goo blog サービス終了のお知らせ 

Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 412 オリエントエクスプレス

2016年02月03日 | 1984 年 



本場アメリカの速球王ノーラン・ライアンの異名「カリフォルニアエクスプレス」になぞらえて付けられたのが「オリエントエクスプレス」、東洋の速球王・郭泰源(21歳)。8月のロス五輪後には日米入り乱れての獲得合戦が解禁になる。果たして郭はどこのユニフォームを着るのだろうか?


1月12日付の報知新聞に『巨人、郭泰源獲得へ急前進』の見出しが躍った。前進に敢えて " 急 " が付いたのがミソである。巨人は郭獲得レースでは出遅れていた。決して評価が低かった訳ではない。親会社の讀賣新聞が社の方針として台湾を独立国家として認めておらず、あくまでも中国本土の一部であり巨人は中国政府が認めていない " 非合法 " な台湾で大っぴらに活動出来ずにいた。巨人が躊躇している間に中日が台湾で存在感を増す事になる。今から4年前、先ず手始めに練習で使い古した球を台湾の高校や大学に無償で寄進し始めた。台湾では硬球は未だに貴重品で入手は難しい。これは毎年続けられ郭泰源が所属する合作金庫には新品を届けた。更に郭泰源が兵役で台湾陸軍に入隊すると陸軍チームにまで新品を贈った。また中日球団とは別ルートからの接触も怠らなかった。台湾のナショナルチームのユニフォームを誂えたのは名古屋市内の運動用具会社だが、この会社は中日球団とも親しい関係で中日の野球道具を一手に引き受けており、特に重役のA氏は " 中日の陰のスカウト " と言われていて郭源治獲得にも関わった。その郭源治は「Aさんは親であり兄である」と言って憚らず、当然A氏は郭泰源獲得にも動いている。

更に中日には郭源治という存在もある。郭源治には球団から「何としても郭泰源を連れて来い」との指令が下されており今年の正月に里帰りした際には何度も郭泰源と接触している。表向きは日本の野球や食事・習慣など生活面のアドバイスをした、とされているが中日入りを薦めている事は想像に難くない。郭泰源中日入りの暁には郭源治にもそれなりのボーナス(一説には金5百万円也)が入る事になっているらしく必死となるのも無理はない。そんな中日だからこそ台湾側から " ちょっといい話 " が舞い込んで来る。それはナショナルチーム強化の為にコーチを派遣して欲しい、というもの。「人選は中日さんにお任せするが出来れば中日OBの方を一人」との事。ここまで信頼されると中日も強気になる。「食い込んでいると言われている西武や国民的英雄の王さんがいる巨人だってこんな話は来てないでしょう?」と中日球団幹部が胸を張るのもまた当然である。今現在、中日は堀込スカウトを郭泰源専用スカウトに充てている。堀込スカウトは2回の渡台、大越球団総務に至っては6回も台湾入りしていて着々と工作を進めている。では郭泰源の中日入りの可能性が高いのか?物事はそう簡単ではない。ここで前述した巨人の " 急前進 " だ。

1月11日、巨人の沢田スカウト部長は巨人軍の正式な球団関係者として初めて台湾入りした。" 初めて " と言うのが巨人の出遅れを表しているのだが沢田部長の表情は焦りを感じさせなかった。14日に帰国した際に「いやぁ非常に友好的だった。泰源君は勿論、兄の義煌さんにもお会い出来ました。王監督の写真も頼まれてね」と余裕たっぷりに語った。このコメントは郭獲りに懸命になっている他球団の関係者を驚かせた。何故なら郭は昨年のアジア大会後に「来年のロス五輪が終わるまでどこの国の球団とも会わない」と宣言し実行していたからだ。それがあっさりと覆されたのだ。加えて沢田部長は台湾ナショナルチームの呉祥木監督とも懇談し友好ぶりをアピールした事に中日が慌てた。たった一度の渡台で巨人は一気に土俵際から中央にまで盛り返す、まさに " 急前進 " だった。また巨人にはもう一つ強力な味方がいる。在日華僑グループである。台湾と日本の華僑グループは強い絆で結ばれており、王貞治後援会の堤志明会長は「我々が交渉の席に乗り出すとなると単に野球界だけの話ではなくなる」と郭の巨人入りに動く事を示唆している。

昨夏のアジア大会以後、阪急を除く11球団が郭サイドと接触し条件提示をしている。そこで気になるのが各球団が用意している " 実弾 " の額である。複数の大リーグ球団も接触済みで中でもSt・カージナルスが熱心だが提示額は3千万円とアメリカ国内では破格だが日本の球団と比べると格安。今のところ先行している中日は5千万~6千万円と見られている。ただ中日には所謂「N資金(長嶋氏招聘の為の資金)」が手付かずで残されており余裕はある。巨人もドラフト1位並みの6千万円あたりで、その他の球団も大差はなく争奪戦と言う割には抑え目な金額。そんな状況に憤慨しているのが福岡市在住のB氏である。「台湾の選手に対する日本の球団の評価は低すぎる」と。B氏は郭サイドの日本における窓口役を務めていて、ちょうど郭源治とA氏との関係性で郭本人はB氏を「日本のお父さん」と信頼している。実はこのB氏は西武と強い繋がりがあり、B氏の言葉は西武が郭を非常に高く評価している事を窺わせる。今のところ西武は表立って動いていないが時至れば一気に " 億単位 " の実弾攻勢を仕掛けて来るに違いない。

日米入り乱れての争奪戦を台湾の人々は冷やかに見つめている。何故なら今年8月のロス五輪でナショナルチームが金メダルを取る事を全国民が願っているがエースの郭が争奪戦に巻き込まれて動揺するのが困るのだ。台湾で唯一のスポーツ新聞「民生報」の高正源記者は「台湾では野球の普及はまだまだだけど郭泰源の名前は皆が知っている。彼は国の誇りで五輪で活躍して金メダルを取ったら国民的英雄になれる。だからこそ彼にはベストコンディションで臨んで欲しい。出来ればプロ球団の人達には静かにしていてもらいたい」と話すがおそらく多くの台湾人も同じ気持ちであろう。そして郭の今後については「恐らくプロへ行くでしょうがアメリカには行かないのでは」と。最後は郭本人の気持ち次第だが重要なのは台湾人は誠意を重んじる人達であるという事。決して札束攻勢には屈せず、むしろ逆効果である。争奪戦はもう暫く続く事になるだろうが、いずれにしても日米を舞台とした各球団による泥試合…なんて事にならないように願いたいものだ。



コメント