熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立劇場・・・「神霊矢口渡」

2019年06月06日 | 観劇・文楽・歌舞伎
  2019年6月歌舞伎鑑賞教室「神霊矢口渡」を観た。
  高校生などの団体鑑賞を目的とした公演なので、解説 歌舞伎のみかた(中村虎之介)
  があって、簡易な普及公演である。

  神霊矢口渡 (しんれいやぐちのわたし)  一幕 頓兵衛住家の場
  (主な配役)
  渡し守頓兵衛  中 村 鴈 治 郎
  娘お舟       中 村 壱 太 郎
  船頭八助     中 村 寿 治 郎
  傾城うてな    上 村 吉 太 朗
  新田義峰     中 村 虎 之 介
  下男六蔵     中 村 亀   鶴

  強欲非道な父親と恋しい人を命がけで守ろうとする娘のドラマを描いたのが、「神霊矢口渡」。
  自分の命を犠牲にして好きになった新田義峰を救う哀れなお舟に対して、父の頓兵衛は義峰を捕らえようとする強欲非道な敵役で、その対照的な人間模様が面白いのだが、あのエレキテルの平賀源内の作だと言うから、興味深い。

   1991年(平成3年)8月にこの国立劇場で、「神霊矢口渡」が、現市川猿之助のお舟、父である4代目市川段四郎の頓兵衛で演じられたようで、今回、壱太郎も、猿之助の教えを受けたということで、同じシーンの「娘のお舟に切りかかる頓兵衛」の写真が残っている。
   
   
   微かに記憶に残っているのは、文楽の「神霊矢口渡」で、お舟が、火の見櫓に上って太鼓を叩くシーンで、八百屋お七とよく似た切羽詰まった乙女の心意気を感じた。
   平成14(2002)年 9月の舞台で、桐竹紋壽のお舟、吉田文吾の渡し守頓兵衛であった。

   今回の舞台で興味深かったのは、お舟の人形振りのシーン。
   父頓兵衛に刺されて瀕死の状態でのたうつお舟、
   祖父・坂田藤十郎が八重垣姫を人形振りで演じた際に、吉田文雀の指導を受けたという縁があって、壱太郎は、その弟子で人間国宝の吉田和生の指導を受けている。
   普通、歌舞伎の人形振りは、あのオペラ「ホフマン物語」のオランピアのように、ぎこちなく動くのだが、流石に、和生の振り付け指導であるから、そのような取ってつけたような人形振りではなく、結構滑らかな動きでありながら、普通の役者の演技では見られないような、人形独特な仕種や敏捷な動きなどをみせて、非常に面白く楽しませてもらった。

   一目惚れで、ゾッコン行かれてしまう乙女を、上手く演じながら、今回の人形振り・・・壱太郎の進境を感じさせる舞台である。
   文句なし理屈抜きの極悪非道で、金と意地のためには、娘の命さえ犠牲にして厭わない頓兵衛、しかし、歳の所為もあって、足がもつれてよろよろ、このあたりのチグハグサを器用に演じ分けながら、芸の質を守り見事な見得の冴え、やはり、鴈治郎は上手い。
コメント
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