幻の詩集 『あまたのおろち』 by 紫源二

幻の現在詩人 紫源二 の リアルタイム・ネット・ポエトリー

 エネルギー

2012-11-14 02:48:34 | Weblog

 
 
  あの目に見えないほど微かに輝く星ほどにも
 
  小さな人間の一人として
 
  悲しみと慈しみを感じる夜
 
  天使に祈っても
 
  飛んできてくれやしないし
 
  そして、この胸の想い
 
  どこにも届きやしない
 
  それでも、報われることのないただの妄想として
 
  明日の朝日に消えていくだけだとしても
 
  
  気をつけて、目を開けていよう
 
  なにか途方もないことに気付くこともあるかもしれないし
 
  それはもしかしたら神秘かもしれないから
  
  つまり、光の彼方からやってきて
 
  なぜ私は生から死の闇へと遷り変っていくのかを
 
  静かに物語っているかもしれないから
 
 
  そうだ
  
  こんど、きみと話がしたい
 
  そんな話
 
  きみと話せたら楽しいにちがいなけど
 
  なかなかきっかけがないから難しいけど
 
  きっと、なにかの役に立つよ
 
  もし話しができたら
 
  きっと、今まで気付かなかったことに気付くよ
 
  あなたの中の、なにかとっても不思議な、アート的な創造のエネルギー
 
  エネルギー
 
  それって、力の源泉、でも、物理的な力じゃなくて
 
  美とか善とかの触ることのできない目には見えない力の源泉
 
  僕の精神の中に流れ込んでくる
 
  僕の精神そのものが純粋で静かになったとき
 
  はじめて気付く
 
  エネルギー
 
  そんな話がしたい
 
  何に気付き、どんなエネルギーに満たされているか
 
  もし、きみと話ができたら
 
  きっとそんなエネルギーに満たされるだろう
 
  そんな気がする
 
  だからそれを感じながら
 
  その話をしながら
 
  分かち合いたい
 
  きみとそのエネルギーを
 
  そんな気がするんだ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  

 誰もいない風呂屋2

2012-11-04 03:43:20 | Weblog

 
 
  部屋には風呂が付いているが、マンションのバルコニーからすぐ近くに見える銭湯に行った。
 
  たまにこの銭湯に来る。
 
  安アパートに暮らしている学生とか、どっかのジジイとか
 
  だいたい常連がいつも来ているらしく、いつもけっこう混んでいる。
 
  でも、今日はなぜか誰もいなかった。
 
  なんか”重要な”野球の試合とか、”重要な”サッカーの試合があるせいかもしれない。
 
  僕は、野球もサッカーも興味ないから、そんなに”重要な”試合がこの世に存在するとは思えないが、
 
  どうやら、ファンには、命懸けくらいに”重要な”試合が年に何回かあるらしい。
 
  でも、そんな試合があったとしても、もうすぐあの世に行きそうな呆けたジジイや、
 
  中には、興味がない学生だっているだろうから、猫も杓子も一緒になって銭湯に来ないなんてこと
 
  あるわけないような気がする。
 
  そんなことを訝りながら、だれもいない広い湯船に浸かりながら、
 
  前のビルのバルコニーで顔を合わせたあの女のことを想像し始めた。
 
  地方から大学に入学した学生で、親がマンションを買ってやった。それとも、
 
  就職したばかりの一人暮らしのOLで、借金をしてあのマンションを買った。
 
  そう、あのマンションは、賃貸ではないらしいから、いずれにしてもあそこを買ったんだ。
 
  そして、どちらにしても、あの女は、とっても若い。
 
  それなのに、あの女以外、他に誰も棲んでいないように見える。
 
  ときどき顔を合わせるし、今日は、うかつにも手を振ったりしてしまったから、
 
  あの女、僕のことを覚えたに違いない。
 
  でも、あまり顔までハッキリ見えないから、街ですれ違ってもわからないだろう。
 
  それは、こっちにしても同じことだ。
 
  あそこのマンションの、あのバルコニーにいる女。
 
  向かいのマンションの、あのバルコニーで手を振った男。
 
  ところで、この銭湯、こんなに空いているなら、たまに来るのもいいかもしれない。
 
  ユニットバスって、なんか息がつまるんだよね。
 
  まるで、ユダヤ人が殺されたガス室みたいに・・
 
  僕は、ガス室で殺されたユダヤ人じゃないからわからないけれども
 
  いつも、風呂に入りながら思い出すんだ。
 
  思い出すというより、想像する。いや、想像するんじゃなくて、思い出す。
 
  どっちかわからない。が、同じことだ。
 
  ちょうど、今、あの女を想像しているのと同じように。
 
  シャワーを浴びるために裸になって、ガス室に送られて殺されたユダヤ人のこと。
 
  まあ、あの女とは関係ないけど。いや、関係あるのかもしれない。
 
  なんだか、あの女、ガス室で殺されたユダヤ人みたいに、孤独に、
 
  今頃、あのマンションのあの部屋のユニットバスに入っているかもね。
 
  もしできることなら、この銭湯に入りに来ればいいのに。
 
  もしこの銭湯が混浴だったらの話しだけどね。
 
  ゴミゴミした都会の真ん中で、
 
  まるで、この銭湯だけ異次元のようにこんなに空いて誰もいない。
 
  僕以外誰もいないんだから・・。
 
  ここが混浴だっておかしくはない。
 
  いまどき珍しく、壁には富士山が描かれていて、
 
  それを見ていると、ここが広々とした戸外に感じられる。
 
  それに比べて、現実の日本の住環境って、本当にウサギ小屋だよな。
 
  狭い風呂、狭いトイレ、狭いベッドルーム、狭いリビング。
 
  なんでも一通り揃っているけど、満足できるレベルじゃない。
 
  コンビニに行けば喰う物が透明なプラスチックの容器に入って並んでいる。
 
  性欲があれば、エロ本も何種類か並んでいる。
 
  酒だって売ってるし、食欲、性欲、一応ありきたりの欲望の一通りは、
 
  それなりに満足できるようになっている。
 
  でも、本当には満足できない。
 
  だから、僕は、夜、バルコニーから外を眺めたりするんだ。
 
  そして、あの女も同じように、夜、バルコニーに出てくる。
 
  まるで、息詰まった監獄から出てくるように。
 
  そして、何億光年彼方の光を見つめるのだ。
 
  夜空に輝くシリウスを見るために彼女はわざわざ出てきたのか?
 
  それとも、僕に見られるためにわざわざ出てきたのか?
 
  僕にはわからない。
 
  この銭湯に何故だれも人がいないのか、
 
  その理由がわからないように。
 
  でも、もしかしたら、この銭湯、異次元なのかもしれない。
 
  それが本当の理由なのかもしれない。