中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

根づくかメンター文化

2022年12月05日 | 情報

根づくかメンター文化
東京大学特任准教授 伊藤伸氏
日経産業新聞 2022年11月25日

よき助言者を意味するメンターや相談に乗る行為を指すメンタリングを最近、よく耳にするようになった。
恩師や先輩の助言に救われた経験を持つ人なら、大事な時に相談できる人の重要性は当然と思うかもしれないが、
特定の能力獲得や新しい環境での活躍には非常に役立つようだ。

メンタリングは1980年代に米国で発展した人材育成手法とされる。一般に直接の上司以外で経験や知識の豊かな年長者がメンターになる。
継続的に相談の機会をつくり、助言を受けた人が仕事上の課題やキャリア形成上の悩みを解決できるように後押しする。
指揮命令系統ではないため、信頼関係が大事だ。

国内でも多くの企業が新入社員や女性社員を対象にメンター制度を導入している。複数のメンターが1人を支援する例もある。

新しく組織に入った人材は少数派に属し、人間関係の構築や業務の遂行方法で壁にぶつかる場合がある。
職場の先輩の仕事ぶりを見本にする職場内訓練(OJT)では適切な助言を受けられない人材に手を差し伸べる効果は大きい。
離職防止やメンタルヘルス改善にも寄与するだろう。

メンター自身にも恩恵がある。組織内の積極的な活動は評価や評判を高め、昇進や昇給に結び付く。
他者の成長に貢献する協調的な行動をやりがいと感じる現象は学術的にも指摘されている。

メンターの素養も問われる。相手の話を真摯に聞く姿勢に加えて、課題を適切に理解するための知識や能力も欠かせない。
ただ、経済構造やキャリアパスが流動的な状況では、過去の成功体験に頼った助言は的外れになる可能性がある。

メンターが際立った役割を果たす舞台に起業関連がある。
無数のスタートアップを輩出する米シリコンバレーの重要な構成要素として多種多様で質の高いメンターの存在が挙げられる。
成功した起業家や投資家等がメンターとなって新たな起業家のビジネスプランを分析し、実践的な指摘をする。
起業家にとっては未経験の事態に直面した際の判断力や行動指針を身に付けられ、事業立ち上げの高速化につながる。

一方、助言した内容が結果として失敗に終わってもメンターが責任を取るわけではない。
メンターを職業にする人もいれば金銭的な対価を求めてはいけないとの見方もある。
メンター、助言を受ける人材、両者を引き合わせる組織のいずれもが強い自発性と役割についての深い理解を持つ必要がある。

日本の一部大学も大学発スタートアップの起業家や予備軍である研究者や学生向けにメンター制度を導入し始めた。
シリコンバレーのように、助言を受けた人材が次代のメンターに転じ、人材と企業の成長が連続的に生じるためには、
メンターが文化として社会に根付く必要があるだろう。

東京大学特任准教授 伊藤伸氏
新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー設立とともに社長に就任。
22年から東京大学未来ビジョン研究センター特任准教授。博士(学術)。日本知財学会監事。

 

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