幻の詩集 『あまたのおろち』 by 紫源二

幻の現在詩人 紫源二 の リアルタイム・ネット・ポエトリー

 一緒にどこかへ逃げよう

2010-10-28 01:53:49 | Weblog

 
 
  治った
 
  
  それにしても
 
  決意するのは大変だ
 
 
  僕はあなたの本当の名前を知らない
 
  あなたは僕の胸の内を知らない
 
 
  夜は意識があれば長く
 
  眠っているには短い
 
 
  昼間も夜ほどに静かなら
 
  山の中に逃げたりしない
 
 
  明日の太陽が
 
  僕に涙を流させるなら
 
  夕方帰る場所はないだろう
 
 
  ただ
 
  
  偶然掴まってしまった鳥のように
 
  二度と羽ばたけない
 
  夢すら見ない
 
 
  その鳥と一緒に
 
  
  還るところに帰る
 
 
  全ての罪が許される所
 
  その至高の天国には辿り着けそうもないから
 
 
  せめても
 
 
  地獄からでも垣間見える所がいい
 
 
  あの公園から見える新宿のビル群のように
 
  ほんの少しでも視界が開けていれば、覗き見することはできる
 
 
  針の先のような光
 
 
  それでもいい
 
 
  僕のかわいそうな鳥
 
 
  きみと一緒に旅に出たい
 
  大空を羽ばたきたい
 
 
  きみを抱き締める
 
 
  そして車の助手席に乗せ
 
 
  行こう
 
 
  もう戻って来なくてもいい所
 
 
  そんな所あるのかどうか分からないけど
 
  捜しに行こう
 
  きみとたった二人で
 
  だって、きみが信頼しているのはぼくだけ
 
 
  羽を切られた野生の鳥
 
  すっかり優しい目になってしまった
 
  ぼくになついてしまった
 
  本当は、鷹のようにきつい目をしていたのに
 
  ぼくの目をつつく程でなければいけないのに
 
 
  きみは知らないかもしれない
 
  でも、きみは戻って来たのだ
 
  ぼくが呼んだから
 
  きみは一度、あの森に戻った
 
  でもぼくがきみを必要とした
 
  なぜなら、ぼくは苦しかったから
 
  あのときは逆だった
 
  あのときは孤独だったが、苦しくはなかった
 
  今は、両方だ
 
  だから、ぼくはきみを呼んだ
 
  いや、きみの方からすすんで来てくれたのかもしれない
 
 
  だから、きみを見殺しにはしない
 
 
  この社会で生きられるかな
 
  きみを連れているのを見つかったら
 
  無理やり引きはがされるかな
 
 
  ぼくは無防備
 
  金も、地位も、力もない
 
  そして、
 
  きみには飛べる羽がない
 
  最悪のコンビだ
 
 
  でもできるはずだ
 
  それが芸術だ
 
  わかるかい?
 
  ぼくの言っていること
 
 
  きみはぼくを信頼している
 
  そしてぼくはきみを見殺しにはしない
 
 
  命を賭けて
 
 
  だってきみは飛んできた
 
  偶然、ぼくの許に飛んできたのだから
 
 
  
 
 
 
 
  ぼくの果かない夢は
 
  なにと引き換えにしてもいい
 
 
  ただあの鳥と
 
  一緒に逃げること
 
 
  どこかへ
 
 
  どこか遠いところへ
 
 
  光があって
 
  暖かくて
 
  飢えず、乾かず
 
  歌えるところ
 
  愛し合えるところ
 
 
  夜でも昼でも愛し合う
 
 
  あなたを抱き眠る
 
 
  あなたが唄うのを聞く
 
 
  ぼくは涙ばかり流しているだろうが
 
  きっと笑うことは忘れてしまっているだろうが
 
  それでもいい
 
 
  戦士
 
  ぼくはもう戦えない
 
  逃げるだけだ
 
  敵はどこにもいない
 
  自分との闘いから逃げ出す
 
 
  そうすればもっと良くなるような気がする
 
  ぼくの病気は治るかもしれない
 
 
  ただ、少しだけ
 
 
  あと少しだけ
 
 
  時間がかかるかもしれない
 
 
  だって寒いだろ
 
  なにも持たずにいきなり外に出たら
 
  旅じたくは身軽な方がいいけど
 
  いろいろな物もそばに置いておきたい
 
  本、コンピュータ、
 
  ノート、ペン、鉛筆、色鉛筆、クレヨン、スケッチブック
 
  音楽
 
  毛布、布団、枕
 
  タオル、下着、靴下、靴
 
  ズボン、上着
 
  洗面用具、風呂の道具
 
  電気製品、食器
 
 
  便利じゃないかもしれないけど
 
 
  きみと居れるならどこでもいい
 
 
  取り敢えず、二人で泊まれる旅館を転々とするか
 
  でもじきにお金が底をつくだろう
 
  だから、そこそこのアパート見つけるか
 
  ぼくはもう働かないから
 
  お金はどんどん減っていくだろう
 
  
  最低限の仕事はするか
 
 
  コンビニのレジでもいい
 
  ビルの清掃でもいい