快楽は、そのときはそう感じていない
あとで、だんだんと記憶とともに
噛みしめるように、そして不意に
本当の快楽が甦ってくる
それは今のシチュエーションに似ている
似ていて非なるもの
記憶のどこかに隠されている
それが楽しいことだなんて
そのときには思ってもみなかった
ところがそれが思いの外
記憶に刻み込まれていて
思い出すたびに
快楽の余韻が染み込んでいき
いまではすっかり快楽に浸っている
ぼくはくつろいでいた
まったく、くつろげるような状況でないときに
くつろいでいた
本当は、とても不安だった
未来がどうなるのか見当もつかず
明日が来るのか来ないのかもわからない
でも
ぼくはそこにいて、くつろいでいた
夕方が夜になる
あたり前のことだが
不安にならないことの方が不思議だった
明日が来ないことだってあり得る
自分が分からなくなることだってあり得る
存在の意味さえわからない
それなのに存在しているのに
なにも不安でないことが不安だ
でもそんな不安を感じない
快楽
なぜなら
そのときはそう感じていないから