ギフチョウの発生日予測をするために、気象と発生に関する考察を行ってみた。その結果、有効積算温度の法則は成立しないという結果が得られた。
ギフチョウは、すでに各地で発生が始まっており、関東でも今年2020年は3月18日頃に神奈川県の生息地で発生の報告がある。温暖化と暖冬の影響なのか今年は全国的に2週間前後早いようであるが、私が撮影したいギフチョウは、「イエローバンド」という長野県のごく一部で見られる常染色体劣性遺伝により引き継がれている地理的変異で、通常の個体に比べ翅の縁毛が全て黄色になり、翅の外縁部が黄色の毛で縁取られる個体(型)である。例年の発生は5月上旬頃で、昨年と一昨年に撮影はしているが、今年も撮影の対象としている。そこで、今年の発生日を予測するために、まずは机上論ではあるが気象と発生に関する考察を行ってみた。
チョウの発生、すなわち蛹からの羽化には有効積算温度が関係しており、例えばモンシロチョウでは成長零点が8.5℃、有効積算温度が150日度以上になると羽化すると
言われている。有効積算温度は前蛹期間を含め蛹の中で成虫形成を行うのに必要な温度であり、温度が高ければ成虫形成の時間が短くなり、羽化も早くなる。
では、ギフチョウはどうであろうか?まずは、積算温度の起点が分からない。なぜならギフチョウの蛹期は、6月~翌年春までという長期にわたることと、冬の期間における積雪の有無という違いもある。便宜上、ある時期、例えば2月1日を起点として各地の発生地の温度(平均気温)を単純に足していった場合、羽化までの日数と温度は比例してはいるものの、地域によって数値はバラバラで、100日度も開きがある場合もある。分析対象のデータが直線にうまく当てはまらず回帰分析ができないことから、発育段階を完了するまでに要する時間は環境の温度に反比例(発育速度は温度に比例)するという有効積算温度の法則は成立しないと言える。
ここで重要な研究結果がある。天竜村ギフチョウ研究会の「非破壊計測によるギフチョウ蛹期の野外における成虫形成の解明」によれば、ギフチョウの蛹は、6月の蛹化直後に体が液状化し、急激に成虫形成を開始し、夏の休眠期に入る。秋に再び成虫形成を開始し、冬の休眠前に成虫形成を完成させ、冬の休眠期に入る。というのである。つまり、春になった時には、いつでも羽化できる状態にあるのである。
ギフチョウの蛹は日陰の地表面にある落葉の裏側にあり、温度変化が少なく安定した環境下にある。特にイエローバンドの生息地域では、冬季にはかなりの積雪があるため、冬の間は一定の低温度であるが、雪解けとともに蛹は外気温の影響を受けることになるから、雪解け後の温度変化が羽化に関係していると考えるのが妥当ではないだろうか。以下に、イエローバンドの生息地域における雪解け後から発生日までの最高気温と最低気温、降水量をグラフにしてみた。また比較のために同じ県内で積雪のあるギフチョウ(ノーマルタイプ)の生息地、そしてまったく積雪のない低山地のギフチョウ(ノーマルタイプ)生息地もグラフで表した。
グラフ1.イエローバンドの生息地における雪解け後から最高気温と最低気温、降水量(気象データから作成)
グラフ2.ギフチョウの生息地における雪解け後から最高気温と最低気温、降水量(気象データから作成)
グラフ3.低山地のギフチョウの生息地における最高気温と最低気温、降水量(気象データから作成)
イエローバンドの生息地における観察では、2018年は一斉に羽化したようで個体数が非常に多かった。一方2019年は、時期は例年並で羽化が始まったが、その後もダラダラ発生するという状況であった。発生後もギフチョウ日和ではない低温の日は、羽化後時間が経過した個体が活動し、新鮮個体は活動しないことから全体的に個体数が少ない印象であった。
別の地域で積雪のある生息地や積雪がない低山地の生息地のグラフを見てみても、発生(羽化)には1つの共通する条件を見出すことができる。ギフチョウは、毎年標本のための乱獲が行われていることから、環境保全とギフチョウの保護のために分析結果の詳細の記載は避けるが、これがギフチョウ発生の1つの目安になるのではないかと思う。(言うまでもないが分析地点や年数が少なく、あくまで机上論に過ぎない。)
生息地での観察結果から、当地におけるギフチョウの活動時間、飛翔範囲、そして蝶道などの特性が判明しているので、分析結果をもとに本年は発生初期段階に訪れ、より美しいイエローバンドの個体を写真に収めたいと思う。参考までに、以下には2018年に撮影したギフチョウのイエローバンドの写真を掲載した。これは、赤あがりの特徴も少し出ている美麗な個体である。
参考文献
- 朝比奈英三 (1991) 虫たちの越冬戦略. 北海道大学図書刊行会
- 石井実 (1988) ギフチョウの蛹休眠, 蝶類学の最近の進歩 Spec.Bull.Lep.Soc.Jap. (6) 385-409.
- 天竜村ギフチョウ研究会/非破壊計測によるギフチョウ蛹期の野外における成虫形成の解明
新型コロナウイルスに関することであるが、会社から連絡があり、私は5/6までいつでも出勤できる体制で自宅待機となった。一昨年から昨年初めにかけて約2か月間、
癌の手術のために休業したが、元気なのに自宅に引きこもるのは辛い。外出と言えば、朝夕一回ずつ犬の散歩で近所一周とcvsへ昼食を買いに行く時だけである。出勤して渋谷・新宿エリアで業務をこなすのは不安だが、ニュースで映像を見ると普段の2割しかいないように思う。しかし逆に、私の自宅のような都心ではない住宅街では多くの人たちが出歩いている。家族連れで公園、買い物、食事・・・ひどいものだ。危機感のなさに愕然とする。もう「勝手だろう」では済まない状況になっていることを理解しているのだろうか?
一人で里山にて写真を撮るのはどうか。「誰からもうつされない、誰にもうつさない」だろうが、「自分だけは大丈夫だ」と思う気持ちを払拭しないと、パリやニューヨークよりも危険な状況に陥るかもしれない。政治や法律の問題もあろう。東京都の要請には法的強制力もない。だからこそ、各自の行動が鍵となる。今こそ、我慢!我慢!我慢!である。とにかく、私は外出自粛に協力する。
医療崩壊を防ぐため、家族のため、社会のために協力する。
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ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200
ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200
ギフチョウ(イエローバンド)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250
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