冷蔵庫を開けて、あるものが目に入るとドキッとして、そのものから急いで目を逸らす。
それは何かというと梅干である。
上から二段目、左の奥に問題の梅干の入った箱が、もうかれこれ二十年ほどそのままになっている。
二十年そこに住みついている。
その容貌は歳月を経て古び、風格さえ漂わせている。
たぶんお中元か、お歳暮にもらったものに違いない。
捨てるべきものを先送りしてしまった箱。
もしかしたら腐っていて、これから先も絶対に食べることはないのだが、今日のところは捨てないでおく、という食べ物。
梅干は長持ちすることで知られている。
腐ることはめったにない。
この梅干を捨てるということは、長年住みついているこの冷蔵庫の長老を、長屋から追い出すことになるがそれでいいのか。
たとえアパートであっても居住権というものがあるのだ。
ましてや二十年物であるから相当なお年寄りであるし、寝たきりということも考えられる。
寝たきりのお年寄りに向かって「出て行ってくれ」というのは人間として問題がある。
梅干は老いて梅干婆さんになってしまった。
じじ枠の入り口に立つ者として、長年連れ添った同居人とも言うべき梅干を見捨てるのも辛いし心が痛む。
これだから断捨離ができないのであった。