
プロジェクト・シンジケートの今回の論文は、ニューヨーク大学NOURIEL ROUBINI教授の”Is Stagflation Coming?
緩々の財政と金融政策が痛みを伴うインフレを引き起こすかどうかについての議論で欠如しているのは、潜在的なネガティブな供給ショックによってもたらされるより広範なリスクである。貿易戦争や脱グローバリゼーションから高齢化やポピュリズム政治まで、地平線上のインフレの脅威には事欠かない。
今後数ヶ月間に発生するインフレが 、COVID-19不況からの急激な回復, または、持続的な ディマンドプルとコストプッシュ要因の両方を反映して、一時的なものになるかどうかについての議論が高まっている。と、冒頭で問題提起。
先日紹介したガルブレイス教授の「インフレは起こらない」という見解に対して、ルービニは、全く反対の「インフレが起こる可能性があり、1970年代に起こったスタグフレーション再現の危険さえ想定される」というのである。
その要因として、第一に、バイデン政権の異常に巨額な財政支出、第二に、連銀や中銀の金融と信用の異常緩和、そして、第三に、ネガティブな総供給ショックをあげている。
財政と金融の大盤振る舞いと大幅な緩和は、インフレ要因だとするのは一般的な見解だが、ネガティブな供給ショック、すなわち、サプライサイドの蹉跌がインフレを誘発し、スタグフレーションを引き起こすという見解は興味深い。
ルービニの論旨を纏めてみると、多少荒いが、次の通りである。
かなりの議論は、インフレーションは、この10年以上にわたり、ほとんどの中央銀行の年間2%目標を下回ってはいるが、持続的長期的な上昇を続けると指摘している。
その第一は、米国がすでに予想よりも速く回復しているように見える経済に対して過度の財政刺激策を制定したこと。3月に承認された追加の1.9兆ドルの支出が、昨年の春に3兆ドルのパッケージ、12月に9,000億ドルの刺激策に更に加わり、2兆ドルのインフラ法案がまもなく追加される。したがって、この危機に対する米国の対応は、2008年の世界金融危機への対応よりも桁違いに大きい。
反論は、家計が債務を返済するためにその大部分をセイブするので、この刺激は永続的なインフレを引き起こさない。また、インフラへの投資は、生産性向上の公共資本のストック拡大により、需要と供給も増加する。しかし、もちろん、これらのダイナミクスさを考えれば、この刺激策によってもたらされる民間貯蓄の増加が、累積需要を引き起こす。
第二に、関連する議論は、米連邦準備制度理事会(FRB)と他の主要中央銀行が、金融と信用緩和を組み合わせた政策によって過度に緩和的であることである。中央銀行が供給する流動性は、短期的には既に資産インフレを惹起しており、経済の再開と回復が加速するにつれて、インフレ的な信用拡大と実質的な支出を加速するであろう。時が来たら、中央銀行は、バランスシートを縮小し、政策金利をゼロまたはマイナスの水準から引き上げて、過剰な流動性を処理できる見解もあるが、この主張はますます吸収が難しくなろう。
中央銀行は、「ヘリコプターマネー」やMMT理論の適用によって拡大してきた巨額の財政赤字を貨幣化してきた。既に高水準の基礎ライン(先進国のGDPの425%、世界全体で356%)から公的債務と民間債務が増加している時期には、低い短期・長期金利の組み合わせしか債務負担を持続可能に保つことができない。この時点での金融政策の正常化は、債券と信用市場を、そして、株式市場を暴落させ、景気後退を引き起こすだろう。中央銀行は事実上独立性を失う。
ここでの反論は、経済が、フル・キャパシティと完全雇用に達すると、中央銀行は信頼性と独立性を維持するために必要なことは何でもする。さもなければ、彼らの評判を破壊し、価格上昇の暴走を許すインフレ期待のアンカー解除であろう。
第三の主張は、財政赤字の貨幣化は、インフレにはならず、むしろ、デフレを防ぐだけであろう。しかし、この世界経済に与えるショックは、資産バブルの崩壊が信用収縮を引き起こし、総需要ショックを惹起した2008年にに似ていると考えられる。
今日の問題は、ネガティブな総供給ショックからの回復である。したがって、過度に緩い金融政策や財政政策は、間違いなく、インフレ、さらに悪いことに、スタグフレーションを引き起こす心配がある。1970年代のスタグフレーションは、1973年のヨム・キップル戦争と1979年のイラン革命による2つの負の石油供給ショックの後に起こったのである。
今日、潜在的な成長への脅威と生産コストの上昇を引き起こす可能性のある要因である、多くの潜在的なネガティブな供給ショックについて心配する必要がある。これには、脱グローバリゼーションや保護主義の高まり、パンデミック後の供給ボトルネック、深米中米中冷戦、そして、グローバルなサプライチェーンのバルカニゼーション、低コストの中国からより高コストの国への外国直接投資のリショアリングと言ったような貿易上のハードルが含まれる。
同様に心配なのは、先進国と新興国の両方の人口動態構造である。高齢者が貯蓄を減らして消費を増やしているとき、移住に対する新たな制限は、人件費の上昇圧力となる。
さらに、所得と富の不平等の高まりは、ポピュリズムの活動を継続させることを意味する。これは労働者と労働組合を支援するための財政政策と規制政策の形をとり、人件費に対するさらなる圧力源となる可能性がある。一方、企業部門における寡占の集中は、生産者の価格設定力を高めるため、インフレ要因となる。もちろん、ビッグテックと資本集約型の省力化技術に対する反発は、イノベーションを広範囲で減らす可能性がある。
このスタグフレーション説に対しては、次のような反論があろう。国民の反発にもかかわらず、人工知能、機械学習、ロボット工学の技術革新は、労働力の削減を推進するが、人口動態の影響は、(労働供給の増加を意味する)定年延長によって相殺される可能性がある。
同様に、今日のグローバリゼーションの後退は、地域統合が世界の多くの地域で深まるにつれて逆転する可能性があり、サービスのアウトソーシングは労働移問題問題の回避策となる。最後に、所得格差の縮小は、深刻なインフレではなく、単に中途半端な需要とスタグフレーションを阻止するであろう。
短期的には、財、労働、コモディティの市場、および一部の不動産市場の緩みは、持続的なインフレの急増を防ぐであろう。しかし、今後数年間で、緩やかな金融政策と財政政策は、持続的なマイナス供給ショックの出現により、持続的なインフレを引き起こし、最終的にはスタグフレーションを引き起こし始めるであろう。
間違いを起こしてはならない:インフレの再来は、深刻な経済的、財政的影響を及ぼす。現下の経済は、「大いなる安定“Great Moderation” 」からマクロの不安定な新しい時期に入っている。債券の世俗的な強気市場はついに終わり、名目と実質債券利回りの上昇は今日の債務を持続不可能にし、世界の株式市場を暴落させるであろう。やがて、我々は、1970年代型の経済停滞の復活に直面するであろう。
と、ルービニは結論づけている。
ICT革命やグローバリゼーションで経済構造が激変しているので、70年代どおりにスタグフレーションが起こるかどうかは未知数だと思うが、ルービニの警告には注目すべきであろう。
私がフィラデルフィアで勉強していた1970年代、米国経済は、スタグフレーションに呻吟していたが、その頃から1980年代のレーガン政権時代に掛けて、サプライサイド経済学が隆盛を極めていて、私も専門書を買い込んで勉強した記憶がる。
2008年の金融不況以降は、デフレギャップが問題でケインズであったが、これからは、インフレギャップを心配しなければならなくなり、サプライサイド経済学の復権と言うことになろうか。
いずれにしろ、宇宙船地球号を救うためには、何を置いても、シュンペーター、イノベーションであることには間違いない。
緩々の財政と金融政策が痛みを伴うインフレを引き起こすかどうかについての議論で欠如しているのは、潜在的なネガティブな供給ショックによってもたらされるより広範なリスクである。貿易戦争や脱グローバリゼーションから高齢化やポピュリズム政治まで、地平線上のインフレの脅威には事欠かない。
今後数ヶ月間に発生するインフレが 、COVID-19不況からの急激な回復, または、持続的な ディマンドプルとコストプッシュ要因の両方を反映して、一時的なものになるかどうかについての議論が高まっている。と、冒頭で問題提起。
先日紹介したガルブレイス教授の「インフレは起こらない」という見解に対して、ルービニは、全く反対の「インフレが起こる可能性があり、1970年代に起こったスタグフレーション再現の危険さえ想定される」というのである。
その要因として、第一に、バイデン政権の異常に巨額な財政支出、第二に、連銀や中銀の金融と信用の異常緩和、そして、第三に、ネガティブな総供給ショックをあげている。
財政と金融の大盤振る舞いと大幅な緩和は、インフレ要因だとするのは一般的な見解だが、ネガティブな供給ショック、すなわち、サプライサイドの蹉跌がインフレを誘発し、スタグフレーションを引き起こすという見解は興味深い。
ルービニの論旨を纏めてみると、多少荒いが、次の通りである。
かなりの議論は、インフレーションは、この10年以上にわたり、ほとんどの中央銀行の年間2%目標を下回ってはいるが、持続的長期的な上昇を続けると指摘している。
その第一は、米国がすでに予想よりも速く回復しているように見える経済に対して過度の財政刺激策を制定したこと。3月に承認された追加の1.9兆ドルの支出が、昨年の春に3兆ドルのパッケージ、12月に9,000億ドルの刺激策に更に加わり、2兆ドルのインフラ法案がまもなく追加される。したがって、この危機に対する米国の対応は、2008年の世界金融危機への対応よりも桁違いに大きい。
反論は、家計が債務を返済するためにその大部分をセイブするので、この刺激は永続的なインフレを引き起こさない。また、インフラへの投資は、生産性向上の公共資本のストック拡大により、需要と供給も増加する。しかし、もちろん、これらのダイナミクスさを考えれば、この刺激策によってもたらされる民間貯蓄の増加が、累積需要を引き起こす。
第二に、関連する議論は、米連邦準備制度理事会(FRB)と他の主要中央銀行が、金融と信用緩和を組み合わせた政策によって過度に緩和的であることである。中央銀行が供給する流動性は、短期的には既に資産インフレを惹起しており、経済の再開と回復が加速するにつれて、インフレ的な信用拡大と実質的な支出を加速するであろう。時が来たら、中央銀行は、バランスシートを縮小し、政策金利をゼロまたはマイナスの水準から引き上げて、過剰な流動性を処理できる見解もあるが、この主張はますます吸収が難しくなろう。
中央銀行は、「ヘリコプターマネー」やMMT理論の適用によって拡大してきた巨額の財政赤字を貨幣化してきた。既に高水準の基礎ライン(先進国のGDPの425%、世界全体で356%)から公的債務と民間債務が増加している時期には、低い短期・長期金利の組み合わせしか債務負担を持続可能に保つことができない。この時点での金融政策の正常化は、債券と信用市場を、そして、株式市場を暴落させ、景気後退を引き起こすだろう。中央銀行は事実上独立性を失う。
ここでの反論は、経済が、フル・キャパシティと完全雇用に達すると、中央銀行は信頼性と独立性を維持するために必要なことは何でもする。さもなければ、彼らの評判を破壊し、価格上昇の暴走を許すインフレ期待のアンカー解除であろう。
第三の主張は、財政赤字の貨幣化は、インフレにはならず、むしろ、デフレを防ぐだけであろう。しかし、この世界経済に与えるショックは、資産バブルの崩壊が信用収縮を引き起こし、総需要ショックを惹起した2008年にに似ていると考えられる。
今日の問題は、ネガティブな総供給ショックからの回復である。したがって、過度に緩い金融政策や財政政策は、間違いなく、インフレ、さらに悪いことに、スタグフレーションを引き起こす心配がある。1970年代のスタグフレーションは、1973年のヨム・キップル戦争と1979年のイラン革命による2つの負の石油供給ショックの後に起こったのである。
今日、潜在的な成長への脅威と生産コストの上昇を引き起こす可能性のある要因である、多くの潜在的なネガティブな供給ショックについて心配する必要がある。これには、脱グローバリゼーションや保護主義の高まり、パンデミック後の供給ボトルネック、深米中米中冷戦、そして、グローバルなサプライチェーンのバルカニゼーション、低コストの中国からより高コストの国への外国直接投資のリショアリングと言ったような貿易上のハードルが含まれる。
同様に心配なのは、先進国と新興国の両方の人口動態構造である。高齢者が貯蓄を減らして消費を増やしているとき、移住に対する新たな制限は、人件費の上昇圧力となる。
さらに、所得と富の不平等の高まりは、ポピュリズムの活動を継続させることを意味する。これは労働者と労働組合を支援するための財政政策と規制政策の形をとり、人件費に対するさらなる圧力源となる可能性がある。一方、企業部門における寡占の集中は、生産者の価格設定力を高めるため、インフレ要因となる。もちろん、ビッグテックと資本集約型の省力化技術に対する反発は、イノベーションを広範囲で減らす可能性がある。
このスタグフレーション説に対しては、次のような反論があろう。国民の反発にもかかわらず、人工知能、機械学習、ロボット工学の技術革新は、労働力の削減を推進するが、人口動態の影響は、(労働供給の増加を意味する)定年延長によって相殺される可能性がある。
同様に、今日のグローバリゼーションの後退は、地域統合が世界の多くの地域で深まるにつれて逆転する可能性があり、サービスのアウトソーシングは労働移問題問題の回避策となる。最後に、所得格差の縮小は、深刻なインフレではなく、単に中途半端な需要とスタグフレーションを阻止するであろう。
短期的には、財、労働、コモディティの市場、および一部の不動産市場の緩みは、持続的なインフレの急増を防ぐであろう。しかし、今後数年間で、緩やかな金融政策と財政政策は、持続的なマイナス供給ショックの出現により、持続的なインフレを引き起こし、最終的にはスタグフレーションを引き起こし始めるであろう。
間違いを起こしてはならない:インフレの再来は、深刻な経済的、財政的影響を及ぼす。現下の経済は、「大いなる安定“Great Moderation” 」からマクロの不安定な新しい時期に入っている。債券の世俗的な強気市場はついに終わり、名目と実質債券利回りの上昇は今日の債務を持続不可能にし、世界の株式市場を暴落させるであろう。やがて、我々は、1970年代型の経済停滞の復活に直面するであろう。
と、ルービニは結論づけている。
ICT革命やグローバリゼーションで経済構造が激変しているので、70年代どおりにスタグフレーションが起こるかどうかは未知数だと思うが、ルービニの警告には注目すべきであろう。
私がフィラデルフィアで勉強していた1970年代、米国経済は、スタグフレーションに呻吟していたが、その頃から1980年代のレーガン政権時代に掛けて、サプライサイド経済学が隆盛を極めていて、私も専門書を買い込んで勉強した記憶がる。
2008年の金融不況以降は、デフレギャップが問題でケインズであったが、これからは、インフレギャップを心配しなければならなくなり、サプライサイド経済学の復権と言うことになろうか。
いずれにしろ、宇宙船地球号を救うためには、何を置いても、シュンペーター、イノベーションであることには間違いない。