挙げられる。希少性の原理とは、数量や時間など限定的なものに高い価値を感じ、欲しくなってしまうという心理的な現象のことだ。ギフチョウ属の採集に希少性の原理が働く理由には、以下の3つが当てはまる。

  • 美しく変異も多いという外見の魅力が高ければ高いほど「質の希少性」が高まり欲しくなる
  • 絶滅危惧種という数が限定されていると「数の希少性」が高まり欲しくなる
  • 春先にしかいないという時間の制限で「時間の希少性」が高まり欲しくなる

 特に目立つこともなく、春から秋までどこにでも生息しているヤマトシジミに対して「希少性の原理」は作用しないのだ。一方、ギフチョウ属は、特別感が強く、禁止されたり制限されたりしていることで、更に物欲が掻き立てられる。ギフチョウ属に限らず、希少価値の高い絶滅が危惧されるチョウやトンボなどを採集する者は、採れるだけ採る。生息地で網を振る者ほとんどがそうだ。いわゆる乱獲である。乱獲は、過剰に採集することで再生産速度を超えてしまい、個体数を維持することが難しくなり、次世代の個体数が徐々に減っていき、やがては絶滅に追い込んでしまう。
 「採集だけで絶滅はしない」だとか「大量に採集しても、全体の発生数からすれば微々たるもの」などと単に憶測だけで言うのは無責任である。採集するならば、まず、地域全体の生息数を調査し、個体群動態解析及び存続可能性分析を行った上で最小存続可能個体数を把握し、持続的に採集可能な採集数(maximum sustainable yield)を把握する必要がある。環境保全活動をするのも当然の責任であり義務であろう。そして、全国から押し寄せる採集者全員が採集した総数がMSYを超えないように管理する必要がある。果たして、こんなことを考え実行している採集者がいるだろうか?

 私も今から50年前の子供の頃は、昆虫採集に興じたものである。渋谷の志賀昆虫普及社で大きな捕虫網を買い、野山を駆けずり回っていた。キタキチョウの個体変異を桐の標本箱に並べたものは、今でも保管している。中学生の時には「採るから撮る」に変え、オリンパスOM-2にズイコーマクロ50mmを付けて、同じように野山で昆虫を追いかけていた。この4月10日で還暦だが、そのスタイルは変わっていない。写した写真の多くは、自身の単なるコレクションに過ぎないが、ホタルに関しては、「風景写真」であり「図鑑写真」であり「生態写真」である。「標本は唯一の物的証拠。その地でその日にその動物が生存していたという大切な貴重な資料」だと豪語するならば、「写真は、その生物の生き方の瞬間瞬間の貴重な記録であり具体的な証拠物資料」である。そしてその証拠物資料は、保護・保全のために大いに役に立つのである。「写真は単なる自己満」とは言わせない。
 当ブログにおいて採集に批判的なことを書けば、採集者の方から反論のコメントを多く頂く。議論は歓迎するが、昆虫分類学を盾に御託を並べたり、批判に対して過剰反応するならば、責任と義務を果たしてからにしてほしい。

以下の掲載写真は、すべて 300*200 Pixelsで表示されていますが、各々の写真をクリックしますと別窓で 1920*1280 Pixels で拡大表示されます。

1.ギフチョウのノーマルタイプと赤上がり

ギフチョウの写真   ギフチョウ(赤上がり)の写真   ギフチョウ(イエローバンドの赤上がり)の写真

写真1.ギフチョウのノーマルタイプ / Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250(撮影地:長野県 2018.04.29 9:26)
写真2.ギフチョウの赤上がりタイプ / Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250(撮影地:長野県 2018.04.29 11:30)
写真3.ギフチョウのイエローバンドの赤上がりタイプ / Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県 2018.05.05 11:03)

2.ヒメギフチョウのノーマルタイプと赤上がり

ヒメギフチョウの写真   ヒメギフチョウ(赤上がり)の写真   ヒメギフチョウ(赤上がり)の写真

写真4.ヒメギフチョウのノーマルタイプ / Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250 -1/3EV(撮影地:長野県 2014.05.03 12:04)
写真5.ヒメギフチョウの赤上がりタイプ / Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/640秒 ISO 200(撮影地:長野県 2017.05.04 9:16)
写真6.ヒメギフチョウの赤上がりタイプ / Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県 2017.05.14 11:56)

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わに塚の桜

2024-04-06 13:39:17 | 風景写真/桜

 わに塚の桜は、山梨県韮崎市にある「わに塚」の上に立つ一本桜で、樹齢約330年、根回り3.4m、樹高17mのエドヒガンザクラで、平成元年に韮崎市の天然記念物に指定されている。ちなみに、エドヒガン(江戸彼岸)は、古くから日本の山野に自生していた野生種で、江戸でお彼岸のころに花が咲くところから名付けられたと言われている。
 「わに塚」の名の由来については、桜の脇にある案内板に2つの説が書いてある。1つは、甲斐国志によれば、お詣りするときに使う神社の神具・鰐口(わにぐち)に似た形の塚だったことから名付けられたという説。もう1つは、地元の人々の言い伝えで、日本武尊(やまとたけるのみこと)の王子、武田王(たけだのきみ)の墓または屋敷跡だという説がある。いずれにせよ、見晴らしが良い田畑の中に土を小高く盛った塚。その上で咲き誇る一本桜の凛とした美しさは、見るものを魅了する。

 わに塚の桜は、これまで訪れたことがなく、また、桜の撮影も久しく行っていなかったので、今年は是非一度行って見ようと計画していた。情報をチェックすると4月1日に開花し、満開は5日とのこと。できれば満開の時に、そして青空の下、定番である残雪の富士山や八ヶ岳を背景に写したい。しかしながら、毎日天気予報がコロコロ変わる。この時期は、そろそろゲンジボタルの幼虫が雨の日に上陸する時期でもあり、雨天は嬉しいが、両方を一度には無理である。
 4月3日は、気温が低く、朝から翌朝まで冷たい雨が降り続いた。翌4日の予報は気温が上昇。夜間でも18℃近くまである。当日朝の予報では、山梨県内のゲンジボタル生息地では夕方から雨であり、5日は曇りであった。ならば、4日夜にゲンジボタルの幼虫の上陸を観察し、5日の朝はわに塚の桜を撮る予定に決定。
 自宅を14時に出発し、まずはゲンジボタル生息地へ向かった。途中の山梨県内は霧雨。ところが、現地に到着してみると曇りで、昨日に降った雨も乾いている。空も明るい。その時点で最新の予報を見ると、何と雨雲が消えている。夕方からも降らない予報に変わっていた。これでは上陸は行われない。このまま明日の朝まで待機するかどうするか・・・即決してわに塚の桜へ向かうことにした。
 17時半に現地に到着したが、駐車場が満車で入れず、時間をおいて再度向かうと1台出るところで、入れ替わりに何とか駐車場に停めることができた。平日の夕方でも、それなりに見物客やカメラマンは多い。これが休日だったら大変だろう。車から降りて見上げると、上空は薄曇りだが、長野方面は晴れている。早速、300mほど先の桜の元へと進んだ。
 わに塚の桜は、写真では知ってはいたが、実際に見ると、その孤高の一本桜に圧倒される。残念ながら富士山はまったく見えず、綺麗に見えていた八ヶ岳を背景に撮ろうにも、ベストポジションに30人ほどのカメラマンが列をなし、割り込むことも躊躇せざるを得ない状況。仕方なく、あちらこちら歩き回り、様々なカットを撮ってみたが、有名な一本桜はどこから撮ってもオンリーワンの写真にはならない。
 そうこうしている内に日が暮れた。すると、3方向から桜にスポットライトが当たる。桜の開花期間中は、18時過ぎから20時頃までライトアップが開催されているのだ。人工的な照明に照らされた夜桜は、幻想的ではあるが、満月に照らされる夜桜の方が良いに決まっている。この桜の光景にとって唯一邪魔な存在である高圧線と鉄塔が入らぬよう数枚撮って、この日は帰ることにした。今後、晴れて富士山が見えるのは、おそらく桜が散る頃になるだろう。私的には、この日この時ならではの絵を残せたように思うが、いつか、残雪の富士山をバックに、朝日の逆光で輝くわに塚の桜を日本画風に撮ってみたいとも思う。

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わに塚の桜の写真
わに塚の桜
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 1/30秒 ISO 200 +1 2/3EV(撮影地:山梨県韮崎市 2024.04.04 18:10)
わに塚の桜の写真
わに塚の桜
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1.3秒 ISO 200 -2/3EV(撮影地:山梨県韮崎市 2024.04.04 18:29)
わに塚の夜桜の写真
わに塚の夜桜(ライトアップ)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 3.2秒 ISO 200(撮影地:山梨県韮崎市 2024.04.04 19:01)
わに塚の桜~孤高の一本桜ライトアップ~
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早春の里山散策

2024-04-03 11:37:57 | 風景写真/春

 早春の里山散策の映像をYouTubeに公開した。

 「ホタルは里山環境の結晶である」これは、私の師である昆虫学者 故 矢島稔先生の言葉であるが、ホタルの研究を続けている私にとって「里山」は重要なフィールドの1つである。では、里山とはどんなところを言うのであろうか?
 里山とは、「自然環境と都市空間との間にあり、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、小川、草原などで構成される地域を指す。また、里山は、農林業などに伴う人々が自然ととともに 作り上げ、維持してきた多様な環境であり、生息する生物に多様性がある。」と定義づけられる。
 しかしながら、里山の多くは人口の減少や高齢化の進行、産業構造の変化により環境変化を受けている。雑木林や小川など物理的な環境が存在しても、放置されて荒れた林や休耕田ばかりでは、里山の生態系は維持されず、多様性が失われるのである。国立環境研究所によれば、数十年無居住化した里山では、長期的な生物多様性の劣化が生じ、森林性の生物の回復が限られることが明らかであるという。里山が放棄され「自然に戻る」ことで負の影響を受ける種は、正の影響を受ける種よりも多く、その影響の大きさも負の影響を受ける種が上回っているという。
 里山の維持・管理には多くの課題があるが、日本各地において様々な持続可能な取り組みが行われている所も少なくない。東京都内では、あきる野市の「横沢入り」(下記、関連ブログ記事参照)が知られているが、今回は、埼玉県の狭山丘陵を訪れた。埼玉県は、狭山丘陵の保全活動に取り組んでおり、良好な里山が維持管理されている。ホタルをはじめ、ムカシヤンマやミドリシジミも生息し、オオムラサキやカブトムシも多い。
 訪れたのは、春まだ浅い3月。オツネントンボの産卵を期待したが見られず、昆虫では、ビロードツリアブ、キタテハ、ツマキチョウ、モンキチョウが飛んでいた。田んぼや池では、ニホンアカガエルの卵塊、アズマヒキガエルとその卵塊、そしてオタマジャクシが見られた。
 それらを映像として記録し、編集してYouTubeチャンネルに公開した。季節も早春であり、画質、内容ともに宣伝できるクオリティでは決してないが、「里山」を訪れる機会がない方々には、ほんの少しだけ参考になるのではないかと公開をした。今後は、もっと映像に関する勉強をし、季節を変えながら四季折々の「里山」の風景や様々な生き物を撮影し、下手ながら編集して公開していきたいと思う。

関連ブログ記事:「横沢入り」里山保全の実態

参考:人が去ったそのあとに、人口減少下における里山の生態系変化とその管理に関する研究/国立環境研究所「環境儀」第82号

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早春の里山散策~狭山丘陵編~
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オツネントンボ

2024-04-01 15:55:11 | トンボ/アオイトトンボ科

 オツネントンボ Sympecma paedisca(Brauer, 1877)は、アオイトトンボ科(Family Lestidae)オツネントンボ属(Genus Sympecma)のトンボで、ヨーロッパから中央アジアを経て中国東北部、日本に分布し、日本では北海道、本州、四国、九州北部に分布している。平地から山地にかけてのアシなど抽水植物が多く生えた池沼や湿原、水田などに生息している。トンボの多くが幼虫(ヤゴ)で越冬(アカネ属は、卵で越冬)するが、オツネントンボは、成虫のまま越冬する。それが越年(おつねん)という和名の由来である。日本の約200種いるトンボの中でも、成虫で越冬するのは、本種を含め、ホソミオツネントンボ、ホソミイトトンボの3種のみである。ちなみに英名で「winter damsel=冬の乙女」という名前がつけられてもいる。
 本種は、7~9月頃に羽化して新成虫となり、水辺を数百メートルも離れて草地や山林で過ごす個体もおり、未成熟成虫のまま越冬する。冬期は主に山林の木の皮の間や建物の隙間、積み上げられた薪の間などに潜んで越冬するが、暖かい日中は、そこから出てきて陽だまりで日光浴をすることもある。寒さには強く、雪が積もったり氷点下になっても耐えることができるが、越冬は過酷に違いなく、腹部が折れてしまう個体も少なくない。また、研究によれば、ひと冬通しての生存率は約42%と推定されている。
 越冬後の翌年春に発生地の池沼に戻り交尾をし、植物の組織内に産卵する。体色は淡い褐色で、春になると雌雄ともに成熟過程で複眼の上部の一部が青くなるだけで、ホソミオツネントンボのように全身が水色になるような体色変化はない。
 オツネントンボは、土地開発、管理放棄、池沼や湿地、水田の消失、植生遷移や乾燥化などの影響により各地で減少している。環境省版レッドリストに記載はないが、都道府県版レッドリストでは、東京都、千葉県、富山県、高知県で絶滅危惧Ⅰ類、茨城県、神奈川県、鳥取県、大分県で絶滅危惧Ⅱ類として記載している。

 オツネントンボとの最初の出会いは50年前で、今でも当時に写したネガフィルムが残っている。最近では、15年ほど前から各地で出会えばカメラを向けてきたが、産卵シーンは未撮影だった。そこで今回は、その産卵シーンを収めるべく、撮影のしやすい多産地を訪れた。以下には、産卵の様子の他、過去に撮影した写真を選別して掲載した。
 今年は、昨年と違って3月の気温が低く桜の開花も遅い。自宅近くの東京都国立市の桜並木は、3月31日現在でほとんど咲いていない。しかしながら、この週末は最高気温が25℃近くまで上昇。31日では25℃を終えて夏日となった。天気は快晴。まさにオツネントンボ日和である。
 現地には午前9時過ぎに到着。気温は17℃。早速、池の周囲を探索すると、オスが数頭飛び交っている。ちょっと飛んでは、すぐに枯草に止まる。個体の多くは敏感で、近寄ると飛び去ってしまうが、中には指を数センチまで近づけても逃げない個体もいた。観察した個体(オス)の8割ほどの複眼が青くなっていた。
 11時を過ぎるとメスが池に現れ、ペアになり交尾態も見られるようになったが、産卵はまだ見られなかった。12時を超えると、あちらこちらで産卵するペアが出現し始め、何とか撮影することができた。産卵ペアは、草の枝を近づけても全く動じることなく産卵に集中しているようであった。
 オツネントンボは、春真っ先に産卵を行う。訪問した池では、青くなったホソミオツネントンボもいたが、たったの2頭。池は、オツネントンボの独占状態で、確実に餌を摂り、産卵場所も確保できるメリットを感じる。本種の生存戦略の1つなのであろう。

 オツネントンボは、たいへん地味な色合いで、枯草などに止まると見つけにくく、一般の方々の中には、いても気が付かない方も多いかもしれないし、興味も湧かないかもしれない。しかしながら、絶滅危惧種である本種の存在は、良好な生息環境が整っている証拠であり、早春の一大イベントである産卵は、他の昆虫たちに先駆けての行動でもある。昆虫好きにとっては、ワクワクズキズキが止まらない季節が始まる。
 この撮影で、3月の目標の内、新潟と静岡の天の川撮影以外は達成できた。4月は、いよいよゲンジボタルの幼虫が上陸を開始する季節。その様子の観察と撮影をメインに、桜や星空、他のトンボやチョウの撮影を予定している。

参考文献/R. Manger & N.J. Dingemanse (2009): Adult survival of Sympecma paedisca (Brauer) during hibernation (Zygoptera: Lestidae) Odonatologica, 38(1): 55-59.

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画においては、Youtubeで表示いただき、設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

オツネントンボの写真
オツネントンボ(夏に羽化した未成熟オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F3.5 1/125秒 ISO 250(撮影地:福島県会津若松市 2011.8.7 5:19)
オツネントンボの写真
オツネントンボ(夏に羽化した未成熟メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F3.5 1/125秒 ISO 400(撮影地:福島県会津若松市 2011.8.7 5:18)
オツネントンボの写真
オツネントンボ(越冬個体 ただし、越冬場所ではなく陽だまりで日光浴中)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 250(撮影地:山梨県北杜市 2019.3.24 10:31)
オツネントンボの写真
オツネントンボ(越冬個体 ただし、越冬場所ではなく陽だまりで日光浴中)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 2500(撮影地:山梨県北杜市 2019.3.24 10:27)
オツネントンボの写真
オツネントンボ(越冬中に腹部が折れてしまった個体)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 160 +2/3EV(撮影地:栃木県真岡市 2024.3.31 9:16)
オツネントンボの写真
オツネントンボ(成熟オス 複眼の上部が青くなっている)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 200(撮影地:東京都あきる野市 2011.5.08 8:26)
オツネントンボの写真
オツネントンボ(成熟オス 複眼の上部が青くなっている)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400 +1EV(撮影地:栃木県真岡市 2020.4.04 11:11)
オツネントンボの写真
オツネントンボ(成熟メス 複眼の上部が青くなっている)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.0 1/800秒 ISO 200(撮影地:長野県白馬村 2017.5.4 9:34)
オツネントンボの写真
オツネントンボ(交尾態)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 400 +1 2/3EV(撮影地:栃木県真岡市 2021.4.03 11:27)
オツネントンボの写真
オツネントンボ(連結飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 500 +2/3EV(撮影地:栃木県真岡市 2024.3.31 12:15)
オツネントンボの写真
オツネントンボ(連結産卵)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 320 +2/3EV(撮影地:栃木県真岡市 2024.3.31 11:48)
オツネントンボの写真
オツネントンボ(連結産卵)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 500 +2/3EV(撮影地:栃木県真岡市 2024.3.31 12:15)
成虫で越冬するトンボ~オツネントンボ~
(動画の再生ボタンをクリックした後、設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます)
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