幻の詩集 『あまたのおろち』 by 紫源二

幻の現在詩人 紫源二 の リアルタイム・ネット・ポエトリー

 快楽を思い出すための言葉

2008-08-29 01:59:25 | Weblog

 

 快楽って
 
 どこかに忘れてきた 時間のようなもの
 
 取りに帰る前に 雪のように 溶けてしまうから
 
 遠く隔たったまま
 
 夜汽車に乗って
 
 きみに会いにいく
 
 ぼくも そこに乗っていないまま
 
 無人の寝台特急が走る
 
 レールの上を
 
 重い鉄の車両が きしみながら
 
 きのう
 
 さっき
 
 それは走って行った
 
 遠く離れた北の雪国
 
 吹雪が吹くと
 
 ごーごーと風が泣き
 
 ビュービューと電線がわめき
 
 熱にうなされながら
 
 ぼくは子守唄を聴いている
 
 誰も歌うはずのない深夜に
 
 もうあきらめた明日が
 
 螺旋階段を転がり落ちていく
 
  
 貝の渦巻き なつかしく
 
 一瞬の記憶も
 
 留めずに
 
 転がり落ちていく 
 
 
 神の祭壇に捧げる供物の数々も
 
 
 転がり落ちていく
 
 
 アーメン
 
 
 こんなハプニングによっては
 
 
 神の神聖は冒涜され得ないから
 
  
 かつての聖人は沈黙したまま
 
 
 パンをちぎり
 
 
 感謝して食べた
 
 
 ワインはない
 
 
 乾いているから
 
 
 大地が
 
 
 二度とそこには雨は降らないだろう 灰色の大地
 
 
 風が吹くと埃が大気圏外まで舞い上がり
 
 
 空に雲も湧かない
 
 
 それが快楽の記憶
 
 
 血管の中を流れる
 
 
 赤いルビーの結晶の記憶
 
 
 だれか
 
 
 真っ黒いバッファローを生贄にしてくれよ
 
 
 滴る血で大地を染めれば
 
 
 雨が降ってくる
 
 
 肉を焼き
 
 
 その香ばしい煙を天に吸わせれば
 
 
 大地にしみ込んだ血の分だけ
 
 
 空から雨が落ちてくるだろう
 
 
 だから今日
 
 
 肉を喰らい
 
 
 血を飲むのを許してくれ
 
 
 たったひとつの快楽
 
 
 そのために
 
 
 天と交わす会話
 
 
 その言葉が
 
  
 なかなか思い出せなくて
 
 
 眠れないでいる
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 あめがふっている/いた

2008-08-25 00:11:24 | Weblog

 

 あめがふっている窓の外
 
 じめじめしているからクーラーをかけている
 
 窓を閉め切って
 
 けっして誰にも開かれない窓の外は
 
 夜
 
 どこにあるのかわからない
 
 涼しい風の吹き抜ける川面
 
 そこで戯れる子供時代の記憶
 
 ひとり遊びにあきもせず
 
 母がいることも忘れていた
 
 太陽が沈み
 
 あたりがオレンジ色に染まり
 
 涼しい夜風が吹いてくるまで
 
 
 それは 悲劇の始まり
 
 繰り返す悪夢から逃れるため
 
 苦し紛れに唱えたチャント
 
 それが歌になり
 
 呪文になり
 
 やがて賛美歌になったとき
 
 すっかり熱にうなされて
 
 死の淵からあの世を垣間見ていた
 
 
 それが唯一の慰めの記憶
 
  
 天空の黄金の昼間を
 
 裸で漂っていた
 
 
 そんな夢を見ながら
 
 裸でシーツにくるまっていた
 
 あのとき
 
 ぼくは忘れていたのだ
 
 夢を見ていた夢を忘れていたことを
 
 記憶を失って 気づいてみたら
 
 それもまた つじつまの合わない記憶だった

 今となっては もう とりかえせない
 
 現実がなんだったのかさえ 覚えていない
 
 きっとそれが ぼくの 選択だったのだろう
 
 
 そして気づいてみたら
 
 今 ここに いた
 
 それ以外 すべてが 夢だったように
 
 
 
 
 
 
 

 真夏のむし暑い夜

2008-08-15 01:36:32 | Weblog

 

 異常の地上の砂上の楼閣
 
 四角い大きなビルの死角
 
 大きい柔らかい雲が湧き上がる
 
 真夏の白昼
 
 成層圏で上映中
 
 観客ゼロの大気圏内に
 
 雨を降らせるかと思いきや
 
 ゴロゴロと遠くに雷雲とどろかせただけで
 
 ぽつぽつと雨粒が2,3滴
 
 焼けたアスファルトの上で蒸発
  
 ジリジリと蝉のような耳鳴り
 
 機械的、短音的
 
 吸い込まれるように眠くなり
 
 ふらふらと時間が夢遊し
 
 我を忘れている
 
 え?
 
 今、なにしてた?

 ぼく
 
 さっきまで考えていたんだ
 
 つっかえて言葉にならなかったのに
 
 急に油をひいたようにするする滑って
 
 時間が死に向かって加速して自由落下していく
 
 OK
 
 そこにある地獄はぼくの趣味で修飾されている
 
 きっと居心地いい独房
 
 ドゥユノーミー?
 
 ワットアイミーン?
 
 形容詞と動詞を組み合わせてみてくれよ
 
 そうしたら明日
 
 ぼくの見る夢はきみの夢
 
 へヴィーでハードなきみのスーツ
 
 その外しかたわからないから
 
 きみが欲しい
 
 バッド・バッド・ソーバッド
 
 だって明日は続いている
 
 終わりなき過去へと
 
 永遠の繰り返しの始点
 
 だから迷路でまたきみにも出会うだろう
 
 ぼくを覚えておいて
 
 こんなになってたこと
 
 覚えておいて
 
 もう二度と会えないだろうから
 
 そのときまでは
 
 絶対に二度と
 
 きみをさがさないって誓うよ
 
 夜の空港のターミナルのはずれ
 
 むし暑い夜だったよね
 
 まるでデジャヴュがただの思いつきだったような
 
 窒息しそうな空気の熱に
 
 汗をかいていたのは君の肌から伝うプライドだった
 
 それを見ていたぼくの脚に視線を落として
 
 きみは目を細めて遠くを見た
 
 夜間飛行の警告灯の点滅
 
 雲もうっすらと快晴の夜空に流れていた
 
 満月だった
 
 つまり
 
 決して降参しっこないということ
 
 そうだろ?
 
 
 
 
 

 夜見る夢は心地いい?

2008-08-06 01:56:38 | Weblog

 

 こんばんわ
 
 いい夜だね
 
 三日月もだんだん満ちてきてるし
 
 遠くで雷もなってるみたい
 
 もちろんきみがそばにいてくれればもっといいにちがいないけど
 
 ぼくはこれからちょっと車で独りでドライブ
 
 海岸道路のデッド・エンドまで行って
 
 雨粒でも浴びてこようと思っている
 
 忘れてしまったから
 
 自然の力を
 
 生きている実感を
 
 だから夜の暗さも
 
 恐ろしさも
 
 忘れてしまったから
   
 そんな鈍感じゃなかったのに
 
 今では豆腐の角に頭をぶつけて死ぬくらい
 
 もう限界まできているから
 
 ちょっとこれから迎えに行くよ
 
 いいだろ?
 
 人間だって野生だってこと
 
 知らないわけじゃないと思うけど
 
 忘れているなら
 
 思い出させてやるよ
 
 ぼくの肉体ってもんで
 
 そうしたら
 
 傷つくかい?
 
 きみの精神が
 
 だったら優しくするよ
 
 まず詩を朗読し
 
 そうだな
 
 ロマン派のソネットを朗読し
 
 それから跪き
 
 それからきみの手をとり
 
 接吻する
 
 そうしたらきみは
 
 どうする?
 
 額を地面に付けて
 
 きみを礼拝し
 
 きみの足に接吻する
 
 それが
 
 イギリス式のマナーかなんだか知らないけれど
 
 たしか
 
 きみはダンサーだったよね
 
 それなら知ってるだろ
 
 体の中心がどこか
 
 そしてそこからどんなエネルギーが発散されるか
 
 ぼくはそこに接吻する
 
 そうすれば
 
 野生の本能を取り戻すことができるだろ?
 
 そしてきみは
 
 自分を獣とは思わないまま
 
 洗練された
 
 繊細な
 
 快楽を味わうことができる
 
 技巧をこらして
 
 アーティスティックに
 
 さぐり当てる
 
 ぼくは指先が器用だからね
 
 そして味わう
 
 食べ物でもないのに
 
 それは果実のように甘く
 
 とろけている
 
 だから
 
 天国には生命を知る木の実があるのだろう
 
 ケルビムの剣で守られているのだろう
 
 それでも
 
 ちょっとした隙に
 
 盗み出すこともできるかもしれない
 
 狡猾な蛇のように
 
 鎌首をもたげて
 
 固く伸びあがり
 
 天にまで達しようとして
 
 生命の木の実をむさぼる
 
 わかるだろ?
 
 ぼくが車を走らせているとき
 
 雨の中を
 
 海の方に向かって
 
 ただ車を走らせているとき
 
 きみはベッドの中で
 
 ひとりで眠るのかい?
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

 目を瞑って

2008-08-04 02:34:33 | Weblog

 

 どうして光が差してくるの
 
 だって、朝になるとまぶしくて
 
 目を開けてられないから
 
 ぼくは目を瞑るんだ
 
 そうすると
 
 またあの闇がある
 
 だからまた想うんだ
 
 どうして光が瞼のすき間から射してくるのかと
 
  
 もう見たくないよ
 
 理想は抱きしめられないし
 
 美は完璧になったとたん死んでしまうから
 
 
 愛だって
 
 ぼくの愛ときみの愛は違う
 

 だから
 
 目をもう開けないで
 
 真っ黒な闇の中にずっといたいんだ
 
 
 そうしたら
 
 もう二度と
 
 小鳥が歌う歌も聞けないけど
 
 それもいいんじゃないか
 
 希望は胸を熱くするけど
 
 邪悪な欲望も喚起させるから
 
 
 もうやめてもいいだろ
 
 目を開けていることを
 
 そして
 
 朝の来ない夜がもうすぐ来るから