a journal of sociology

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sociologieという語の最初に用いたのは?:その2

2014年01月28日 | 理論
sociologieという語の最初に用いたのは?

 社会学の世界では、コントが社会学sociolgoieという言葉を最初に作ったとされている。これは、彼の主著『実証哲学講義』の第四巻、第47講で、sociologieという言葉を導入し、それに註をつけて、自分がそれまで使ってきた社会物理学という表現と厳密に同じ意味を持つものとしてこの新しい言葉を用いると記している。

 ただし……。以前のエントリーでも説明したが(こちら)、1780年代の草稿の中で、Sieyèsが、sociologieという言葉を書き残している。彼は、当時の社会諸関係を考察・構想するために、様々な造語を作っていたが、その中でdsociocratie, art social, 等の造語を残してた。そして、その中にsociologieという言葉が記されていた。ちなみにそれらの造語の中にはsocialismもあったようである。

 詳しくはこちらの論稿(こちら(PDF)

 なお、このGuilhlaumouの論稿の最後には補遺が付されていて、そこにSieyèsが書き残したドキュメント(オリジナル原稿)の複写が見られる。手書きなので読みにくいが、真ん中あたりにsociologieという言葉が出てくる。

 ただし、この事実をもって、Sieyèsが社会学という語の「発明者」とするのは、疑問が残る。彼は未発表の遺稿に二度この言葉を書き残していたのみなのだから。そういう意味では、ウィキペディアのこちらの記述は不正確。socialismという言葉を書き残していたからと言って、これをもってSieyèsをこの語の「発明者」とことに疑問が残るのと同様。

 なお、Sieyèsが残した遺稿が編纂され、公刊されているがDes manuscrits de Sieyes, 1773-1799には、そのsociologieという言葉が記されたドキュメントは未収録である。2007年に第二巻が公刊されているが、Des manuscrits de Sieyès : Tome 2, 1770-1815、こちらの方は、私は確認していない。

 このあたり、ウィキペディアの記述も気をつけて使わないといけない(特に試験に備えている学生は気をつけるように)。

 さて、概念や言葉についての話を続けると、Sieyèsはsociologieという言葉を分類するに当たって、社会諸関係rapports sociauxを二つに分けて、その一方に歴史とsociologieという言葉を割り当てている(他方は、sociocratieとart social)。で、この社会諸関係rapports sociauxという概念自体が、彼の時代には新しい概念であったのではないかと思っている。公刊した『第三身分とは何か』では一度だけこの概念を用いている。ルソーの『社会契約論』では、これは使われていない。ほど同時代に属するル・トローヌが1767年に公刊した『社会秩序論』でも社会諸関係rapports sociauxという概念は使われていない(ただし、それに近い関係rapportsという言葉は一度使われているのだが)。
 おそらくは、社会全体を覆う様々な関係性の存在は意識されていたが、それが明確には対象化されていなかったのではないかと思われる。実際、ル・トローヌの考えた社会秩序の基盤は、対等な交換関係、自由な経済活動、公正な流通であり、それを可能にする政治制度である(政治経済学というのが社会科学のはじめだった理由はここにも見て取れる)。
 つまり、社会関係が、政治や経済とは独立して捉えられてはいなかったようである(あくまで仮説)。

 Sieyèsは、社会秩序について研究する学としてsociologieという言葉を考えていたようなのだが、以上のような背景を考えると、彼は社会関係を独自の対象として捉えつつあったのかもしれない。が、ただし彼の捉える社会にもまた大きな問題があるのだが。

 なお、今回のエントリーではあえて、Sieyèsを原語で記させてもらったが、仏語の発音では、これはシィーエスと読むのが、どうやら原語に近いらしい。

第三身分とは何か (岩波文庫)
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岩波書店


 この訳者解説には、これまでシエイエスと記されてきたSieyèsをなぜ、シィエスに変えたのか、その理由が説明されている。なお、シィエス自身も、ちゃんと自分の名が発音されていないと、手紙の中で述べているらしいので、日本語でそれが変になるのも当たり前である。

 が、他方で、Sieyèsの綴りから判断するに、現在から見るとシィエス以外の読み方が可能なのかと、思わなくもないが(ただ、「シィーエス」の方がさらに正確な気も……。イとエの間に母音の「y」が入るので)。


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