(新型コロナ)心や脳への悪影響、対策急務 増える依存症/感染後、脳に炎症
2021年5月12日 朝日
長引くコロナ禍でメンタルヘルス対策が課題になっている。新型コロナウイルスの感染拡大によるうつ病や自殺が増えることが懸念され、日本では自殺者が11年ぶりに増加に転じた。医療のとりくみは十分なのだろうか。
「コロナ禍の生活で、インターネットやスマートフォンの依存症になりやすくなっている。とくに若い人はリスクが大きい」
国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の川人(かわと)光男・脳情報通信総合研究所長はこう話す。
KDDIと川人さんらが5万人の成人を対象にコロナ禍の前後での違いを調べたオンライン調査では、コロナ禍でゲーム依存症の可能性があると診断された人の割合は4・1%、ネット依存症は7・8%だった。コロナ禍前後に調査に参加し比較できた4千人では、それぞれコロナ禍前の1・6倍、1・5倍だった。
30歳未満の比較的若い世代では、さらにその傾向が強まったという。行動自粛によるストレスや、将来への不安など、さまざまな要因が考えられる。
調査論文はまだ専門家による査読中の段階だが、川人さんは「対策の検討を急がなければならない」と話す。
コロナへの感染は、人の精神状態や脳にどのような影響を与えるのか。データが少しずつ出始めている。
英オックスフォード大が英医学誌ランセットの関連誌に発表した論文によると、24万人の回復したコロナ患者の診療データを分析した結果、不安障害の発生は17%、うつなどの気分障害は14%と、高い割合を示した。
脳へのウイルスの影響はどうなのだろうか。
国内外のコロナ関連の臨床研究論文を分析しウェブで発信している下畑享良(しもはたたかよし)・岐阜大教授(脳神経内科)は「認知機能の低下の可能性を示唆する論文が徐々に増えつつある。また、頭痛や味覚障害などコロナ患者では神経筋症状がしばしば合併する。脳内で炎症が起こっている報告はあり、神経細胞を伝ってウイルスが侵入したり、脳関門が破壊され、そこからウイルスが入り込んだりする可能性が考えられている」と話す。
後遺症との関連なども含めて脳機能にどのような影響を及ぼしているのか、解明が課題だという。
■AIでストレス可視化、うつ病治療に期待
脳の画像を確認しながら脳機能が変わるように誘導して精神疾患を治療する「ニューロフィードバック法」(NF法)が注目されている。
ATRや広島大などがとりくんでいて、精神疾患の人の脳の画像のデータベース化も進めている。すでに国内13施設から、うつ病や自閉症スペクトラム、統合失調症などの人や健常者の約3千の画像を集めた。
広島大脳・こころ・感性科学研究センターの山脇成人(しげと)特任教授らは4月に広島県内で実証研究を始めるプロジェクトを立ち上げた。
同意を得られた人から、個人情報保護に配慮しつつ、スマートウォッチなどを使い、脳を含む生体情報を集める。それを人工知能(AI)で分析した結果を個別にスマホで参加する人に戻す。ストレス状況を可視化し、治療に結びつけられるか検討するという。
山脇さんはこれまで、うつ病の治療に使われる抗うつ薬の効果を脳の画像で事前に予測するなど、重症のうつ病治療の臨床研究にとりくんできた。
15歳以上の3千人の広島市民を対象にした準備調査では、長引くコロナ禍で、「ゆううつな気分になることが増えた」という人は、男性で39%、女性で55%を占めた。
山脇さんは「長期的に見た場合、コロナの後遺症としてのうつ病などメンタルヘルス対策は必ず重要になってくる。日本のとりくみはまだ不十分だ。人との接触も限られるコロナ禍では、脳科学や情報通信技術(ICT)、AIを使い個別に対応できるシステムの開発が重要だ」と話す。(服部尚)