ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ギフチョウ(産卵)

2018-05-05 20:34:45 | チョウ/アゲハチョウ科

 ギフチョウ Luehdorfia japonica Leech, 1889 は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)ウスバアゲハ亜科(Subfamily Parnassiinae)ギフチョウ属(Genus Luehdorfia)に分類される里山に生息するチョウで、氷河期の頃から地球環境の変化に耐えて生き残ったと考えられている。ギフチョウは、吸蜜植物が開花し食草の新葉が出る春に合わせて成虫が羽化・産卵し、葉が硬くなり林冠が閉鎖する真夏が来る前に蛹になる。 そして夏から翌春までの長い期間を蛹で過すという雑木林の季節変化にあわせた生態を持った「春の女神」(スプリング・エフェメラル)である。
 ギフチョウは日本の固有種で、本州の秋田県南部から山口県中部まで25県の広範囲に分布し、下草の少ない林に生息する。また、本州の特産種でもあり、世界中で日本の本州だけに分布するチョウは、このギフチョウだけである。かつては東京都下の多摩丘陵・高尾山とその周辺にも生息していたが、里山の放棄・放置によって食草であるカンアオイが 絶滅したことと、採集者によるギフチョウの乱獲により完全に絶滅している。全国的にも減少傾向にあり、環境省RDBでは絶滅危惧Ⅱ類に選定されており、26都府県のRDBで絶滅危惧Ⅱ類や準絶滅危惧種として記載している。関東地方では、神奈川県の石砂山周辺でしか見ることができない。この地区のギフチョウは、神奈川県の天然記念物され地元の保護団体により保全されているが、人為的に他産地の個体の移入が行われた経緯があるようで、遺伝子攪乱が起こっていることがわかっている。
 環境省RDBで絶滅危惧Ⅱ類に選定され、多くの地方自治体のRDBで絶滅危惧Ⅰ類やⅡ類に選定されてはいるが、法的な拘束力はなく、規制のない地域では採集も行われている。ギフチョウは、地域変異・個体変異が多く見られるので、それを目当てに採集ツアーが開催され、参加者は採れるだけ採る。その日にいたギフチョウをすべて採りつくすのだから、環境の悪化や破壊よりもギフチョウを絶滅に追いやる一番の原因になっている。
 ちなみに、長野県白馬村では、ギフチョウとヒメギフチョウを昭和49年10月1日に村の天然記念物に指定し、成虫だけなく、卵、幼虫、蛹も含めて捕獲を禁止している。 また平成22年度より天然記念物の捕獲等について条例で10万円以下の罰金などの罰則が盛り込まれている。

 ギフチョウは、これまで何度も開翅やカタクリ吸蜜などのシーンを撮影しているが、今回は、生態学的にも貴重な「産卵」シーンを撮ることができた。
 林内で待機していると、林床をゆっくりと飛ぶ個体が目に入った。そっと近づくと、その個体は飛んでもよく止まる。翅も綺麗な大変美しい個体で腹部が大きいメスである。飛ぶ後を追いかけ続けていると、ウスノスズクサ科であるフタバアオイに止まり産卵を開始した。別の個体もフタバアオイに産卵を行っていた。
 ギフチョウの食草と言えばウスノスズクサ科のカンアオイであるが、カンアオイはクリやコナラなど落葉樹の林の日陰に生育する植物で繁殖力が弱く、自生地をほとんど広げない植物で、一度自生地が失われると自然状態で復活することが難しいと言われている。環境の悪化や破壊によってカンアオイが絶滅すれば、ギフチョウも絶滅するが、ギフチョウとヒメギフチョウの混生地である当地ではカンアオイは見当たらない。ヒメギフチョウの食草であるウスバサイシンが多い。そしてそれよりも多いのがフタバアオイであり、繁殖力の強さから一面フタバアオイとなっている場所もある。
 フタバアオイは、ギフチョウの飼育において以前から代用食として用いられていたようであるが、幼虫は若齢からでなければ受け付けないと言われている。当地のギフチョウは、フタバアオイで繁殖していると思われる。

 尚、産卵した卵をこの場で撮影する事が出来なかったため、同生息地内で撮影したヒメギフチョウの卵の写真を参考までに掲載しておきたい。

以下の掲載写真は、1024*683 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で表示されます。

ギフチョウの写真
ギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)
ギフチョウの写真
ギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)
フタバアオイに産卵するギフチョウの写真
フタバアオイに産卵するギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 500(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)
フタバアオイに産卵するギフチョウの写真
フタバアオイに産卵するギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 1600(撮影地:長野県白馬村 2018.4.29)
ヒメギフチョウ卵の写真
ヒメギフチョウの卵
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/125秒 ISO 250(撮影地:長野県白馬村 2017.5.04)

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