超兵器磯辺2号

幻の超兵器2号。。。
磯辺氏の文才を惜しむ声に応えてコンパクトに再登場。
ウルトラな日々がまたここに綴られる。

2万5千年の荒野

2011-04-15 21:47:55 | 出来事
これを話題にするかどうか迷ったのだが、探していたコミックがようやく見つかったので。。。
以前少しだけ紹介したゴルゴ13屈指の名作と思う「2万5千年の荒野」だ。
ズバリ「原発事故の話」である。ラストでゴルゴ13がヒューマニティを見せるところも珍しい作品だ。
その昔(今でも増え続けているが)ゴルゴ13は全巻揃えていた。その中でも特に印象に残っていて、何巻だったかわすれてしまいずーっと探していたのだが、ようやく64巻に掲載されているのを突き止めたのだった。

場所はロスアンゼルスから数十マイルのところにあるヤーマス、そこに新しく建設中の原子炉があった。現場の責任者バリー技師は優秀な技術者であったが、商業主義と政治的圧力から無理に工事を急がせた結果、色々なところで人的なミスが多発する。バリーは何度も工事の延期・点検を直訴するが、所長以上の幹部は5日以内に運転開始しろ、という社長の厳命のためまったく取り合わない。
そして関係者を集めたパーティの最中に原子炉がトラブルを発生するのだ。最後に起こった「チェーンロックを加熱器の逃がし弁にぶち当てる」ミスが影響し、冷却水が原子炉に入らずに炉心が過熱し爆発寸前になるのである。
バリーは少し前に偶然目撃したゴルゴ13の神業的射撃に全てを懸け依頼する。
「危険な仕事だ。放射能の漏れた原子炉の中で、少なくとも厚さ40ミリはあるステンレスバルブの一点を撃ちぬくんだ。建屋の中は蒸気が立ちこめて、的がよく見えないかもしれない。被爆の可能性もある」ゴルゴ13は黙って仕事を引き受け、依頼は成功する。
職員が危険を冒して原子炉内に射撃台を作成し、最後にバリーと残ったゴルゴ13は見事バルブを打ち抜き、冷却水が作動する。それを確認しに行ったバリーは放射能水を浴びてしまい、原子炉の中で死ぬことを決意、ゴルゴ13を見送る。。。

私は大地震の後の原発事故のあり様をニュースで見ていて、真っ先にこの話を思い出した。
核燃料ウラン235は分裂するとプルトニウム239という猛烈な放射性同位体となる。放射性物質は放射線を発する能力が半分になるまでの期間が決まっており、ニュースに出てくるヨウ素131は約8日、セシウム137は30年、ところが原子炉が爆発して大量に発生するプルトニウム半減期は2万5千年。。。
つまり「ロスアンゼルスが2万5千年もの間、誰も住めない荒野になる」という恐るべき話だ。

ここ1週間で大きな福島で大きな余震があるたびに、「原発は大丈夫だろうか?」と皆心配している。
ニュースにも毎日必ず目を通すが、残念ながら過去最悪の「レベル7」になってしまい、予断を許さぬ状況にあるようだ。何よりも「目に見えない」のが怖いところ。知らないうちに狭い日本の中に随分たくさん原発ってできていたんだな。
今、日本に「それでも原発は必要だ」という人はごくごく少ないに違いない。いっそのことぜんーぶ廃炉にしてしまったらどういう生活になるのだろう。。。

私は原子力工学が専門ではないが、原子力発電のしくみくらいは知っている。核物質の反応を利用する以上どんなに何重に安全管理されていても近くでは(健康の影響には関係なく)被爆は避けられず、動かし出したら止めるのはものすごく難しい。。。
だから「無いに越したことはない」と思ってはいたが、積極的になからしめようとはしなかったし反対運動もしなかった。
以前からそのリスクを指摘し強く反対していた人たちもおられようが、それ以外の私達はかの発電所による電気の恩恵を数10年受けていた事実から逃げられない。
その我々が欲しいままに享受してきた電力の源のせいで、我々の息子の世代やその次の世代にまで色々な影響をもたらしてしまったのは全くもってもうしわけないと思う。

ここ数年(これからもずっと・・・)、最近に比べればはるかに「不便で快適でない」生活を強いられるだろう。しかし「強いられて初めてわかる」ことも多いだろうと感じる。
今、オフィスでは昼間フロアライトは全部消しているエレベーターは荷物運搬以外使用禁止だ。駅に行けばコンコースもホームも昼間は明かりがついていない。エスカレーターも止めてある(不自由な方はエレベーター)し、電車の車内灯も昼間は消してある。
こうして見ると日常当たり前のように使っていた電気がいかに「無くても困らないモノ」で満ち溢れていたかが分かる。防犯さえしっかりしていれば「夜は暗くてよい」
私は海外に行ったときその国の鉄道に乗るのが好きで、世界の主要都市で色々な列車に乗ったが、ホームやコンコース、階段など驚くほど暗い。彼らが「暗い」のではなく、日本が明る過ぎたのかもなー。。。お店でもショッピングモールでも「DFS」以外はすべて日本の店よりもうす暗い。。。


「2万5千年の荒野」ではこういうセリフがある。事故後の原発所長の記者会見だ。
「いずれ石炭や石油は枯渇します。今更、木炭やローソクの生活に戻れますか。原子力は絶対に必要なのです」
私は木炭やローソク生活に一部戻るのは「あり」だと思う。台風のときのように子供は喜びそうだし、家族が一つ部屋に集まればバラバラいるよりはよいことが多い。
全部は無理だが、皆のマインドセットを変えることによって、この夏は思ったより不快にならずに乗り切れると私は楽観している。「今年はクーラーなし!」

物質文明、便利で快適な消費生活を追い求め続けた結果があの無残な原発の姿だとしたら、唯一の被爆国で核汚染の恐ろしさをどの国よりも実感しているはずの国民としては、何とも気まり悪いことだ。
私は雷電神社で「原発の神よ、静まり給え」と祈った。どちらかと言えば復興に直接携わる側にいる私は「神頼み」なんて笑われるか怒られるところなんだが、そんな気がしたのだ。

再び「2万5千年の荒野」のセリフを借りる。さっきの所長記者会見の続きである。
「いいえ。原子炉も基本的には石油や石炭と同じなのです。ただ、原子炉はひとたび炉心そのものが暴走したら、今の科学の力では抑えることができないのです。その事実を認めた上で、様々の改良がなされ、何重もの安全装置が施されて、今や技術的に原子炉はなんの問題もありません」
この話は四半世紀も前の話だ。福島の原発は相当古いと聞いたが、数10年のうちにそれこそ技術は進歩し改良は重ねられ安全性は高まってきたのだろう。
それでもマグニチュード9.0の地震による大津波には耐えられなかった・・・

ひとたび荒れ狂うと人間の力ではどうにも制御できないものを日本人は「神」と扱ってあきた。今では放射能を撒き散らす凶悪な邪神と見られ、付近の水や国土は「汚染」されていると言われる。今となってはそれをどうとも言えないが、少なくとも命の危険を冒して懸命に事故被害を食い止めようとする人たちがいるのは事実なので、彼らにはおぞましい怪物に接近し「汚染処理」をしてもらうのではなく、とりあえず原子炉のこれまでの働きを労い、成仏させ供養してもらうことを期待したい。

とにかく何もできない我々は祈りつつ、「原発」がなくても済むようにスローダウンするしかあるまい。確かに「暗く」なれば元気は出ないかもしれない。「こういう時こそ『消費』を活性化して経済を沈滞させないように」と多くの人が意見している。
大前研一は「消費税を期間限定で10%にし、増やした分はすべて復興にあてる。東北のために『さあ。じゃんじゃん物を買いましょう』と政府は仕掛けるべき」と述べたそうだ。
私もシステマティックに被災地に必要なものが速く十分に届く仕組みができるなら、「復興税」には賛成だ。
しかし「消費」すると普通はエネルギーを食うのである。「ひたすら消費を活性化して物を回転させ経済を右肩上がりにする」という戦後高度経済成長の幻想にしがみ付いている限り、同じことの繰り返しになるような気がして仕方がないんだよなー。

いやいや、たいした見識もないのにずいぶん難しいことを考えてしまった。
まずは無邪気に節電、節電。。。
以前ここでも紹介したキャプテンハ―ロック最終回のエンディング・・・・このフレーズを再びこういう話題で持ち込むとは思わなかった。。。