幻の詩集 『あまたのおろち』 by 紫源二

幻の現在詩人 紫源二 の リアルタイム・ネット・ポエトリー

 見える色と見つめること

2012-12-26 23:30:04 | Weblog

 
 
  こんばんわ。
 
  覚えていますか? ぼくのこと。
 
  そうですよね、覚えている訳ないですよね。
 
  ぼくのことなんて、あなたにとって何の意味もないことですよね。
 
  でも、ぼくはあなたを見つめていたのです。
 
  そのことには気付いていましたか?
 
  何日も何日も、何カ月も何カ月も、何年も何年も
 
  そしてあなたは、意識してぼくに見られていることを許したのを知っています。
 
  あなたは、自らすすんで僕に見られるようになりました。自分から選んで。
  
  だから、あなたは僕のことを覚えているはずです。
 
  じっとあなたを見つめていた僕ですよ。
 
  そして、また今日、あなたを見つめに来ました。
 
  今日の夕日は大きく、特別メランコリックに輝いていますね。
 
  夕焼けのオレンジと黄色
 
  そして、紫色に染まった灰色の雲
 
  ぼくがあなたをその窓ガラスから透かして見ている窓ガラスを

  鋭く、オレンジと黄色の光を反射させて、この、慌ただしくも神秘的な時間
 
  ぼくは、ガラス越しに、光輝くあなたを見つめます。
 
  一篇の詩を歌うように、あなたに酔いながら、あなたを見つめます。
 
  覚えてますか? ぼくのこと
 
  僕は王子でも貴族でもないけれど、
 
  英国の宮殿に招かれたことがあります。
 
  女王陛下に謁見し、ご褒美をいただきました。
 
  ぼくが描く絵が、英国で評価されたのです。
 
  そのご褒美は、小さな勲章だったかもしれませんが、
 
  すぐにどこかに失くしてしまいました。
 
  ちょうどその頃、
 
  ぼくが名誉なんて必要ないと考えていたことと無縁ではないでしょう
 
  ちょうどその頃
 
  この地球上の存在ではない何物かが
 
  空をたびたび飛ぶのを見つめるようになりました。
  
  ぼくは、その美しくも不思議な空に光るものに
 
  すっかり心を奪われてしまい
 
  女王陛下がくださった小さな勲章のことなど、
 
  すっかり忘れてしまったのです。
 
  まるで、その空飛ぶ円盤は、ぼくをじっと見つめているようでした。
 
  ふらふらと揺らぎながら空中に漂い、
 
  生きたクラゲのように自由自在に変形していきました。
 
  ぼくの目がおかしくて、存在しない物を見てしまったのでしょうか?
 
  それとも、ぼくの意識がおかしくて、何も見ていないのに、
 
  なにか不思議なものを見たと思い込んでいるだけなのでしょうか?
 
  あなたを見つめるぼくの目は、そんな風に、
 
  おかしくなってはいないはずです。
 
  あなたの中に、宇宙でも極めて稀な美が宿っていることを見抜けるのは、
 
  ぼくの目だけ
 
  審美眼としては、最高級の上等品です。
 
  だから、世界の権威である、女王陛下がぼくに勲章をくださったのです。
 
  でも、あなたはさらにもっと美しくなれるはずだし、
 
  ぼくはもっと美しい美を創造できるはずです。
 
  いろいろな色彩が瞼の裏に浮かんできます。
 
  それは、子供の頃に見た光景だったり、
 
  もう、とっくに、すっかり忘れていた出来事の時に
 
  初めて見つけた色だったり
 
  でも、ぼくの目だけは同じ、この二つの目玉は変わってないんですね。
 
  メランコリックな憂いを含んだ青、紫、白、ピンク、黄色
 
  それらは、通り一遍の色ではないのです。
 
  深い霧の中を神秘の光を求めて彷徨い歩く旅人のように
 
  未知への恐れと深い畏敬の色を帯びているのです。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 

 
  
   
 
 
 
 
 
 

 時間がまだあるってことは、いいことだ

2012-12-12 01:24:22 | Weblog

 
 
  まだ時間があるってことは、いいことだ
  なぜなら、やがて時間がなくなる時がくるから
 
  まだどこも壊れていないってことは、すばらしく誇らしいことだ
  なぜなら、やがて完全なものはなにもなくなる時がくるから
 
  もっとも弱いものが、存在を許され
  なにもひとりでできないものが、生きていること
  優秀でないもの、不完全なものが、沢山存在していること
  それが、目下の僕が感じる最大の脅威だ
 
  自然界は完璧な美だが
  人間だけが醜悪を作った
  なぜなら、人間だけが醜いから
  自分は完璧だと勘違いした醜い人間
 
  あなたのどこが美しいのだろうか?
  自分は完璧だと思っているあなたのどこが
 
  もうすぐ時間がなくなるってことにも気づかずに
  自分が刻々と壊れていっていることにも気づかない
 
  でも僕は、そのことに気づいている
 
  だから、とても悲しい
  
  醜くなりたくない
 
  でも、まだ少しでも、時間があることに感謝する