幻の詩集 『あまたのおろち』 by 紫源二

幻の現在詩人 紫源二 の リアルタイム・ネット・ポエトリー

 素晴らしい

2012-06-11 20:39:23 | Weblog

 
 
  だれのことか知らないが
  向上しようとしているらしい
  最近流行りのように
  猫も杓子も
  上を上を目指しているんだね
 
  努力することは素晴らしい
  他人に奉仕することは素晴らしい
  自分を向上させることは素晴らしい
  素晴らしい
  素晴らしい
  だれがみても素晴らしい
  素晴らしいに違いない
 
  みんな、素晴らしいことをしようよ
  あなたも、あなたも、そこのあなたも
  悪いことをしてはいけないよ
  いいこと、正しいことをするんだよ
  そうすれば、世の中どんどんよくなる
  はずだから
 
  さしずめ僕は
  なにもしない
 
  素晴らしいことのたった一つも
  全く思いつかない
 
  たぶん
  忘れてしまったのだと思う
  善と悪の感情を
  
  今日は空が曇っていたから
 
  バカな郵便局員を怒鳴りつけ
  めちゃくちゃ気分が悪くなった
  本当は自分も悪いのにね
  相手をぶち殺したくなったから
  自重したよ
  殺したからって
  こっちが捕まったらバカバカしいだろ
  マザーテレサ、ゴメンなさい
  あんなクズに腹を立てて
  大切な私自身を
  傷つけてしまいました
 
  誰も僕のことを覚えていない
 
  おまえも、おまえも、おまえも
  だれのおかげで、生きてると思ってんだ
  すっかり忘れて
  逆に睨みつけてくる
 
  一昔前だったら
  刀を持っていたら
  殺していただろう
 
  恐れを知らないインディアンの若者
  馬に乗って敵に突っ込み
  一瞬で殺された
  覚えてる
  あの、水晶より、純粋だった
  だから、若く、完璧なまま
  死んだ
  自分
 
  人間は動物
  殺意と暴力
  理性なんて信じ始めたのは
  つい最近の事
  それよりも殺し合い
  ライオンより凶暴な感情
  性を
  芸術に昇華させるんだってね
  アーティストさんよ
  貴方の性は
  芸術に飼い慣らされるだけの
  ちっぽけな野生
  脳化け学の実験室のラット
 
  素晴らしい
  素晴らしい
  素晴らしいことのたった一つも僕はし(なければならなく)ない

 
 
 ( 今日、2012.6.11、大阪で通り魔事件があり二人の男女が殺された。
  「人を殺せば死刑になると思った」と語った元暴走族のリーダーの
   白昼の犯行だった。)
 

 

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 恋

2012-06-01 20:52:56 | Weblog

 
 
  一生、恋もしない人がいる
 
  そんなことは、別に驚くほどのことじゃない
 
  そう何処かの本に書いてあった
 
  それに、恋なんて一言で言っても
 
  ピンからキリまであるじゃないか
 
  数字者の恋は打算的だし
 
  行政書士の恋は散文的で退屈
 
  そして、詩人の恋はナルシスチックで付き合いきれないし
 
  画家の恋は即物的過ぎて身体がもたないらしい
 
  なにが一番いいのか分からないけど
 
  恋に恋する乙女には
 
  黙ったままで、本性を表さないのが一番
 
  どうにでも想像の通りに裏切らないために
 
  押し黙ったまま
 
  恋心が勝手気ままに幻想を紡ぐままに任せて
 
  幻想で見えない現実を根こそぎいただくのさ
 
  それが、恋の妙技
 
  一生恋と無縁の老いぼれになるより
 
  いっそ嫉妬に焼かれる方がまし