空腹時の食べ物の匂いほど人を引きつけるものはない。
一瞬、理性を失わせるほどの吸引力がある。
特に何の前ぶれもなく、突然襲ってくる匂いにそういう力がある。
街を歩いていて突然カレーの匂いが漂ってきたりすると、目まいさえ覚えることがある。
カレーの吸引力は特に強烈で、ついフラフラとなってしまうくらいだから、空腹時のカレーの匂いには誰しも一瞬理性を失う。
うなぎ屋は吸引力では一番である。
この匂いに抵抗するのはかなり難しい。
フラフラと吸引されつつも、財布関係方面への理性だけは失わずにいなければならない。
いい匂いはまだたくさんある。
ラーメン屋で麺を茹でるときに漂わせる匂い。
寿司屋の酢飯の匂い。
蕎麦屋からふと流れてくる親子丼の匂い。
牛丼屋のドアの隙間から漏れてくる牛丼のタレの匂い。
焼肉屋から漂ってくる、タレにまみれたカルビが焼ける匂い。
焼き鳥屋の換気扇から流れてくる焼き鳥の匂い。
こうして並べてみると、全体的に醤油関係の匂いが多い。
人類は醤油の焦げる匂いには弱い。
醤油の匂いを嗅ぐと日本民族の血がたぎり、民族の鼻息が荒くなる。
心理的には変化がないのに、脈拍、呼吸に変化がみられ、多少の唾液の分泌もみられる。
そのかわり「洋もの」に対しては比較的冷静である。
タンシチューとか、伊勢海老のなんとか風とかの匂いが漂ってきても、「ああそうですか」と冷静である。
天丼とうどんの匂いもいい感じ
蕎麦屋の丼物は、だし汁がいいので間違いなく美味しいに決まっていますよね。