南房総は「陽光きらめく花とグルメの半島」という。初日は神社仏閣、歴史的所縁や景勝ポイントを巡ったが、この小旅行で印象深かったのはやはり「魚介」と「花」である。安房神社を出るとちょうど昼食時を少し回ったような時間になり、我々は予てよりリサーチしておいた海辺の食堂に向かった。この辺りの海岸は岩場が結構入り組んでおり、船が数隻しか出入りしないような、ちょっとした漁港がたくさんある。宿には申し訳ないが夕食はブッフェで海の幸には期待できないから、地元で「海鮮丼」などを食わせる店を探しておいた。カーナビ通り行くと「えっ?ここかよ・・・」というような寂れた田舎食堂のようだが、結構グルメポイントは高いらしく、観光っぽい客が結構入っていた。母はその日獲れた魚介で作った「その日丼」、私はグレードアップした「大漁丼」を注文したが、よくよく見るとその違いはウニが入っているかどうかだけのようだ。しかし我々の好む「貝類」がこれでもか、というほど惜しげもなく入っており、ボリュームは満天で十分満足のいくものだった。
その後、想像よりもはるかに複雑な』地形だった東京湾の入口、洲埼灯台を出ると道に沿って両側に花壇が続く「房総フラワーライン」を東に向かう。菜の花やポピーなどが道沿いを彩り「日本の道百選」にも選ばれたそうだが、残念ながらまだ植えたばかりで「フラワーライン」というにはちょっとプアーな数キロだった向かう先は「白浜フラワーパーク」である。母親と出掛けるときはあまりアクティブなテーマパークには行けないので、大人しくその土地の「フラワーパーク」を訪れることにしている。伊豆もそうだしグンマを旅行した時もそうだった。こちらはアジサイやチューリップのような「整備されたパーク」というよりは、一面に広がる色とりどりの花畑、という印象である。(実は南房総のあちこちで同様の光景が見られることを知ることになる)
チェックイン開始の時刻がせまる午後で若干風を冷たく感じ始める時間だった。やはり色とりどりの菜の花、ぽピーの花畑で目を見張るような美しさだ。何組かのグループが花畑の真ん中まで立ち入って花やペットの写真を撮っているようだ。「花畑の中まで立ち入るとは怪しからぬ」と思ってみたら、小さなカゴを持って「花を摘んで」いるようなのだ。畑のところどころにはカゴとハサミが用意され「花摘み」ができるようになっている。実は房総フラワーラインやその少し先の千倉はこのような「花摘み」ができる畑がたくさんあるようなのだ。そこの土に植わってちゃんと咲いている花をわざわざ切り取ることもあるまいに、私も母も「花摘み」などには全く興味が持てずただその一面の景色を楽しんでいた。近くで熱心に摘んでいたおばさんが、抱えて出てきたカゴの中身を覗き込んで驚いた。
「あ、あれっ?咲いてる花を切り取るんじゃねえのか?」思わず口に出してつぶやくと、おばさんは(世の中にそういう人多いのよねえ)という顔をしながらにっこり笑って
「そうなのよ、蕾になっているのを摘んで、水に浸けておくと2,3日で咲いてくるってわけ。すぐ隣と同じ色の花が咲くから、気に入った色を選べばいいのよ」
「今晩はこっちに宿泊して明日の夕方に帰るんですけど、蕾は大丈夫なものですか?」「部屋では水に浸し、移動は濡れた新聞紙で茎をくるんでおけば全然平気です。蕾は重みで首が垂れてるけど、咲くときは上を向くから折らないように気を付けてね」
ポピーは1本15円、花は5種類くらいの色があり、せっかくだから一人一本ずつ摘んでみることにした。この年になって「お花摘み」なんてものを初めて体験するとは思わなかった・・・トータルで10本だが、カゴの中で混ぜこぜにしてしまった。(この状態で一人5本選ぶと、二人とも5色きれいに揃う確率はどのくらいか?また紙と鉛筆を出す羽目となる)
少し日が傾いてきた時刻、フラワーパークを出て数分して宿泊予定の1100ホテルへ到着した。海辺に聳える建物自体は立派なもので温泉宿泊施設だが、残り1部屋ぎりぎりで予約した割安パックだから、部屋から海の眺望などはなく目の前は駐車場と離れの家族風呂という割り切った設定で、食べて飲んで風呂入って寝るだけ、というものだ。夕食は何十種類のメニューを誇るブッフェ形式でしかもアルコール、ドリンクともにセルフで飲み放題である。宿代もリーズナブルで食べたいものが好きなだけ食べられるから子供連れやグループ連れに人気があるようだ。ものすほい種類だが、プレートをとって最初のテーブルは地元の野菜などを使った「漬物」横町で私は全滅・・・それでも寿司あり、天ぷらあり、蕎麦におでん、洋食はハンバーグ、ミックスフライ、パスタ、点心まで登場し、およそフードコートにあるものは何でもそろっていた。アルコール飲み物はビールにレモンサワー、アセロラサワー、ハイボールに日本酒と居酒屋メニュー満載だ。サーバーに並んでいても酒を飲むと朗らかなもので、真ん中にグラスを置いて右側のボタンを押してしまい、「わわーっ、こっちから出てきちゃった!」と慌てふためくと後ろのおばさんは「ぎゃーっはっは、私もそれやっっちゃた。矢印書いてくんなきゃ分かんないわよねえ」
よほどのことがなければ2度も3度も来ることはあるまいと、特別料理を張り込んで「伊勢海老の天ぷら」(刺身で出してよ!)、「アワビの味噌焼き&刺身」、「サザエのつぼ焼き」を事前注文していた。これらも含めて何度も料理テーブルを往復し、アルコールのお替りを繰り返してそろそろ1時間半を経過しようとしていた。1100ホテル系列は全て同じバイキング&飲み放題形式だが時間が90分制限というスタイルが多いなかで、ここは無制限!だが胃袋ももう若くなく食べ放題なるイベントに対して有難味を感じない年齢である。そんな中で「バイキングでは全ての料理を1ラウンド必ず食べる」ポリシーを持つ私はポンポンの腹をさすりながら、隅のテーブルにあった「カレーライス」を持ってきた。「あんた、そんだけ飲み食いして、まだカレーなんか食べるの?」母は呆れていたが、私は「まだ、その隣のビーフシチューを食べてない・・・」翌朝食で同様に(アルコール抜き)で食べたことを思うと、5キロ太ってもおかしくない暴れ度合だった。
温泉大浴場は広くて露天もあって中々なものだが、いかにも昔ながらのオープンなステージにカラオケがあり、ゲームセンターと並列され、その向こうに卓球台が見える。料理そのものは種類はたくさんあり、さながら修学旅行のような賑やかさだが、味は大したことない。部屋に至ってはテレビを見て寝るくらいのもので、「従業員部屋を改造したんじゃね?」というものだ。
妻も息子甘辛もどちらかと言えばラグジュアリ志向なので、こういう「子供が走り回る」ような施設にはあまり行きたがらない。料金がほどほどで最近ものすごくお洒落に生まれ変わってきている今はなき「一碧荘」のような保養施設が好みのようである。私も母もむろん、豪華な施設はウェルカムだが、こういうベタな「昔ながらの温泉ホテル」というのも嫌いではない。観光のみに目的を絞り宿泊は割り切り、ということもできる「両刀使い」である。
サービスは良かったが、部屋自体がそう大したものではないから、滞在している間じゅう大浴場に行ったり来たりして夜を明かし、翌朝早目に宿を後にした。2日目の帰路は南房総を反対側に巡りほぼ一周する計画になっている。このエリアはたくさんの「道の駅」も観光名所として紹介されており、旅の後半は「道の駅」巡りのような形になった。ホテルの近くにあった「めがね橋」をちょい見して最初の目的地「野島埼灯台」の近くにある「道の駅白浜野島埼」に向かう。灯台周辺の観光地にあるのかと思ったら少し離れたところにあり、母が購入したレタスや菜の花など地元農産物と花摘み以外には「何もねえじゃん・・・」という雰囲気だったが、そこにあったパンフレットで「菜の花・港まつり」という情報を得られたのは収穫だった。
野島埼灯台を経て次に向かったのは「道の駅ちくら潮風王国」である。海沿いの広々とした敷地で午前中なのに駐車場が混雑するほど賑わっていた。広大な芝生広場の一角に実物の漁船が常設されていて遊べるようになっている。道を挟んで反対側はお馴染みの花畑になっており、やはり色とりどりのポピー摘みを楽しんでいる人がいる。本館には生け簀があって近所の獲れたばかりの魚を泳がせているのかと思ったら「鑑賞用」だったのには思わず苦笑いした。貝殻を使った工芸品や変わった染め方をしたTシャツなどと並び、様々な干物が目についた。ウツボやフグ、近所でよく釣れるヒイラギにも似たギラなどゲテモノっぽい品もあったが、私は甘辛の好物である立派なアジの干物、母はちょっと珍しいイナダの干物をお土産に購入した。
南房総の山側を半周し最後に立ち寄ったのは高速道路の終点近く、「道の駅とみうら枇杷倶楽部」である。ここと富浦港の2か所を会場に「菜の花・港まつり」が開催されている。私が一度は訪れたいとした二宮吾妻山公園の葉の花ウォッチングはとっくに終了してしまったが、ここの菜の花はまさしく満開、見渡す限り黄色い花の絨毯だった。周辺にはミニSLが走り、菜の花は摘み放題のサービスっぷりだ。テントでは珍しい「枇杷の葉茶」というのをふるまってくれたが普通のほうじ茶のようで、別に枇杷の味がするわけではなかった。(当たり前か!)土産店には「枇杷カレー」をはじめ「サザエカレー」「あわびカレー」などいかにもゲテモノが並んでいたが、某グンマの隣県の特産「いちごカレー」にやられた教訓を思い出し、ここはスルーしておくことにした。
最後に向かったのが富浦漁港である。ここもかなり賑わっていて、多くの大漁旗が掲げられ活気づいていた。ちょうど地元の「雨乞い」に相当する踊りを披露するところであった。ちゃんとストーリーがあって「遊んでいてつい結界の向こう側に行ってしまった子供らを迎えに行く」というもので、可愛らしい子供たちとかなり練習を重ねたと思われる若者たちの演技が独特な笛の音色の乗っかって中々見応えがあった。そのまま帰路につくには少しだけ早い時刻だったが、その晩は中学時代の級友と茅ヶ崎で酒を飲む約束があり、連日のお出かけと暴飲暴食でかなりヘバッテいたので、そのままアクアラインに向かうことにしたのである。今回の南房総プチ旅行はいつもの通り、あらん限りの観光場所を連れ回すものになったが、「海よし花よし食べ物よし」の半島をある程度満喫できた。半年に一度もらえる次のクーポンの有効期限は9月、割切りの1100ホテルツアーでまたどこかに行きたいと思う。