幻の詩集 『あまたのおろち』 by 紫源二

幻の現在詩人 紫源二 の リアルタイム・ネット・ポエトリー

崩れ落ちる足元

2022-08-28 00:29:00 | Weblog
 
最近わからなくなってきた
根本的なことが
初めからわからなかった
今になって
それに気づいただけかもしれない
でもそうなると
立ってる足元の地面が
ガラガラと崩れ落ちそうで
恐ろしい
でも私という人間は
初めから
そんなものだったのかもしれない
だから
ちょうどいいのかもしれない

地震になって
大地が崩れ落ちていく
僕は夜中
車を走らせる

執着していた思い出が
苦しみになる
未来はリスクを掛けた
ロシアンルーレット
他に誰も
決断してくれる人はいない

いくらスピードを出しても
振り切れない

そもそも
追いかけてくる誰も
もはや存在しないのに

何から逃げているのか?

むしろ
どこかに向かっている?

どこにも存在しない真実に?

矛盾のうちに
打ち消し合って
とっくに破綻してしまった

イデア

摩擦のストレスに耐えられずに
精神も破綻した

だから
詩は
ただの夢だった

かつて見た同じ夢を
二度と見ることができないのに
詩の章句を暗記してどうする?

意味がないばかりでなく
自己破壊するだけ

暗記した章句が
美しければ美しいほど
それが真実だと信じれば信じるほど

自己は粉砕されていく

永遠など
そもそもどこにある?

狂人だけが垣間見れる

でも狂人になれば
混沌そのものが
秩序になり
知性になり
五感になる

世界が逆転して
裏返しになる

だから
もう少しだけ
付き合ってみようと思う
炎と
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


空想アート物語のつづき

2022-08-20 02:18:00 | Weblog
 
 夜の妙正寺川沿いの道は、手にキャンドルや松明を持った男女で溢れていた。橋の欄干から下を見下ろすと、川の両側の護岸には、100号以上ある大きな絵画や写真が延々と並べられて展示され、ゆらゆらとゆらめく松明の炎によって照らし出されていた。川べりの道路に立っている電柱の明りでは、下に垂直に掘られた川の両壁に掛けられた作品を照らすことはできないため、コンクリートで固められた川底にまで降りて、松明を焚いて証明にしている。まるで本堂に続く参道の両側に無数の灯篭が灯っているように。そして、このインスタレーションを見に来た若い男女にも、キャンドルか松明が渡され、現代的な洋服を着た男女が原始の炎を手に手に、川岸をゆっくりと散策しながら、護岸に展示された絵画や写真やインスタレーションを見降ろす様は、まるで現代から過去の時代にタイムスリップでもしたような情緒を感じさせ、でも、過去の時代とは、もしかしたら、実在しなかった夢見の中の出来事だったのではないかと、誰もが訝るほど、手に手に持った炎のゆらめきと、護岸を照らす川底の炎の永遠の連なり、そして、それらが映った流れる水の川面の反射が、一つに溶け合った一筋の光の道となって、あの世の入口に皆を誘っているようにも感じるのだった。
 TOKYOがこんなに情緒ある街だったなんて、今まで気付かなかった。夜のベニスのようにも幻想的で、川面に映ったオレンジ色の炎のゆらめきは、いくぶん東洋的で、ガンジスの川べりを連想させる。ところが、展示してある絵は、現代的な物がほとんどで、中にはアニメ風の線と色彩で描かれた大きな目をした脚の長いキャラもあるし、金魚鉢を映した天然カラー写真を大きく引き伸ばしてパネル張りにした作品もある。僕の男女のセクシャリティーと精神性をテーマに描いた100号の油絵も、5,6枚展示されているはずだが、それらが全部横一列に並んでいるわけではなく、バラバラに展示されているので、この妙正寺川のどの辺に僕の絵が展示されているのか、作者自身にもよくわからない。ところどころ、ゴムボートが浮かんでいて、それに乗って見物している人もいるし、スタッフの乗ったゴムボートが流れてくることもある。川に掛った橋には、多くの観客が密集していて、ちょうど橋から見える場所では、ロックの演奏をやっていたり、また別の橋の下では、暗黒舞踏をやっていたりする。前に話しがでたように、橋の欄干からロープで逆さ吊りになって、白塗りの全裸の筋肉質の男が何人も下の川にゆっくり降りていくパフォーマンスも実際に行われており、白塗りの男の肌は、松明に照らされてオレンジ色に輝き、赤い舌を出して身体をうねらせて川の中を進んでいく様は、まるで蛇人間が実際に出現して、川を遡っているようにも見える。
 このイベントは大成功と言っていいのではないか。なぜなら、多くの市井の観客ばかりでなく、エライ評論家や、有名人やら芸能人なども見に来ているらしい。「だれだれが見に来てるぞ」といった噂が次々に伝わってくるし、中には有名な現代美術のバイヤーまで来ているという噂も流れてきた。
 夜中のイベントで、しかも都会の街の中でこんなに大々的に、それに、川の両護岸まで使って絵や写真を展示したりすることを、よく東京都が認可したもんだと皆が思った。しかも、松明まで燃やして、そのために、消防車まで随所に待機しているなんて、よくもこんなイベントができたな(きっと大物政治家を誰かが知っているんじゃないか)などと、仲間同士で話していると、いつの間にか「作品に火がついたらしい」という知らせが急に入ってきた。「ゴムボートで巡回しているスタッフの中に今回展示しているアーティストの一人が乗っていて、その男が、手に持っていた松明で作品に火をつけたらしい。そして、作品が燃え上がるのを見て、「これだ! これ! これこそ美だ!」と叫びながら、ビデオを回し始めたらしい!」と実行委員の待機しているビルの7階のレストランに連絡が入った。その貸切のレストランからは、会場になっている妙正寺川がかなり遠くまで見渡せるのだが、そこから見た限り、作品が燃えているようには見えない。実行委員は、正確な情報の収集に努め、携帯電話で各地に配置された地点係の者に連絡している。そして、確かに作品が燃えている場所があるらしいことがわかった。それから間もなくして、作品を燃やす炎が風にあおられて延焼し、川沿いに上流に向かって火が回っているという情報も入ってきた。また、消防によって、それらの火はもう消火されたという情報も入ってきた。実際に目で見て確かめるまで、どれが正しい情報かかわからないが、ただ、実行本部から見る限り、川沿いの人々にはまったく混乱した様子も見られず、本当に作品が焼けるようなアクシデントが今起きているとは思えなかった。
 そのうちに、奇妙な情報が入った。だれかNYで画廊を持つ大物のバイヤーが、今回展示している作品を全部、ひとつ残らず買い取ると宣言し、さらに、奇妙なことに、早くも川岸から作品を次々に運び出し、集まって来たトラックに載せているとのこと。そして、作品に火がついたという情報も本物で、謎のバイヤーは、燃え残った作品を素早く護岸から持ち上げてトラックに収納し、次々とどこかへ走り去っているとのこと。
 そうこうしているうちに、事務局に一人の綺麗な女性が入ってきた。周りに5,6人の男を従えている。屈強そうないかにもプロらしいボディーガードやビジネス上の弁護士、有能な秘書に見えるような男達だ。その女性は、半袖のオレンジ色のワンピースを着ている。なぜかあの袖無しオレンジ色のワンピースを着た女子に似ているが、齢は上のようだ。その彼女が初対面の僕に向かって、いきなり語り始めた。
「今回の展示は、ストリートパフォーマンスとしては歴史に残るようなすばらしいものでした。きっと後日、様々なフォトグラファーが撮った写真やビデオと伴に、様々な評論家が、様々なメディアを通して、今回のイベントを紹介するでしょう。おめでとう。コングラチュレーション! ところで、作品に火をつけるというアイデアを考えたのはあなたですか?」と言うので。
「いいえ。そんなことをしようとは考えてもいませんでした。もし、本当に作品に火がついたのでしたら、それはアクシデントです。パフォーマンスなんかではありません」と言うと、彼女はホッとしたような顔をして「それならいいのです。展示されていた作品はどれもすばらしいものばかりでしたから。私は、それらの作品全てを買い取ることにいたしました。そして、残念なことに作品に火がついた作品に対しては私共としても何もできませんでしたので、無傷の作品からこちらでいち早く回収させていただき、トラックにて私の借りている安全な倉庫に運ぶことにいたしました。幸い、あなたの言われる”アクシデント”で焼けた作品はすべて油絵で、10数枚とのことです。それ以外に、200数十点の作品を、私どもで安全に回収いたしました。もちろん、全部、作家の言い値のとおりに買い取らせていただきます。よろしいですか?」
 満知子さんに聞くと、彼女はNYでは大物のバイヤーで、ギャラリーも経営しているとのこと。袖無しオレンジワンピースの女子の腹違いの姉だが、二人の姉妹はとても仲が良く、もちろん姉が妹にいろいろとアドバイスして、一人前のアーティストにさせようとしているらしいのだが、今回の型破りな展示の話しを妹から聞いて、姉がわざわざNYから今日、飛んで来たのだという。きっと買い取った作品は全て、NYの彼女のギャラリーで展示されるだろうし、全部売れたなんてすごいことね! こんなラッキーなことって、そうめったにありえへんよ。でもそれが現実になったのね。嬉しい~。と言って、満知子さんは思わず僕に抱きついてきた。
 
つづく。

【後日談】
 焼けた作品は、なぜか皆、私の作品だったと報告を受けた。現在、犯人は誰か、捜査が続いているという。捜査に協力してほしいと担当警察署からの依頼があったが断った。犯人が誰か分かったところで、燃えてしまった数十点の私の100号の作品は永遠に戻ってこない。作品の写真も撮っていなかったら、男女のセクシャリティーと精神性をテーマにした一連の作品は永遠に失われてしまった。それを再び甦らせることは永久に不可能だろう。だから、私は新しいシリーズを制作することにした。宗教が希求してきた理想が、永遠に手に届かないイデアの形となって現れた人間の肖像画。一瞥した一瞬で見た者の魂を永久の虜にするアイドルでありイコンのシリーズ。そのためのモデルはもう決まっている。あのオレンジ色のワンピースを着た、東洋的アラブアフリカ的白人系女子だ。彼女をモデルにすれば、私の中に永遠のイデアが無尽蔵に湧き上がってくる。それをいちいち描き留めるのは至難の業だ。だから、今世でできるかどうかわからない。きっと来世でも同じオレンジの人物に遭遇するのだろう。ほんの一瞬だけ。
 
 
 
 
 
 
 
 


ミュージック・ビデオ

2022-08-15 22:38:00 | Weblog

僕はべつにモテるわけじゃない
でもこのミュージック・ビデオを見ると
いろいろなことを思い出すんだ
まるでこのビデオに出てくる一人ひとりに
全部見覚えがあるみたいに
あんなこともあったな
あの人は今何をしているんだろう?って

このミュージック・ビデオを見つけたのは僕が最低のときだった
疲れ果てて立ち上がることもできずに
スマホでYouTubeを検査してたら
このミュージック・ビデオが見つかった

だいたい
最低のとき
最高なものが見つかるものだ

なんだか
このミュージック・ビデオは
僕の人生を凝縮しているみたいに感じて

思い出した

最低に落ち込んでいるとき
僕のそばに来て慰めてくれる人がいたことを

そういう子が
今では思い出になってしまったのだけど
ときどき強烈に思い出す
でも
あのときには戻れない

戻ったとしても
そのときは気づかないんだ

でも今になってわかる
あの子の気持ちが

僕は鈍感だから
分からなかったけど
もしかしたら
僕のことが好きだったのかもしれない

でもそんなことが重要なんじゃない
あの子は僕のことを誤解していたんだ
僕の安アパートには何もなかったし
僕は金持ちの息子でもないのに
なんで僕のところに来るんだろうって

でも本当は若いって
そういうこと

無一文の二人が出会って
無一文から始める
それが若いということ

僕には自信がなかった
でもあの子は
僕には自信があるように見えたのだろう
だから僕について来ようとした

でも本当は僕は
明日をも知れない
何も
何一つ
どうやって明日を迎えたらいいのかも
まったくわからず
ただ彷徨い
なんとか生き延びて
疲れて
世の中を呪った

でもそんな僕のそばに来て
なぜかあの子は慰めてくれた

それが何故なのか
僕には分からないまま
出会って
ひと時を過ごして
別れた

繰り返し

繰り返し

だから
繰り返すうちに

だんだんと
歳をとっていくと
身体の関節が硬くなって動かなくなってくるように
心も臆病になり
出会いを避けるようになる

出会いの後には
別れがあるのが
分かってくるから
 
 
 
 
 
 
 



私は自分の身体をコントロールできているのだろか?

2022-08-10 22:47:00 | Weblog

私は自分の身体をコントロールできているのだろか?


それとも、自分の身体に閉じ込められて、がんじがらめに拘束されているだけなのだろうか?

オリンピック選手のように身体を使えなくてもいい

ただ、重力から解放されたいだけだ

私にとって地球の重力は重すぎて身体が動かせない

身体が動かないと想像していることと私が分裂を始める

イマジネーションの空を自由に飛んでいる鳥は

私よりもはるかに進化している

私の身体は重たい鉛の塊

指先一つ自由に動かすことができない

少しだけ微笑むだけの頬の筋肉ひとつ

動かせない

ほんの少しでも

微笑むことさえできたなら

でも微笑む理由など

どこにもないのだけれど

見えるものがすべて醜く

接するものがすべて悪意に満ちているとき

少しだけ

苦笑したくもなるのだが

それでも

筋肉が引きつって動かなかったら

それこそ

絶望というものではないか

空を飛ぶ鳥は

まるで神のようだ

翼を持つ天使

それに比べれば

肉という鉛に覆われた私は

堕天使ですらない

ただの

アリ地獄に吸い込まれていく

絶望

唯一

希望があるとしたら

残された時間の最後の瞬間

一瞬の夢の中に

この重力の世界では

けっして起こり得ない物語りを想像して

それに浸るだけ


私は私の創作した夢を見ている

それが私の人生

私の夢は私の作品

それは誰とも共有できない


私の身体は

客観的に存在している

私の口が話す言葉が私のものだと誤解されている

でもそれは私とはなんの関係もない

鉛の塊の人形が

勝手に言葉を自動生成しているだけにすぎない

本当の私とは無関係に