ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ヤマキチョウ

2024-08-25 13:59:35 | チョウ/シロチョウ科

 ヤマキチョウ Gonopteryx rhamni maxima Butler, 1885 は、シロチョウ科(FamilyPieridae)モンキチョウ亜科(Subfamily Coliadinae)ヤマキチョウ属(Genus Gonepteryx)のチョウで、国外では北アフリカから中国、朝鮮半島にかけて分布し、岩手県、長野県、山梨県、岐阜県に分布するが、極めて局所的であり、アザミ類やマツムシソウが生育する乾燥した広く明るい標高1,000m以上の高草原地帯に生息している。
 幼虫の食草は、本州(中部以北)の山地や高原に生える落葉低木であるクロツバラのみで、成虫は8月上旬頃から出現し9月中旬頃まで見られる。年一化で、初夏から夏に羽化した成虫はそのまま越冬し、翌年の5月から7月頃にかけ産卵する。翅を開くと(開帳)60~75mmほどで、モンシロチョウがおよそ開帳50~60㎜であるから、一回り大きい。翅表はオスは黄色、メスでは淡い黄色で、前翅の先端は鈎状に突出している。前後翅とも中室端に橙黄色の小紋があり、前翅の前縁と外縁および後翅の後角や後縁に赤褐色の縁取りがある。同属のスジボソヤマキチョウ Gonepteryx aspasia niphonica Verity, 1909 は、前翅の前縁に赤褐色の縁取りがないので区別ができる。
 ヤマキチョウは、2007年の環境省版レッドリストでは絶滅危惧II類の位置づけであったが、2012年には絶滅危惧ⅠB類 (EN)として記載された。都道府県版レッドリストにおいては、12の都県で記載しており、青森県と埼玉県では絶滅、現在分布する岩手県と長野県では絶滅危惧Ⅰ類に、山梨県では準絶滅危惧としている。ちなみにスジボソヤマキチョウについては、環境省版レッドリストには記載がないものの、都道府県版レッドリストでは21の道府県で絶滅危惧Ⅰ類や絶滅危惧Ⅱ類としている。

 昨今は、毎日のように午後にはゲリラ雷雨があり、日によっては午前中から降ることもあるため、なかなか目的地に遠征することをためらっているが、先日、わずかなチャンスを狙って11年ぶりにヤマキチョウの生息地を訪れた。その生息地は、本種の分布域を10ヵ所以上も探索し、11年前に自力で見つけた場所である。
 過去の経験から、本種は天気の良い午前中の短い時間帯しか姿を現さないので、その時を狙って待機したが、残念ながら今回はまったくその姿を見ることができなかった。各地域においての本種の減少は、大規模な耕地、耕作放棄や植生遷移の進行などによる食草であるクロツバラの減少が大きな原因とされているが、当地は11年前と環境は変化しておらず良好な状態が保たれている。本種は、暑い日中は活動しない個体が多。また、今年の猛暑で涼しい場所に避難ししている可能性もあるが、採集も度外視できない。
 ヤマキチョウは、もともと分布域が狭く生息地も局所的であるため、採集者が殺到する。以前、他の生息地では大勢が網を振り、一人で二桁のヤマキチョウを採集していた所を目撃している。このような事を書くと、チョウの採集を行っている方々から批判のコメントを頂く。「標本は、そこに存在していた確かな証拠」とか「採集で絶滅することはない」などだ。どちらも議論するに値しない各人の言い訳にしか聞こえない。
 採集をするならば、その地区におけるヤマキチョウの個体群動態解析を行い、存続可能性の評価と絶滅確率、最小存続可能個体数について調べ、安定的な存続を可能にするための採集数を決めた上で、全国から押し寄せる採集者全員を管理し、その採集数を上回る採集をしないよう統制を図ってからにしてほしい。「私一人」や「我々グループだけ」は通用しない。「絶滅が心配される希少種だから採っておこう」は言語道断。これは、本種のみならず、ギフチョウやルーミスシジミをはじめ、多くのチョウやトンボでも同様である。

 以下には、2013年に撮影したヤマキチョウと、比較のためにスジボソヤマキチョウの写真も掲載した。両種ともに逆光で翅が透けるように見ると、レモン・イエローの美しさが際立つ。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ヤマキチョウの写真
ヤマキチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400 +1EV(撮影日:2013.8.27 10:33)
ヤマキチョウの写真
ヤマキチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 500 +1EV(撮影日:2013.8.27 10:32)
ヤマキチョウの写真
ヤマキチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 640 +1EV(撮影日:2013.8.27 10:31)
ヤマキチョウの写真
ヤマキチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200 2/3EV(撮影日:2013.8.27 11:02)
スジボソヤマキチョウの写真
スジボソヤマキチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F5.0 1/500秒 ISO 200 +1EV(撮影日:2014.7.12 14:09)
スジボソヤマキチョウの写真
スジボソヤマキチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.0 1/640秒 ISO 200 +1EV(撮影日:2014.7.12 14:10)
スジボソヤマキチョウの写真
スジボソヤマキチョウ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 400 1/3EV(撮影日:2015.9.11 10:53)
スジボソヤマキチョウの写真
スジボソヤマキチョウ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 250 1/3EV(撮影日:2015.9.11 11:02)
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夏の終りのハーモニー

2024-08-20 20:23:18 | 風景写真/夏

 夏の終りのハーモニーといえば、1986年にリリースされた井上陽水と安全地帯とのコラボレーション・シングルを思い浮かべる方々が多いかも知れない。私も好きな1曲だ。お二人の美しい歌声とハーモニーに心揺さぶられるが、「夢もあこがれも違う二人だからこそ奏でられるハーモニー。この想い出は、いつまでも忘れない」・・・夏とともに終わる恋の歌である。
 夏は恋の季節である。昆虫たちだけでなく、私たちもそうのようだ。フェロモンやテストステロンというホルモンが関係しているらしい。燃え上がる恋、甘酸っぱい恋、切ない恋、爽やかな恋、人様々であろうが、フェロモンやホルモンの発散や上昇が抑えられる秋になると散ってしまうこともある。幸い、今年の5月で結婚33年目を迎えたが、10代後半から20代前半の頃を振り返れば、夏の終りは切ない思いばかりであった。山下達郎で気持ちを盛り上げ、終いは「杉山清貴とオメガトライブ」が心に沁みたものだ。
 さて、8月中旬頃になるとツクツクボウシも鳴きだし、都会でも少しだけ空気が変わる。猛暑の連続である今年でもわずかな変化を肌で感じる。高原に行くと、その変化は更に顕著である。草原には夏の花々に混じってワレモコウやオミナエシ、エゾリンドウ等が咲く。ワインレッドのワレモコウは、パステルカラーを背景によく目立つが、調和を乱す不協和音ではない。広がる風景に響くハーモニーは、シンフォニーのような重厚なものではなく、小編成の弦楽が奏でるセレナーデのようだ。こうした「夏の終りのハーモニー」を心で聴きながら、幸福の中にあっても幾何かの切なさを感じてしまうのは私だけであろうか。
 掲載した写真は、過去の撮影のものばかりだが、クラシック音楽のソナタ形式にちなんで、3枚掲載した。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

高原の花々の写真
高原の花々
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.0 1/400秒 ISO 1000 +1EV(撮影地:長野県 2017.8.13 8:42)
高原の花々の写真
高原の花々
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.0 1/500秒 ISO 125(撮影地:長野県 2022.8.29 10:24)
高原の花々の写真
高原の花々
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.0 1/400秒 ISO 100(撮影地:長野県 2022.8.29 10:32)
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ホソミモリトンボ

2024-08-18 12:18:27 | トンボ/エゾトンボ科

 ホソミモリトンボ Somatochlora arctica (Zetterstedt, 1840)は、エゾトンボ科(Family Corduliidae)エゾトンボ属(Genus Somatochlora)で、2011年7月に尾瀬ヶ原で見たのが最初であるが、証拠にもならない写真しか撮れなかった。その後、毎年のように別の生息地の探索を続け、十カ所以上を何度となく訪れ、2021年には上高地の田代湿原で目撃したが、場所柄、撮影はできなかった。そして昨年、これまでの経験と知識から自力で撮影可能な生息地を見つけ、今年も含めて8回訪問し、のべ58時間にわたって観察と写真撮影を行った。
 本記事は、その生息地における結果をまとめたものである。(他の生息地でも同一であるとは限らない)観察と写真撮影を行った生息地は乾燥化が進んでおり、このままでは十数年後には姿を消してしまう可能性が大きく、その意味でも、多少なりとも記録に残せたことは意味があると思う。

ホソミモリトンボの分布と生息環境
 ホソミモリトンボは、イギリス及びヨーロッパ中南部以北から中国東北部、シベリアなどに広く分布し、国内では北海道及び本州中部山岳地帯に分布する。学名の "arctica" は、「北極」や「北極地方」などの他「厳寒」「極寒」などの意味があり、エゾトンボ科の中でも好寒性が最も強く、不連続永久凍土地域でも生息が確認されているように世界中で最も高緯度まで分布しているトンボである。
 北海道(主に道東に分布)では平地の高層湿原でも見られるが、本州では、標高1,400m以上のミズゴケ、スゲ、シダ類が繁茂する植生遷移が進んだ高層湿原にのみ生息し、世界中の生息環境をみても、そのすべてが泥炭蓄積の高層湿原である。高層湿原ならば生息しているという訳ではなく、本州では、これまで福島、栃木、群馬、長野、新潟、岐阜の6県で記録があるが、いずれも大変局所的であり、近年では確認されていない場所が多い。
 ちなみに高層湿原とは、低温・過湿のために枯死したミズゴケが分解されず泥炭となり、水を含んで過湿となった場所をいい、泥炭が多量に蓄積されて周囲よりも高くなったために地下水では涵養されず、雨水と雪解け水のみで維持されている貧栄養な湿原を指す。植生はミズゴケ類が主体であり、多量の泥炭の蓄積には低温・過湿な気候が必要なため、日本では屋久島を南限として、本州山岳地帯と北海道に分布している。高山に多いが、必ずしも標高の高い場所に限定されているわけではない。
 高層湿原は、貧栄養であるため発達しても樹木が侵入することは少なく、樹林へと遷移することは稀であるが、気候、水文環境、地形等の条件が微妙なバランスに保たれて形成・維持されているため、近年の異常気象(気候変動)に伴い、そのバランスが変化する可能性が高い。降雨降雪量が少なければ水位が低下し、その結果、泥炭が乾燥して陸生植物が侵入し定着するようになり、湿原の陸化が進んでしまう。本種の観察と撮影を行った高層湿原も乾燥化が進行しており、本種をはじめ氷河期の遺存種など貴重な動植物の生息が危ぶまれている状況である。
 ホソミモリトンボは、これほどまでに希少種でありながら環境省版レッドリストには記載されていない。都道府県版レッドリストでは、栃木県で絶滅危惧Ⅰ類に、群馬県で絶滅危惧Ⅱ類に、新潟県と長野県で準絶滅危惧種としている。

ホソミモリトンボの成虫形態
 ホソミモリトンボの体長は46㎜~54㎜内外で、エゾトンボ科の中では北海道にのみ生息するクモマエゾトンボ Somatochlora alpestris (Selys, 1840)に次いで小さい。飛んでいる時はあまり分からないが、枝などに止まっている時に近くで見ると、その小ささと細さに驚くほどである。
 雌雄共に胸部側面が金緑色で、未成熟時は胸部側面および腹基部に黄斑があるが、成熟に伴って黄斑の大部分は消失し、金緑色も色褪む。複眼は鮮やかな緑で、後縁部に青みを帯びた部分があり、光の当たり具合によって赤やオレンジの構造色が目立つ
 オスの尾部付属器は上付属器が左右になめらかに湾曲した"くぎぬき状"で、これは他のエゾトンボ科とは明らかに異なり、同属他種との判別ポイントになっている。メスは、腹部第2節後縁に黄色の環状斑と第3節背面に一対の黄色斑があり、第3節背面に一対の黄色斑が、同属他種との判別ポイントになっている。

ホソミモリトンボの生態

  1. 発生サイクルと出現期間
    • 幼虫の成長速度は遅く、3~4年の1世代型である。幼虫には移動性がなく、卵から羽化まで同一の場所で過ごすと言われている。
    • 6月中旬~下旬頃に羽化(未確認)し、一か月程度は湿原周辺のカラマツ林で生活し、成熟するまでは産卵場所の湿原には姿を見せない。
    • 成熟した個体は7月中旬頃から湿原に現れ、8月下旬頃まで活動し、その後、姿を消す。(北海道の釧路湿原周辺では10月中旬頃まで生き残っている個体もいる)
  2. オスの飛翔活動
    • 晴れた朝は、7時半頃になると湿地に隣接するカラマツ林から飛び出し、湿地上の高い場所を飛びながら小さな虫を捉えて食べる。(摂食飛翔)
    • 7月では、摂食飛翔が中心で、探雌飛翔や縄張り飛翔はほとんどしない。
    • 8月になると、成熟したオスは、7時過ぎから摂食飛翔し、同時に探雌飛翔や縄張り飛翔を行う個体がいるが、晴れて直射日光が当たっていなければ飛翔しない。
    • 探雌飛翔は、湿原の広範囲を移動しながら産卵に適した細流上を低く、流れに沿って飛翔する。
    • 縄張り飛翔は、成熟度合いが進むにつれて多く行うようになる。産卵に適した場所にて1mくらいの高さで短いホバリングを行うが、すぐに移動する。
    • 縄張り飛翔は、他のオスは勿論、アキアカネなどの他種のトンボやチョウなどの侵入があっても、激しく追い払い、その後同じ場所に戻ってくるが、戻ってこないこともある。
    • 8月中旬以降になると、縄張り飛翔中のホバリングが長くなり、個体差にもよるが、5mほどの狭い範囲を移動しながら、一ヵ所で10秒以上も静止飛翔する個体もいる。
    • 晴れで日中の気温が21℃前後ならば、午前から午後にかけて一定の時間をおきながら探雌飛翔や縄張り飛翔を行うが、気温の上昇とともに活動が鈍くなり、気温が25℃以上になると午前中でも湿原上には現れない。
    • 長い時間飛翔した場合、湿原の下草や灌木の止まって休む個体もいる。
    • 条件の良い日でも、探雌飛翔や縄張り飛翔にまったく現れない時間が30分から1時間近くある場合もある。おそらく交尾をしている時間や休んでいるものと思われる。
    • 夕刻に飛翔活動するか否かは不明である。
  3. 交尾
    • 探雌飛翔中にメスを見つけると、その場で交尾態となり、湿原の低空をタンデム飛翔しながら、隣接する森に飛んでいく。時折、湿原内の灌木の止まることもある。
    • 交尾態が止まる場所は、林縁や湿原内の灌木の枝先で、比較的低い位置である。
    • 交尾にかかる時間は不明である。
  4. 産卵
    • 産卵は、7月中旬以降から出現期間中の8月下旬まで行われる。
    • 8時を過ぎると産卵のために飛来するが、時間はまちまちで、正午近くになってようやく飛来することもある。
    • 季節が進むほど、産卵開始の時刻が遅くなる。
    • 産卵場所は湿原内の細流で、スゲ類に覆われていて流れはほとんど見えない所に、身を隠すように降りて行き産卵する。
    • 産卵は、草につかまりながら腹部を水中に入れて行うが、少しの空間があれば、ホバリングしながら打水産卵も行う。
    • 一ヵ所での産卵は長いと1分程度であるが、多くは10秒以内と短く、移動しながら数か所で産卵する。
    • メスは神経質ではなく、観察者の足元近くでも産卵する。
    • 豪雨等で水量が多くなり、細流を覆う草が倒れて流れが見えるようになると、いつもは産卵に訪れる場所であっても飛来せず、身を隠せる場所でのみ産卵する。

ホソミモリトンボの観察日時

  • 2023年7月30日 6:30~16:00
  • 2023年8月04日 5:30~13:00
  • 2023年8月11日 5:30~13:30
  • 2023年8月27日 6:30~13:30
  • 2023年7月21日 6:00~12:00
  • 2023年8月26日 6:00~12:00
  • 2023年8月03日 7:30~12:00
  • 2023年8月10日 5:30~15:00

ホソミモリトンボの撮影
  雌雄共にいつ飛来するのか分からないので、チャンスを逃さぬよう飛来場所から離れないことが必要で、そのため一回の観察で6時間以上も立ったままその場で待機した。
 カメラは Canon EOS 7D でレンズは トキナーの300mm単焦点レンズで撮影を行ったが、交尾態は2倍のテレプラスを装着し、35mm換算で960mmで撮影した。
 オスの撮影は、まずは図鑑的写真として同属他種との判別ポイントである尾部付属器の"くぎぬき状"が明確に分かるものを撮った。次に、飛翔写真は様々な角度から撮影し、横位置のものは、顔面の触角から尾部付属器までマニュアルフォーカスでピントを合わせ、比較的若い個体から成熟、老熟個体まで撮影し、光線の加減で明瞭ではないが、体色の変化が分かるものを撮った。
 メスの撮影は、産卵に飛来した際のホバリングがとても短く、すぐに草の中に入ってしまうので、オスのように全身を明確に撮ることができなかったが、草被りの場合でも、メスの大きな特徴である腹部第3節背面にある一対の黄色斑を写すようにした。また、産卵においては、運よく足元近くで行ってくれたため、真上から腹部中心にピントを合わせ、2通りの産卵方法の瞬間を捉えることができた。
 来年は、羽化の時期に観察に訪れ、いつ、どのような場所で羽化するのか、その一部始終を収めたいと思う。

参考文献 他
Somatochlora arctica Ireland Red List: Endangered/British Dragonfly Society
Jaap Bouwman,New records of Somatochlora arctica in northwestern Lower Saxony.Libellula 26 (1/2) 2007: 35-40
Belenguier, L. (2021). Suivi de Leucorrhinia dubia et Somatochlora arctica par releve des exuvies :resultats sur trois tourbieres Auvergnates en 2015 (Odonata : Libellulidae, Corduliidae). Martinia 35 (4) : 13-22
Boudot, J.-P. & Karjalainen, S. (2015). Somatochlora arctica (Zetterstedt, 1840), in Boudot J.-P. & Kalkman V. J. (ed.), Atlas of the European dragonflies and damselflies. KNNV Publishing, Zeist, the Netherlands : 237-239
Raphaelle Itrac-Bruneau. (2022). Somatochlora arctica (Odonata : Corduliidae) dans le Massif du Morvan : decouverte d’une station majeure pour la Bourgogne-Franche-Comte et comparaison avec d’autres stations : Martinia 36 (1) : 1-12
吉田雅澄,1995. ホソミモリトンボの幼虫の生息環境と行動に関する知見.Aeschna, (30): 11-16.

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(オス/くぎぬき状の尾部付属器が本種の証)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 3200(撮影日:2023.08.11 9:15)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(オス/探雌中に湿原内の茂みで休む)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 200(撮影日:2023.08.11 9:07)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(若いオスの縄張り飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 1000(撮影日:2024.08.03 8:13)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(成熟オスの縄張り飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / プログラムAE F5.0 1/500秒 ISO 400 -1/3EV(撮影日:2024.08.10 13:23)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(成熟オスの縄張り飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / プログラムAE F5.0 1/500秒 ISO 400 -1/3EV(撮影日:2024.08.10 13:24)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(老熟オスの縄張り飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 200(撮影地:本州中部 2023.08.27 12:46)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(産卵のための訪れたメス/第3節背面の黄色斑が本種の証)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 320 +1/3EV(撮影日 2024.07.21 9:33)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(交尾態)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS PRO300 2X DG / プログラムAE F9.0 1/320秒 ISO 3200 +1EV(撮影日:2024.08.10 12:57)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(交尾態)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS PRO300 2X DG / プログラムAE F9.0 1/320秒 ISO 3200 +1EV トリミング(撮影日:2024.08.10 12:57)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(産卵場所でホバリングするメス/第3節背面の黄色斑が本種の証)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 800(撮影日:2024.08.03 10:18)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(草につかまっての産卵)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 1000(撮影日:2024.08.03 10:19)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(打水産卵)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 1000(撮影日:2024.08.03 10:20)
生息環境及び産卵場所の写真
ホソミモリトンボの生息環境及び産卵場所(湿原の中に細流があり、産卵場所となっている)
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"Danse de l'amour" of fireflies

2024-08-17 17:03:16 | ホタルに関する話題

 "Danse de l'amour" of fireflies / 邦題「届いておくれ、愛の光よ」

 ホタルが舞う季節は終わったが、外国の方々向けに、これまでに日本各地(岩手県から高知県まで)で撮影したホタルの写真をスライドショー動画にまとめてみた。
 ホタルは、極地や乾燥地域を除く世界中に生息しているが、日本ならではの美しい光景を海外にアピールしたく作成した。ホタルは、求愛のために発光している。これは世界共通であり、題名に表した。勿論、写真であるから見た目とはまったく違うが、自然界に棲むホタルを実際に見たことがない日本国内の方々にもご覧いただきたいと思う。
Fireflies glow to court their partners.In Japan, fireflies not only live in the forests, but also fly over the rivers in "SATOYAMA".
Feel the healing power of Japanese nature as you watch the fireflies dance.The firefly scenery, which can only be seen in Japan, is a part of Japanese culture.

以下の動画は 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

"Danse de l'amour" of fireflies / 邦題「届いておくれ、愛の光よ」
(動画の再生ボタンをクリックした後、設定設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンに しますと高画質でご覧いただけます)
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シータテハとエルタテハ

2024-08-14 13:18:06 | チョウ/タテハチョウ科

 シータテハとエルタテハ。CとL。後翅裏の白紋の形から付けられた何ともユニークな和名である。先日、久しぶりにシータテハを見かけて撮影したので、和名も形態も似通った両種について比較してみた。まずは分類であるが、どちらもタテハチョウ科(Family Nymphalidae)ではあるものの、シータテハはキタテハ属 Genus Polygoniaで、エルタテハはタテハチョウ属 Genus Nymphalisである。分布や生息環境も似ており両種ともに成虫で越冬するが、シータテハは年に2回程度発生し、夏型と秋型の季節型がある。

  1. キタテハ属 Genus Polygonia
    • シータテハ Polygonia c-album hamigera (Butler, 1877)
  2. タテハチョウ属 Genus Nymphalis
    • エルタテハ Nymphalis vaualbum ([Denis et Schiffermuller], 1775)

 シータテハは、アジアからヨーロッパまで広く分布しており、国内では北海道から九州まで分布する。北海道では平地から山地に生息するが、本州での分布は不連続でやや標高の高い山地に限られる。同属のキタテハに似ているが、本種は翅の縁の切れ込みが深くくっきりしており、後翅表にある黒斑内に水色の斑がないので、容易に区別できる。花や樹液に集まり、オスは地表でよく吸水する。幼虫の食草は、ニレ科のハルニレ、アキニレ、エノキなどで、成虫は年に2回程度発生し、初夏から真夏にかけて現れる夏型と、秋に現れてそのまま越冬する秋型がある。夏型より秋型の方が、翅外縁切れ込みが深く、秋型の翅裏に縞模様があり、オスでは濃淡がはっきりしている。また、秋型の翅裏には部分的にコケ状の暗緑色斑が現れる場合が多い。
 シータテハは、環境省版レッドリストには記載されていないが、都道府県版レッドリストでは、和歌山県、鳥取県、岡山県で絶滅、島根県、徳島県、香川県、愛媛県で絶滅危惧Ⅰ類に、その他、四国と九州を中心に絶滅危惧Ⅱ類や準絶滅危惧種としてきさいしており、これら地域でも、現在はほとんど見られない状態となっている。

 エルタテハは、ユーラシア大陸とアフリカ大陸北部の旧北区のほぼ全域と北アメリカ大陸に分布し、日本では北海道と中部地方以北の本州に分布する。北海道では平地から山地にかけて、本州では主に標高1,000 m以上の食樹であるニレ科植物(ハルニレなど)やカバノキ科植物(ダケカンバ、シラカンバなど)がある落葉広葉樹林等に生息している。成虫は、年に1回の発生で7月~8月頃に羽化し、そのまま成虫で越冬した後、翌年の5月頃まで生きて産卵する。ノリウツギやナナカマド等の花を吸蜜することもあるが、ダケカンバ等の樹液、獣糞を吸ったり、腐った果実に集まったり、地面で吸水したりすることが多い。また、コンクリートの擁壁に止まり、エフロレッセンス(白華)現象によって生じた炭酸カルシウムの結晶を吸っている様子を見ることも多い。
 エルタテハは、環境省版レッドリストには記載されていないが、都道府県版レッドリストでは、東京都で絶滅危惧Ⅱ類、新潟県で準絶滅危惧としているが、本種はもともと個体数が少なく、植林に伴う自然林の消滅や生息環境の少しの変化によっても個体群が維持できなくなる可能性がある。

 シータテハとエルタテハは、キタテハにも似て翅色が地味で、しかも、どこにてもいるようでもそうではなく、撮ろうと思ってもなかなか出会えないチョウである。これまで、こうした希少種に近いものや絶滅危惧種、そして美麗種を中心に追いかけてきたが、近年ではチョウよりもトンボ類を撮ることが多く、今年に限っては、沖縄でコノハチョウを撮っただけである。トンボでは、成虫の図鑑的写真の他、生態の各ステージ、例えば羽化や交尾、産卵といった場面の撮影チャンスが多いが、チョウはそれらを野外で撮ることが簡単ではない。また、種類を数多く撮る事だけを目的としておらず、ジャノメチョウやヒョウモンチョウなどは撮らないことが多いので、本ブログにおいては、トンボ類の投稿記事が多くなっている。
 そろそろ自然風景写真も撮りたいと思っているが、夏も終わりに近づいているので、ヤマキチョウ等を久しぶりに撮っておきたいと思っている。

参照ブログ記事

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

シータテハの写真
シータテハ(夏型)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 100(撮影地:長野県 2024.08.10)
シータテハの写真
シータテハシータテハ(夏型)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 100(撮影地:長野県 2024.08.10)
シータテハの写真
シータテハシータテハ(秋型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/320秒 ISO 250 +2/3EV(撮影地:長野県 2011.09.10)
シータテハの写真
シータテハ(秋型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/800秒 ISO 200 +2/3EV(撮影地:長野県 2011.09.10)
シータテハの写真
シータテハシータテハ(夏型)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/640秒 ISO 100(撮影地:長野県 2024.08.10)
シータテハの写真
シータテハ(秋型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/200秒 ISO 200(撮影地:群馬県 2012.08.25)
シータテハの写真
シータテハ(秋型)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/200秒 ISO 200 +1/3EV(撮影地:群馬県 2016.09.10)
エルタテハの写真
エルタテハ(オス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 1250 +1EV(撮影地:長野県 2018.08.12)
エルタテハの写真
エルタテハ(メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F4.8 1/320秒 ISO 200(撮影地:群馬県 2012.08.25)
エルタテハの写真
エルタテハ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 320 +1EV(撮影地:長野県 2018.08.12)
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ホソミモリトンボの交尾態

2024-08-11 18:41:51 | トンボ/エゾトンボ科

 ホソミモリトンボの交尾態を撮影することができた。

 ホソミモリトンボの生息地には、今季4回目、昨年から合わせて8回目の訪問。この日は朝6時から待機した。天候は晴れで気温は18℃。7時過ぎにオスが1頭飛来したが、すぐに遠くへ飛んで行ってしまった。その後、8時半頃からは厚い雲がかかり、太陽が照らないと寒いほどの状況が1時間ほど続き、その間はまったく飛来することはなかった。晴れ間が広がってからも、時折、雲に太陽が隠れ、朝から快晴の日よりも気温の上昇が穏やかであった。
 今回の大きな目標は、ホソミモリトンボの交尾態を撮ることであった。そのための方法としては2つ。1つは、周囲の木々を隈なく見て回り、枝に止まっているところを探す。もう1つは、産卵に来たメスをオスが捉えた後、タンデムとなって飛んでいくところを目で追いながら、止まった枝を見極めるというものである。様々な枝を時間をおいて見て回ったが、見つけることはなかなか難しく、結局、タンデム飛翔を追うことにした。
 まず、産卵のために飛来するメスを待つ必要がある。毎回、必ず産卵する場所で待機するが、前日にゲリラ雷雨があったようで、湿原の中を流れる細流は、いつもは草が覆いかぶさって流れが見えないが、この日は草が流れの方向に倒れていた。産卵に来たメスは身を隠すように細流の茂みに潜るが、今回は、身を隠せないのである。それを分かっているのだろうか、いつもの産卵場所には一向に飛んでこない。
 オスもほとんど飛来することなく、遠くで探雌飛翔している。産卵場所はいくつもあり、この日の産卵場所はここだということをオスも分かっているのだろう。10時頃からタンデムとなって飛翔するペアが現れた。しかしながら、かなり遠くであり、目で追ってもすぐに見失ってしまう。そんなことを4回繰り返した。
 これまでは、いつも正午頃に引き上げていたが、今回は粘ることにした。すると5回目のチャンスが訪れた。30mほど先を飛翔する小さなタンデムを追いかけ、運よく湿地に隣接する森に入って行く場所まで追うことができた。当日は知人も一緒で、持参くださった双眼鏡で止まった枝を見つけてくれた。私一人では、撮ることができなかっただろう。
 撮影できる場所からの距離は10m以上あり、老眼が進んだ肉眼ではまったく分からない。そこで、トキナー300mmにケンコーの2倍のテレプラスを付けて撮影することにした。焦点距離は600mmだが、カメラはAPS-Cであるから1.6倍になる。つまり35mm換算で960mmの超望遠での撮影である。以前にキリシマミドリシジミを撮ったときと同じように、背面のモニターで拡大表示してピントを合わせ、カメラブレを防ぐためにレリーズでシャッターを切った。
 掲載した写真は、トリミングもしており解像度に難があるが、これで、成虫においては羽化を除いて多くの生態写真を残すことができ、一段落である。

 この日は、正午になっても気温は21℃で、時折、太陽光が雲で遮られる状況。午後になっても、しばしばオスが飛来し、湿地上で探雌飛翔を行っていた。13時を過ぎた頃、こちらから比較的近い場所で ホバリングするオスがいた。6mほどの範囲において、場所を変えながらホバリングするが、長いと同じ位置で10秒以上も静止飛翔していた。これほど長いホバリングを見たのは初めてである。これは、個体差なのか時期的なものか、あるいはこの日の天候、気温が関係したのかは分からない。

 以下には、今回撮影したホソミモリトンボの交尾態とホバリングの写真を掲載した。交尾態はトリミングもしており解像度に難があるが、これで、成虫においては羽化を除いて多くの生態写真を残すことができ、一段落である。後日、本種についての観察内容とそれぞれの写真をまとめて記したいと思う。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(交尾態)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS PRO300 2X DG / プログラムAE F11 1/500秒 ISO 3200(トリミングあり)(撮影日:2024.08.10 12:57)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(交尾態)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS PRO300 2X DG / プログラムAE F9.0 1/400秒 ISO 3200 +1EV(トリミングあり)(撮影日:2024.08.10 12:59)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(交尾態)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS PRO300 2X DG / プログラムAE F10 1/400秒 3200 +1EV(トリミングあり)(撮影日:2024.08.10 13:02)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリング)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / プログラムAE F5.0 1/500秒 ISO 400 -1/3EV(撮影日:2024.08.10 13:21)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリング)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / プログラムAE F5.0 1/500秒 ISO 400 -1/3EV(撮影日:2024.08.10 13:23)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリング)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / プログラムAE F5.0 1/500秒 ISO 400 -1/3EV(撮影日:2024.08.10 13:23)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリング)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / プログラムAE F5.0 1/500秒 ISO 400 -1/3EV(撮影日:2024.08.10 13:24)
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ホソミモリトンボの産卵

2024-08-04 20:43:59 | トンボ/エゾトンボ科

 ホソミモリトンボの本州における貴重な生息地の1つにおいて、昨年から観察と撮影を続けており、今回、7回目の訪問で産卵の様子を撮影することができた。(前回7/26の訪問では、観察のみで写真は撮れなかった)

 ホソミモリトンボのメスは、どこからともなく現れ、湿原の上を低空で飛翔しながら産卵に適した場所を探す。茂みが少し開けた場所に降りるが、水がないと分かると、すぐに飛び立ち移動する。どの個体も産卵する場所は同じであり、湿原の中を蛇行しながら流れる幅30cmほどの流れである。ただし、流れは草で覆い隠されており、周囲より幾分草が少ないことで分かる程度である。茂みで身を隠すことができる場所でしか産卵しない。
 飛来したメスは、その茂みの中に降りていき、草につかまって尾部先端を水中に入れて産卵する。(写真2、3)短いと5秒程度で茂みから飛び立つが、長い場合は30秒以上も出てこないこともある。ただし、草が多く茂っている場所に潜り込んだ場合、草が邪魔をして飛び立つのに苦労していることもある。産卵場所にわずかな空間があれば、そこでホバリングしながら打水産卵を何回か繰り返すことも今回分かった。(写真4)

 本記事においては、以下に産卵の写真の他に、エゾトンボ科ならではの金属光沢が際立った若い個体の飛翔写真も掲載した。いずれも今季の撮影目標であり、何とか残すことができた。今月末頃まで観察と撮影は継続し、交尾態も記録することに努めたいと思う。ホソミモリトンボの生態や当地における行動等に関しての全体的な観察結果は、今季最後の訪問後に「まとめ」として記したいと思う。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(産卵場所でホバリングするメス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 800(撮影日:2024.08.03 10:18)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(草につかまっての産卵)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 1000(撮影日:2024.08.03 10:19)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(草につかまっての産卵)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 1000(撮影日:2024.08.03 10:19)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(打水産卵)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 1000(撮影日:2024.08.03 10:20)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリングするオス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 1000(撮影日:2024.08.03 8:13)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリングするオス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 1000(撮影日:2024.08.03 8:13)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリングするオス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 160(撮影日:2024.08.03 7:42)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリングするオス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 800(撮影日:2024.08.03 8:14)
ホソミモリトンボの写真
ホソミモリトンボ(ホバリングするオス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 160(撮影日:2024.08.03 7:53)
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コシボソヤンマ

2024-08-03 17:06:20 | トンボ/ヤンマ科

 コシボソヤンマ Boyeria maclachlani (Selys, 1883)は、ヤンマ科(Family Aeshnidae)コシボソヤンマ属(Genus Boyeria)で、北海道・本州・四国・九州(種子島、屋久島)に分布し、6月下旬から9月末ころまで見られる。朝と夕方に活発に活動する黄昏ヤンマで、和名の由来となっている腹部第3節の「くびれ」が著しいことが本種の特徴である。
 ミルンヤンマ Planaeschna milnei (Selys, 1883)と共に数少ない流水性種のヤンマで、低山地、丘陵の麓から平地にかけての樹林に囲まれた薄暗い砂礫底の細流や涌水池の砂泥底に生息している。ミルンヤンマと同所的に見られることもあるが、本種の方がより低地の穏やかな流れを好む傾向がある。人々の生活圏に近いこともあり、河川改修、湧水の不安定化や枯渇、水質汚濁等により減少傾向にある。環境省版レッドリストに記載はないが、都道府県版レッドリストでは、東京都で絶滅危惧Ⅰ類に青森県・群馬県・千葉県・長崎県で絶滅危惧Ⅱ類として記載している。

 コシボソヤンマは、2012年に自力で探した生息地においてオスの枝止まりを撮影し、2016年には産卵の様子を撮影しているが、まだ飛翔の様子を撮っていなかった。2012年当時は、オスが川面をどのように飛翔するのか等の生態がよく分かっておらず、飛翔は観察だけで終えていた。2016年は、日中に行われる産卵の撮影をメインにしたため、黄昏飛翔の様子を撮ることがなかった。そこで、今年こそオスの飛翔写真を撮っておこうと8年ぶりに生息地を訪れた。
 現地には15時に到着。気温35℃だが、深い谷の薄暗い細流れは、風が吹けば幾分涼しい。川岸を歩ていると、早速、メスが川から飛び立ち、すぐ上に覆いかぶさるように茂っている木の枝に止まった。おそらく産卵していたのだろう。しばらく待てば、また産卵場所に降りてくることは分かっていたが、今回はオスの飛翔撮影が目的であり、川沿いを歩きながら、オスが飛び回りそうな場所のロケハンを行った。
 まだコシボソヤンマのオスが出てくるには時間が早く、短いホバリングをしながら飛び回っているのは、コオニヤンマで、その他はハグロトンボだけであったが、16時を過ぎると、河床が岩盤であるかなり暗い流れの上で往復飛翔している1頭が見えたが、撮影には不向きな場所であったため観察だけに留めた。その後、17時を過ぎると別の場所三カ所において、目の前で飛翔するオスを見つけ、カメラを向けた。

 コシボソヤンマは、7月中旬頃に羽化をし、しばらく樹林内で過ごした後、8月になると朝夕の黄昏時間帯に川面を縄張り飛翔するようになる。成熟する8月下旬頃は、かなりの広範囲を飛翔するが、8月上旬頃の比較的若い個体は、川の上下流3mほどの範囲を水面スレスレに行ったり来たりしながら縄張り飛翔を繰り返す。6月に沖縄で観察したカラスヤンマのオスもそうであったが、何度も目の前を通過するので撮影のチャンスはとても多い。
 とは言っても、ホバリングは一切せずに、薄暗い川面を早いスピードで往復するため、いつもの飛翔撮影のようにトンボを追いながらマニュアルフォーカスでピントを合わせて撮るようなことはできない。「置きピン」しかない。「置きピン」とは、あらかじめ構図とピント位置を固定しておいて、被写体がフレームインするタイミングでシャッターを切る撮影テクニックのことである。幸い、コシボソヤンマは、ほぼ同じコースを飛翔するので、カメラを三脚に固定し、飛翔コース上にレンズを向けてピントを固定し、コシボソヤンマが通過した時にシャッターを切れば良いのだが、全長77~89mmの相手に対して、複眼の先の触角から尾部付属器までピントが合い、コシボソヤンマの一番の特徴である腹部第3節の、まるで人が指で押しつぶしたかのような「くびれ」が分かるように撮りたい。更には、後翅先端の黒斑も写したい。
 「置きピン」と言えども、今回の場合の被写界深度は2cmほどしかない。少しずれた所を飛翔すれば全てピンボケとなる。撮影テクニックの1つではあるが、技術は必要なく運任せである。結局、250枚ほど撮影し、90%の確率で画角内に収めたが、ピントが合っていたのは僅か10枚だけであった。以下には、その中から4枚を選んで掲載した。4枚目の写真はターンする瞬間が写っており、体が方向転換する側に斜めになっているが、複眼は水平を保っているところが面白い。また、過去に撮影した枝に止まっているオスとメス、産卵の写真も併載した。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

コシボソヤンマの写真
コシボソヤンマ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / シャッター速度優先AE F2.8 1/250秒 ISO 400 E-TTL評価調光(撮影日:2024.08.01 17:01)
コシボソヤンマの写真
コシボソヤンマ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / シャッター速度優先AE F2.8 1/250秒 ISO 400 E-TTL評価調光(撮影日:2024.08.01 17:16)
コシボソヤンマの写真
コシボソヤンマ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / シャッター速度優先AE F2.8 1/250秒 ISO 400 E-TTL評価調光(撮影日:2024.08.01 17:17)
コシボソヤンマの写真
コシボソヤンマ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / シャッター速度優先AE F2.8 1/250秒 ISO 400 E-TTL評価調光(撮影日:2024.08.01 17:20)
コシボソヤンマの写真
コシボソヤンマ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/60秒 ISO 400 -1/3EV E-TTL評価調光(撮影日:2012.08.11 15:26)
コシボソヤンマ(メス)の写真
コシボソヤンマ(メス)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/13秒 ISO 400 -1EV E-TTL評価調光(撮影日:2016.08.21 14:56)
コシボソヤンマ(産卵)の写真
コシボソヤンマ(産卵)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/25秒 ISO 3200 -1 1/3EV E-TTL評価調光(撮影日:2016.08.21 14:26)
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