あっという間に令和元年も残すところ一週間余りとなってしまった。例年通り、一年を振り返って、この一年に撮影した昆虫と自然風景の自己ベストを掲載したいと思うが、その前に「最上の一枚」について、個人的に考えておきたい。
写真撮影は趣味である。ただし、求める一枚には、趣味だからとかアマチュアだからというマイナス思考はなく、自分なりに信念や情熱をもって臨んでおり、ブログやFacebookに掲載する以上は、見て下さる方々からの評価も気になる。だからといって「いいね」を多く獲得しようと、あえてインスタ映えするようなものを撮る気はなく、自身が求める最上の一枚を目指している。
昆虫写真の場合は、目的の種との出会いに苦労することも多いが、マクロで的確に写せば図鑑的、生態学的見地から貴重な記録として残すことができ、目的は達成できる。一方、自然風景写真は昆虫写真ともスナップ写真とも違う。写実には違いないが、単なる記録ではなく芸術作品でありたい。「絶景」ともなれば美しい自然そのものが芸術だ。絶景とは、辞書で引くと「他に例えようもない、すばらしい景色。」とある。特に、簡単には人間を寄せつけない大自然の圧倒的な美しさは、まさに「絶景」であり、秘境でなくても気象条件によって極限られた時にしか見られない光景も「絶景」と言えるだろう。そんな「絶景」には、これまで数多く出会い、そして撮影してきた。しかし昨今、その「絶景写真」に疑問を持ち始めている。
以下の写真は、信州上高地の「霧氷の田代池」と、その撮影が叶うまで何回も通い続けた際に撮影した「田代池」である。「霧氷の田代池」がいかに絶景であるか一目瞭然である。この光景は、厳冬期に行けば、いつでも見られる訳ではない。様々な気象条件が合致しなければならないのである。何度も通うことで知識を得て、条件を見極める事ができるようになり撮影できたが、果たしてこれは「最上の一枚」と言えるのであろうか?
厳冬期の上高地に入るには、相当な覚悟が必要になる。11月中旬の「上高地閉山式」が終わると、上高地までバスやタクシーで行くことも出来なくなる。沢渡の冬期指定駐車場に駐車し、予め予約したタクシーで中ノ湯まで行き、そこからは徒歩である。まずは、照明の消えた真っ暗な長さ1.3km、傾斜約10度の急坂である「釜トンネル」を登る。トンネルを抜けると気温はマイナス23℃。鼻もまつ毛も瞬間に凍りつく。大正池までの区間は降雪状態により至るところで雪崩が発生するので、細心の注意が必要になる。トンネル出口から、およそ1.2kmで大正池、そこから約1.8kmで田代池に到着する。
運よく「霧氷の田代池」に出会えても辛抱が続く。霧氷が輝くのは朝陽が当たってからなので、向かいの霞沢岳(標高2,646m)の稜線から太陽が顔を出す午前10時過ぎまで待たなければならない。撮影した時は、池畔で2時間待った。スキーウエアは霜で真っ白になり、カメラバックから出したレリーズのコードも凍って丸まったまま。結果的には「霧氷の田代池」を撮ることができたが、苦い想いもある。
私は田代池に一番乗りし、良いと思う場所に三脚をセットし待機した。しばらくすると同じ撮影者が次々と来られ、三脚をセット。ここは5~6人も並べばもう三脚を立てる場所はない。私より1時間も遅くきた方々は三脚を立てる場所がなく、仕方なく後方へ。すると、その方々のなかの一人が私の三脚の足が邪魔だとぶつぶつ文句・・・迎えのタクシーの事もあり、時間切れで撮影を終えて早めに撤収すると「やっと、どいたぜ」の一言。言い返したい言葉を飲み込んで、その場を後にしたが、嫌な思い出も一緒に持って帰ることになった。
有名な景勝地では、カメラマン同士の揉め事が多い。長野県の阿智村へ「駒つなぎの桜」を撮りに行った時は、狭い範囲に50人がひしめき合っての撮影。場所取りでの喧嘩も目撃した。大勢集まればのマナーの悪いカメラマンもいるのである。
私も何度も訪れている新潟十日町の「星峠」。新潟日報によれば、今年の5月の連休中には1日千人が押し寄せたという。連休のさなか、深夜に細い山道をバックで上っていた車が
約15メートル下の棚田に転落。運転していた男性が死亡する事故が発生した。昨年も同じ場所で転落事故が起きた。この田はオイル漏れから作付けできなくなり、土を入れ替えたばかり。事故発生時は田植えの直前だった。「もうここでは米を作れない」。現場の棚田の所有者で峠集落に住む女性は、ここでの米作りを諦めた。「先祖が苦労して開墾した棚田だが、2度も事故があって気落ちしてしまった」と表情を曇らせる。
迷惑行為は頻発している。集落の住民によると、田や畑に、三脚の跡や車のタイヤ跡があった。ごみを農地や道路に捨てる人、あぜで用を足す人も多いという。さらに農作業中の住民にポーズを指示する人、撮影の邪魔だから農作業をやめろという人まで出現。無断で撮影された住民が、知らない間に雑誌に出ていたということもあったという。また撮影地へ向かう際、深夜から未明にかけて集落内を車が行き来し、騒音で「眠れない」と訴える住民もいるという。
場所取り、身勝手な「邪魔物の排除」。私有地に「お山の大将」のわがもの顔で進入する。ゴミを放置する。カメラマンは何様なのだろうか?良い写真を撮るためなら何をしても良いわけではない。
ホタルの撮影でも問題が多い。ホタルは自らの発光が繁殖行動の要であり、ホタルに光を向けるのは繁殖行動を阻害することになる。にも関わらず、懐中電灯、ストロボ、車のライト・・・を向ける。「水辺のカマラマン」と称するプロのカメラマンが、ホタルにストロボを当てて撮影した写真をブログに掲載し、その撮影方法を解説していたのでコメントしたら、驚く返答があった。(原文そのまま。一部抜粋)
「ストロボを使用するホタル撮影は、ホタルの繁殖行動に悪影響を及ぼしてしまいます。」 などという記述も含めて、私には極論に感じられました。
弱い懐中電灯の明かりやほんの数回のストロボの発光が、ホタルの繁殖行動に目くじらを立てるほどに悪影響を及ぼすのなら、なぜ、町の中の光がたくさん存在しホタルの活動時間帯に車が絶えず通るような場所にも、ホタルが多数生息する場所があるのでしょうか? また古河さんは、ホタルの観察に出かける際に、ヘッドライトをつけた車に乗ることはないのでしょうか?
そもそもマナーは、人それぞれが自分なりに一生懸命に考えることであり、他人に押し付ける筋合いのものではないと考えます。ホタルを大切にしましょうという主張は、ホタルのためではなくて、突き詰めると、ホタルを好きな誰かのためなのです。 もしも人間が存在しないのなら、実はホタルはどうなってもいいのです。ホタルに関して言うと、まずは事実が大切です。本当に懐中電灯の光や数回の発光が、目くじらをたてるほどの悪影響があるのか? ホタル愛好家が自分たちが好きなホタルの見方を、自然保護の名目で押しつけようとしていないか?せいぜい自分のホームページ内で主張すべきことだと思うのです。
ルールには強制力があるが、マナーは、個人が自発的におこなう周囲への配慮であり、他人に強要すべきことではないかもしれない。確かに町の灯りが漏れる所や車が頻繁に通る所にもホタルは生息している。しかし、ホタルはそのなかでも灯りが直接当たらない場所に移動して交尾をしているのである。ホタル全体の発生期間は3週間くらいだが、メスの発生期間は2週間。その内、月明かり、低温、強風の日は繁殖行動が抑制されるから、交尾に適した日数はほんの数日しかない。しかも、1日1時間ほどだ。そのチャンスを懐中電灯の光やストロボの数回の発光で邪魔をすればどうなるだろうか?カメラマンは何様なのだろうか?良い写真を撮るためなら何をしても良いわけではない。
掲載した「霧氷の田代池」は、まさに絶景であり、貴重な記録であり撮影して残すことに意義がある。こうした光景は今後も撮っていきたいと思うが、この時の一枚は、「最上の一枚」ではない。なぜなら、私が対峙したのは目の前の自然ではなく、背後で文句を言うカメラマンだったからだ。
どんな絶景であっても、有名な景勝地において「定番」と言われる光景の向かいには、数人から数百人ものカメラマンがいる。パンダを見るかのようにひしめき合っているのである。エコツーリズムの精神を持たないカメラマンによるマナーの悪さ、横並びしたカメラマンとの人間関係。それぞれカメラやレンズが違い、若干構図が違い、RAW現像時の調整値が違っても、おそらく大きな違いはない一枚。少々うんざりしてきた。
私にとって最上の一枚とは、冷静に自然と対峙し、自分の心を見つめ、自分が感動し、人々にも感動していただけるオンリーワンの写心だ。
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田代池
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F16 1/8秒 ISO 800 -2/3EV(撮影地:長野県松本市/上高地 2012.11.03 7:34)
田代池
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F14 0.5秒 ISO 100 -2EV(撮影地:長野県松本市/上高地 2012.11.10 6:58)
田代池
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F11 0.4秒 ISO 100 +2/3EV(撮影地:長野県松本市/上高地 2012.12.23 7:48)
霧氷の田代池
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F18 1/6秒 ISO 50 +1EV(撮影地:長野県松本市/上高地 2013.1.05 10:19)
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