好調南海にブレイザーという策戦参謀あり・・ " 青い目の助っ人 " というのは猛打や快速球の持ち主だけではない。頭脳でチーム力をアップさせる人だっているはずだ。南海のブレイザーコーチはその典型的な " 知恵の助っ人 " だ。
ギブアップしない野球を植え付ける
南海の快進撃が続いている。昭和48年の優勝以来、久しぶりに脚光を浴び浪速のファンも「ひょっとしたらひょっとするで」「いつもいつも阪急じゃつまらん」と期待を抱き始めた。本命阪急の対抗馬から主役にのし上がった材料は幾つかあるだろう。今やすっかりエースとなった藤田投手の進境。柏原・定岡選手に代表される若手野手の台頭。両足ふくらはぎ痛、左親指の打撲など満身創痍ながらチームを牽引する野村監督の存在など。これら個々の技量を効果的にまとめているのがブレイザーコーチである。南海の代名詞となっている「シンキングベースボール(考える野球)」はブレイザーそのものと言っていい。
大リーグ歴13年、南海で3年。昭和44年暮れに引退した際の新聞には『燃える男の完全燃焼』と題して次のような記事が書かれた。…たまにホームランを放ってヒーローになってもオーバーなアクションはとらなかった。バットの握りは極端に短く、守備は素早くて堅かった。物静かで派手さのないプレーは日本人好みと言われた。常に怠らない全力疾走、大差のリードを許しても決して諦めなかった。過去に来日した外人選手の中には出稼ぎの匂いを体中から放つ選手もいたが彼は違った。大リーグ流に固執せず日本流へのアレンジを試み、器用というより研究心が旺盛で日本で成功した。スペンサーは阪急にズルイ野球を、ブレイザーは南海に考える野球を残した…と。
ブレイザーが現役時代に実践したものがヘッドコーチになった今も根幹に生きている。ギブアップしない哲学は今の南海の戦いぶりに現れていると言っていい。点差関係なしにアウトの宣告が告げられるまで全力疾走せよと口が酸っぱくなるほど叫び続けている。それは若手選手だろうと主力選手だろうと同じだ。「自分は憎まれ役でいい」と基本をしつこく選手に体で覚えさせた。もちろん選手からは「そんなことは分かっている」と反発はあったが、ブレイザーはそれも承知で根気よく教え続けた。12球団のコーチでブレイザーほど実権を任せられているコーチはいない。投手交代、代打起用以外はブレイザーの指示で作戦が行われているのだ。
エラーより基本技に厳しい目を
では、ブレイザーが求める野球とは何であろう?全てが本場アメリカ大リーグが基準になっているわけではない。ただし感情やひらめきが入り込む日本流とは異なる「パーセンテージベースボール」を推進していることは間違いない。確率重視だけにある程度は相手に手の内を読まれる難点はあるが、門外漢である投手陣に関しても今年のキャンプからコーチ会議に参加して意見を述べている。走者にとってクイックモーションが如何に厄介なものか、走者と目を合わせるだけで盗塁のスタートを遅らせる効果があるなど、野手目線の意見は投手陣に好評だった。こうした小さなプレーの積み重ねが現在の好調さの下支えになっているのだ。
またエラーをした選手に対して文句は言わない。ただし捕球は体の正面でとか、ベースカバーなどの基本を怠ると必ず厳しい声が飛ぶ。ただ単にアウトにするだけではなく基本を軽視するとそこから大きな破綻が生じると考えている。選手はそんなブレイザーの目を誤魔化すことは出来ない。しかしよくよく考えればブレイザーに指揮権を委ねた野村監督もなかなかのものである。全権を掌握するトップでいたがる監督が多い中で試合の指揮を部下に執らせることはなかなか出来ないことだ。野村監督は選手兼任で目の届かないこともあるがブレイザーの頭脳を存分に発揮させ、新しい南海づくりに着手した野村監督も殊勲甲である。
ブレイザー語録
ドン・リー・ブラッシンゲーム(45歳)。アレルギー体質でシーズン中、二~三度は鼻をグズグズさせる他は極めて健康。コーチになって8年目、チームの体質改善に心血を注いできた結果がようやく実を結び始めている。その間に選手の自主性を強調する育成法に異を唱える声もあったが、自説を曲げることなく押し通してきた。日本人にしか理解できない日本人特有な発想に納得できない感情があるのも確かであろう。「長くコーチをしていると良い面も悪い面も出てくる(ブレイザー)」と周囲に吐露している。だが自分だけが正しいと主張することはなく、チームを大局的に観察することも忘れない。
「外人が主力になるのはチームにとってプラスにはならない。その為にも日本人選手のレベルアップが不可欠」とブレイザーは力説する。ホプキンス、ピアーズ両助っ人を凌ぐ活躍が中心打者の門田選手に求められる。また下位打線の充実の為に柏原選手や定岡選手らの更なる飛躍をブレイザーは期待している。そんなブレイザーに最近になって嬉しい知らせが届いた。日本球界在籍10年を過ぎライフタイムパスが授与された。アメリカでも授与済みで日米両球界から年金が支給されることになり、これは球界初の快挙である。
最近の野村監督は「俺が開幕前に予想した通り阪急は投手陣が崩れた。ライバル視していた近鉄もモタついている。今の好調さに関してはドン(ブレイザー)の功績は大きいよ。前期優勝も現実味を帯びてきたね」と自信たっぷりの話しぶりだ。ブレイザーが目指したチーム作りに野村監督も一目を置いている。中山投手や江夏投手は万全ではなくても首位をキープしているだけに2人が復帰すれば更なる飛躍が期待できる。野村監督とブレイザーの二人三脚がどんな知恵を絞り合っていくのか興味深い。そして念願叶って優勝した暁には選手たちが控え目なブレイザーを胴上げして感謝の念をぶつけるであろう光景が思い浮かぶ。